大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 73『蜀の桟道ニコプン賞』

2022-05-14 10:46:26 | ノベル2

ら 信長転生記

73『蜀の桟道ニコプン賞』市   

 

 

 三国志を、四角い文字盤の時計に例える。

 

 0時の位置にあたるのが北部の首邑である豊盃。向かって右側の2時が酉盃で、その右隣2時10分あたりが辺境の前戦都市・懐古(皆虎)。我々は2時10分の懐古を出発。時計の針を逆回りに北の隣国・転生(扶桑とも云う)の南端を掠めるようにして左側、10時の卯盃(ぼうはい)に入って、一路、8時に位置する蜀の成都を目指している。

 え、ここを通るの!?

 思わず馬の手綱を引いてしまう。

 目の前には道に沿って渓谷が広がっていて、成都には、渓谷の崖にへばりついている細い崖路を通らなければならないんだ。道幅は広いところでも三メートルほどでしかなく、ところによっては道が途絶えていて、棚のように設えられている木製のキャッツウォークみたいなのを渡らなければならない。

「蜀の桟道(さんどう)だ」

「なんで嬉しそうに言うの!?」

「このへんじゃ、赤壁と並ぶくらいの名所なんだぞ」

「浅井親子の髑髏でお酒飲んだ時も変人だと思ったけど、今のニイチャン、ほとんど変態だよ(-_-;)」

「ここを抜ければ函谷関、ぐっと楽になる」

「無理! ぜったい無理!」

 こんなとこ、歩いてだって無理! 馬で行こうなんて、もう、絶対変態! 馬だって後ずさりしてるし!

「あ、馬は預かります……」

 のんびりした声が寄ってきたかと思うと、輜重の検品長。

「馬は、輜重がまとめて迂回します。時計で言うと、9時のところで文字盤を飛び出してから8時にまわる感じですね」

「え、あ……そなの?」

「万余の騎馬が桟道を渡れるはずがないだろう」

 斜め後ろから声を掛けてきたのは茶姫。

「だったら、馬に乗ったまま迂回すればいいんじゃない?」

「「アハハハハハ」」

「ちょ、なんで二人で笑うのよ! メッチャ傷つくんですけど(҂⌣̀o⌣́)」

「馬で行ったら、蜀のやつらに警戒されるだろ?」

「え、だって、そのために曹素の輜重本隊は切り離したんじゃ?」

「蜀には、関羽とか張飛とかの筋肉バカが居る。あいつらは騎馬隊の砂煙見ただけで脊髄反射を起こして攻めてくる」

「だってだって、劉備は温厚だし、諸葛亮とかの軍師もいるんじゃないの?」

「切れた筋肉バカは、しばしば脳みそを裏切る。むろん、あとで反省するがな。殺された後で反省されてもかなわん」

「アハハ、ニイチャンは脳みそ(光秀)に裏切られたけどね」

「うっせー!」

 兄妹でイジりあってると、茶姫が馬を下りてやってきた。

「騎兵と言うのはカッコよさに狎れてしまうところがある。そういう騎兵はカッコ悪いことを忌避して失敗することが多い。そのための笑われる練習でもある」

 茶姫さま、全員の馬を預かりましたあ!

 検品長が声を張り上げると、茶姫は、鞭をブルンと振り上げると「かかれ!」と号令をかけ、万に近い徒歩騎兵たちは桟道を渡り始めた。

「安全第一! カッコよく行こうと思うな! 装具の縛着にだけ気を配り、ゆっくりと進んでいけ! 渡り終えたら、ちょっとしたお楽しみを用意してあるからな!」

 絵にかいたような男前女子の茶姫が言うと、ピリっとはするんだけど、どこか緩くて暖かい。

 卯盃で、差し入れを一杯貰って「食べきれないぞ」と頬を染めていた時もギャップ萌えだったけど、茶姫の人の心を掴む才能があるよ。

 ゆるゆると、三時間かけて桟道を渡る。茶姫の硬軟取り混ぜての指揮も功を奏して、ここまで、一人の転落者も脱落者も出ていない。

「シイ(市)、大丈夫か? 膝が笑っているぞ」

「だ、だいじょうぶよニイチャン(^_^;)」

「おまえの高所恐怖症は可愛いぞ」

「可愛い言うな……高所恐怖症じゃないし……」

「お、シイ、おまえ泣いてんのか?」

「こ、これは……」

「こ、怖いんじゃないし……」

「じゃ、このニイチャンの優しさに感動したか?」

「ち、違うしいい(;`O´)!」

 

 ワハハハハハハハハハ!!

 

 もうちょっとで渡り終えるって時に、向かいの崖の上から笑い声がして、みんな一斉に見上げた。

「あ、あいつら?」

―― 天下の魏軍も情けないもんだ! ――

―― 我らなら、そんな桟道、逆立ちして半分の時間で走り渡って見せるぞ! ――

 腹立つ!

「デカいのが関羽、短足が張飛だろ」

「えらそー!?」

「ムカつくな、茶姫も言っていたろうが」

「でもでも……」

「そんなところに立たれては、首が疲れる、降りてきてくれないか!」

―― おうさ、心得た! ――

 なんと、二人とも馬に乗ったまま崖を下りてきた。

 で、馬に乗ったままなもんだから、降りてきても見下げられてるし! 関羽デカすぎだし!

「慣れぬ桟道で往生した、慣れたそこもとたちには、さぞかし滑稽に映ったろうな」

「いやいや、近ごろは戦も絶えて退屈しておったところだ」

「面白い見世物であったぞ」

「そうか、蜀の二大将軍の無聊を慰められたのなら、こちらもへっぴり腰のし甲斐があったぞ。どうだ、貴公らの目から見て、だれが一番退屈しのぎになった?」

「そうよのう、兄者はどうじゃ?」

「う~ん、その、女騎士だな」

「うん、わしも、そう思う。見目麗しくスタイルも良いのに、あのビビりよう……」

「天下無双のへっぴり腰!」

「「そなたじゃ!!」」

「え? あたし……?」

 関羽、張飛二代将軍の指先は、ピタリとわたしの鼻先に向けられている。

 みんなの注目が、わたしに集まるし(#-o-#)!

「そうか、近衛騎兵・職市(ショクシイ)、お前に、茶姫ニコプン賞を授与するぞ!」

「え?」

「いけよ」

「押すなよ、ニイチャン!」

「皆の者! 拍手で讃えよ!」

 ウオーーー! パチパチパチパチ!

 ちょ、止めてよ! めっちゃ恥ずかしいんですけど!

 前振りが無ければ、きっと、切れてるか、泣いてるかその両方か。

 真っ赤になりながらも、取りあえず受賞の徴にニコニコ缶バッジを付けてくれる茶姫。

 さっきまで、囃していた二大将軍の姿はなくて、代わりに白い馬に乗ってごっつい羽ペンみたいなの持った女子が現れていた……。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・47『スリーギャップス』

2022-05-14 06:08:08 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

47『スリーギャップス』  

   


「栞、Bスタジオまで……ほら、急ぐ!」
 
 午前のレッスンが終わって、控え室でお握りを頬張っていたら、鼻に絆創膏を貼ったMNBの専属作曲家の室谷雄二に呼び出された。

「は、はい!」

 栞は、お茶でお握りを流し込み廊下に飛び出す。

 室谷は、もうエレベーターの前にいて、エレベーターのドアが開きかけていた。

「うわー! 待ってえ!」

 慌てて、エレベーターに乗り込むと叱られた。

「アイドルは、仕事以外では走らない!」
「はい」

 気難しい人だと思った。

「ほら、これ栞のパート」

 ナニゲに渡されたスコアに戸惑っているうちにエレベーターは一階上のフロアーに着き、あと二三歩でBスタジオというところで、室谷の背中にぶつかった。なぜかというと、室谷が急に立ち止まったからである。室谷は勢いでドアに顔をぶつけた。

「イテー! オレ、さっきもぶつけたところなんだよ! なんでMNBは、ガサツな奴が多いんだろうね」
「すみません」

 室谷さんが急に止まるから……と思いながらも、栞もスコアを見てテンパっていた。

 スコアのタイトルは『そうなんですか!』になっていたから。

 そう、栞の一言で流行ったギャグである。

「失礼します」

 ドアを開けて、さらにテンパッた! 

 スタジオにはプロディユ-サーの杉本、MNBセンターの榊原聖子、三期生で売り出し中の日下部七菜の、研究生の栞から見れば、雲の上の人間が揃っていたのだ。

「室谷さん、また顔ぶつけました(^_^;)?」

 聖子が、おかしそうに聞いた。

「MNBは、そそっかしいのが揃ってるからな」
「室谷ちゃん含めてね」

 杉本が、体を揺すって笑った。七菜も俯いているところをみると同じ目に遭ったんだろう。

「とりあえずスコア見てくれよ」


 《そうなんですか!》  作詞:杉本 寛  作曲:手島雄二

 ホ-ムの発メロが鳴る階段二段飛ばしに駆け上がる 目の前で無慈悲にドアが閉まる

 ああチクショー! このヤロー! 思いがけないキミのため口

 駅員さんも乗客のみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ
 

 あの それ外回りなんだけど

 そうなんですか しぼんだようにキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな電車の発メロぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか


 昼休みチャイムが鳴る廊下優雅に教室に向かう 開けたドアみんなが起立していたよ

 ええ うそ~! ええ ど~して! 見かけに合わないキミの大ボケ

 クラスメートも先生も ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ カワイイ顔して このギャップ

 あの 今の本鈴なんだけど

 そうなんですか 他人事みたいキミが呟く

 新学期 もう夏だというのに いいかげん覚えて欲しいな予鈴と本鈴ぐらい

 でも 愛しい ピンのボケ方 このギャップ そうなんですか そうなんですか


 照りつける太陽 砂蹴散らして駆けまわる ビキニの上が陽気に外れかかる

 ええ うそ~! なんで今~! 天変地異的キミの悲鳴

 ライフセーバーさんもビーチのみなさんも ビックリ! ドッキリ! コレッキリ!

 ああ キミは飛び込む 波打ち際

 ああ たしかキミはカナヅチなんだけど

 そうなんですか でも助けてとキミが叫ぶ

 夏休み もう真っ盛り いいかげん覚えて欲しいな犬かきとボクの気持ちぐらい

 でも 愛しい こ~の無神経 このギャップ そうなんですか そうなんですか 

 そうなんですよ ボクの愛しいそうなんですよ ボクの青春のそうなんですよ 人生一度のそうなんですよ

 Yes! そうなんですよ!


「このユニット名は、スリーギャップス」
「スリーギャップス?」
「そう、ベテランと中堅と駆けだしのミスマッチ」
「そう、栞はミス・マッチ」
「マッチですか!?」
「そう、栞の荒削りな馬力と根拠のない自信。こいつで火を付けてみようと思う。今日は曲をしっかり覚えて、明日は振り付け。来週の習慣歌謡曲で発表する」

 かくして、栞のヒョウタンから駒が出た……!

 

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