大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・273『虎ノ門を下見』

2022-05-17 10:17:18 | 小説

魔法少女マヂカ・273

『虎ノ門を下見語り手:ノンコ  

 

 

 てっきり門があるもんやと思てた!

「プ、なに洒落てんの(˘#艸#˘)」

 霧子に笑われてしまう。

「せやかて、虎ノ門やねんから門があると思うやんか(#'O'#)ふつう!」

「江戸城って無駄に大きかったから、明治の初めの頃に壊しちゃったのよ。昔のまんまだったら、大名屋敷しかなかったからね、そこを官庁街にしたから、門とか堀とか残したままじゃ交通に不便でしょ」

 もうじき起こるはずの虎の門事件を未然に防ぐために、みんなで虎ノ門付近に来てる。

 みんな言うても。マヂカとブリンダは富士山の頂上でファントムをやっつけた時、時空の狭間に呑み込まれて(たぶん、令和の時代に戻ってる)しもたさかいに、あたしと霧子。

 詰子(つんこ)とJS西郷は桜田門の方を見に行ってる。「摂政の宮殿下を乗せた車は赤坂御所から桜田門の方を通ってくるはずだから」という見通しやからや。

 関東大震災で、あたしらは戦艦長門を史実よりも半日以上も早く横須賀に着かせてしもた。長門の乗組員は、必死に救助活動に参加して、二百人以上の人を救助した。

 このこと自体は、めちゃくちゃ嬉しかったよ。

 めっちゃ苦労したけど、大勢の人が死なんですんだんやさかい。

 ブリンダなんかは「アラモ砦に駆けつけた第七騎兵隊になったみたい!」や言うて感激してた。歴史苦手なあたしは、よう分からへんかったけど、東日本大震災の救助に『オペレーション トモダチ』に参加したアメリカ軍の感じや言われて「オオ!」と叫んだ。

 せやけど、その救助した人の中に、摂政の宮殿下の命を狙う犯人とその仲間が混じってた!

 史実では単独犯やったのが、集団になった! その陰には、ファントムとその一味が居った。

 あらかたは、富士の山頂でやっつけられたけど、まだまだ残ってる。

「虎ノ門付近とは限らない」

 霧子は推理した。

「犯人たちの気持ちになって下見してみよう!」ということになった。

 史実では、天皇陛下の名代として帝国議会の開会式に向かう途中で襲われてはる。

 けど、帝国議会の開会式は12月。

 それよりも早いというと、別件でお出かけの時や。

 殿下は、震災後の政府や国民を励ますために連日のようにお出かけになってる。なってるけど、警備上の理由で、その予定が公表されることはほとんであれへん。

「このルートをお通りになることが多いよ」

 霧子の推理。それに見習いとか準とかが付いても、あたしも魔法少女やんか!

 その魔法少女の勘が、やっぱり虎ノ門付近がいちばん危ないと言うてる。

「やっぱり交差点だと思う……」

 霧子が賢そうに腕を組む。

「お車が通る時、信号は全て青にするけど、交差点のカーブを曲がるときは、必ず徐行する」

 そらそやろ、なにごとも安全第一。

「あ、信号変わったよ」

 交差点を渡ろうとした霧子を呼び止める。

「え!?」

 うちもビックリしてる。ほんの五秒くらい前に青になったとこやから、行けるて思うやんか。

 それが、瞬き一回したぐらいの間で、また赤になったんやさかい。

「「あ!?」」

 霧子と声が揃うてしまう。

 半蔵門の方から、殿下の車を先導する近衛のバイクと車、とうぜん、その後ろには殿下を乗せた御料車が続いてる。

「急なお出かけになったんだ!」

 マヂカやブリンダに負けんくらいに、ビシビシっと周囲に警戒の目を飛ばしたよ。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・50『教頭 田中米造』

2022-05-17 05:58:57 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

50『教頭 田中米造』  

       


 すり切れた肩下げカバンから二つの真新しい写真立てを出した。

 微かに野鳥の声がしたが、屋内の仏壇式納骨堂だったので、とても微かで、ひょっとしたら幻覚かもしれないと思った。
 幅五十センチ、高さ百八十センチ程の納骨式仏壇は、まるで職員室のロッカーのようだった……いや、奥行きが三十センチあるなしの薄さなので、ロッカーよりも貧弱に見える。 

 二十数年前、親類の紹介で見合いして、妻といっしょになった。妻は、娘といっしょに下段の納骨スペースに収まってている。

 事務所で、お経を上げる坊主を付けましょうかと言われたが断った。坊主といっても仏教系大学の学生アルバイトであることは百も招致である。自分で正信偈(しょうしんげ)の小さな経本を持ってきている。子どものお道具箱のような引き出しを開け、鈴(りん)と鈴棒を出し、花生けには妻が好きだった菫の造花を差した。

「おっと、水だ。もう、ダンドリも忘れてしもたな……」

 ひとりごちて、田中教頭はママゴトのそれのような湯飲みに水を汲みに行った。

 この仏壇式納骨檀は、妻の祖父の強い勧めで買った。百万もしたが、半分出してやると言われては断るわけにもいかず購入したものだ。

 一応真宗の門徒ではあるが、生まれた家が真宗であったというだけである。納骨を済ませたあとは、お参りに来たこともない。三年前十三回忌を済ませたが、もう終わりにしようと思っている。

 田中は、これでも仏教系の大学を出て得度も受けている。法名を釋触留(しゃくしょくる)といい、自分ではシャクに障るだと、シニカルに思っている。

 帰命無量寿如来 南無不可思議光(きみょうむりょうじゅにょらい なもふかしぎこう)法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所(ほうぞうぼさついんにじ ざいせじざいおうぶっしょ)覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪 (とけんしょぶつじょうどいん こくどにんでんしぜんまく)……。

 と、やり始めた。教師というのは声が大きい。正信偈も真宗では、基本中の基本である。彼の声明(しょうみょう)は堂内に響き渡り、中には、高名なお坊さんが経を唱えているのかと手を合わせていく年寄りもいた。

 写真は、娘が中学を卒業したときに、卒業式の看板の前で撮った妻と娘の写真。もう一つは、こないだ乙女先生からもらった制服姿の美玲の写真であった。

「佐藤先生の娘さん。碧(みどり)と同じ森ノ宮女学院や。雰囲気が碧そっくりやし、持ってきた。好子、すまなんだな。ほったらかしで……わしは人間は死んだらゼロや思てた。真宗では、このゼロのことを極楽と言う。好子も碧も、そこにいてる。そやさかい墓参りにも来んかった……今日は気まぐれや。お天気もええし、美玲ちゃんの写真もろたんも、なんかの縁。それに学校も問題多いし、これから仕事忙しなる思てな……ハハ、わし、なに言い訳してんねんやろなあ……そや、ただワシは来たいから来ただけや。来たいから来ただけ……」

 そう言うと、田中は水を飲み干し、仏具を片づけ、写真と造花をカバンにしまった。

 田中は、ゆっくりと納骨堂の玄関にもどった。人が少なく、堂内に、やけに自分の足音が響くのに閉口した。

「タクシー呼びましょか?」

 玄関の係員の申し出も断った。

「いや、新緑の中、ちょっと歩きますわ」

 そうは言ったが、実のところ、あまりな新緑の輝きに泣き出しそうな自分を見られたくなかったからである。

 ……しばらく行くと、植え込みの陰で人の気配がした、それも、ごく親しい人のそれである。

「……好子……碧……」

「ごくろうさま」

 妻が軽く頭を下げた。

「ありがとう、お父さん」

 碧が、森ノ宮女学院の制服姿で、ハニカミながら言った。

「これ、美玲ちゃんの借りたの。制服姿で、お父さんに会えてよかった」

 田中は、慌ててカバンの中の写真を見た。卒業写真から二人の姿は消え、美玲は、下着姿で恥ずかしそうにしていた。

「そんなん見たげたら、あかんよ。お父さんのエッチ」
「ほんまに、好子と碧やねんな!」

「「うん、そうよ」」

 母子の声が揃って、十五年ぶりに親子三人で笑った。

 そして、なにをしゃべるでもなく、親子三人は、霊園の門までの百メートルあまりをいっしょに歩いた。
 門が見えてきたとき、好子と碧がニッコリ手を繋いで来た。田中は十五年ぶりに幸せで心が満たされた。

 そして……ちょうど門のところで、田中はこときれた。四十九年の生涯であった。

「はあ、なんや、楽しそうに納骨堂から歩いてきはりましてな。ほんで、両脇をニッコリ見たかと思うと、まるで人に支えられるようにゆっくり倒れていかはりましたわ」

 警備員のオッチャンは、見たとおりに警察官に話した。

 初夏の青空を、三つの小さな雲が流れていったことに気づいた人はいなかった……。

 

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