大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・110『EE計画又は新アキバ計画』

2022-05-25 09:58:23 | 小説4

・110

『EE計画又は新アキバ計画』加藤恵 

 

 

 西之島北東部新規総合開発計画……正式に呼ぶとこうなんだが、ちょっと長い。

 市役所のある北区では『エデンの東開発計画』、つづめて『EE計画』という略称が定着し始めている。

 最初のEがEden、次がEastのEを表している。

 エデンの東の西は北区なので、とりもなおさず自分たちの北区をエデン(楽園)と称していることになる。

 北区には市役所があって、政治的に西之島の中枢であるのでおかしくはないのだが、西区(ふーとん)、南区(カンパニー)、東区(ナバホ村)からすると片腹痛い。

 そもそもの西之島の主体はパルス鉱石の採掘で基礎を築いた東西南の三つの区なのだ。

 北区は、日本政府の形ばかりの開発事務所が置かれていたにすぎない。市政が布かれて市役所を設置するにあたり、まあ、開発事務所に毛が生えた程度のものと東西南の指導者も住民も高をくくっていた。

 しかし、初代市長に推された及川軍平は元来が有能な国交省高級官僚。北東部の開発には立案から、西之島総合開発特別措置法の成立、島内外への根回しなど、おさおさ怠りなく、今や世界中から注目される西之島の代表的存在になっている。

 東西南の住民たちは『新アキバ計画』と呼んでいる。

 二百年以上前に、世界のオタク文化の中心になったアキバへのリスペクトと平成・令和の時代に爆発的な発展を遂げたことへの憧れがある。

「わたしはアキバ計画の方が好きですよ」

 ランチのひと時、コーヒー片手に西之島新聞を読みながらココちゃんが笑う。

「あら、いいのかしら、お姫様がそんなこと言って」

「あ、お姫様はブーです」

「アハハ」

「ココは皇嗣ではないんですから、この程度の好き嫌いはいいんです。三百五十年前、江戸が首都になるにあたって『東京』と名付けたでしょ。東京というのは東の『京』という意味です。つまり本家の京と比べても同等で見劣りしないということです。その心意気が素敵です。思いません所長?」

「そうだね、世界的に言っても北京や南京と並ぶ名称だもんね」

「はい、火星の扶桑国が幕府を名乗っているのと同じくらいのアイデアだと思います」

「そうだね、アキバというのは熱い名前だもんね」

「アキバは秋葉原というのが23世紀の今日でも正式な名前です。堂々とアキバを名乗ってもいいんです!」

「まあ、世界のアキバだからね。新アキバぐらいにしといたほうがいい……あれ? パチパチたちじゃない?」

 三人のパチパチたちが馬に乗ってラボのゲートに入って来るのが見えた。

 そう言えば、西之島銀行の定例店長会議があるとか言ってた。

 

『おもしろいパルス鉱石見つけたんで見せにきました』

「あんたたち、まだ作業機械だったころの癖が抜けないのね」

 ニッパチ・イッパチ・サンパチの三人は、元々は可変多用途作業機械だったけど、西之島銀行を作るのにあたって、その業務に合うように義体を与えてある。それぞれ容姿は違うけど、身長150程度の女性義体。3Dパルスセンサーを残すにあたって、収容場所が胸部にしかないものだから女性義体、それも、その大きさから少女の義体にしてある。

 それで、外見は新人の窓口業務という感じだが、銀行業務以外のことは、作業機械であったころのクセが抜けていない。

『会議が早く終わったときは、三人で坑内に潜っておるのでござるがな、去年採取した高密度パルス鉱石が、ちょっと面白うござる』

 侍言葉の抜けないサンパチが鉱石の入ったカプセルを差し出す。なんだか部活の報告に来たJKのようだ。

『普通のパルス鉱石は半年で、0.00002%減衰するあるが、このパルス鉱石減衰しないアルよ』

「計測ミスじゃないのか?」

『念のため、三回やりました』

『カンパニー・フートン・村、三つの計測器を使ったアル』

「それって、三人の内蔵センサー使ったってことよね?」

『はい』『いかにも』『たこにも』

 三人揃って胸を張る。

「か、かわいい(#゚Д゚#)」

「ただの計測器だから、ココちゃん(^_^;)」

「計測データとかは、すぐに出ますかニッパチさん」

『はい、そこのモニターに出します』

 ニッパチが流し目を送ると、モニターにデータが現れる。

「その流し目、人間の男にはしちゃダメよ」

『はい、でもクセになって……データはどうですか?』

「……うん、ラボと同じ条件でやってる……おかしいね、ほんとに減衰してない」

「……これで、負荷テストやっても減衰しないようなら、世紀の大発見ですね!」

『『『大発見!?』』』

 

 これが、新アキバ計画と並ぶ西之島大発展の起爆剤になるとまでは思っていなかった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・005『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・2』

2022-05-25 05:54:05 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

005『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・2』 

 

 

 
 ビシャーーーン!

 
 オーディンの指から雷光が発せられ、ブリュンヒルデはカエルのように床に叩きつけられた。

「グエ」

「すまん、いきなり跳びかかって来るから手加減ができなかった」

「わ、わざとだろ……」

「一人娘に、わざとするわけがなかろう。だれか姫を!……あ……人払いをしていたんだった(;^_^」

「大丈夫、こ、これしきのこと……」

「……変らんな、その強情なところは。人間、痛いときには痛いというものだぞ」

「い、痛くはない。それに、人間じゃないし」

 オリハルコンを杖に、やっと起き上がると、大胡座をかいて父を睨みつける。

「あ……その下から睨みつける顔は怖すぎるぞ」

「生まれつきだ!」

「仕方がない……」

 オーディンはユサユサと玉座を下りて姫の前に腰を下ろした。姫の言葉を待ってやるつもりが昔を思い出してしまう。

「な、なんだ?」

「この近さで向き合うのは将棋を教えてやって以来だなあ」

「あ、ああ」

「将棋でも覚えれば、少しは落ち着くと思ったのだが、将棋でも気性は直らなかった。負ければのたうち回って悔しがるし、勝ちを譲っても、直ぐに見破って暴れまわる。ハハ、あれはあれで可愛いものではあったがの」

「昔のことなんか言うな」

「すまんすまん、つい懐かしくてな」

「オヤジ、ヒルデは信じていたぞ……戦死した兵は直ちに彼岸に往生するものだと」

「それはほんとうだ、だからこそ、戦死者の選抜をおまえに託したんだ。戦死予定者を見定めることで人を見る目が深くなる。戦死する者との絆も強くなる」

「嘘だ! 戦死した者はラグナロク(最終戦争)に再び召し出されるのだろうが!」

「あ……それか」

「わたしの顔を見ろ! クソオヤジ!」

「我が子ながら、怒ると振い付きたくなるほど美しくなるなあ!」

「はぐらかすな!」

「おまえも自覚してるんだろ、兜をかぶって戻ったのも、その美しさで男どもをいたずらに惑わさないためだろう」

「怒った顔は醜い、醜い怒りを晒さないためだ」

「ちがうちがう、ヒルデは可愛いんだ、萌の極致なのだ。あのな、正直に言うと、一人娘だから、戦になんかは出したくないんだ。お父さんの正直な気持ちだよ。でも、お父さんにも主神としての役目があるからな、そのお父さんの娘なんだから、盾乙女とか姫騎士とか呼ばれる任務にも着かさなければならないんだよ。お父さん、心では泣いてるんだぞ」

「茶化すな!」

「知り合いの息子に蘭陵王(らんりょうおう)というイケメンがおる。あまりのイケメンに、彼を目にしたものは戦意を喪失して戦にならん。そこで、蘭陵王は恐ろし気な魔王の面をつけて戦場に出ているんだ。いやな、蘭陵王の親父と呑んだ時にな、いつか平和な時代が訪れたら、二人を夫婦にしたらって話していたんだ。きっと、すんごく可愛い子が生まれる。世の中可愛い子だらけになったら、きっと、戦争をやろうなんて気はなくなるぞってな」

「オヤジ!」

「口がすべった、すべったが、本心だぞ」

「信じられるかあ!」

「しかし、ラグナロクなんてヨタをどこで聞いたんだ?」

「レイアが、わたしの傷を癒そうとエルベの水を体に注いでくれたんだ。ニンフが汲んだエルベの水は人の思念を写す」

「レイアとエルベの水……悪い組み合わせだ」

「トール元帥とオヤジの会話がインストールされていた。百戦百勝の元帥を起用しなかったのは、元帥の選定では戦死者はラグナロクに使えないからだ」

「そうか、トールとの話を聞いてしまったのか……」

「もういやだ。戦死しても誰一人救われない戦争などしたくない。今まで戦死させてきた者たちにも顔向けができないじゃないか」

「ヒルデ……」

「触るな!」

「可哀そうに……」

「他人事みたいに言うな」

「たしかにラグナロクは起こる、それに勝てば真の平和が訪れる。しかし、それを知ってしまえば選べないだろう。ヒルデは優しい子だからな。そして、ヒルデの優しさで選んだ兵士でなければ、ラグナロクに勝利することは出来ないんだよ。勝てなければ、何度でもラグナロクは繰り返される。お父さんはな、一発でラグナロクを終わらせたいんだよ」

「それなら、勝てそうな兵士を選べばいいだろ! なんで、戦死する者なんだ!」

「戦死を経験した者でなければ、ラグナロクには使えないんだ。ヒルデの苦渋の選択が戦死する者たちを霊的に強くするんだよ。その兵士たちは、ラグナロクの勝利の後に彼岸に往生するんだ。そこを一段省略したが、大きくは間違っていないだろ」

「詭弁だ!」

 再びオリハルコンが飛翔し、オーディンの首元に突き付けられる!

「切ってもいいぞ、オリハルコンなら神の首でも切り落とせる」

「グヌヌヌ……」

「俺を切ったら、ヒルデが代わりを務めなくてはならなくなる。ラグナロクの先陣に立たなくてはならなくなるぞ」

「……オヤジ」

「ヒルデ、少し休め」

「オヤジ、なぜ、わたしがカラスのように真っ黒な甲冑を身にまとっているか分かってるか?」

「喪服のつもりだろう」

「フン」

「は、鼻で笑うな(^_^;)」

「理解が浅い。この漆黒は何ものにも染まらぬ覚悟を示しているのだ。仮にも人の死を決めるんだぞ、なんの情実も利害も関りが無い、そのことを身をもって示しているんだ……今は、それも虚しいよ。休めるものなら休みたい、逃げていいものなら逃げ出したい。人を安息のためにではなく、より峻烈、過酷なラグナロクへ誘うために働いていたのだからな……まったく、わたしは黒の道化だ」

「だから、休めばいい」

「この戦ばかりの世界に休める場所などあるものか。この辺境の戦争が終わったら平和が来ると信じていた、だから、五十幾つもの深手を負っても戦えたんだ。たとえ辺境の魔王と刺し違えても、いや、刺し違えてこそ死んでいった者たちに顔向けができると思った。死んでいった者たちが、自分たちの墓穴の底が抜けて再びラグナロクの戦場に繋がっていると知ったら、どんなに絶望するだろう……せめて、わたしもラグナロクの先陣に立つしかない……!」

 ビュン

「やめろ!」

 絶望に感応したオリハルコンがヒルデの頸動脈一ミリに迫ったところで父は叩き落した。

「死なせてもくれないのか!」

「ヒルデ、その心が癒えるまで、異世界においき」

「えと、ここも十分異世界だと思うんだけど」

「戦死者を選ばなくてもいい世界がある。むろん、問題が無いわけじゃないが、いまのお前のような苦しみは無い。お前の優しさが生きる異世界だ」

「……あるのか? そんな異世界が?」

「さあ、手をお出し。目をつぶってお父さんの手を握るんだ」

「う、うん……久しぶりに見る手だ。親父は主神だから容易に手の内を見せなかったからな……変わっていないなあ、オヤジの手は大きい」

「これでも神の手だからな」

「ん……もう一人分わたしの手を包む者が……」

「それは、お母さんの手だろう」

「お母さん、お母さんなのか……ずっと忘れていた……」

 
 とても懐かしい気持ちになってきた……幼いころ、まだオリハルコンの剣など手にしなくてもよかったころ、父に手を引かれ、母に見守られ。こけつまろびつしながら走った幼子のころの、時めきながらも穏やかだったころの気持ちに、ゆっくりと浮上していくブリュンヒルデであった。

 
 ここはどこだ……?

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