やくもあやかし物語・137
白虎って言えば……白虎隊よね……
白虎の姿が地平線の向こうに見えなくなると、遠くを見るような目になってチカコが呟いた。
「「「白虎隊?」」」
御息所もアキバ子も、むろんわたしも直ぐにはピンとこないで、ギョッとする。
今まさに白虎に追いかけられてるところだから、白虎に隊が付いてしまうと、白虎が団体で追いかけてくるみたい。
ちょっと恐怖。
「幕末にね、会津藩が最後まで官軍に抵抗するんだけど、お城の西側を護っていた少年隊よ」
「西を護っていたから白虎なのじゃな」
「うん、他にも朱雀隊とか玄武隊とかもあって、白虎隊は西からやってくる官軍と戦っていたの……お昼ごろに丘の上まで退却してお城の方を窺うと、お城の方からモクモクと煙が上がっているのが見えて『あ、お城が落ちた!』と落胆して、みんなで刺し違えて死んじゃったのよ」
「健気な話よのう……」
「それ、聞いたことがあります」
「アキバ子、知ってるの?」
「ええ、無双系で幕末を舞台にしたゲームがあって、白虎隊も出てきましたよ」
「でもね、白虎隊は早とちりだったのよ」
「「「早とちり?」」」
「実は、燃えていたのはお城の手前の街で、その炎と煙が天守閣と被ってしまって、お城が落ちたと勘違いしたのよ」
「勘違いとはいえ、憐れよのう……」
「そうそう、他の玄武隊とかは、無事にお城に戻ってますよね」
「「「そうなの?」」」
「ゲームでは、そうなってます。途中の村でお神輿とかの村祭りグッズを見つけて、お祭りを装って賑やかにお城に向かったら、官軍も呆気に取られて、無事に戻れるんです」
「そうか、お祭りがひっかけフラグになっていたのだな」
「あ! それ使えるかも!?」
「なんじゃ、土星の軌道でお祭りをやるのか?」
「ううん、でもひっかけることには違いない……みんなでお祭りのコスを着るのよ!」
アキバ子はアキバの妖精なので、箱の中にいろいろのアイテムを持っている。
「ありますあります!『アキバ大好き祭り』とか『電気店街祭り』とか!」
というので、箱の中に潜って適当なお祭りコスを着て、四人で囃し立てるんだ!
「わっしょいわっしょい!」
「アキバ大好き!」
「ソイヤソイヤ!」
「わっしょいわっしょい!」
「「「「わっしょいわっしょい!」」」」
四人で大きい声で囃し立てるので、地平線の向こうの白虎にも聞こえて、どんどん地響きとかが聞こえてくる。
ドドドドドド!
「ソーレ!」
わたしが掛け声をかけると、四人揃って重心を右っかわにかける。
グィーーン
わたし達を載せた空き箱は、グインと右に曲がる。
白虎は図体が大きいので小回りが利かなくって、グルーーっと大回り。
その分、スピードも落ちて、そのたびにわたしたちを見失う。
つまりは、土星の表面で鬼ごっこ!
「で、いつまでやるのかしら(;'∀')?」
いちばん体力のないチカコが五回目くらいで顎を出す。
「もうちょっと、白虎の怒りがマックスになった時にね……」
ガオオオオオオオ!!
「おお、早くも激おこぷんぷん丸であるぞ!」
「アキバ子、ダッシュよ!」
「ラジャー!」
「最大戦速ゥーーーー!!」
ビューーーン!!
それまでの倍くらいの速度を出すと、だんだん強い遠心力が働いて、空き箱のわたしたちより何十倍も重たい白虎は溶け始め、白い光を曳きながら上昇していく。
「もう、ちょっとよ!」
ビュビューーン!!
グオオオオオオオオ!!
白虎は、さらにスピードを上げて、その分、どんどん上昇していって、ついには土星の輪の、いちばん内側に接触するところまで来てしまった。
ピシャーーーーーン!
溶けかかっていた白虎は火花を上げてショートしたかと思うと、土星の輪に吸収されてしまった……。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王