大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・137『白虎はお祭りでひっかけろ!』

2022-05-06 13:27:23 | ライトノベルセレクト

やく物語・137

『白虎はお祭りでひっかけろ!

 

 

 白虎って言えば……白虎隊よね……

 

 白虎の姿が地平線の向こうに見えなくなると、遠くを見るような目になってチカコが呟いた。

「「「白虎隊?」」」

 御息所もアキバ子も、むろんわたしも直ぐにはピンとこないで、ギョッとする。

 今まさに白虎に追いかけられてるところだから、白虎に隊が付いてしまうと、白虎が団体で追いかけてくるみたい。

 ちょっと恐怖。

「幕末にね、会津藩が最後まで官軍に抵抗するんだけど、お城の西側を護っていた少年隊よ」

「西を護っていたから白虎なのじゃな」

「うん、他にも朱雀隊とか玄武隊とかもあって、白虎隊は西からやってくる官軍と戦っていたの……お昼ごろに丘の上まで退却してお城の方を窺うと、お城の方からモクモクと煙が上がっているのが見えて『あ、お城が落ちた!』と落胆して、みんなで刺し違えて死んじゃったのよ」

「健気な話よのう……」

「それ、聞いたことがあります」

「アキバ子、知ってるの?」

「ええ、無双系で幕末を舞台にしたゲームがあって、白虎隊も出てきましたよ」

「でもね、白虎隊は早とちりだったのよ」

「「「早とちり?」」」

「実は、燃えていたのはお城の手前の街で、その炎と煙が天守閣と被ってしまって、お城が落ちたと勘違いしたのよ」

「勘違いとはいえ、憐れよのう……」

「そうそう、他の玄武隊とかは、無事にお城に戻ってますよね」

「「「そうなの?」」」

「ゲームでは、そうなってます。途中の村でお神輿とかの村祭りグッズを見つけて、お祭りを装って賑やかにお城に向かったら、官軍も呆気に取られて、無事に戻れるんです」

「そうか、お祭りがひっかけフラグになっていたのだな」

「あ! それ使えるかも!?」

「なんじゃ、土星の軌道でお祭りをやるのか?」

「ううん、でもひっかけることには違いない……みんなでお祭りのコスを着るのよ!」

 アキバ子はアキバの妖精なので、箱の中にいろいろのアイテムを持っている。

「ありますあります!『アキバ大好き祭り』とか『電気店街祭り』とか!」

 

 というので、箱の中に潜って適当なお祭りコスを着て、四人で囃し立てるんだ!

 

「わっしょいわっしょい!」

「アキバ大好き!」

「ソイヤソイヤ!」

「わっしょいわっしょい!」

「「「「わっしょいわっしょい!」」」」

 四人で大きい声で囃し立てるので、地平線の向こうの白虎にも聞こえて、どんどん地響きとかが聞こえてくる。

 ドドドドドド!

「ソーレ!」

 わたしが掛け声をかけると、四人揃って重心を右っかわにかける。

 グィーーン

 わたし達を載せた空き箱は、グインと右に曲がる。

 白虎は図体が大きいので小回りが利かなくって、グルーーっと大回り。

 その分、スピードも落ちて、そのたびにわたしたちを見失う。

 つまりは、土星の表面で鬼ごっこ!

「で、いつまでやるのかしら(;'∀')?」

 いちばん体力のないチカコが五回目くらいで顎を出す。

「もうちょっと、白虎の怒りがマックスになった時にね……」

 ガオオオオオオオ!!

「おお、早くも激おこぷんぷん丸であるぞ!」

「アキバ子、ダッシュよ!」

「ラジャー!」

「最大戦速ゥーーーー!!」

 ビューーーン!!

 それまでの倍くらいの速度を出すと、だんだん強い遠心力が働いて、空き箱のわたしたちより何十倍も重たい白虎は溶け始め、白い光を曳きながら上昇していく。

「もう、ちょっとよ!」

 ビュビューーン!!

 グオオオオオオオオ!!

 白虎は、さらにスピードを上げて、その分、どんどん上昇していって、ついには土星の輪の、いちばん内側に接触するところまで来てしまった。

 ピシャーーーーーン!

 溶けかかっていた白虎は火花を上げてショートしたかと思うと、土星の輪に吸収されてしまった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・39『乙女先生の休暇』

2022-05-06 06:20:03 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

39『乙女先生の休暇』  

          


 鳥インフルエンザに罹ったとまで噂が立った。

 それほど乙女先生が仕事を休むのは珍しかった。

「ご家庭の事情です」

 教頭の田中は、昨日の午後から十回は人に言っている。

 教頭も、転勤後わずか一カ月で、乙女先生が学校には無くてはならない存在になっていることを認めざるを得なかった。しかし、いったいなんの家庭事情なのか、教頭にも分からなかった。で、鬼の霍乱から、家庭不和、あげくは鳥インフルエンザに罹ったとまで噂がたってしまった。


 生指部長代理の桑田など、遅刻の生徒がきても叫ぶしかなかった。

「入室許可書は、どこにあるんや!?」

 昨日は午前中授業があったので、それが済むと、銀行へ行って、幾ばくかのお金を下ろして、我が家へと急いだ。

「ごめん、一人で心細かったやろ。さあ、忙しいでぇ。まずは腹ごしらえ!」

 乙女さんは、牛丼のお持ち帰りを、テーブルにドンと置いた。

「心細くなんかなかったです。パソコンでネットサーフィンやってましたから」

 ふと目をやったパソコンの画面には、民法の親権について書かれたブログが出ていた。それには気づかないふりをして学校の話をオモシロオカシク話してやり、美玲かすかに笑ったりした。栞やさくやが絶好の話の種で、MNBの研究生をやっているというと正直に興味を示した。

「よっしゃ、今日のシメはそれでいこ!」

 乙女さんは亭主に電話し、午後六時には職場を出るように厳命した。そして芸能事務所に勤めている卒業生に電話、なんとかMNBの今日のチケットを三枚無理矢理確保した。

 それからの数時間、乙女さんは楽しかった、実に楽しかった。

 古巣の岸和田に行き、実家に寄りたい気持ちはグッと抑えて、ゴヒイキの小原洋装店にいき、美玲のよそ行きを二着注文。プレタポルテの普段着を三着買った。しかし、今時の子、もっとラフな服も必要だろうとユニクロに寄ることも忘れず。上下セットで三着買って、フィッテイングルームで着替えさせ、靴も同じフロアーの靴屋でカジュアルなパンプスに履きかえさせた。欲を言えば美容院に連れて行ってやりたかったが、先のことを考えて、明日以降の課題とした。

「おう、美玲……!」

 我が娘の変わりように、MNB劇場の前で、亭主は驚いた。

「そんなに見ないでください、恥ずかしいです」

 美玲は、乙女さんの陰に隠れてしまった。

 ライブが始まると、美玲は夢の中にいるようだった。自分と年の変わらない女の子達が、こんなにイキイキと可愛く歌って踊っていることに圧倒されてしまった。

――こんな世界があったんだ――

 帰りの握手会では、迷わずチームMのリーダー榊原聖子のところへ行った。

「がんばってください!」
「ありがとう」

 たったこれだけの会話だったけど、美玲は、なんだか、とても大きな力をもらったような気がした。

「ミレちゃん、よっぽど嬉しかったんやろね、右手ずっと見てるよ」
「え?」

 気配に気づいたのだろうか、美玲は、帰りの電車の中で、夢の途中にいるような上気した顔でこちらを見た。


「意外と簡単でしたよ」

 その晩、手島弁護士が電話してきた。

「養育費の総額を言うとおとなしくなりました。問題は、相続権の放棄だけです。これだけは一応お話してからと思いまして」
「はい、美子さんの分も、そちらのお家の相続権も放棄……その線でお願いします」
「分かりました、明日中に書類を揃え、連休明けに処理しましょう。あと美玲ちゃんの学校を……あ、こりゃ、釈迦に説法でしたな」
「では、よろしくお願いします」


 その夜、昨日とはうってかわって明るくMNBの話などをする美玲であった。

「ミレちゃん、水差すようやけど、ちょっとこの問題やってくれるかなあ」
「え、テストですか?」

 美玲の顔色が変わった。

「どないしたん?」
「このテストに落ちてしもたら……」
「え……?」

 乙女さん夫婦は顔を見合わせた。

「……いいえ、なんでもないです」

 美玲は必死の形相でテストに取り組んだ。その間、乙女さんはパソコンで、なにやら検索し、亭主は新聞を読むふりをして、娘とカミサンを見比べていた。

「一ついいですか?」
「なんだい?」

 亭主は、よそ行きの声を出した。

「新聞が、逆さまですけど……」
「ぼ、ボクは逆さまでも読めるんや、この方が記事の問題点とかがよう分かる」
「へー!」

 純な美玲は、まともに感心した。乙女さんは、お腹が千切れるくらいおかしかったが、涙を流しながら笑いを堪えた。

 美玲は、一時間ちょっとで、英・国・数・英の四教科を仕上げた。

「あんた、数・英」

 亭主と二人で採点した。美玲は俯いて唇をかんでいたが、採点に熱中している二人の教師は気づかなかった。

 さすがに現職の教師で、十分ほどで採点を終えて、乙女さんの目は輝いた(⁽⁽ ☆ ⁾⁾ Д ⁽⁽ ☆ ⁾⁾)!

「ミレちゃん……」
「は、はい……」
「あんた天才やで。なあ、あんた偏差値70はいくよ」
「いいや、75はいくだろう」
「あの……わたし、この家に居てもいいんですか?」
「え……?」
「そのテストに落ちたら、もう、この家に置いてもらえないんじゃないかと、心配で、心配で……」

 美玲の目から涙がこぼれた。

「アハハハ、なに言うてんのよ。これは、ミレちゃんにどこの学校いかそうかと思うて……学力テスト」
「な、なんや、そうやったんですか……中学校に入学テストなんかあったんですか?」
「ミレちゃんには、テストのいる中学に入ってもらいます!」

 それから、夫婦は徹夜で、私立の中高一貫校を捜した。公立高校の教師である二人は、自分の子供を行かせるなら私立だと決めていた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする