大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・271『富士山頂決戦・2』

2022-05-05 10:55:17 | 小説

魔法少女マヂカ・271

『富士山頂決戦・2語り手:マヂカ  

 

 

 魔法少女の攻撃は、大きく分けて二種類ある。

 術式による魔法攻撃MA(マジカルアタック)と、剣や弓を持っての直接攻撃DA(ダイレクトアタック)よ。

 いずれの場合も、攻撃の直前に術式を唱えたり、気合いを入れたりする。

 術式詠唱なら「スプラッシュエコー!」とか「ミラクルビーム!」とか。気合いなら「セイ!」とか「ウリャーー!」とかね。

 ところが、将門・ファントム両雄の間に割り込むときは、その詠唱も気合も入れる余裕がない。

 ブン!

 ブリンダと二人、風を切る音しかしない。

 詠唱も気合いの叫びを入れる余裕がないのよ。

 ブン! ブン! ブブン! ブン!

 何度割り込んだだろうか、割り込む度にファントムに魔法・直接両方の攻撃を掛ける。

 攻撃の度に、ファントムが纏っている邪悪の欠片は飛び散るけど、ファントムの本性に至ることが無い。

 それは、四人の巫女たちも同じで、いたずらに魔法少女のそれとは違うアタックエフェクトのスパークを煌めかせているだけだ。

 ドリャアアアアアアアアアアア!!

 それでも我々の攻撃で隙が出来たのか、御大、将門殿の黄金の太刀がファントムの胴を払って、見事に決まった。

 バスッ!!

 ファントムの胴が四半分も切り裂かれ、纏っている邪悪の欠片だけではなく、悪の本性の如き黒々としたものがほとばしり出た。

 ドバババババ!

 すると、それまで遠巻きにしていた12人のシャドーたちが、高速でファントムの傷口に覆いかぶさり、あっという間に傷口を塞いでしまった。

「ファントムは、この将門が討つ! みなはシャドーを討て!」

 適切だ。

 ここは、ファントムの回復に専念しているシャドーから仕留めるべきだろう。

「「了解!」」

 一言だけ返して、ブリンダと二人、カルデラの東西に位置を占めて、シャドーたちを主ぐるみ挟んでしまう。

 呼応した巫女たちも南北に占位して、瞬間で包囲のフォーメーションを組む。

 ブン! ブブン! ブン!

 魔法少女二人、巫女四人、一つのチームのように跳びかかる。

 期せずして、二人一組でシャドー一体にぶち当たる!

 微妙なタイムラグがついたので、シャドーたちに刹那の迷いが走る。

 ジュバババ!!!

 瞬時にシャドーが霧散した!

 巫女たちとは令和の時代に居たころからの仲なので、ギリギリ抜き差しならないところで連携がとれたんだろう。

 ブン!

 蟠っていては将門殿の邪魔になるので、巴を描きながらカルデラの周囲へ。

 見るところ、シャドーは9体に減っている。

 我々に合わせるように陰陽の二神が旋回、ジャキン! ズゴ! 異なる音をさせて、両雄が身構え直す。

 ジュババ!

 哀れにも、2体のシャドーがファントムの腕(かいな)に触れて蒸発してしまう。

 主従共に敵は余裕を失っている。

 ドリャアアアアアアアアアアア!!

 その隙を逃さず、将門殿が再び裂ぱくの雄たけびをあげて、瞬時に斬撃を食らわせる!

 勢いで、大鎧の草摺と大袖が花弁のように広がると同時にファントムの塞がったばかりの傷口から黒々の本性がほとばしり出て、その勢いでファントムはカルデラの縁を削って吹き飛ばされた。

 あ!?

 そこに居た赤巫女は左の手足が千切れて、北の空に吹き飛ばされた。

 北の空には綻びが出来ていた。

 数十合に及ぶ両雄の激突で、空間に次元のほころびが出来てしまったのだ!

 ビョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 すさまじい勢いで富士山頂の空間が呑み込まれていく。

 まず、瀕死の赤巫女が呑み込まれ、残ったシャドーと巫女たちも次々に……ファントムさえ、猛烈な時空風には抗しがたく、身にまとう邪悪が引きはがされて綻びに呑み込まれそうになっている。

 これは、いよいよ滅びなのだろうか!?

「判断がつかないぞ!」

 ブリンダが爪を噛むのももっともだ。

 長年の魔法少女の戦いでも、こんなに巨大な時空の綻びを目撃するのは初めてだ。

「トドメだ!!」

 ブワン!!

 将門殿の太刀が一閃、ファントムは真向空竹割に切り下げられ、切り口から、おびただしい邪悪の本性が噴出する!

 ジュババ!!

「今度は違うぞ!」

 ブリンダが身を乗り出して綻びを指さす。

 噴出した本性は勢いよく四方に飛び散ると、次々にスパークするように消えていく。

 ファントムの姿は、おぼろに崩れながら、ゆっくりと綻びに向かって流れていく。流れながらも本性のスパークは止まず、呑み込まれてもすぐに霧消していくように思われた。

 しかし、呑み込まれる一瞬に見えてしまった!

 残り僅か、切れ切れの本性の中に、眠ったようなクマさんの姿が見えたのだ!

「あれを追え! クマを助けよ!」

 将門殿が吠える。

 ブン!

 言われるまでも無く、わたしとブリンダは跳躍して綻びの中に飛んで行った。

 ドウォォォォン!

 背後で、力尽きた将門殿が倒れる音がして、同時に綻びが閉じてしまった……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・38『栞は栞』

2022-05-05 06:10:16 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

38『栞は栞』 

       

 


 この連休は全てレッスンである。

 覚悟はしていたが、やっぱり厳しい。休日のレッスンは昼休みを除いて六時間ミッチリある。

 まず、狭いスタジオの中を二十周ほど歩かされる。

 歩く条件は一つ「アイドルとして歩くこと」だけ。

 その間、二人のインストラクターの先生は、なにかしらメモをとっている。終わってもなんのアドバイスもない。
 次ぎに、MNBのストレッチ。一定の型はあるんだけど、そのストレッチの間、個別に指導が入る。どうやら歩かせているうちに、体の歪みや癖がチェックされていたようで、各自、それに合ったメニューが付け加えられる。

 栞は、それまで、自分の体に歪みがあるなんて思いもしなかったが。

「栞は右脚に重心をかけすぎ。あんな調子で吹雪きの中を道にまよったら、大きく左側にそれて、一時間も歩いたら、もとの場所に戻って、遭難間違いなし」
「そうなんですか!」

 ププ( ^ิ艸^ิ゚)  アハハハハ(((^0^)))

 みんなに笑われた。期せずしてギャグになっていたのだ。

「今のがギャグなんだけど、無意識に出た物だからおもしろい。あれを企んでやったらオヤジギャグになって、気温の寒さの前に、ギャグの寒さで凍死する」

 もう一人のインストラクターの先生が指摘。

 アハハハハ((((≧∇≦*))))

 また笑われた。

 その後、しばらく「そうなんですか!」が五期生の中で流行った。

「栞、自分の靴持っといで」
「はい」
「みんなよーく見て、この靴底。右の方が左よりも二ミリも減っている。わかるわね、右に力が入っているのが」
「みなみ、あんたも靴持ってきて」
「は、はい!」

 武村みなみという子が靴を持ってきた。

「ほら、みなみの靴と、栞の靴、よ-く見て。なにか気づかない?」

 先生は、二人の靴を全員に回した。

「なにか、わかった人?」
「はーい」

 こともあろうに、さくやが手をあげた。

「栞先輩のは、やや外側のカカトが削れてますけど、みなみさんのは、内側が削れてます」
「正解。でも、ここで互いの名前呼ぶときに『先輩』はつけない。同期は「ちゃん」か「呼び捨て」 ま、そのうちに愛称になったらそれも良し。この減り方から分かることは?」
「X脚とO脚です」

――わたしって、X脚か~――

 栞は落ち込んだが、先生がフォローしてくれた。

「少し外側が減るくらいがちょうどいいの。栞は、その点では合格」
「今から、新しい靴を配ります。当分学校も、レッスンもこれで来ること。靴底の減り方チェックするからね」

 それから、みんなで靴底のチェックをしあった。きちんと減っている子は五人ほどしかいなかった。
 
 今度は、まっすぐきれいに歩く練習だった。

 背筋の曲がり方、肩の左右の高さの違いなどチェック。

「はい、フロアーの線をカカトで踏んで歩く。ふらつくな! 前を見て、腰から前に出す!」

 全員でやっている間に、問題児は抜き出されて個別の指導を受けている。

「モデルじゃないんだから、おすまししない! ごく自然にぶら上がった状態で歩く」

 ブラ、上がった? 変な連想をした子もいたけど、先生の見本を見てすぐに分かった。自然でカッコイイ。
 でも、どうやったら、それが出来るのかは謎だった。

 昼からは、表情の練習だった。

「笑ってごらん」

 先生に言われて笑ってみる。

 アハハハハ(=^△^=)

「声に出さない。顔だけで笑う。なんだ、おまえは虫歯が痛いのか!?」

 確かに、虫歯が痛いのを堪えているような顔ばかりだった。

「顔には、表情筋というものがあるけど、みんなは、その半分も使っていない」

 先生は、いろんな表情をして見せてくれた。顔の筋肉が左右非対称で動くのを初めて知った。
 これの一番簡単なのがウィンク。でも、だれもできなかった。

 それから、発声とステップの基礎。終わったころにはアゴが痛く、顔では無く、膝が笑っていた。

 夕方は、ステージのカミシモに分かれて見学。

 その日はチームMの公演。リ-ダーは、以前テレビでいっしょだった榊原聖子。顔つきがまるで違う。円陣を組んで気合いを入れる。

「今日失望したファンは二度と来ない! だから、一人一人最高のパフォーマンスで! 掴んだファンは二度と逃がすな! いいな!!」
「おお!!」
「MNB24ファイト!!」

 すごい気合いだった。知ってか知らでか、聖子は栞のことなど完全にシカト。
 武村みなみは、ステージの高さに顔を合わせて、選抜メンバーの靴のカカトばかり見ていた。

 そして、かえりは支給されたローファーを履いて、さっそく足にマメができてしまった。

 で、前号の台詞になる。

「ああ、もう死ぬう……」

 いつもなら敏感な栞だが、この日はさすがに、乙女先生が、こんな時間に家にきていることも、ほとんど気にかからなかった。

 明くる日、ステージ袖のモニター、開演前の客席に乙女先生と旦那さんに挟まれた女の子を見つけて不審に思った。

――乙女先生、娘さんなんかいたっけ……――

「そこの研究生!」
「はい!」

 あっと言う間に、乙女先生の家のことなど、頭から飛んでしまった……。

 

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