くノ一その一今のうち
まだ幼いか……
意識が飛ぶ寸前、お祖母ちゃんが呟いたような気がする。
幼いって……さっきは代々十三歳で目覚めたとか言ってたじゃん、お祖母ちゃんは十五で、お母さんは、ついに目覚めなかったとか……。
ヘックチ!
自分のクシャミで目が覚めた。
なんだか、スースーする……エアコン入れた?
正面に天井……ということは、仰向けに寝てるんだ。
グルッと目玉を回すと足もとにお祖母ちゃん。怖い顔で腕組みしている。
「やや小ぶりではあるが、体は十分に発育しておる……」
え?
なんだか裸を見られてる気がするんですけど……って……このスースー感は?
マッパになってる!?
ウワワワ(# ゚Д゚#)!
慌てて起きて、脱がされた服を抱えて部屋の隅で丸くなる。
「ちょ、なんで裸に!?」
「狼狽えるな。魔石の声を聞こうとしたら気を失ったのでな、まだ熟してはおらぬのではないかと調べたのじゃ」
「い、いったい何を!? どこをさ!?」
「いろいろじゃ、しかし体の発育には問題はない」
「あ、あたりまえでしょ、もうじき十八なんだから!」
「これは、今のうちに修業に出ねばならんのう……その、明日から修業に参れ! くノ一の修業じゃ!」
「修業……って、学校あるんだけど。それに、お祖母ちゃんの世話だって。お祖母ちゃんご飯も作れないじゃん」
「それは大丈夫じゃ、儂もボケてはおられぬ」
「ボケ老人は『自分はボケてない』って言うもんだよ」
「しのが覚醒してボケてなぞおれぬわ。それに、学校も、きちんと通って卒業するのじゃ。学校が終わったら、毎日修業に通う。風魔本家当主の素養があれば、日に三時間でシフトを組めば間に合うであろう」
なんかバイトのノリみたいに言う……
で、そのあくる日の放課後。
わたしは、カバンの中に魔石を忍ばせ、ブレザーの内ポケットに紹介状を入れて神田の街を歩いている。
せめて住所とか電話番号とかぐらいは教えてよね……。
「靖国通りを西にいけば分かる」
その一言だけで、小川町で下りて西に歩いている。
探しているのは『百地芸能事務所』って、今どき全部漢字で表記するプロダクション。
ここで、しばらく修業に通うことになった。
近くまで行けば魔石が教えてくれるって……昨日はなんにも聞こえなくって気を失ったんですけどぉ。
正直、信じてるわけじゃない。風間が風魔で、忍者の本家。どうでもいいです。
お祖母ちゃんのボケが、ちょっち良くなって、世話しなくて済むのは助かる。
あとは、うちの経済力に見合った短大行くか、就職とかして、将来の見通し付けたいのよ。
ふつうの人生送りたいわけですよ。
あたしが結婚とかするまで、お祖母ちゃん元気でいてもらって、子どもが二人ほどできて、子育ても一段落したころにポックリいってもらって、パートとかに行って、たまに食事に行ったり旅行をしたり、文化教室通ったり。
そういうふうに、波風立てずにふつうの人生歩みたいわけですよ。
今日は、どんな不幸な奴を見つけてもニャンパラリンなんて絶対やらない!
まあ、見つけられなかったら、本気でコンビニとかのアルバイト見つけるか……くらいに思って神保町に差し掛かって来ると、いつの間にか南の方に道をギザギザに曲がって、見つけてしまった。
三階建てのボロビルに、なにかの道場かって木の看板。『百地芸能事務所』
サブいぼが立ってしまったよ……。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生
- 風間 その子 風間そのの祖母