大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・107『須磨宮心子内親王』

2022-05-07 10:34:42 | 小説4

・107

『須磨宮心子内親王』越萌マイ(児玉隆三) 

 

 

 桜色のパンツスーツがとてもお似合いだ。

 

 心子内親王殿下のファッションは季節の先取りとファッション誌などで書かれるが、わたしは保護色なのだと拝察している。

 お若いに似ず、殿下の感覚には老獪と言っていいくらいの深さと穏やかさがある。

 春は桜か萌黄色、夏は柑橘系の黄色からオレンジ系、時に大海原のような青と白。秋はオリーブグリーンやライトブラウン、冬はアクセントに赤を配したホワイト。それを暦の移ろいに合わせてお召し替えになっておられる。それも、なるべく原色は避けて、ライトとかオフを冠する穏やかな色調にまとめておいでだ。

 季節の先取りと言われるのは、旧暦の季節に合わせておられると思うのは、ファッション小物を本業とする越萌姉妹社のCEOの感覚とも、保護色のスペシャリストである軍人の感覚とも言える。

 幾十年、幾百年の後に、人々が殿下の記録に接した時に受け止められる印象を無意識であろうが大事にされている。

 この春には連続の飛び級を果たされて、十七歳のお誕生日を前に学習院をご卒業になった。

 

 及川市長に軽く礼をされると、殿下は、零れるような笑顔で狐と狸のところに駆けてこられる。陸軍からの出向と思われる女性警護官が速足で追って来る。

 トレンチの手前にくると、いったん立ち止まって、迂回する前に会釈をされる。

 我々への礼ではあるのだが、警護官が追いつく時間を作っておられるのだ。

 思わず駆け出してしまったのに気付かれてのとっさのご判断。若さと皇族としての自覚が程よく同居していて、こちらも、思わず職業的なそれではなくて微笑んでしまう。

「孫大人、越萌マイさん、お初にお目にかかります。須磨宮心子(すまのみやこころこ)です、西之島新規開発が行われるというので、東京から飛んで参りました。いや、到着早々にお目にかかれるなんて、胸がドキドキします。どうぞ、よろしくお願いいたします!」

「こ、こちらこそ! いや、事前に承っておりませんでしたので、お迎えにも伺えず、孫悟兵、一世一代の失態であります!」

「いえいえ(^_^;)!」

 まるで高校生のように両手を振って恐縮される。孫大人も、いままで見たことも無いくらいあがって、これも見ものではある。

「わたくしこそ、みなさんにご無理を言って、陛下へのご挨拶も遅れたんですが、でもでも、ぜったい見たくってやってきてしまいました。なるべく大人しくして見学させていただきます!」

「こちらこそ光栄です。少しでも殿下のお勉強になれるようこころがけます。ご質問などございましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ」

「はい! あ、こちらお目付の橘さんです。近衛から出向いて心子の世話をしてくださっています。世間知らずの心子ですので、橘さんが直接関わってくれることも多いと思います。よろしくお願いいたします」

「橘です、よろしくお願いいたします」

「「こちらこそ」」

「殿下、みなさん、車を降りたところでお待ちです。あちらにお戻りください」

「え、あ、そうね。では、また後程。ごきげんよう」

 きちんと一礼すると、小走りで戻られ、視察の流れにのられる。

「畏れながら、愛すべきオチャッピーであられる」

「ある意味、陛下以上の苦労をしょい込んでおられる。母君が御薨去されて、全てをしょい込まれたのが十四の御歳だ。それから三年連続の飛び級で高校を卒業されて……わけも無く焦っておられるのかもしれない」

「将来、ご自分が即位すれば、日本の女系天皇は確定してしまうものなあ……元帥、そろそろ、どの線でお支えするか決めなくてはならんぞ」

「他人事のように言うな」

「アイヤー他人事アルよ、孫悟兵は名前の通り中国の一兵卒アルよ」

「都合のいいこと言うな、貴様はとっくに当事者だろうが」

「アハハ、また、元帥言葉になってるアルよ」

「くそ……さ、俺たち……わたしたちも行くわよ!」

 ピョン

「あ、だから言ったろ、儂の義体はトレンチを超えられんと!」

 大きな腹を揺さぶりながら迂回する孫大人を置いて、視察の列に戻ると完全に越萌マイに戻る俺……いや、わたしであった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王          今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・40『森ノ宮女学院』

2022-05-07 06:09:18 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

40『森ノ宮女学院』  

       


 桑田先生は臨時の入室許可書を作ることにした。

 理由は一つ、いや二つ、乙女先生が今日も休みなのである。

 乙女先生が転勤してきてから物の置き場所が変わった。それまで雑然としていた生活指導室を、徹底的にきれいにし、物品の置き場所を合理的にしたのだ。
 むろん乙女先生は、それについて説明もしたし資料も配った。しかし、みんなろくに話を聞いていない。それに、遅刻者に対する入室許可書は常駐の乙女先生が一人でこなしていた。で、携帯で聞くのも業腹、首席という沽券にもかかわる(と、自分では思っている)ので、自分で作ることにした。

 理由その二は、学校全体の緩みであった。

 栞の『進行妨害受難事件』以来、生徒は学校を不信……とまでは言わないが、軽く見るようになった。で、遅刻者が日に十人を超えるようになり、今朝は連休の狭間ということもあり、九時の段階で二十人を超えた。で、遅刻者を外で待たせ、パソコンで制作したのである。やはり、一日校外清掃のパフォーマンスをやったぐらいでは、一時学校の評判は取り戻せても、基本的な解決にはならない。

 そのころ乙女さんは、美玲を連れて森ノ宮女学院の学校見学。

 身分は公務員としか明かしていない。乙女さんの目は、まず学校の外構に注がれる。外周の道路や、校舎の裏側の汚れよう……おそらく業者を入れて定期的な掃除をやっているのだろう、完ぺきであった。教室の窓の下。公立では黒板消しクリーナーの整備に手が回らず、掃除当番の生徒達は、窓の下の壁に叩きつけて、黒板消しをきれいにする。そこまでを学校に入るまでにチェック。そして学校に入る直前に娘である美玲のチェック。今日は近江八幡で通っていた公立中学の制服を着ているが、夕べ、長すぎる上着の丈と袖の長さを補正してやり、靴下は純白、靴は新品のローファー。髪は夕べ風呂でトリートメントし、今朝は入念にブラッシング、完ぺきに左右対称のお下げにし、前髪は眉毛のところで切りそろえてやった。

「よし!」

 門衛のオジサンに来意を伝えると、あらかじめ連絡してあったので教務の先生が出迎えに来てくれた。

「学校は、いま授業中やから、美玲、くれぐれも静かにね」

 相手の教師が言う前に、娘にかまし「はい」と美玲も制服見本の写真みたいに手を前に組んで応えた。

 廊下、階段などを鋭くチェック。彼方に見える校舎で行われている授業は気配で感じた。授業の良い意味での緊張感があり、こっそり窓の隙間からこちらを伺っているような生徒はいなかった。
 ちょうど休み時間に被るように廊下で立ち話をして休憩中の生徒や先生も観察した。授業が終わった開放感はあるが、それぞれの教室では次の授業に向けて移動や準備をする子が多く、あまり無駄話の声が聞こえない。

「申し訳ありません、応接室が塞がっているもので、職員室の応接コーナーで……」

 乙女さんはラッキーと思った。教師の日常がうかがえる。

―― 住みにくそう ――

 乙女さんは、教師の直感で、そう思った。教師の机の上にほとんど物が置いていないのである。これは個人情報の管理や、風通しのいい職員関係とかいうお題目の下でよくあるパターンである。空席の机上のパソコンもフタが閉じられ、節電という名目で、情報管理には、かなりうるさい学校と見た。

「で、本校に転入をご希望ですとか……?」

 敵はいきなり核心をついてきた。

「書類を出せば、分かってしまうことなので、あらかじめ申し上げさせていただきます」
「はい」
「事情がございまして、この子は近江八幡の親類に預けておりました。職掌柄きちんと面倒がみられないからです。なんと申しましても、青年前期、いわゆる思春期でもありますので、この四月からそうしました。しかし、預けました親類宅で不祝儀なことが起こり、十分にこの子の面倒を見て頂けなくなりました。私どもも、この春に移動後、案外余裕が持てることが分かりましたので、急遽この子を引き戻すことにいたした次第です」
「失礼ですが、その点、今少しお話いただければ……」
「もうお気づきとは思いますが、わたし先生と同職です」
「あ、学校の先生でいらっしゃいますの?」
「はい、この三月まで、わたしは朝日高校、主人は伝保山高校におりました」
「え、朝日と、伝保山!」

 この学校名には効き目があった。両校とも府立高校の中では困難校の横綱である。

「で、今は、わたしが希望ヶ丘青春高校。主人が堂島高校ですので、いえ、わたしたち、正直教師生活、定年までドサ周りやと思てましたよって、ガハハハ」
「は、はあ」
「いや、賑やかな声で失礼しました」

 あとは転入試験にさえ受かってしまえば問題なし。今は学校に提出する書類で、ややこしい人間関係や、家族問題が分かるようなものは無い。相手が考える前に栞の父が揃えてくれた書類をテーブルに揃えた。

「ほんなら、そちらさんの書類を」

 相手は、慌てて転入学に必要な書類を持ってきた。乙女さんは慣れた手つきで、五分ほどで書き上げた。

「ほんなら、転入試験は、連休明けということで、ご連絡お待ちしております」

 有無を言わさず決めてしまい、学校を後にした。

「わたし、何も言うとこなかったですね」
「せやな、あんだけ練習したのにな。時間早いよって大阪城でも寄っていこか。ここのアイスはうまいねん」

 そう言って、森ノ宮口から大阪城公園に入ると、ベンチに見慣れたオッサンがたそがれていた。

「教頭先生……?」

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする