大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・6『今日の部活はヘソパンから』

2022-05-10 09:42:25 | 小説6

高校部     

6『今日の部活はヘソパンから』

 

 

 今日も、おへそで茶を沸かしている。

 

 と言っても、面白いことがあって笑っているわけではない。

 おへそ型のガスコンロでお湯を沸かして、お茶を淹れる準備をしている。

「どうだ、ガスコンロでお湯を沸かすというのはドラマだろ」

 黙っていれば清楚な美人なんだけど、喋ると男言葉、ズッコケのセクハラ女。でも、時々すごいこと(いろんな意味で)を言ったりやったりする。

 お祖父ちゃんに部活の事を、つまり螺子先輩のことを離すと「そりゃ、自己韜晦だろ」という。

 ジコトーカイなんて言うもんだから、自我が崩壊していることかと思ったら――内面にすごいものを秘めていて、日ごろは、わざとバカなふりをして人に気取られないようにすること、している様子――なんだそうだ。

 

 クククク……

 

 ほら、また始まった。

「鋲、きょうのお茶うけはウケるぞ」

 ああ、初手からダジャレだ。

「え、なんなんですか?」

 ちゃんと反応しないとひどいことになりそうなので、笑顔で振り返る。

「これだ、見たことあるかい?」

 先輩がトレーを持ち上げて示したのは三角錐の焼き菓子の一種だ。

 どら焼きの片方を膨らませて富士山のミニチュアにしたような、大きさは、ソフトボールを半分に切ったぐらい。

 トレーの上に四つ並んだ、それは、形がまちまちで、きれいな三角錐になったものから、山頂部が屹立したもの、弾けてしまったものと個性的だ。

「吾輩のは、どれに近いと思う?」

 三角錐と屹立したのを胸にあてがって……なんちゅうセクハラだ!

「知りません」

「つれない奴だなあ、ティータイムの、ほんの戯言を咎め立てするとは無粋なやつだ」

「お湯湧きましたから、さっさとお茶にして、部活しましょう」

「部活なら、もう始まっているではないか。鋲が、そのドアを開けて入ってきたところから、すでに部活だぞ」

「ええ、まあ、そうなんでしょうが……」

 コポコポコポ……

「鋲は、お茶を淹れるのがうまいなあ」

「うまいかどうか……いつもお祖父ちゃんにお茶淹れてますから」

「おお、それは、孝行な……これはな、ヘソパンという。正式には『甘食』というらしいがな、わたしは『ヘソパン』という俗称が好きだ」

「ヘソなんですか?」

「ん? オッパイパンとでも思ったか?」

「いえ、けして!」

「きっと、出べそに似ているからなんだろうなあ……造形物としては、津軽の岩木山のように美しい三角錐になったものがいいのだろうが、あえて弾けた失敗作めいたものに視点をおくネーミングは秀逸だと思わないかい?」

「そうですね……」

「これに冠せられた『ヘソ』は『デベソ』のことなんだなあ……子どものハヤシ言葉に『やーい、お前のカアチャン出べそ!』というのがあるなあ」

「そういう身体的特徴をタテに言うのはいけないことです」

「そうか、人の顔を見て『ゲー!』とか『キモ!』って言うよりは、よほど暖かい気がするんだが……う~ん、このベタでそこはかとない甘さは秀逸だなあ……早く食べろ、食べたら部活だ」

「部活は、もう始まってるんじゃないんですか?」

「揚げ足をとるんじゃない」

「だって」

「じゃあ、部活本編のページをめくるぞ! どうだ?」

「どっちでもいいです」

「つれない奴だ…………」

「そんなに、ジッと見ないでください、食べられません」

「いや、君が、どこから齧るのかと思ってな……」

「もう!」

 僕は、ちょっと腹が立って、ヘソパンを一気に口の中に押し込んで、親の仇のように咀嚼する。

「ああ、そんな……まるで、この胸が噛み砕かれて蹂躙されているようだぞ!」

「モグモグモグ……ゴックン! 胸を抱えて悶絶しないでください!」

「ヘソパンは、しばらく止めておこう……」

「同感です」

「じゃ、今日も飛ぶぞ!」

 やっと正常にもどった。

 

 魔法陣で飛ぶと、やっぱりゲートは三角に戻っていた

 

「しかたない、折り癖が直るまでは油断がならないなあ」

 油断がならないのは先輩の方なんですけど……思ったけど、口にはしない。

「じゃ、そっちを持ってくれ……いくぞ!」

「はい!」

 ポン!

 ちょっと警戒したけど、今度は、さほど力を入れなくても四角になった。

「……なんだか前と同じみたいですね」

「違うぞ、前の地蔵は延命地蔵だったけど、今度のは子安地蔵だ」

 先輩に倣ってお地蔵さんに手を合わせ、裏にまわるのかと思ったら、先輩は小川に沿って上の方に歩き出した……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・43『美玲の連休』

2022-05-10 06:08:20 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

43『美玲の連休』  

 

      


「そんな立派なのいいです(^_^;)」

 美玲は遠慮のしっぱなしであった。

 この連休は美玲の部屋の調度を整えるのに、亭主の正一も乙女さんも、熱中のしっぱなしなのである。

 初日にベッド、机、本箱を買った。いずれも贅沢なものではなかったが、気品と堅牢さを兼ね備えた国産の木製のものが選ばれた。本箱などは、親の経験が前面に出て、二段スライド式で、文庫なども含めると五百冊は入るだろうというものが二つ用意された。

「これに全部入るだけの本読んでたら、わたしお婆ちゃんになってしまう(=゚Д゚=)!」

 美玲の悲鳴に思わず成り立ての親は笑ってしまった。

「ミレは今まで、図書館の本で済ましてたやろ」
「はい、自分の本置いとくスペースもなかったから、机の上の教科書以外は図書館でした」
「月に何冊くらい借りてた?」
「そんなに……八冊くらいです」
「ハハハ、それに12掛けてみい」
「96冊です」
「で、十年で、ほとんど千冊になる」
「そんなん、図書館で借りますよってに」
「本はな、年齢と共に倍に増えていく。ウチの経験でも旦那の経験でも。むろん図書館で借りるいう姿勢は、ええこっちゃ。そやけど、中には自分のもんにして何回も読まなあかん本もギョウサンあるからな。うちらは、若い頃、お金と場所の問題で、自分のもんにせんと済ました本がギョウサンある。あんたには読んでもらいたい。あんた……そこで何してんのん?」
「本箱に合うカーテン探してんねん!」

 教師の地声は大きい。少し恥ずかしくなった美玲であった。

 で、三日目の今日は、仕上げの電化製品である。

 とりあえず美玲専用のテレビとパソコンを買った。思春期に入った美玲のために、将来を見据えて、独立した空間を提供してやることで、このにわか父母は懸命であった。そして三日前には、ただの空き部屋でしかなかった七畳半ほどの空間に揃い始めた家具たちは、にわか父母の期待と愛情に溢れていた。

「せや、スマホ買うたげなあかんわ!」

 量販店の出口で、乙女さんが叫んだ。半径十メートルの人たちが振り返るような声で、美玲は嬉しいよりも恥ずかしく、恥ずかしい以上にびっくりした。

「アホやな、それが一番最初やろが!」

 亭主も負けていない。

「携帯は、高校になってからでええて……」
「美子さんが言うてたんやな」
「は……はい」
「その判断は間違うてない。そやけどミレちゃんは大阪に来たばっかりや。うちら……お母さんも、お父さんも仕事で手えいっぱいや。万一の連絡手段のために持っとき。な……」
「は、はい……」

 美玲はハンカチを出して、涙を拭った。

「あほやな、こんなことで泣かれたら、うちまで……お嫁にやるとき泣きようがないやないの」

「続きは家でやってくれるか!」

 周囲の反応に正気に戻った大きな亭主が叫んだ……。

 美玲が、風呂上がり、リビングにも来ないで狭い庭に行った。長風呂だったので湯当たりでもしたのかと思っていたが、いささか長いので、乙女さんはそっと覗いてみた。

 美玲は、何かを手に持ったまま、背中を向けていた。

「ミレちゃん」

 美玲はギクっとして、手にしていたものを背中に隠して、こちらを向いた。

「ご、ごめんなさい。なんでもないんです!」

 そう言うと、美玲は、そのまま自分の部屋に閉じこもってしまった。庭の片隅には小さな穴とスコップが残されていた。

「ミレちゃん、どないしたん……?」

 乙女さんは、静かにドアの外で聞いてみた。

「すみません。今夜は一人にしてください……ごめんなさい……お母さん」

 もう一言言おうとした乙女さんの肩に亭主の手が置かれた。

「明日の転入試験は、オレが付いていくわ……」

 亭主の語尾には、それまで、そっとしてやってくれという意思が籠められていた。
 もう二十年近い夫婦である。明日は任せてみようと乙女さんは思った……。
 

 

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