大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 74『函谷関』

2022-05-20 10:56:37 | ノベル2

ら 信長転生記

74『函谷関』市   

 

 

 そいつは、崖の上から団扇みたいなのヒラヒラさせながら降りてくる。

 ゾロッとしたワンピースみたいなの上に、それよりも裾の長いガウンみたいなの着て、薄ら笑い浮かべながら降りてくる。

 こいつ、ルックスはまあまあなんだけど、きっと体の線に自信ないんだ。自信があったら、あんなゾロっとしたの着ないと思う。茶姫とかの三国志の美人は、みんなミニスカで、胸元も大きく開いたの着てるし。

 むろん、わたしの近衛騎兵のコスだって、胸甲の下はミニスカにニーソで決めてるし。茶姫はガーターベルトの留め具を赤いルビーで際立たせている。

 フフフ

「シイ、何がおかしい?」

「ううん、なんでも……」

 勝った! あ、いや、そいつは大したことないと思った瞬間、気まぐれな谷風が噴き上がってきた。

 ブワア

 谷風は、そいつのガウンとワンピを遠慮なくまくって、胸元まで露わにしてしまった!

 オオ( ゚Д゚)!

 遠慮のないどよめきが起こる。

 面積の少ない下着を付けた体は、そこらへんのグラドルも真っ青ってくらいにイケてる。

 こいつ、谷風まで計算に入れて崖の上に立っていたのなら、ちょっと策士だ。

 一秒にも満たないアクシデントを平然と受け流し、茶姫の前に立つと、クールな笑顔で挨拶した。

 

「蜀の丞相を務めております、諸葛茶・孔明でございます。わざわざの起こし、主・玄徳に成り代わりご挨拶申し上げます」

「これはこれは、丞相殿の御高名はかねがね伺っておりました。その丞相殿自らのご挨拶いただき痛み入ります。わたくしは魏王・曹操の妹にして騎兵師団長を務める曹茶姫です。転生国打通進軍の帰路、国王・劉備玄徳殿に領内通過のご挨拶いたしたく参ったしだいです。よろしく国王陛下にお取次ぎのほどを願います」

「よくぞ参られました、転生国打通の噂は、この蜀にも届いております。主・劉備玄徳も、あの鮮やかな打通作戦には大層な関心をもっております。いずれは、使者をたて、相応のご挨拶のうえご高説賜らんと申しておりました。さっそくにご案内申し上げたく存じます。これ、関羽、張飛、心してご案内申し上げよ」

「「承知!」」

 こうして、筋肉バカの二将軍に先導されて、函谷関に向かう我々であった。

 

 グゴゴゴ……

 

 高さ66メートルの城壁に設えられた門扉は、それだけで50トンはあろうかと思われる黒鉄の逸物で、開く音が、まるで地中を龍が這うごとくである。

 関内に入ると、すでに検品長が馬を引き連れて入関していた。

「蜀の許可は得ています。ここからは、騎乗してお進みください」

「茶姫の部隊は血の巡りがいい」

「そうだね、言いたかないけど、ニイチャンとこのサル(秀吉)とかイヌ(前田犬千代)のようだ」

「成都は広い都ですが、これだけの騎馬部隊を収容することはできません。関羽に案内させますので、東の牧にお待たせください。都城には百騎のみお連れくださいますよう」

「心得た丞相殿。検品長、百騎の近衛を残し残りを牧へ移せ」

「茶姫」

「なんだニイ?」

「俺も牧にまわってからの同行でいいか?」

「構わんが、どうしてだ?」

「俺たちのものではない蹄の跡が……ほら、あんなについて、牧の方角に続いている」

「備忘録!」

「はい、備忘録、これに」

「蜀の役人にあたって、この後の段取りを決めてこい」

「はい」

「ニイ、備忘録より報告を聞いてから行け。劉備との面接には立ち会え」

「承知した」

「シイも一緒に行く!」

「フフ、シイはお兄ちゃん子なんだな」

「ち、ちがうし(~_~;)!」

 茶姫も一言多い!

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・53『いざ生きめやも』

2022-05-20 06:16:29 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

53『いざ生きめやも』  

       

 

 男は暗い決心をした……こいつのせいだ。

 そして、これは千載一遇のチャンスだ。

 

「ほんとうにありがとう。新曲発売になったら、よろしくね!」

 両手を振りながら、栞たちメンバーはピロティーのバスに向かった。

「すみません。せっかくだから記念写真撮ってもらっていいですか!?」

 ハーーーーイ!

 元気のいい声がいっせいにした。ここまでは織り込み済みである。いわばカーテンコール。

 まずは、メンバーと生徒たちがグラウンドに集まって集合写真。それからは気に入ったメンバーと生徒たちで写真の撮りっこになった。

「どうも、ありがとう。がんばってくださいね!」

 そんな言葉を五度ほど聞いて、わずかの間栞は一人になった。

「ごめん、鈴木君」

 めずらしく苗字で呼ばれて、笑顔で栞は振り返った。

 その直後、栞は、顔と、思わず庇った右手に激痛を感じた。

「キャー!!」

 痛さのあまり、栞は地面を転がり回った。左目は見えない。やっと庇った右目には、自分のコスから白煙が上がり、右手が焼けただれているのが分かった。そして、白衣にビーカーを持って笑っている、その男の姿が。

「バケツの水!」

 スタッフで一番機敏な金子さんが叫び、三人ほどに頭から水をかけられた。その間に、他のスタッフが、ホースで水をかけ続けてくれた。

「その男捕まえて! 救急車呼んで、警察も! これは硫酸だ、とにかく水をかけ続けろ!」

 金子さんは、そう言いながら自分もホースの水に打たれながら、コスを脱がせてくれた。

「栞、右の目みえるか!?」
「……はい」

 そう返事して栞は気を失った。

 気がつくと、時間が止まっていた……走り回るスタッフ、パニックになるメンバーや生徒たち。
 救急車が来たようで、救急隊員の人が、開き掛かけたドアから半身を覗かせている。
 パトカーの到着が一瞬早かったようで、白衣の男は警官によって拘束されていた。

 その男は……旧担任の中谷だった。

 噂では、教育センターでの研修が終わり、某校で、指導教官がついて現場での研修に入っていると聞いていた。それが、まさか、この口縄坂高校だったとは。

 中谷は、憎しみの目で栞を見ていた。栞は、思わず顔を背けた。本当は逃げ出したかったんだけど、金子さんが、硫酸のついたコスを引きちぎっているところで、それが、カチカチになっていて身を動かすこともできない。時間が止まるって、こういうことなんだと、妙に納得しかけたとき、フッと体が自由になった。

「イテ!」

 勢いでズッコケた栞はオデコを地面に打ちつけた。

「ごめんなさい先輩……」

 数メートル先に、さくやがションボリと立っていた。

「さくや、喋れるの……って、さくやだけ、どうして動いているの?」

「時間を止めたのは、わたしなんです」
「え……」
「もう少し早く気づいていたら、こうなる前に止められたんですけど。マヌケですみません」
「さくや……」

 そのとき、ピンクのワンピースを着た女の人が近づいてきた。

「あ、さくやのお姉さん……」
「ごめんなさいね、栞さん。とりあえず、そのヤケドと服をなんとかしましょう」

 お姉さんが、弧を描くように手を回すと、ヤケドも服ももとに戻った。

「これは……」
「わたしは、学校の近くの神社。そこの主、石長比売(イワナガヒメ)、この子は妹の木花咲耶姫(コノハナノサクヤヒメ)です。この春に乙女先生が、お参りにこられ、その願いが本物であることに感動したんです。そして、わたしは希望を、サクヤは憧れをもち、人間として小姫山高校に入ったんです」
「先輩や、乙女先生のおかげで、とても楽しい高校生活が送れました。本当にありがとう」

 さくやの目から涙がこぼれた。

「時間を止めるなんて、荒技をやったので、もうサクヤは人間ではいられません。小姫山ももう少し見届けたかったんですけど、もう大丈夫。校長先生や乙女先生がいます。学校はシステムではありません、人です。だから、もう大丈夫……では……」

 お姉さんとさくやが寄り添った。そして時間が巻き戻された。

「ウ、ウワー! アチチチ!」

 オッサンの叫び声がした。

 ビーカーの破片が散らばり白い煙と刺激臭がした。

 どうやら白衣のオッサンが、硫酸かなにかの劇薬をビーカーに入れて、転んだようである。幸い薬液が飛び散った方には人がいなく、コンクリートを焼いて、飛沫を浴びた中谷が顔や手に少しヤケドを負ったようで、大急ぎで水道に走っていった。

「おーい、MNBはバスに乗って!」

 金子さんに促され、メンバーは別れを惜しみながらバスに乗った。

「だれか、残ってませんか……?」

 栞は思わず声に出した。

「みんな、隣近所抜けてるのいないか?」

 そう言って、金子さんは二号車も確認に行った。

「OK、みんな揃ってる!」

 バスは、口縄坂高校のみんなに見送られて校門を出た。

 栞は、横に座っている七菜に軽い違和感を感じた。同じユニットの仲間なんだから、そこに居たのが七菜でおかしくはない。

「七菜さん、来るときもこの席でしたっけ?」
「え、たぶん……どうかした?」
「ううん、なんでも……」

 その日から、MNBのメンバーからも、希望ヶ丘高校の生徒名簿からも一人の名前が消えた。そして、その違和感は、栞の心に微かに残っただけで、それも、いつしかおぼろになっていく。

 

「風たちぬ……か、そろそろ夏かな」

 そう呟いて坂道を曲がった。

 校門の前には登校指導の乙女先生がバナナの叩き売りのように「おはよう!」を連呼している。

 小姫山の、いつもの朝が始まる……。


 乙女先生とゆかいな人たち女神たち 第一部 完

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする