大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・111『新パルス鉱の検査』

2022-05-31 10:00:06 | 小説4

・111

『新パルス鉱の検査』心子内親王 

 

 

 ココちゃん……心地いい呼ばれ方(^▽^)。

 

 東宮御所(亡くなったお母さんの家)に居る時は殿下と呼ばれるわ。

 お母さんは、活舌のいい人だったので、亡くなるまで「心子(こころこ)」と呼んでいたわ。

 伯母にあたる天皇陛下は「しんこ」と呼んでくださっている。

「明子(あきこ=お母さんの名前)は『しんこ』って読ませたかったのよね、シャキッとした歯ごたえのある子に育ってほしいって。でも、皇族の名前って、みんな訓読みだから『こころこ』。だから、睦子伯母は『しんこ』と呼びます」

 学校の友だちは『こころ』って呼んでくれた。

「殿下や内親王はお店の屋号みたいなものですから、どうか愛称で呼んでください」

 それで『こころ』が定着した。アニメの人物みたいで、まあいいんだけれども。アニメ文化のフィルターを通さなければ親しみを持ってもらえないようで、微妙に距離感です。

 先生たちは『須磨さん』。宮号が須磨の宮だから、まあ、あたりまえなのです。

 

 所長のメグミさんは、初日から『ココちゃん』。ポカした時は、遠慮なく『ココ!』って呼び捨ててくださいます。

 

「ココ!!」

 

 強い口調で叱られました。

「あ、すみません(;'∀')」

 パチパチさんたちが持ってきたパルス鉱のサンプルを手でつかもうとしたからです。

『ニッパチが素手で渡すから悪いのじゃ』

『そうアル。作業機械の頃のクセ抜けてないアルよ』

『ごめん、ココちゃん(;'∀')』

「あんたらも、こういうものはカプセルとかに入れてこなきゃダメだろうが。以後気を付けて」

 はい!

 みんなで返事して、なんだか連帯感。

「じゃあ、ちょっと検査してみよう!」

 検査してみてビックリしました。

 減衰率が0.000001%で、既存のパルス鉱(パルス・パルスラ・パルスガの総称)の1/20でしかないのです。

 おまけに衝撃に強い。パルス鉱は優れたエネルギー源だけれども、衝撃に弱く、運転中に着く傷が元で、カタログデータ通りの出力を五年保てるものはほとんどなくて、十年も経てば、出力は1/3~1/2に減ってしまうのです、軍用などは三年で交換されるのが普通になっているそうです。

 そのために、惑星間ロケットなどは減衰期を見込んで倍の出力のパルス鉱を搭載するのです。倍の出力の鉱石を積んでいれば、五年後に標準値になり、十年は交換せずに済むからです。

 それに、倍の出力を持つ鉱石の抽出出力をコントロールするために、エンジンと同じ規模の制御機器を積まなくてはならないので、船内容積が狭くなるという欠陥がありました。

 洋上船以来の伝統で、日本の造船技術は世界一でしたので、宇宙船の大型化で惑星間輸送をリードしてきたけれど、100万トンが限界になってきました。

 宇宙軍の戦艦も70万トンの大和型が最大で、お母さんが進水式に出た三番艦信濃が最後。拡大型の紀伊と尾張は概念設計の段階でお蔵入りになってしまいました。

「ココちゃん、これは、ほとんど永久機関が作れるぞ!」

「SFの世界ですね!」

「うん、これだけ寿命が長ければ、燃料が切れる前に船体の寿命がやってくる。日本の造船技術と組み合わせれば、おそらくワープ船が作れる」

 メグミ所長の目がキラキラ光りました。

「それって、太陽系を出られるということですか!?」

「うん、これだけ安定して、長期間運用できればね」

「大航海時代の始まりですね!」

「問題は、パルスガ以上に深く潜らなければ採取できないことだ。パルスガでも大きな事故を起こしているからね」

「でも、パチパチさんたちは平気なんですよね」

「うん、人間でもロボットでもないからね……ここは……」

 そこまで言うと、所長は、すごいジト目になってパチパチさんたちを睨みました。

『じゃあ、パチパチは、これにて……』

「ちょっとお待ち!」

『『『ヒ(;゚Д゚)!』』』

「ココ! ラボの出入り口を閉鎖して!」

「ハ、ハイ!」

 所長は、パチパチさんたちを分解検査し始めましたよぉ(^_^;)。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・011『その放課後 おきながさんに声を掛けられる』

2022-05-31 06:10:30 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

011『その放課後 おきながさんに声を掛けられる』

 

 

 

 小栗……声をかけようとしてやめた。

 

 今朝の事件が、まだ初々しい。

 小栗も身構えるだろうし、たぶん、わたしも意見してしまう。

 顔の見える生徒会はけっこうだけれども、先生と一緒の立ち番は、生徒たちには生徒会が学校の手先になった印象で、いずれは化け物犬でなくても反発されるだろう。

 そう意見しても小栗は聞かないだろう。

 それに、彼女は資料を抱え、生徒会室の前を素通りして、階段教室の方に向かっている。委員会だ。

 ということは佳子も委員会。一人で帰ることにする。

 

 昇降口で下足に履き替え校門に向かう。

 

 二年生ということになっているが、わたしとしては初めての学校だ、ついキョロキョロしてしまう。

 校内の施設は、すでにインストール済み。興味があるのは人間だ。

 そろいの制服を着ているという点ではヴァルキリアの兵士と変わらない。

 兵士には一人一人個性がある。その個性を見極めることが姫騎士としては重要で、食事は兵たちといっしょに食べるように心がけていた。

 指揮官としての任務というよりは楽しみだったというのは、学食の所でも言ったな。

 ほんのチラ見なんだけど、目の合った生徒は会釈してくれる。親しみ……と言うよりは敬遠してるんだ……父、オーディンはどんな設定をしてくれたんだ(^_^;)

 なむさん、不用意に人を脅してはいけないので、生徒は視野の片隅に入れるだけにする。

 
 角を曲がって宮坂駅が見えてくる。

 
 駅の脇にはデハが静態保存されている。昔走っていた車両で、一時は江ノ電の貸し出されていたが、再び戻されてきたものだ。他の静態保存車両と異なって、朝から夕方までは自由に出入りできる。

 きのう、デハの中で居眠りしていて、寝返りを打って床に落ちて目が覚めた。

 あれが始りだったんだ、昨日の事なのに懐かしい。

 
 ひるでさん。

 え?

 
 鳥居の方から声をかけられた。世田谷八幡の前にさしかかっていたのだ。

 鳥居の真ん中から滲みだすように人が現れた。ホウキを持った女性だ。ジーパンに長袖のカットソー、神社の人だろうか?

「呼び止めてごめんなさいね」

「はあ……」

「わたし、おきながたらしひめ(気長足姫)と言います。いちおう、ここの住人」

「では、神さま。おきなが……」

「ハハ、長い名前だからね」

「すみません、きちんと覚えます」

「ううん、おきながでいい」

「はい、わたしに御用でしょうか?」

「うん、きょう、犬と猫が失礼したでしょ」

「ああ、二つ尾の?」

「お詫びとお礼」

「おきながさんがですか?」

「東京は、日本一の大都市だけど、いろいろある街なの。一筋縄ではいかないわ。でも、みんな歴史とか事情を抱えてるのよ。悪さを仕掛けてくる者は痛めつけなきゃならないだろうけど、お願い、命まではとらないでやってほしい」

「はい、わたしと、わたしの大事な人たちに危害が及ばない限り」

「ありがとう、あなたにチョッカイを出してくるのは……構って欲しいからと思っていただければ嬉しい。そして、なにか力になってあげられることがあったら、いつでも……落ち葉の盛りになってきたわね、もうひと頑張りしようか……」

 ホウキの音をさせながらおきながさんは消えて行った。

 鳥居から駅の方に目を移すと、踏切の向こうで猫田ねね子が手を振っている。

 夕陽を正面から受けていると、意外に可愛い奴だ。

 ヘクチ!

 クシャミまで可愛い、ネコにしては大した化けっぷりだ。

 おまえも、もう少し可愛くなれというナゾかな……だったら、無理な相談だぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする