大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・272『富士山頂決戦・3』

2022-05-11 10:48:23 | 小説

魔法少女マヂカ・272

『富士山頂決戦・3語り手:マヂカ  

 

 

 うちらが上がってきた時には、カルデラの上にはまだ次元の狭間がインクの染みみたいに残ってた。

 ビョ~~~

 カルデラの縁を撫でるみたいにして風が渦巻いて、ちいさなカケラか埃みたいなもんが吹き上げられては狭間に吸い込まれていく。

「すごい戦いだったんだ……」

 魔法少女とちゃう霧子にも、この風景を見て、ついさっきまでの激戦は想像がつくみたい。

「みんな、あの次元の狭間に呑み込まれてしもたみたいやなあ……」

「次元の狭間?」

「うん、うちらが大正時代に来た時も、ああいうのに呑み込まれてきたさかい、ひょっとしたら、令和の時代に戻って行ったのんかもしれへん」

「それに違いないよ、わたしも、あれと同じ狭間から出てきたんだワン」

 遅れて上がってきた詰子も手を庇にして次元の狭間を見上げる。

「黒犬は、やっつけたんか?」

「うん、ただの犬に戻って逃げて行ったワン。親玉がやっつけられたから、もう悪さはできないワン」

「……マヂカとブリンダは!?」

「令和の時代に戻って行った……かな?」

「そんな……もう、会えないの!?」

「魔法少女が時空を飛ばされてくんのんは事故みたいなもんやさかい、自分で時間を飛ぶことはでけへん」

「そんな……こんな、突然のお別れなんて(-_-;)」

「うちらの力を超えた、なにかの意思が働いてるんちゃうやろか」

「そうだろうね、詰子とノンコが残ってるのは意味があると思うワン」

「詰子、ちょっと、残留してる気配を読んでくれる?」

「うん…………将門さんと巫女さんたち……悪たれのファントム……シャドー……真智香ねえちゃん……ブリンダ……」

「それだけやねんな?」

「うん、みんな薄れていくから、もう、この時代には居ないと思うワン」

「ステッキの気配は?」

「……それは無いワン」

「ということは……まだ虎ノ門事件は起こるんや、主犯の男は、そもそもファントム一味の中には入ってへんかったさかい」

「それは、わたしがやっつけなければならないと云うことなのね……」

「だいじょうぶ! うちが付いてるさかい!」

「詰子もいるワン!」

「そ、そうだね。ここまで真智香とブリンダがやってくれたんだから!」

「……ちょっと待って……もう一人、かすかな気配が……メイド服の女の人、気を失ってるっぽいワン」

「「クマさんだ!」」

「え、クマ?」

 詰子は、こっちに来たばかりでクマさんのことを知らないんだ。事情を説明すると「そうだったんだワン」と理解する詰子。

 

 オーーーイ!

 

 詰子が納得して、ようやく霞も雲も晴れて、下の方から声が上がってきた。

 JS西郷を先頭に高坂家の人たちが上がってくる。

 JS西郷以外には時空とかタイムリープとかは理解不能なんやけども、これまでのいきさつと山頂のありさまでザックリの見当はつくみたい。

 JS西郷は――わたしも上がっておけば――という顔をしてたけど、マヂカとブリンダが、万一車組が襲われることも考えていたことに思い当たって口をつぐんだ。

 ああ……あたしと詰子、それにJS西郷で、虎の門事件にあたらならあかん(;゚Д゚)。

 それに、クマさんが帰ってこーへんことを、箕作巡査にどない言うたらええねんやろか?

 振り絞ったカラ元気が、みるみる萎んでいった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・44『美玲の転入試験』

2022-05-11 06:35:39 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

44『美玲の転入試験』  

       

 

 美玲の転入試験は大阪城が見える応接室で行われた。

 つい四日前の大阪城でのことが思い出された。

 転入の説明を聴いたあと、新しいお母さん(乙女さん)は、ほんの気晴らしのつもりで連れて行ってくれた。

 むろん広々とした大阪城公園は気晴らしになった。生まれてすぐに近江八幡に行った美玲は、お城と言えば、遠足で行った彦根城しか知らない。彦根城は国宝ではあるが小さな平山城。どちらかというと、山の中の閉鎖性を感じさせたが、大阪城は石垣なんかはいかついけど、なんだか野放図な開放感があって、美玲は好きになった。

 そこで出会った青春高校の教頭先生の娘さんは、いま美玲が受けようとしている森ノ宮女学院の入試に受かり、その制服姿をお祖父ちゃんお婆ちゃんに見せに行く途中の事故で亡くなった。
 

 なんだか運命的なものを感じ、美玲は、この試験に受かり、あの教頭先生の娘さんの分まで、幸せになろうと思った。

 でも、一つ未解決な問題が残っていて、夕べは危うく、お母さんに知られてしまうところだった。

 その話を、お父さんに電車の中で話そうとしたが、お父さんはやんわりと、――その話はあとにしよう――という顔になって、今ここに座っている。

「じゃ、国語から始めます」

 係の先生が静かに開始を告げた……。

 その間、お父さんの正一は、出張で空いている校長室で待った。堂島高校の教頭であることは、とうに知れているので、森ノ宮の教頭が、挨拶を兼ねて話に来ている。

「……公立も、なかなか大変ですなあ」

 私学と府立の違いはあっても、教頭同士、通じ合うものがあった。
 正一は乙女さんから聞いた青春高校の田中教頭の娘さんの話をした。

「ああ、その子なら覚えていますよ。三月の半ばぐらいでしたね。川西の方で交通事故があって、女の子の方がうちの制服を着ていたんで警察からの連絡で所轄署まで行きました……そうですか、そのときのお父さんが小姫山高校の先生でしたか。あの子は米子って、ちょっと古風な名前でしたが、理事長のお母さんと同じ名前でしてね。もう合格通知も出て、クラスも決まっていましたから、職員一同の意向で生徒名簿に載せました。卒業式でも名前を読み上げようとしたんですけど、お父さんが固辞なさいましてね……そうか、まるで米子ちゃんが生き返ってやり直してくれるみたいで嬉しいですね」
「いやあ、試験に受かってからの話です……」

 それから正一は、自分の身の恥を話した。教頭は、それも暖かく受け止めて聞いてくれた。

 そして三時間後、国・数・英の三教科の試験を終えて美玲が校長室に入ってきた。

「美玲、おつかれさま!」
「なんとか全力は出し切れました……なんか、いろんな人が応援してくれてるみたいで、落ち着いてやれました」

 まだ、慣れない娘は、他人行儀なしゃべり方ではあったが、真情の籠もった物言いで父に報告した。

「佐藤さん、合格ですよ」

 三十分ほどもすると、教頭が若い職員を連れて嬉しそうにやってきた。

「優秀な成績です。非の打ち所がないですわ。ほな、事務的なことは、この木村君から聞いてください。おめでとう佐藤美玲さん」
「は、はい!」

 しゃっちょこばった美玲を大人たちの暖かい笑いが包み込んだ。

 最後に不思議なことが起こった。

 乙女さんには仕事中なのでメールを打った。それを見ていた職員の木村君が「記念写真を撮りましょう」ということで、美玲のスマホで父娘が並んだところを撮ってもらった。

 その写真に、美玲と同学年ぐらいの森ノ宮の制服を着た女の子が映り込んでいた。

「これは……いや、こんな時間帯に、こんな場所に生徒がいるわけないんですけどね」
「これ、米子ちゃんだ。だって、こんなに嬉しそうにニコニコしてる」
「そうやな」

 撮り直しましょうかという木村君を丁重に断って、父娘は、難波の宮公園に向かった。大極殿の石段の上に座った。

「……夕べ、庭に埋めよとしてたんは、亡くなったお母さんのお骨やろ」
「え……なんで?」
「だいたい察しはつく」
「わたし……アルバムの背中のとこに隠して持ってたんです」

 リップクリームの入れ物に入れたそれを、ポケットから出した。

「お父さんにも見せてくれるか?」

 少しためらったあと、それを父の手に預けた。軽く振ってみるとカサコソと儚げな音がした。

「これが、美子か……」
「火葬場で、お骨拾いの時にもめたんです。分骨するせえへんて」
「分骨?」
「本家のオッチャンが、うちの墓にも入れるいうて骨壺もって用意してはって……」
「なんで本家が?」
「お母さんの退職金、預金、生命保険、合わせたら、けっこうなお金になるんです」
「ムゲッショなことを」
「それで、もめてる隙に、お母さんの右の人差し指のお骨、ハンカチで取ったんです」
「右手の人差し指?」
「わたし、乳離れの遅い子で、お母さんのオッパイの代わりに右手の人差し指吸うてたんやそうです。粉薬が苦手やったんで、薬はこの指につけて飲ませてくれました。泣いて帰ってきたときは、この指で涙拭いてくれたんです……そやから、そやから。わたし……」
「美玲……!」

 正一は、横から娘を抱きしめた。

「お母さんのために、もう、これは手放さならあかん思たんです。それが一日延ばしになってしもて」
「それで、夕べ、庭に穴掘ったんやな」
「……はい」
「これは、美玲が持っとき。こんな大事なもん粗末にしたら、乙女オカン怒りよるで……家庭平和のためにも持っときなさい」
「はい」
「この難波の宮も大阪城も、見えてるその下に、もう一つの難波の宮、大阪城があるねん。そんで、大阪の人間は、つっこみで大事にしてるんや。乙女オカンは、生粋の大阪、それも岸和田のオバハンや。両方大事にせんかったら、お父さんでも手えつけられんぐらい暴れよる」

 その時、美玲のスマホが鳴った、乙女さんからだ。

「おめでとう!!」

 盆と正月と、クリスマスにホワイトデーまで来たような喜びようだった。

 電話を切ったあと、例の記念写真を乙女母さんに送ろうとすると、映りこんでいた女の子が満面の笑みのうちに影が薄くなって消えていってしまった……。

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