大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・308『ペコちゃん先生の落とし物』

2022-05-24 09:35:55 | ノベル

・308

『ペコちゃん先生の落とし物』さくら 

 

 

 タタタタ……(^^♪

 

 今日の分のテストが終わって、かろやかに階段を駆け下りると、踊り場の窓から見える中庭のベンチにペコちゃん先生が座ってるのが見えた。

 ピョン

 二段飛ばして窓辺に寄って、ヤッホー言お思てOの形に口を開けると、もうペコちゃんの姿が無い。

「タイミング悪かったね」

「あ、落とし物」

 留美ちゃんが慰めてくれてメグリンがなにかを発見した。

 

 タタタタ……(⊙ꇴ⊙)!?

 

 落とし物が気になって、三人で中庭に下りてみる。

「写真やわ」

 小さなポリ袋に写真が入ってる。

 ほとんど透明な袋なんで、数枚ある写真が素通しで見える。

「自衛隊みたいだね」

 自衛隊の制服着たニイチャンが、ビシッと敬礼決めて写ってる。

「あ、高等工科学校……」

 メグリンが聞きなれん学校を言う。

「「え、学校?」」

 よう分からへんけど、並んで敬礼してるのんは自衛隊っぽいさかい、うちと留美ちゃんの頭には?マークが灯る。

「う、うん、横須賀にある自衛隊の学校だよ」

「ふうん……」

 自衛隊の学校いうと防衛大学……にしては、ちょっと若い……というか幼い感じ。

「これ……瀬田と田中だよ!」

「ええ!?」

「?」

 憶えてる人も多いと思うんやけど、瀬田と田中は中一の時からの腐れ縁のクラスメート。

 サッカー部クズレで、元気なだけが取り柄のアホコンビ。中一の時、掃除当番サボりよったんで、凹ましたったったことがある。以来、うちには逆らえへんけど、子どもっぽいのんで、あんまり付き合いはなかった。

 留美ちゃんはええ子やから、男の子には、ちゃんと君付けするけど、この二人に関しては呼び捨て。

「中卒で自衛隊にいけるんや」

「うん、いろいろ道はあるみたい」

「これ、先生の落とし物だよ、持ってってあげよ」

「うん!」

 

 ということで、職員室。

 

 ちなみに職員室入るのは初めて。中学の職員室と違て、メチャ広い。

 いっしゅん、どこが先生の席か分からへんかったんやけど、さすがに身長差。

「あ、あそこだよ!」

 メグリンが指差した。

「先生、落とし物してたよ」

「わ、ビックリ!」

 なにか考え事してたみたいで、なんかアニメの一コマみたいに目ぇ剥く先生。

 目ぇ剥いても先生はかいらしい。写真のポリ袋出すと、ほんまアニメのドジっ子そのまんま。

「え、あ、わ! わ! 落としちゃったんだ(;'∀')」

「揃ってるかどうか見てください」

 留美ちゃんが落ち着いて言う。

「うん……だいじょぶ、だいじょぶ」

「瀬田と田中ですねえ」

「え、どうして……あ、ポリ袋だから見えるよね」

「なんか心配事? せんせえ?」

「え、あ……なんでもないよ。教え子はみんな頑張ってるから、先生は安心だよ!」

 先生は、少し無理したペコちゃん笑顔。これは――それ以上は聞くな――というサイン。

 ペコちゃんとは中学以来の付き合いやから、よう分かるので、うちらは「「「失礼しました」」」と声を揃えて職員室を出た。

「先生のパソコン『自衛隊殉職者』って項目だったね」

 下足に履き替えながら留美ちゃん。

「え?」

 注意力散漫なうちは気ぃついてません。

「ああ、そうか……」

「なに、メグリン?」

「先生、あの二人の事が心配なんだ……」

 アホなうちでも、思い当たった。

「あ、自衛隊やから」

「あ、戦争とか」

 せや、ウクライナとかマジもんの戦争やってるし、基地攻撃能力とか反撃能力とか、ネットでもよう出てるし。

「大丈夫よ、たとえ防衛出動になっても工科学校の生徒が戦場に出るなんてありえないから」

 なんか、メグリン言い切ってるし。

「あ、アハハ、うちのお父さん自衛隊だから(^_^;)」

「あ、そうなんや」

 ちょっと分かった気がした。

 メグリンが、一年の一学期早々に転校してきたんは、きっとお父さんの仕事がらみやねんわ。

 なんか、微妙に会話が途切れる。

「自衛隊っていうと、ご飯おいしいんだよねえ(^▽^)」

 留美ちゃんが話の方向をゆるく変える。

「せや、ネットで自衛隊出身のお笑いさんが、自衛隊メシ食べ比べいうのんやってた」

「あ、わたしも見た。とってもボリュームがあるんだよね」

「そうだ、なんなら、いっかい試食してみる? うち、非常用に置いてるから」

「ええのん? 非常食て、ちょっと値段高いっしょ?」

「賞味期限迫ってるのあるし」

「あ、せや!」

 面白いことを思いついた……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・004『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・1』

2022-05-24 06:12:46 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

004『ブリュンヒルデ 父に詰め寄る・1』 

 

 

 
 衛兵たちが警備する外郭を駆け抜けると、凱旋祝賀の準備に非番の侍女や近習たちまでも動員されて灰神楽が立つほどに忙しい内郭を突き抜ける。さらに本丸宮殿の門前に立つまでに十秒とかからぬブリュンヒルデであった。

 ここまでヘルメス神をも凌ぐ俊足で駆けた姫ではあるが、本丸宮殿に入るには門衛長ロイデンの許可がいる。

「ブリュンヒルデである。父君に糺したきことがあって立ち戻った。疾く門を開けよ!」

「何やつ!? 姫ならば、いまだ凱旋の途につかれたばかり、かような刻限におわすはずがないぞ」

「ロイゼン、余の声を忘れたか!?」

「籠った声では分からぬ。兜を脱いで顔を見せよ」

「身は、主神オーディンの王女ブリュンヒルデである」

 シャキン

 姫は、バイザーのみを上げて忠勤な門衛長を睨んだ。

「こ、こは、まことに姫君!?」

 門衛長の開錠を待ちきれず、乱暴に門を押し開くと、姫騎士とは思えぬ歩調で奥つ城(き)に向かう。

 グゥアッシャーン!

  兜を投げ捨てると、姫は玉座を睨みつけた。

「……ヒルデ、驚かすものではない。戦勝の知らせは、つい先ほど届いたばかりだ。やっと非番の者たちを集めて祝賀の支度にとりかかったばかりなのだぞ」

「父上、人払いを願います。ヘルメスの百倍もの速さで戻ってまいったは、問いただしき義のあるからでございます」

「問いただすとは尋常ではない。軍務に関わることならばトール元帥にも同席してもらわねばならぬであろうし、奥向きの事であるならば内大臣、侍従長、侍女長にも声をかけねばならぬが、侍従長ワイゼンは腰を痛めて臥せっておるぞ」

「父上!」

「……承知した。皆の者、しばし控えておれ」

 オーディンの指示で、十数人の侍臣、侍女たちは席を外した。

「オーギュスト! 扉を締めよ!」

「申し訳ございません!」

 扉の外に控えていた近習のオーギュストを一喝すると、オーディンの執務室は、やっと親子二人になった。

 
 くぅぉのお! くっそオヤジいいいいいいいいいいい(ꐦ°᷄д°᷅)!!

 
 姫は、眉を逆立て頬を朱に染めて、父オーディンに掴みかかった! 

 

 

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