大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・274『虎ノ門事件勃発!』

2022-05-22 09:29:09 | 小説

魔法少女マヂカ・274

『虎ノ門事件勃発!語り手:ノンコ  

 

 

 あれ……………………あれ……………………?

 

 二回首を巡らせて、虎ノ門の大通り、主に歩道の通行人を観察したけど犯人らしい男の姿は見えへん。

 ファントムやらシャドウのあらかたは、富士山頂の戦いでやっつけられるか、マヂカとブリンダといっしょに時空の狭間に吸い込まれてしもて、犯人は、元々の難波大助一人になってるはずやのに姿が見えへん。

 いや、歴史が変わり始めてるから、難波大助以外の人間が……せや、犯人はステッキ型の仕込み銃持ってるさかい、人間よりもステッキを探した方が早い。

 いや、ひょっとしたら虎ノ門以外の場所で? それはない。詰子とJS西郷が赤坂御所からここまでのルートを調べてくれてるさかい、犯人が居ったらすぐ分かるはずや。

―― 見当たらないよ ――

 電柱一本分離れてる霧子の気持ちが伝わる。

 マヂカみたいに想念を受け止めたわけやない。原宿の屋敷でいっしょに暮してるうちに、表情やら素振りで気持ちが分かるようになったんや。

 あ、ひょっとしたら道の向こう側?

 車は左側通行やさかい、進行方向の左側ばっかり見てたけど、道の向こう側からでも距離にして八メートルほどしか違わへん。

 八メートル言うたら、教室の後ろから前の黒板までの距離、消しゴム投げても当たる!

 思たら車道に飛び出してた。

「こら、女学生!」

 警備のお巡りさんがサーベル鳴らして起こりよる。もう、すぐそこまで車列が近づいてるんやさかい、怒られてあたりまえ。

 タタタタっと足早に渡って、違和感。

 踏み込んだ車道の左半分が、微妙に柔らかい、ちょっと温いし。

 補修したてで、アスファルトが固まりきってない。

 道路の補修自体は珍しない。

 震災から、まだ二か月あまり。震災復興計画は、まだ国会で審議中なんで、本格的な補修工事は鉄道とか港湾施設が始まったとこ。道路なんかは、まだまだ仮補修のレベルで、あちこちの穴ぼこやらひび割れを直してる段階やから、毎日あちこちで工事してる。

 せやけど、見習い魔法少女の勘が――ちょっと変や――と警告してる。

 渡り切って結論が出た。

 道路に爆弾が仕掛けたある!

 改めて、今まで居てた左側の歩道を見る。ザっと見渡して怪しい者は……おった!

 難波大助は歩道の上と違て、道路沿いの建物の窓から迫って来る車列に視線を向けとおる!

 ステッキ銃を構えてる風もないから、たとえお巡りさんが気ぃついても、窓からチラ見してる野次馬くらいにしか見えへん。摂政殿下の車を見下ろすのは不敬やけども、暗殺を狙ってるようには見えへんやろ。

 仕事熱心なお巡りさんが――見下ろすな!――的にジェスチャーで注意しておしまい。

 手は後ろに組んで……たぶん、爆破ボタンを持ってるんや。

―― 霧子、上や! 建物の二階や! ――

 身振りで知らせる。

 霧子は、直ぐに理解して、建物の玄関に飛び込んだ!

 車も停めならあかん!

 車列の向こう、2ブロック先の歩道を詰子とJS西郷が来るのが見えたけど、間に合う距離やない!

 ニャンパラリン!

 猫みたいに空中一回転して、車道に飛び出ると、すぐ目の前まで迫った先導のサイドカーに叫ぶ。

「止まってください!」

 ビックリした近衛の兵隊がブレーキを引いてホルスターの拳銃に手を掛ける。沿道のお巡りさんらがビックリした顔で、こっち向いて、そのうちの一人は腰のサーベル押さえながらこっちに走って来る。

 箕作巡査もそやけど、日本のお巡りさんは優しい、拳銃持ってへんし、サーベルかて押さえてるだけで抜こうとはせえへん。

 やられるとしたら、サイドカーの近衛兵の拳銃。

 この距離やったら、撃たれたらヤバイよ。魔法少女言うても見習いやし死ぬかもしれへん。

 建物の二階の窓、霧子と難波大助が揉み合ってる。

 難波大助の手にはステッキが握られて……そうか、爆破ボタンはステッキに仕込んだんや。

 スイッチ押すだけやから、狙いをつける必要もないし……考えよったなあ。

 霧子が大助の手首掴んで……ちょ、スイッチに指かかってるし!

 

 ドッカーーーーーーーーーン!!

 

 ものごっつい音と光がした。

 

 ノンコオオオオオオオオオオオ!!

 

 誰のんか分からん叫び声が一瞬聞こえて、うちの意識は途切れて……しもた。

   

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・002『エルベの水』

2022-05-22 05:55:48 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

002『エルベの水』  

 

 

 
 不覚でした……水に思念を写してしまいました。

 
 ニンフが暁にエルベの水を汲むのは禁忌とされています。

 現世(うつしよ)において、最も清浄とされるエルベは、その清浄さゆえ、魔力を持つ者の思念を写します。

 端女(はしため)とは申せ、わたくしはニンフであります。姫が魔王との戦いに臨まれているのではないならば、このような無理はいたしません。しかし、かように満身創痍となられても戦いを挑まれる御決意、その御決意を知ってしまっては、手をこまねいているわけにはいかないのです。姫は、これまでの戦いで三十余個所の傷を負われているのです。

 心を写してしまわぬよう、目をつぶって水を汲みましたが、それでも、心の底にわだかまる星屑のような記憶が暁のエルベに感応したのでありましょう。

 おぼろな断片でしかなかった記憶が形を成してしまいました。

 万聖節の夜、此度の遠征が決まったとき、主神オーディンがトール元帥と語っておられたところが蘇ってしまったのです。

「此度の戦は、このトールこそが相応しい。このミョルニルのハンマーをもって魔王を原子の粒にまで潰してみせる」

「申し出は嬉しいが、元帥、もうブリュンヒルデに決めたのだ」

「姫は疲れておられる。親征すること七百数十度に及び、姫は常にヴァルキリアの先頭に立ってこられた。どの戦においても親征の誠を尽くしてこられた。しかし、あの漆黒の鎧の下には、すでに三十余の傷を負っておられる。あのまま、辺境とはいえ魔王との戦いをさせては、癒えきらぬ傷が口を開く。これ以上の傷を負わせれば、いくらヴァルキリアの主将にしてオーディンの姫とはいえ身が持たぬ。ここは、この老臣に任されよ。今から駆け付ければ、姫が名乗りを上げられる前に間に合おうぞ」

「卿の申し出はありがたい、子の親としては、卿が申されるまでもなく、この主神の身をもって親征に臨むところだ。生まれて今に至るまで戦ばかりさせてきた。願わくば、ブリュンヒルデにも嫋やかな花嫁修業などさせてみたいのが親心というものだ。しかし、この主神の娘であることが、それを許さぬのだ」

「戦死者を選ぶ力か……」

「そうだ……」

「わたしならば、その恐れておれる戦死者も出さずに勝利してみせる。犠牲の少ない戦をしてこその主神でござりましょうが!」

「それは……」

「それとも、このトールが手柄を立てれば、御身の主神の位を簒奪するとでも思し召しか!?」

「そのようなことはない!」

「ならば!」

「口が過ぎるぞ、トール!」

「ヴァルハラの将来を思えばこその諫言でござる!」

「姫が選ぶ戦死者は……のちに蘇ってラグナロク(最終戦争)の戦士になるのだ。あれの、本当の使命は戦に勝つことではない、ラグナロクの戦士を選ぶことなのだ、あれが選ばなければ、ラグナロクを戦う者が居なくなるのだ……」

「なんと仰せられる……いまの戦いがラグナロクでは無かったのか!?」

「他言無用だぞ、元帥……」

 
 ああ、全てこぼれてしまった……。

 
「レイア、エルベの水が語ったことは本当か……」

「姫……!?」

「わ、わたしが選んだ戦死者は彼岸に往生するのではなかったのか!? 死んでなおラグナロクだと? わたしは、いっそうの苦しみを与えるために戦死者を選んでいたということなのか……」

「…………」

「あ ああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「姫! 姫さま! ブリュンヒルデさまああ!」

 
 端女(はしため)の身をも構わず、わたしは姫を抱きしめまいらせました。

 姫の震えを、姫の苦しみの万分の一でも受けとめようと、この胸に抱きしめまいらせました。

「レイア、レイア、このわたしは……ブリュンヒルデは、なんと罪深きことをしてしまったのだ! 取り返しがつかんことをしてしまったのだ! どこに? だれに許しを請えばよいのだ!? どのように償えばよいのだ!? お、教えて! 教えてくれ! レイア……わたしは、わたしは……ブリュンヒルデはなんということをしてしまったのだ!」

 姫は、お仕えし始めたころの幼子のように泣きじゃくるばかりでありました……。

 

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