大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 75『関羽と張飛の酒盛りおもてなし』

2022-05-26 14:43:29 | ノベル2

ら 信長転生記

75『関羽と張飛の酒盛りおもてなし』信長 

 

 

 牧に続く道には数多の蹄に混じって轍の跡が残っている。

 輜重隊のそれほどには深くも無く、車幅も車輪の幅も狭いので、貴人の乗る車のように思われた。

「孫の旗が立ってる!」

 牧の旗を見つけて市が指差す。

 俺はとっくに気づいていたが、指摘すると無意味に突っかかって来そうなので「ほう」とだけ言っておく。

「ちょっと、興味薄くなくない? 車の向こうには呉の騎馬隊も屯ったりしてるんですけど!」

「尖がるな、騎馬隊はうちも同じだ。うちも呉も騎馬の数は多いが気はたっていない。それよりも馬車だ」

「馬の飾りも立派だし、王族?」

「で、あろうな。護衛の兵は並の軍服だが、目つき体つきは近衛の精鋭だ」

 ひょっとしたら、呉王自身がやってきたのかもしれない。

 探っているのは相手も同様で、遠慮気味にではあるが、視線が飛んでくる。

 蜀の司馬(牧の管理官)の指示で、馬を休める場所が指示され、同時に呉の兵士たちとの会話は遠慮するように言われる。

 まあ、しかし、広いとはいえ互いの姿が視認できる距離だ。将校や古参の下士官なら、黙っていても相手の任務や状況は察してしまうだろう。

 もっとも俺と市は、これから茶姫に付き添って城中に入るのだろうから大方分かってしまうがな。

 

 予想通り、茶姫は朝見の間に同行させる士官二十名のうちに俺と市を加えてくれた。他には検品長と備忘録も同行させているが、それ以外の人選には脈絡が無い。

「今少し、ここでお待ちください。主と呉の使者との話が少し伸びている様子なので」

「いや、事前に使いも出さずに訪れたのです。お会い頂けるだけでも幸甚です」

 茶姫も上品な笑みをたたえて如才がない。

 我々に断りを入れると、孔明は、例の団扇をソヨソヨ揺らせながら奥に引っ込んだ。

 すると、まるで孔明が引っ込むのを待っていたように、関羽と張飛が足を轟かせて入ってきた。

 ドスドスドス!

「なんだ、孔明は客人を待たせおって!」

「兄者、ここはひとつ、我ら義兄弟でおもてなしせずばなるまい」

「いかにもいかにも」

「おい、大膳大夫、酒を甕ごと持ってこい」

「しかし、張飛将軍、まだ丞相様が」

「やかましい! 国王の義兄弟、関羽と張飛が客人をもてなそうというんだ、つべこべ言わずに持ってこい!」

「持ってまいれ!」

「は、はい(;'∀')」

 主も来ないうちからの酒盛りとは、無礼を通り越して恐れ入ってしまうのだが、この手の豪傑は理屈が通らないだろう。

「少佐、どうやら、地獄の酒盛りになりそうだ。シイ少尉とおまえは、酒盛りになったら、まずこれを飲んでおけ」

 茶姫が俺と市とに一粒ずつ薬をくれる。

「なんの薬だ?」

「同行させた士官の共通点は分かっているか?」

「検品長と備忘録は、この行軍の柱だろうが……あとは分からん」

「全員、わたしの部隊きっての大酒のみだ」

「……なるほど」

「わたしも一升五合までは素面でいられるが、それを超えると自信がない。その時は頼むぞ。これを酒といっしょに飲めば一時間は目覚めない。少佐、君ならわたしの意図はわかっているだろうから」

「いいのか、新参者だぞ」

「なら、これを付けて置け」

「参謀飾章!?」

「参謀長だ、蜀に居る間だけだがな」

「普段はどうしている?」

「フフ、わたしは参謀など置いたことはない。参謀など置けば、たちまち兄たちに懐柔されるか殺されるかだ」

「参謀が? それとも茶姫がか?」

「両方だ」

 ジャジャ~~~~ン!

 銅鑼が鳴ったかと思うと、関羽・張飛の二将軍は一升の酒を数秒で飲み干し、戦鼓と銅鑼の演奏だけで猛獣が猛り狂うような剣舞を始めた。

 

 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・006『武笠ひるで・1』

2022-05-26 06:24:16 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

006『武笠ひるで・1』  

 

 

 
 ゲホッ!!

 
 世界の縁から地獄に転がり落ちたのかと思った。

 したたかに背中を打って呼吸が出来ない。瞬間に頭を庇ったのは長年の戦いで身に着いた脊髄反射だ。

 数十秒で呼吸が復活し感覚が戻ってきた。

 戦の中、草原や岩を褥(しとね)にすることには慣れている。背中に触れているものは、いくぶん暖かい。

 木の床か……立っていれば腰の高さほどのところをぐるりと窓が取り巻いている。馬ならば縦に二頭は入るか……と言って厩ではない。左右には布張りのベンチが伸びている。なにかを繋ぎ止めるためだろうか、背の高さほどのところ、窓に添ってたくさんの丸い輪がぶら下がっている。

 これは………………で……でん……電車だ。 

 思い至ると同時に、仰臥した足許の向こうで声がした。

 白だ!

 コラアッ!

 反射的に怒って上体を起こす。ヤベエ! 一声残して前のドアから逃げるガキンチョたち。


 一瞬で記憶が蘇る。


 パソコンが再起動して、中断していたソフトが動き出したみたいだ。

 学校の帰り道、駅の脇に保存されてるデハの中で寝てしまったんだ。シートの上には半分開いた通学カバンからイヤホンが垂れ下がって、お気に入りのゲーム音楽がシャカシャカと漏れている。

 さ、帰るか。

 アイポッドの電源を切ってイヤホンでぐるぐる巻きにして通学カバンを肩に掛ける。

 まっぶしい。

 デハの外は晩秋の午後だというのに、眠りが深かったのか、いささか眩しく感じる。

 

 高校二年の武笠ひるでと姫騎士ブリュンヒルデの意識が同居している。

 ブリュンヒルデの意識が―― 穏やかな異世界だ ――と呟いている。

 

「せんぱ~い!」

 踏切の前に立ったところで声が掛かった。

 後ろの八幡神社の方からひるでと同じ制服が駆けてくる。

 えと……レイアじゃなくて後輩の福田芳子だ。

「デハの中で勉強ですか?」

「と、思ったら寝てしまった」

「だめですねえ、受験のために部活も生徒会も辞めたのに」

「ハハ、ついな。芳子こそ執行部会だったろう?」

「文化祭の総括だけだから、あっという間に終わりました」

「小栗は事務的だからなあ」

 小栗結衣は前期生徒会長を務めた自分の後任だ。有能だけど、余裕と言うか遊びに乏しい。しかし、自分は会長職を辞したばかりだ、批判めいたことは言うまい。

 
 カンカンカンカン

 
 遮断機が下りてきてしまった。

「すいません、わたしが声かけたから」

「いいさいいさ、ちょうど新発売が飲みたかったところさ。持ってろ」

 カバンを預けて、道路わきの自販機に向かう。この秋限定のココアとコーヒーを買う。

「飲み比べてみよう。ホレ」

 ココアの方を投げてやる。どっちにするなんて聞くと結衣は「どっちでも」と面白くない返事をする。決めてかかったほうがいい。

「あ、すみません」

 苦いとか甘いとか芳醇だとかコクだとか、いっぱしの御託を捻っているうちに遮断機が開く。

「あ、ネコがいる!」

 踏切の向こうに白猫が居る。二人で踏切を渡ると、踏切の真ん中ですれ違う。

 一瞬目が合う。

 こいつとは関りがあった気がするのだが……まあいい。

 帰ったら、祖母ちゃんの夕飯の手伝いだ。

 

 こっちのひるでは、気が回っているようで、どこかノンビリ生きているようだ。

 左方向に豪徳寺の森が広がる。武笠ひるでの家は、あのコンモリ茂る森の向こうだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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