大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・5『その修業に出る』

2022-05-28 11:45:06 | 小説3

くノ一その一今のうち

5『その修業に出る』 

 

 

 まだ幼いか……

 

 意識が飛ぶ寸前、お祖母ちゃんが呟いたような気がする。

 幼いって……さっきは代々十三歳で目覚めたとか言ってたじゃん、お祖母ちゃんは十五で、お母さんは、ついに目覚めなかったとか……。

 ヘックチ!

 自分のクシャミで目が覚めた。

 なんだか、スースーする……エアコン入れた?

 正面に天井……ということは、仰向けに寝てるんだ。

 グルッと目玉を回すと足もとにお祖母ちゃん。怖い顔で腕組みしている。

「やや小ぶりではあるが、体は十分に発育しておる……」

 え?

 なんだか裸を見られてる気がするんですけど……って……このスースー感は?

 マッパになってる!?

 ウワワワ(# ゚Д゚#)!

 慌てて起きて、脱がされた服を抱えて部屋の隅で丸くなる。

「ちょ、なんで裸に!?」

「狼狽えるな。魔石の声を聞こうとしたら気を失ったのでな、まだ熟してはおらぬのではないかと調べたのじゃ」

「い、いったい何を!? どこをさ!?」

「いろいろじゃ、しかし体の発育には問題はない」

「あ、あたりまえでしょ、もうじき十八なんだから!」

「これは、今のうちに修業に出ねばならんのう……その、明日から修業に参れ! くノ一の修業じゃ!」

「修業……って、学校あるんだけど。それに、お祖母ちゃんの世話だって。お祖母ちゃんご飯も作れないじゃん」

「それは大丈夫じゃ、儂もボケてはおられぬ」

「ボケ老人は『自分はボケてない』って言うもんだよ」

「しのが覚醒してボケてなぞおれぬわ。それに、学校も、きちんと通って卒業するのじゃ。学校が終わったら、毎日修業に通う。風魔本家当主の素養があれば、日に三時間でシフトを組めば間に合うであろう」

 なんかバイトのノリみたいに言う……

 

 で、そのあくる日の放課後。

 

 わたしは、カバンの中に魔石を忍ばせ、ブレザーの内ポケットに紹介状を入れて神田の街を歩いている。

 せめて住所とか電話番号とかぐらいは教えてよね……。

「靖国通りを西にいけば分かる」

 その一言だけで、小川町で下りて西に歩いている。

 探しているのは『百地芸能事務所』って、今どき全部漢字で表記するプロダクション。

 ここで、しばらく修業に通うことになった。

 近くまで行けば魔石が教えてくれるって……昨日はなんにも聞こえなくって気を失ったんですけどぉ。

 正直、信じてるわけじゃない。風間が風魔で、忍者の本家。どうでもいいです。

 お祖母ちゃんのボケが、ちょっち良くなって、世話しなくて済むのは助かる。

 あとは、うちの経済力に見合った短大行くか、就職とかして、将来の見通し付けたいのよ。

 ふつうの人生送りたいわけですよ。

 あたしが結婚とかするまで、お祖母ちゃん元気でいてもらって、子どもが二人ほどできて、子育ても一段落したころにポックリいってもらって、パートとかに行って、たまに食事に行ったり旅行をしたり、文化教室通ったり。

 そういうふうに、波風立てずにふつうの人生歩みたいわけですよ。

 今日は、どんな不幸な奴を見つけてもニャンパラリンなんて絶対やらない!

 まあ、見つけられなかったら、本気でコンビニとかのアルバイト見つけるか……くらいに思って神保町に差し掛かって来ると、いつの間にか南の方に道をギザギザに曲がって、見つけてしまった。

 三階建てのボロビルに、なにかの道場かって木の看板。『百地芸能事務所』

 サブいぼが立ってしまったよ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ピボット高校アーカイ部・9『ドアのささくれを直した』

2022-05-28 09:22:47 | 小説6

高校部     

9『ドアのささくれを直した』

 

 

 ドアのささくれを直した。

 

 ほら、うちのトイレのドア。

 お祖父ちゃんが二度もひっかけて、セーターに綻びを作ってしまった。

 ホームセンターでパテを買ってきて、ささくれ部分を削ってパテを埋めておいたんだ。

 説明書には24時間で切削可能と書いてあったけど、一週間空けた。

 パテは収縮するし、24時間では少し柔らかいので、そのまま整形したら数日で他の所よりも痩せてしまって跡が残る。パテの堅さがドアの素材と同じ硬さになるのを待ったんだ。

 デザインナイフで粗々に削って、さらに二日置い後、サンドペーパーをかける。

 周囲と面一(つらいち)になったところで、クレヨンで木目を描く。

「ほう……こういう補修をやらせたら、お祖父ちゃんより上手いなあ」

「アナログだからね、あ、お茶淹れるよ」

 

 仕事場にお茶を持っていくと、すでにお祖父ちゃんは休憩モードで動画を見ていた。

 

「街の人が、こんな動画を作ってるよ」

 お祖父ちゃんが示したのは、フリー動画の上にお話を載せたものだ。

「桃太郎だよね……」

「うん、パッと見面白そうなんだけどね……」

 お茶を飲みながら横に流れる物語を読んでみる。

 あ…………

 それは、先輩と飛び込んだ桃太郎の世界だ。

 最初のお婆さんが桃を拾わないものだから、下流のお婆さんが拾って家へ持って帰ると、中の桃太郎は腐っていたって。あのパロディー。

 アクセス数もいいね!も街の人口よりも多い。

「次が、これ……」

「ああ……」

 次は、誰にも拾われずに桃は流れ去っていくというもの。

 見かねた通行人が「なぜ拾わないんですか?」と聞くと、こう応える。

「桃太郎はつまらん、育てても鬼ヶ島に鬼退治にいくだけじゃ。話し合いもせずに、一方的に鬼を懲らしめて、こいつは軍国主義じゃ。ロシアと同じじゃ。だから拾わん、拾ってやらん」

「アハハ、そうなんですか……」

「おい、通行人」

「笑っとらんで署名せい」

 お婆さんはズイっと署名のバインダーを押し付ける。

 バインダーの署名用紙には『桃太郎を二度と戦場に送らないための請願署名』と書いてある。

 先輩の時と同じだ。

 でも、通行人はサラサラと署名して行ってしまった。

「この通行人、次からは道を変える」

「え、そうなの?」

「いや、お祖父ちゃんの想像だけどな。たぶん、そうだ」

 そう言うと、お祖父ちゃんはボールペンのお尻でキーボードを操作して、一つのブログに行きついた。

「『シンおとぎ話の会』か……」

「まだ新しいんだろうね、シンなんとかっていうのはゴジラからだからね」

「シンというのはパロディーとは違うと思うんだがね……」

「お祖父ちゃん、そのボールペンはメイドインどこだと思う?」

「百均で五本百円だったからC国製だろ」

「じゃあ、先っちょのボールはどこ製?」

「日本製だろ」

 え、知ってる?

「ボールペンのボールは高い精度を求められる。こいつがいい加減だと、インクが出なくなったり、逆にダダ洩れになったりするんだ。これが安価に大量に作れる国は、そう多くは無い」

「うん、そうだね」

 お祖父ちゃんは先輩並みだ、いや、先輩がお祖父ちゃん並なのか(^_^;)?

 数日すると『シンおとぎ話の会』の動画もブログもアクセスは頭打ちになっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

漆黒のブリュンヒルデQ・008『ひるでの朝』

2022-05-28 06:14:26 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

008『ひるでの朝』 

 

 

 
 行ってきまーす。

 
 きちんとリビングのドアを開け、NHKのニュースを見ている祖父母に声をかける。

 人間関係の基本は挨拶だ。ひるではきちんとしている。

「「行ってらっしゃ~い」」

 祖母は笑顔を向けて、祖父は新聞に目を落としたままの横顔で返事してくれる。小学校から変わっていない(設定の)武笠家の習慣。

「よし」

 玄関の鏡で身だしなみチェック。小さな声だけど、リビングには聞こえている。こういう変わらない習慣が人の生活には大事なんだ。

 カランコロン

 カウベルの音をさせ、七つの枕木を踏んで門を出る。

「「おはようございます」」

 お向かいのおばさんと挨拶を交わす。

 門脇さん。

 高校に進んでからはあまり顔を見かけなくなった息子の啓介が中学まで同級だった。二階の窓からチラ見していることは分かってる。たまに目が合った時は口の形だけで「バカ」とか「ネボスケ」とか言ってやる。これもコミニケーション。

 道を突きあたると豪徳寺の塀。

 生徒会をやっていたころは右に曲がって最短コース。今は左に折れて下校の時と同じ道。

 塀の上を白猫が歩いてる。

『おまえだろ、わたしを、この異世界に連れてきたのは』

 白猫は、知らん顔して歩調を保っている。

『デハで目覚めるまでは記憶が飛んでるんだけど、踏切で出会ったし、おまえの雰囲気、この異世界のものじゃないしな』

『さすがは、主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将、堕天使の宿命を負いし漆黒の姫騎士』

『その名乗りは、ここではしない』

『にゃあ』

 宙返りしたかと思うと、白猫は、わたしの横に並んだ。啓介に化けている。

「ちょっと、啓介はまだベッドの中だぞ」

「アベックの方が面白いと思ったんだが」

「ダメだ」

「それにゃあ……」

 再び宙返り、今度は同じ高校の女子生徒。

「こんな子は知らないぞ」

「適当に化けたにゃ、この姿で話しかけるから。よろしくにゃ」

「なんでネコ訛?」

「かわいいからにゃ(^▽^)/」

「あんまり、近寄るな」

「つれないのにゃ、先輩」

「おい、下級生か? だとしたら、リボンの色が違う」

「あ、そうだったにゃ」

 リボンが一年の学年色のエンジに変わる。

「踏切に着くまでには消えてくれ、あそこからは生徒が増える。制服を着ていても不審に思われる」

「つれないのにゃあ」

「おちょくるために変身したんじゃないだろ」

「そうそう、用件なのニャ」

「早く言え」

「ときどき妖(あやかし)とかが現れるのニャ。適当に相手してやって欲しいニャ」

「シメればいいんだろ」

「臨機応変なのニャ」

「気分次第だな」

「反抗的なのニャ」

「そろそろ踏切だぞ」

「分かってるニャ、もひとつニャ」

「さっさと消えろ」

「このアバターの名前つけて欲しいニャ」

「……猫田ねね子」

「マンマじゃにゃいか!ヽ(`Д´)ノ プンプン!」

 
 張り倒してやろうかと思ったが、踏切が見えてくると消えてしまった。

 異世界生活の二日目が始まった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする