大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち1『風間そのの災難・1』

2022-05-15 16:57:50 | 小説3

くノ一その一今のうち

1『風間そのの災難・1』 

 

 

 うまく言えないけど、普通ってあると思う。

 

 普通の成績とって、普通に進路が決まって、普通に進学だか就職だかして、普通に生きるってこと。

 普通に友だちできて普通につきあって、友だちのほとんどは女子で、ちょっとだけ男子の友だちもいて、その男の一人と結婚して……しなくてもいい。見合いでもいいしさ。結婚しても普通に働く。

 普通に子育てして、普通に年取っていく。家族葬やれるくらいのお金を残して、風間家先祖代々とかのお墓とかに入って、七回忌ぐらいまで法事やってもらって、十三回忌はうっかり忘れられて、そして無事にご先祖様の端くれになっていく。

 そうだよ、ひいばあちゃんの十三回忌、お婆ちゃんうっかり忘れてたもんね。

 次は十七回忌だっけ? たぶん忘れる、わたしもお祖母ちゃんも。

 でも、まあ、そういうのが普通だと思うから、ひいばあちゃんも草葉の陰で喜んでくれると思うよ。

 あたし、普通病かな?

「風間の普通ってよく分からないけど、この成績じゃ難しいぞ」

 先生の言うことはもっともだ。もっともなんだけど、もっと早く言ってほしいよ。

 秋のクリアランスセールが始まろうかって、この時期に言われても、ちょっち遅いっちゅうの!

 まあ、ほっといたわたしも悪いんだけどさ。

 春の懇談は、お祖母ちゃん具合悪くて「いつやる?」って、二三度言われてるうちに立ち消えになって、そいで、秋の中間テスト明けの懇談が今日あって。相変わらずお祖母ちゃんは具合悪くって、けっきょく、あたしと先生の二者懇談になって。それくらいなら「春にゆっといて!」なんだけど、そういう文句言わないくらいには普通のJKでもあるわけでさ。

 これで、ちょっとスポーツができるとか、歌が上手いとか、ちょっとオーディション受けてみようかとか己惚れるぐらいにルックス良ければ、憂さの晴らしようもあるんだろうけどさ。

 体育も音楽も小学以来2ばっか。高一のとき、数少ない友だちのAとBと三人渋谷を歩いてたらスカウトのオネエサンが声かけてきて、あたしはカン無視されてさ。その時は、へんなキャッチセールスと思って三人で逃げたけどさ。

 Aはナントカ坂46のハシクレになっちゃうし、ならなかったBも「ほんとのスカウトだったんだねえ!」って声かけてもらったことが勲章だしさ。「Bは、テニス部イノチだから仕方ないよ!」って、なんで、あたしが慰めなきゃならないのさ。そういや、Bは体育大学、推薦でいけるって話だった、慰めて損した!

 ウダウダと二者懇談のアレコレ醜く思い出してるうちに電車は駅に着いてしまった。

 あ……

 エスカレーターに足を掛けようとしたら点検中で停まってる。

 仕方がないので、階段…………ウワッ!? ブチュ!

 踏み外し、なんとか手摺につかまったら、ちょうど振り返ったオッサンの限りなく唇に近い頬っぺたにキスしてしまった!

「す、すみません(;'∀')!」

 エヅキそうになるの堪えて謝る。

「き、気を付けろよ!」

「ほんと、すみません(-_-;)」

 事故とは言え、JKがキスしたんだぞ、せめてラッキースケベくらいの反応しろよ、おい、ハンカチでゴシゴシすんなよ。オーディエンスのやつらもクスクス笑うんじゃねえ!

 凹みながら改札を出て、駅前のロータリー。

 ピシャピシャ頬っぺたを叩いて切り替える。

 スマホ出して気分転換……しようと思ったら、信号待ちしてる人たちみんなスマホ見てる。

 まあいいか、この瞬間だけでも、ひとり信号を見てるのも、ささやかな気分転換さ!

 あれ?

 ちょうど、車の流れが途絶えて、横断歩道の向かい側、バカな猫が赤信号を渡ろうとしている。

 危ない!

 思った時には飛び出していた。

 迫る車の直前でバカ猫をキャッチすると、自分でも信じられないくらいの早業で歩道にニャンパラリン!

「きみ、危ないよ!」

 お巡りさんが寄ってきて「だいじょうぶ?」も聞かないで頭の上から叱られる。

 上からのはず、あたしはバカ猫を抱えたままへたり込んでいる。

「ま、猫は助かりましたから……」

「きみの猫?」

「いいえ、でも、赤で渡っちゃうから、つい必死で」

「猫の命も大事だけど、下手に飛び出したら大事故になるからね」

「はい、すみません」

「まあ、これからは気を付けて。いちおう、学校と住所と名前、聞かせてくれる?」

「え、あ……はい……○○区〇〇町……風間そのです……学校は……」

 通りすがりの人たちが――こいつ、なにやらかしたんだ?――と、好奇の目で見ていく。

 ――家出?――なんか違反?――援交?――被害に遭った?――いや、加害者だろ――ブスだし――

 ほんの二三分なんだろうけど、メチャ長かった。

 で、やっと解放されたら、バカ猫はとっくに居なくなっていた。

 あ~あ~とんだ災難の放課後だった!

 

 

 

 

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ピボット高校アーカイ部・7『先輩と川に入る』

2022-05-15 09:16:17 | 小説6

高校部     

7『先輩と川に入る』

 

 

 くの字に曲がる小川の手前まで来て、先輩は立ち止まった。

「ここを曲がった先、小川の向こう岸にお婆さんが現れる。そのお婆さんを観察するのが、今日の部活だ」

「あ、そうですか」

「念のため、靴と靴下は脱いでおいてくれ」

「え?」

「理由は聞くな、わたしも脱ぐから」

 そう言うと、先輩は器用に立ったまま靴と靴下を脱ぐ。

 たかが靴と靴下なんだけど、ドキッとする。

 片足ずつしか脱げないので、脱ぐたびに先輩の片足が上がって、太ももの1/3くらいが露わになるし、くるぶしから下の生足が露出するし。

「ズボンもたくし上げておいてくれ」

「ひょっとして、川に入ります?」

「可能性の問題だが、とっさに間に合うようにしておきたい。さ、行くぞ」

 

 くの字の角を曲がって薮に身を潜めると、向こう岸にお婆さんが現れて盥の中の布めいたものを水に漬けはじめた。

 お祖父ちゃんの影響で、あれこれ知識のあるボクは、お婆さんが染色の職人さんのように思えた。

 今でも、地方に行けば染色の職人さんとかが、染めの段階で糊や、余計な染料を洗い流すために川を使うのを知っているからだ。お婆さんの出で立ちも裾の短い藍染の着物だったりするので、その線だと思った。

「ただの洗濯だ」

「え……ということは」

「黙って見ていろ」

「はい」

 待つこと数分、先輩のシャンプーの香りなんかにクラクラし始めたとき、先輩が、小さく、でも鋭く言った。

「来たぞ!」

 見ると、川上の方から大きめのスイカほどの桃がスイスイ流れてきた。

「桃は、スイスイではなくて、ドンブラコドンブラコだろ……」

「は、はあ……」

 ドンブラコドンブラコというのは、川底に岩とかがあって、流れが複雑で揺れている感じなんだけど、桃は、性能のいいベルトコンベアの上を行くように、ほとんど揺れることがない。だからスイスイなんだけど、先輩には逆らわない方がいい。

 穏やかに流れてきた桃は、ゆっくりとお婆さんの前に差し掛かってきた。

「ここからだ……」

 お婆さんは、染め物職人のように洗濯に集中しているせいか、気付くことも無く、桃は、お婆さんの目の前を通り過ぎる。

 チッ

 舌打ち一つすると、先輩は女忍者のように川下の方に駆けていく。僕もそれに倣って川下へ。

 くの字の角を戻ったところで、川に入る。

「少し深い」

 先輩は、スカートの裾を摘まみ上げるとクルっと結び目を作って、丈を短くした。

 太ももの、ほぼ全貌が見えて、思わず目を背ける。

「見かけよりも重いぞ」

「え?」

 一瞬、先輩のお尻に目がいってトンチンカンになる。

「しっかり持て!」

「は、はい」

 それと分かって、二人で桃を持ち上げて向こう岸に上がる。

「すぐに、上流に行くぞ」

「はい」

 二人並ぶようにして桃を持ち上げ、お婆さんを避けつつ小走りで、百メートルほど上で川に入る。

「急げ、ゆっくりと!」

「は、は……あ!」

 矛盾した指示にバランスを崩してしまう!

 ジャプン

「「………………」」

 努力の半分が水の泡。

 二人とも、川の中に転んでしまって、もう、胸から下がビチャビチャ。

 しかし、桃は無事に川の流れにのって流れていく。

「鋲、念には念をだ!」

「はい?」

 急いで岸に上がると、お婆さんの後ろ側の土手に隠れる。

 先輩は、野球ボールくらいの石を拾うと、迫ってきた桃の前方に投げた。

 ドプン!

 さすがに気づいたお婆さんは、洗濯の手を停めて、川の中に入ると「ヨッコラショ」と桃を持ち上げた。

「うまく行ったぁ!」

「ちょ、先輩!」

 感激した先輩は、濡れたままの胸で抱き付いてきて、僕はオタオタするばかり。

 お婆さんが無事に桃を持って帰るのを確認して、僕たちはゲートを潜って部室に戻って行った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・48『それぞれの週明け』

2022-05-15 05:40:54 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

48『それぞれの週明け』  

           

 


 トーストを咥えながら、駅まで走っている女子高生なんてドラマかラノベの世界だけだと思っていた。

 栞は、現実にやって、自分がドラマの主人公になったような気に……は、ならなかった。

 今日から中間考査の一週間前である。学年でベストテンの成績をとっていた去年までの栞なら、こんなには慌てはしない。

 父子家庭で、早くから主婦業を兼業……正確には、弁護士である父と半分こであるが、半分とは言え主婦をやっていることには違いない……ので、物事を計画的とか、順序立ててやることには自信があり、去年まで実態として存在していた演劇部と学業と家事の三人組を相手にするのは、『体育会テレビ』で、プロのスポーツマンが子どもを相手にするよりタヤスイことであった。
 
 でも、今は違う。

 MNB24の研究生になって十日もたたないのに、ユニットを組まされた。

 その名も『スリーギャップス』 

 センターを張るベテランの榊原聖子と中堅の日下部七菜、そして駆けだし(現に今もトーストを咥えながら駅まで駆けている)の手島栞の三人。

 きっかけは、レッスン中に栞が口にした「そうなんですか!」が、グループの中で流行り、プロデューサーの杉本寛が「今月中に、『そうなんですか!』で新曲をリリースする」と生放送中に宣言した。そのときは、ただの冗談かと思った。そうしたら、一昨日いきなり新曲のスコアを渡され、急遽ユニットが組まれ、何度も言うようだが、ユニット名は『スリーギャップス』。それぞれのギャップの差を楽しもうという、芸能界ではあり得ない、いや、あり得なかった、いや、あってはならないアイデアである。

「ギャップの差は、個性の差である!」

 杉本は、この世界の風雲児である。たとえ思いつきでも、言われたらやるっきゃない!

 正直、杉本の企画が全て当たるわけではない。母体のAKRも神楽坂でも、コケた企画は山ほどある。そして、陰で泣いた……泣くぐらいなら、まだいい。この世界から姿を消したアイドルは死屍累々。

 だから、この『スリーギャップス』は、絶対にコケられない。聖子や七菜はすでにアイドルの地位を不動のものにしている。コケルとしたら駆けだしの栞である。

 栞は、昨日も夜中の十一時までかかって、ボイトレ、新曲の練習、フリの復讐をBスタを独占してやった。そして帰宅してからは、三時前までテスト勉強。

 ああ、二次関数や英単語たちがこぼれていく……そして『そうなんですか!』がグルグルと頭を巡る。

 

 ホ-ムの発メロが鳴る階段二段飛ばしに駆け上がる 目の前で無慈悲にドアが閉まる

 ああチクショー! このヤロー! 思いがけないキミのため口

 駅員さんも乗客のみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ
 
 あの それ外回りなんだけど

 そうなんですか しぼんだようにキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな電車の発メロぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか~(^^♪

 

 曲の一番にスイッチが入り、駅前で思わずワンコーラス分、ステップを踏んだ。そして歌詞通りになった。
 ホ-ムの発メロが鳴る階段二段飛ばしに駆け上がる。その目の前で無慈悲にドアが閉まってしまった……。

 

「ええ、今日からこのクラスの仲間になる佐藤美玲さんです。中間テスト一週間前からの転校で、ちょっと大変ですけど、みんなよろしくね。じゃ、佐藤さんから一言」

 美玲は、ゆっくり先生の横に立った。

 制服は他のみんなと違って、イージーオーダー、身にピッタリと合っている。高い位置でポニーテールにしているので、目尻が上がりキリリとした表情には気品が漂い、貫禄さえあった。

「ご縁があって、今日からみなさんといっしょに勉強することになりました佐藤美玲です……」

 そこまで言うと、黒板に自分の名前を書こうとしたら、すでに担任が書いてくれていた。

「ちょっと難しい字だけどミレイと読みます。言いにくいからうちの母は略してミレって呼んでます。みなさんも、それでよろしくお願いします」

 オヘソの前で手を組んで、静かに頭を下げた。お母さんに教えられた通りに……暖かい拍手が起こった。

――受け入れられた!――

 そんな喜びが、オヘソのところから湧いてきた。

 前の学校では、正直言ってハブられていた。狭い街なので、噂は子どものころから広まっていた。面と向かって言われたことはなかったが「不倫の子」と陰で言われていることは分かっていた。しかし伯父夫婦は気にする様子は無かった。

 姪への愛情からではなく、無関心からであった。

 だから一定以上言われることもない。そして、姿勢も成績もいい美玲は、ハブられるというよりは、近寄りがたい存在として見られることが多くなっていったのだが、それとハブられることとの区別がつくほど美玲は大人ではなかった。

 美玲は、初めて自分を受け入れてくれる学校ができたと思った。

 一礼して上げた美玲の顔は、担任の佐野先生が驚くほど美しかった。本来母親似(乙女さんではない)の美玲は整った顔立ちの子で、それが、その身に溢れる喜びで一杯になったのである。美しさはひとしおで、その日いっぱい、中等部の職員室の話題になった。

 

「教頭先生、例のものです」

 乙女さんは、お土産の饅頭を置くような気楽さでそれを、教頭さんの机の上に置いた。
 数秒して、教頭さんは、それが何かが分かった。この人には珍しく、プレゼントをもらった子どものように、すぐさま開けると。葉書大ほどのそれを食い入るように見つめた。

「今日の教頭さん、なんだか……その、楽しそうでしたな。あんな教頭さんは初めてだ」
「よっぽどええことがあったんでしょ。そっとしといたげましょ」
「ですね……」

 校長は、片手を挙げると校長室にもどった。

「ああ、チャック閉め忘れてる……ま、ええか」

 乙女さんは、美玲を引き取った判断に間違いはないと思った。

 それぞれの週明けだった……。

 

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