大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・305『後輩たちと二つの顔のソフィー』

2022-05-09 11:08:44 | ノベル

・305

『後輩たちと二つの顔のソフィー』頼子   

 

 

 また走ってる……

 

 わたしの気まぐれに付き合って音楽室にやってきたソフィーが、せっかく弾けるようになったビバルディ―『四季』の春をカン無視して、ピアノに背を向けて呟く。

 ピアノの後ろは窓で、カーテンを少しめくって下界を見てるんだ。

 連休の狭間、六日の金曜日には「走ってる」って呟いたものだから、うる憶えのビバルディ―が走っているのかと、鍵盤の指を意識した。

 しかし、友だちモードのソフィーが見ていたのは、下界のグラウンドを走る一年生の三人。

 言わずと知れた、さくらと留美ちゃん、それに、近ごろお仲間になった古閑巡里(こげんめぐり)。

 いちばん小さいさくらが先頭で、ほとんどくっつくようにして留美ちゃん。そして後ろをノッポの古閑巡里。

 走るといっても、次が体育の授業というわけでもなく、運動音痴の留美ちゃんを間に挟んでシゴキのランニングをやっているわけでもない。

 入学以来、学校探検に凝っているんだ。

 先日は図書館にやってきて、わたしたちが居るのにも気づかずに盛り上がっていた。

 ソフィーが面白がって、図書委員のフリして相手していたけど、ぜんぜん気づかなかった。

 中学のときからそうだけど、ほんとうに子ネコみたいな子たちだ。

 けしからんことに、まだ挨拶にも来ない。古閑巡里はともかく、さくらと留美ちゃんは子分みたいなものなのにね。

「部活には、まだ入ってないわよ」

 見透かしたように友だちモードのソフィーが振ってくる。

「いいのよ、どの部活に入ろうと、あの子たちの自由なんだから」

「そうかなあ……」

「古閑巡里もるんだから、三人ワンセットで、バレー部にでも入ればいいわ。さくらなんか、いいリベロになるかもよ」

「それはないわ」

「なんで? 古閑巡里ほどのタッパがあれば、バレーとかバスケが放っておかないでしょ?」

「古閑巡里は持病があって、部活レベルの運動はNGなのよ」

「ひょっとして調査済み?」

 ソフィーは女王陛下の諜報部員、新入生の素性を調べるなんて朝めし前だ。

「普通に調べられる範囲ではね。保護者からの申し出で、運動系の部活には釘が刺されてる『古閑巡里には声も掛けるな』って。優しい性格だから、強く押されたら断れないみたいよ」

「どういう病気?」

「分からないわ、普通に調べた範囲だから。必要なら調べるけど」

「いいわ、反則っぽいから」

「フフ、ヨリッチも大人になったかな?」

「友だちモードのソフィーって、ちょっとムカつく」

「あ、転んだ」

「古閑巡里が?」

「ううん、さくら……古閑巡里が抱っこして保健室の方角に走っていく!」

「え、ケガでもした!?」

 思わず、窓辺に!

「ううん、ただの打撲と擦り傷。留美ちゃんが落ち着いてるから、ぜんぜん大したことは無い」

「…………」

「保健室行ってみる? 声かけるにはいいきっかけよ」

「い、いいわよ(-。-;)」

 

 帰りの車の中、三日ぶりにSNSを開いて、ちょっとショック。

 

「少し控えた方がいいと思いますよ」

 ガードモードになったソフィー、口調は丁寧だけど、言うことは厳しい。

 スマホを開く前に、こういう書き込みが多いのを分かっていたんだ。

 直近のSNSには、大仙公園で撮ったDAISEN PARKの写真を載せてある。

 書き込みの半分は日本語で、普通に公園のモニュメント文字を面白がってくれているものだったけど、英語で書かれた……その多くはヤマセンブルグからのは、ちょっとね。

 みんな、わたしの立場を知ってるから、言葉こそ控え目で丁寧だったけど、内容は切実だ。

―― 早く、お国に帰って正式な王女になってください ――

―― 殿下は、写真のDAISEN PARKのように、それ以上に、お国のシンボルなのです ――

 中には、こういうものも……

―― 女王陛下はお疲れです、いっそ王位に就いて、女王陛下と我々臣民に安心をお与えください ――

 友だちモードのソフィーなら、言ってくれるだろう「ね、だから言ったじゃないよ、しょうのないヨリッチだ!」とかね。

 ガードモードのソフィーは何も言わない。

 もちろん、前のシートで運転してるジョン・スミス警備部長もね……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・42『そうなんですか!』

2022-05-09 06:32:32 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

42『そうなんですか!』  

     


「そうなんですか!」

 三宅プロディユーサーの言葉に五期生のみんなが湧いて、栞一人が赤くなった。

 近ごろ流行りの「そうなんですか!」は、連休のレッスン中に思わず栞が発した言葉で、MNBの五期生の中で、ギャグとして定着したものだ。昨日は選抜メンバーがテレビの生放送でカマして大ケ。すぐに変化球の「うそなんですか!」
が生まれ、MNBのギャグとして定着の兆しである。

 で、三宅プロディユーサーの「そうなんですか!」は、急遽決まった五期生のテレビ初出演を伝えたところ、みんなが「嬉しいです!」と、大感激したので、三宅がかましたギャグなのである。むろん、大いにウケた。

 統括プロディユサー杉本の肝いりで、こどもの日の特番生番組に、ガヤではあるが五期生の出演が急遽決まったのである。

 会場は、舞洲アリーナだ。

 ここは、高校の部活の王者に位したケイオンでも、予選を通過し、本選グランプリでなければ出られないところである。それが、ついこないだまで廃部寸前だった青春高校演劇部の栞とさくやが出ているのである。校外清掃で謎の一億円を見つけたことといい、乙女先生に美玲という娘ができたことといい、青春高校のこの一週間は、まことに目まぐるしい。

 この生番組は、こどもの日にちなんで、ちびっ子そっくりMNBが出たり、東京、名古屋、博多の系列グループの結成当初の、いわばグループにとっての「子供の時代」にあたる曲が次々に披露された。

 そして、番組途中のトークショーでは「そうなんですか!」の連発になった。

「このMNBグル-プを作ろうとなさった、動機はなんなんですか杉本さん」

 MCの芹奈が振る。

「いや、ほんの出来心で……」
「そうなんですか!」

 と、芹奈が応える。会場は大爆笑になってしまう。というようなアンバイで、最後には杉本プロディユーサーが困じ果てて叫んだ。

「だれだよ、こんなの流行らせたの!? 話が、ちっとも前に進まないよ」
「そうなんですか!」

 もう、観客席も含めて大合唱の大爆笑になった。

「ほんと、だれ? 怒らないから手をあげて!」

 栞は、怖くて手もあげられなかったが、みんなの視線が、自然に集まってくる。そして、イタズラなスポットライトが栞にあたり、栞は、しかたなく手をあげた。

「おまえか、手島栞!?」
「いや……そんな悪意はないんです」
「あって、たまるか。栞、ちょっと『二本の桜』の頭歌ってみ」
「え、あ、はい……」

 直ぐにイントロが流れ、栞は最初のフレーズを歌った。

《二本の桜》
 
 春色の空の下 ぼくたちが植えた桜 二本の桜
 ぼく達の卒業記念
 ぼく達は 涙こらえて植えたんだ その日が最後の日だったから 
 ぼく達の そして思い出が丘の学校の 


「うん、研究生としては上手いな」
「ありがとうございます」
「ばかだなあ」
「は?」
「こういう時に『そうなんですか』をかまさなきゃダメだろうが!」
「え、そうなんですか!」

 ひとしきり会場の爆笑。

「こうなったら、栞には責任とってもらいます」
「え、ええ……!」
「今月中に『そうなんですか!』を新曲としてリリースします。むろんセンターなんか張らせないけど、この曲に限って選抜に入れます」
「え、ほんとですか!?」
「杉本寛に二言はありません!」

 会場やメンバーから歓声があがった。栞は、ただオロオロとしていた。進路妨害事件以来縁のある芹奈アナウンサーが声をかけた。

「栞ちゃん、今のお気持ちは。ひょっとしたら、あなたのデビュー作になるかもしれませんね」
「え、そうなんですか! あ、あわわ(‘◎o◎,,)」
 また、笑いになった。
「もういい、自分の席に戻れ」
「はい」

 なんだか分からないうちに事が決まって、栞は席に戻った。そして、すぐに、次のゲストに呼び戻された。

 栞との対談以来、栞のファンになった梅沢忠興先生である。ただ栞は研究生の身であるので、リーダーの榊原聖子のオマケとして、後ろに控える形ではあった。

「榊原さんにとって、MNB24ってのは、どんなものなんですか」
「わたしも二年前までは高校生だったんですけど。なんだか、いい意味で、このMNBがもう一つの学校だったような気がします」
「飛躍した聞き方するけど、学校って何?」
「う~ん、生きる目的を教えてくれて、いえ、気づかせてくれて、仲間がいっぱいできるところですね」
「うん、言い方はちがうけど、そこの『そうなんだ』と、基本的には同じ事だね。どう、榊原さんにとって、こういう後輩の存在は」
「いやあ、栞ちゃんとは、先生と彼女が対談したときにいっしょしたじゃないですか。まさか、それが、後輩になって入ってくるとは思いませんでしたね。ね、栞ちゃん」
「はい!」
「あなた、ほんとうに高校二年なの?」
「あ、ハイ!」
「ハハ、今日は手島さんの方がカチンコチンだな」
「ハハハ、だって仕方ないですよ。いきなり杉本先生にあんなこと言われて。ねえ」
「は、はい!」

 栞は、もう冷や汗タラタラ。

「栞ちゃん。汗拭いた方がいいわよ」
「は、はい、でも……」

 ハンカチ一枚持っていない栞であった。

「スタッフさん。タオルお願いします」

 聖子が気を利かした。しかし投げられたタオルは、少し方向がズレて、栞は思わずジャンプしてひっくり返ってしまった。ミセパンとは言え丸見えになってしまい。栞はあわてて立ち上がりアップにしたカメラに困った顔をした。

「君たちに、一つ言葉をあげよう」

 梅沢先生は、一枚の色紙を聖子に渡した。

「声に出して呼んでみて」
「騒(そう)……なんですか……ええ!?『騒なんですか!?』……アハハハ(#^o^#)」

 この意図せぬ梅沢の一字が、しだいに現実になっていく栞、そして青春高校であった……。

 

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