大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 71『兎の角』

2022-05-02 13:31:11 | ノベル2

ら 信長転生記

71『兎の角』市   

 

 

 南に折れて卯盃(ぼうはい)への一本道に入ると、城門のうさ耳はいやましに大きく迫って来る。

 

 おお!

 軍団の中からもどよめきが起こる。

 中軍が一本道に入るころにはうさ耳の間に『歓迎曹茶姫御一行様』横断幕が上がったのだ。

 横断幕は『曹茶姫』の部分が貼り付けてある。『曹茶姫』のところだけ貼りかえれば使いまわしができる仕組みだ。

 ちょっと無礼にも興ざめのようにも思えるが、茶姫自身は平気な顔をしている。

 城門そのものが大きいので距離感が狂う。遠目で見たよりも一回り大きいのが分かって来る。

 城門の上に屹立するうさ耳も、予想以上の大きさだ。

 縦に12メートル、最大幅は2メートルほどだろうか。うさ耳本体は書割のようだけど、内側にはしっかりした心棒が通っているようで、少々の風では揺るぎもしない感じがする。

 耳の先端の3メートルほどは可愛く手前に折れている。

 おや?

 可愛いと思った折れ耳の先端にはいかついカギづめが忍ばせてあり、単なるオブジェや歓迎のディスプレーではないような気がする。

 卯盃の名にふさわしい設えなのだが……思っているうちに城門を潜ってしまう。

 

「注目しろ!」

 

 全軍が入りきると茶姫は馬首を巡らせて、声を上げた。

「見上げすぎて首が痛くなった者もおるだろう。あのうさ耳は『兎角』という。兎角とは兎の角のことである。本来はありうべからざる物を表す言葉だ。卯盃は三国志東端の都市であり、卯は兎の事であるので、実に似つかわしいオブジェである。しかし、単なるオブジェではないぞ。先端の折れの先には鉄のカギづめが付いており、万一、敵の攻城車が寄ってきた場合には、あの兎角が倒れて攻城車を掴まえる。掴まえると、人力馬力で兎角を左右に振って、攻城車を引き倒す!」

 おお!

 感動する声が上がる一方腕を組む者もいる。

「仰せのように、うまくいきましょうや?」

「行かぬ時はな、あのかぎ爪の内側にパイプが仕込んであって油を流せるようになっている。流した油に火を点ければ、攻城車は松明のように燃え上がる。攻城車相手でなくとも、城壁に取りついた敵の頭上に火の雨を降らせてやることもできるぞ」

「しかし、そのように都合よく敵が兎角の下に来ましょうや?」

「よく見ろ、城壁の上を」

 茶姫が指し示すと、50メートルほどの間隔で、都合十本のうさ耳、兎角が立ちあがった。

「あの十本で一組だ。見よ!」

 さらに、合図を送ると、兎角は左右に動き出した。

 おお!

「兎角は、あのように左右に動かすことも可能だ。いざという時まで伏せておいて、敵が集中してきたところに移動させれば効果的に使える。日ごろは伏せておくも良し、可愛く立たせて、歓迎や緊急連絡の手段にも使うも良し。交代で兵を登らせば、望楼の代わりにも使える。これを、将来は卯盃に留まらず、国境の長城全てに設置する。五か年計画で、延べ百万の雇用の創出にもつながるものだ!」

 おおおおおおおおお!

 今度は、盛大な歓声が軍団全体から巻き起こった。

「茶姫さま、そろそろ歓迎の言葉を述べさせてもらってもよろしゅうございましょうか?」

「おお、卯盃の市長殿。先ほどの歓迎幕、かたじけない。使いまわしも出来る仕様。感心しました。ゆくゆくは観光立国も目指せましょう。貴殿は、我ら魏の者にも希望を与えてくださった。その上の歓迎のお言葉、曹茶姫、部下の者たちと共に謹んでお受けいたします」

 軍団の兵や卯盃の市民たちから、割れんばかりの拍手と歓声が上がった。

 

「なに、あれは単なるこけおどし、実戦では、そうそううまく使えるものではない」

 

 その後の大休止、兄の信長を目の前に茶姫は、こともなげに言い放った。

「では、明日の朝には南に向かうのだな?」

「え、そうなの?」

「ハハハ、敵わんなあ、お丹衣ちゃんは何でもお見通しだ」

「褒めるな、その先は俺にも分からん。輜重を先に南へ返しただろう、あれが、三国のいずれに向かっているかがカギだ。ちがうか?」

「アハハ、考えすぎだよお丹衣ちゃん。あれは、気まぐれ半分、あとの半分は曹素兄を引き離したかったからだぞ」

「兄の事は嫌いか?」

「兄か……二人居るからな」

「曹素と曹操……」

「お丹衣ちゃんが言うと、なんだか虫けらの名前のように聞こえるぞ」

「であるか」

「まあ、転生の人間には害虫同然なのかもしれないんだろうけどな……わたしにとっては、兄は兄だ。むつかしいもんだ。なあ、シイちゃん?」

「え、あ、ちゃん付けで呼ばないでくれる」

「そうか、じゃあ、いっちゃん?」

「シイでいい」

「シイ……なんか叱ってるみたいだな」

 それっきり黙ってしまった茶姫は、気のせいか寂しそうに見えた。

「ちがうぞ、リラックスすると、わたしはこういう顔になるんだ。こら、笑うなお丹衣ちゃん!」

 卯盃の夜は、しみじみと更けていった。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・35『初めてのブログ!』

2022-05-02 06:40:25 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

35『初めてのブログ!』 

     

 

 激しい光が点滅します、小さなお子さんは、部屋を明るくし、画面から離れてご覧下さい。

 そうテロップが流れたあと、当惑した笑顔の栞と、テーブルの上の一億円が映し出された。

 栞が、切り通しの薮の穴蔵から発見したお金は、しめて一億円あったのだ!

 この一カ月余りで五回もテレビに取り上げられた。一度目は、今は停職中の教師達による「進行妨害事件」、二度目は、その事件の記者会見、三度目が梅沢忠興という教育学者との「テレビ対談」、四度目は「MNB五期生合格発表の記者会見」、そして五度目が、この「一億円拾得事件」。他に、お尻丸出し抗議事件による動画サイトなども含めると、この一カ月、日本でもっとも注目された高校生であろう。

 もっとも今回は、事が事だけに顔やジャージの学校名にはモザイクがかけられたが、芸能新聞は遠慮無く実名と栞の顔を一面で流した。

 学校、正確には桑田先生から叱られ、MNBのプロデユーサーからも注意され、父親からも叱られた。しかし、本人はなんとも思っていないので、通り一遍の謝り方ですました。学校もプロデユーサーも納得したが、栞のことをよく知っている父親からは、さらに叱られた「栞は、真剣でないときほど、謝り方がきちんとしている」という親というか、弁護士ならではの観察眼からであった。

 驚いたことに、落とし主が、その日のうちに三人も現れた!

 そして、三人とも偽者であった(^_^;)。

 警察は大金であることもあり、鞄の特徴や、お札の状態については簡単にしか報道しなかった。

 鞄は二十年以上昔、海外のメーカーで作られた特殊なジュラルミン制で、耐水性、耐衝撃性に優れていた。また、お札は銀行の封帯ではなく、なぜか某国の雑誌を切って作った帯で百万円ずつまとめられていた。なぜ、某国というかというと、読者の中から「オレのだ!」と名乗り出る人が現れないようにするためである。じっさい、どこで調べたのか栞の家に電話までかけてきた者が何人かいた。うち一人は警察を名乗り、「もう一度状況を確認したいんですが」という手の込みよう。栞は慣れたもので「○○警察ですね、こちらからかけ直します」と応えた。で、ことごとくが、偽者であった。

 連休の予定がたたなかった。

 連休は京都の八重桜でも見に行こうかなと思っていたが、MNBのレッスンがいつから始まるか分からないのである。この業界は、たいがいそうだが、急に電話が入ってから「明日から」などと言うことがけっこうある。そうやって、本人の本気度を試し、この世界の厳しさを頭からたたきこむのである。

 栞は、嫌いでは無かった。学校のように「生意気だから」「ずぼらをかまして」というのではなく、はっきりとした業界の空気やシキタリというものが、底辺にはあるようで、好ましく思えた。

「栞、頼むから自分でブログ作ってくれないか」

 一億円事件の明くる日に、帰るなり、お父さんに言われた。

「なんで?」

 そう言いながら、スカートを落とす(脱ぐというより、この形象が、栞の場合正しい)と、別なことを言われた。

「あのな、おまえも小学生じゃないんだから、もうちょっと恥じらいを持ちなさい」
「いいじゃん、親子なんだし。お父さんだって風呂上がりタオル一丁だから、種芋見えたりするんですけど」

 と、キャミとパンツだけで親に意見する。

「いや、もう、だからさ。ブログだよブログ」
「だから?」
「お父さんのメールボックスに、お前宛のがいっぱいで、仕事にならないんだよ」
「あ、ごめん。わたしアイドルだもんね(^_^;)。うん、すぐに作る」

 そう言って、パソコンを立ち上げてみたものの、アイドルのブログなんて見たこともない。まあ、適当でいいや。カシャカシャと、それらしいものを作った。

 事件に絡むことは、一切書かなかった。

 学校で食べた食堂のメニュー、近所の猫が初めて子ネコを産んだこと、オーブントースターの中のパンの焼け方、玄関での靴の脱ぎ方揃え方、カラスの人相? 久しぶりに犬のウンコを発見したこと、それが足を踏み下ろす寸前だったこと、動画の落語を聴いたら止まらなくなった……などをスケッチ風に書いて写真を貼り付けただけ。

 しかし、なまじ表現力があるので、筆が滑って、ついさっきの父とのいきさつをオモシロオカシク書いてしまったことが失敗であった。

 夜には、いっぱいコメントがきた。「種芋ってなんですか?」「栞ちゃんて、お父さんの前でキャミ姿になるんですか!?」「今度、ぜひキャミ姿のシャメ載せてください」「どこのメーカーの着てるの。わたしは、オーソドックスにワコールです♪」「食堂のランチメニュー教えて!」

 明くる日には、頭に「種芋ちゃん」「キャミちゃん」などと勝手に愛称が蔓延してしまった……。

 

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