大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・3『風間そのの災難・3』

2022-05-18 17:08:01 | 小説3

くノ一その一今のうち

3『風間そのの災難・3』 

 

 

 朝、校門で呼び止められて、注意されたこと以外には不幸なことはなかった。

 予習が間に合わなかった英語も、前から順番にあてられて、あたしの前に座ってるAがもたついてるうちにチャイムが鳴って助かった。ほら、ナントカ坂46のAだよ。可愛いし、アイドルのハシクレだからいたぶりたくなる気持ちも分かるけどさ。英訳のBe動詞抜かしたぐらいでカラムことないと思うよ。オーラが通じたのか、チラッと振り向いたAは「テヘペロ」をかましてた。後ろの男子どもが胸キュンしてんのも伝わってきて……ま、いいんだけどさ。

 昼休みの学食、階段の最後の二段ジャンプしたのが功を奏したのか、B定食は、あたしで売り切れ!

 やったね。

 隣のA定食(B定食より50円高い)はとっくに売り切れてた。

 この瞬間に限っては、プロレタリアJK、ブスモブ風間そのの勝利なわけさ。

 くたばれリア充! 

 思わず、トレー持つ手でVサイン。食堂のオバチャンが――よかったね(^_^;)――的に笑みを返してくれる。

 これが、他の生徒だったら、オバチャンは、こんな風には微笑まなかったと思う。

 オバチャンも、若いころからソレナリって感じしたし。通じるんだよねモブキャラ同士。

 万国のモブキャラよ団結せよ!

 モブの単純さ。それだけで、午後の授業は元気に居眠りするだけで乗り越えられた。

 

 帰りの電車も空いてたわけじゃないんだけど、ちょうど乗ったドアの横の席が空いてて、ラッキー!

 座ろうと思ったら、いっしゅん遅れてご老人が座る気で迫って来て――あ、どうぞ――的に譲ることができた。

 もうワンテンポ遅れたら、人に声かけるのが苦手なあたしは、悶々として駅に着くまで座ってたと思うよ。

 居眠り決め込むか、知らんぷりしてスマホいじってるかしてさ。そいで、隣に座ってる大学生風が「あ、どうぞ」的に席を譲って――おい、モブ子、ほんとはお前が代わるべきだろが――的に、ややあたしの前に寄って立つよ。

 まあ、昨日が昨日だったから、この程度のモブラッキーはあってもいいよね。

 よし、今日はお弁当じゃなくて、なにか作ろうか。

 数少ない料理のレパを頭に巡らせながら改札を出る。

 

 ピィーーーン

 

 改札を出て、駅前のロータリーに踏み込んだとたん、耳鳴りのようなものがして、カバン持つ手が総毛だった。

 ロータリーの斜め向こうの歩道を歩いているオネエサンが際立って見える。

 このオネエサンに危機が迫ってる!

 感じたとたんに体が動いた。

 ガードレールをジャンプして、斜め向こうの歩道に着地すると同時にオネエサンを書店の壁に押し付け、そのまま三回ジャンプした!

 ショーウィンドウの屋根、テナントの看板、電柱のてっぺん、そしてビルの屋上にトドメのジャンプを決め、手すりの外に身を乗り出していた学生風の上半身を両足で挟み込んで屋上に倒れ込んだ。

 ズサ

「このまま飛び降りたら、歩道のオネエサン巻き添えにしてるとこだったよ!」

「……………だ、だれ?」

 パッシーーン!

「死ぬのは勝手だけど、人の迷惑も考えろ!」

 我ながら、見事に平手と啖呵を決めてアホ男の自殺を食い止めた。

「ご、ごめんなさい……」

 一言詫びると、アホ男はひっくり返ったカエルのようになって、涙と鼻水でグチャグチャになった。

 ガチャ

 屋上階段室のドアが開いて、警備員さんが二人やってくる。

 もう大丈夫。ちょ、ヤバイ!

 相反する二つの気持ちが湧いて、三分たったウルトラマンみたいに、あたしはトンズラを決めた。

 

 え……いまの何? あたし、なにやったの!?

 

 ふと我に返って、ビルを振り返る。

―― パンツ、青の縞々だった ――

 な、なにを見てんのよおおおお(#°д°#)!

 アホ男の想念が降ってきて、晩ご飯の買い物もすっとんで、まっしぐら家に帰るあたしだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・109『ココちゃん』

2022-05-18 10:47:27 | 小説4

・109

『ココちゃん』加藤恵 

 

 

 ニ百何十年前は宮内省と云ったそうだ。

 昭和20年、大東亜戦争に負けてからは宮内庁と変わった。

 たかが『省』と『庁』の一字違いだけども、中身はまるで違うようだ。

 終戦前日の20年8月14日から15日にかけて、降伏を良しとしない第一師団の将校たちが、陛下の玉音放送のレコードを奪おうと宮内省を襲撃した時、宮内省の職員や侍従たちは体をはって玉音を守り、軍部のクーデターを阻止した。

 阿南陸相は割腹自決、第一師団長は殺され、師団の指揮権は反乱将校たちに握られていたが、それに怯むことなくよく耐えた。

 宮内省の任務は陛下と、その藩屏たる皇族・華族を護る事であった。

 それが、宮内庁と看板が替わると、長官はじめ高級職員は他の省庁からの退職組や出向組が多数を占めることになった。

 彼らの意欲は本来の任務よりも無事に任期を全うして本庁に戻るか、無事に二度目の退職を迎えることであった。

 この役人的俗性は、二百数十年前、占領軍が宮内庁の仕事を輔弼ではなく監督を主任務とさせたことに起因する。天皇や皇族が、占領目的から逸脱することが無いように、いわば占領軍のスパイ機関にしてしまったことに遠因がある。いちど組織に染みついた属性が、いかに拭い難いか。敗戦というものがいかに人を腐らせることか。

 以上は、天狗党の前衛に居たころに習ったことだけど、今回は改めて、それを我がこととして実感した!

 

 心子内親王殿下は、天狗党崩れのわたしの隣に住むだけではなく、なんと、わたしのラボで働くことになった!

 殿下の西之島での生活は宮内庁が、陰日向の窓口になってやっているはずだ。

 いずれは皇嗣宣下をされるはずのお方が西之島に来ること自体が異常なのに、わたしの部下になるなんて、あってはならないことだ。

「アハハ、広く知見を深めなさいというのが、えと……陛下のお考えでもあるんですよ。心子は、ちょっと抜けたところがありますからね」

「あ、いや、そんな抜けているなんて……」

「いえいえ」

「あ、そこは余計です。その、メンタルモジュールのスペースは空でいいんです」

「え、メンタルモジュールがなければ、疑似感情表現ができないのでは?」

「いえ、パチパチたちは特異なんです。メンタルモジュール無しで、自律的に感情表現します」

「え、そうなんですか!?」

「はい、パチパチたちが特異なのか、島のパルス鉱石との相性でこうなってるのかは分からないんですけど、ここはこのままです。正規のロボットではありませんから」

『作業機械ですから』

「自分で言うな。ニッパチの戸籍は、ちゃんとロボットなんだからね」

「じゃ、これで閉じていいですか?」

「そうですね、午後はニッパチといっしょに市の審議会ですからね、ちょっと早いけどお昼にしましょう」

「はい、じゃあ、ニッパチさん、20分は安静にしてくださいね」

「そうだぞ、こないだは10分で動くから跡が残ってしまったからな」

『頭取の仕事は忙しくて』

「お願いしますねえ(^▽^)」

『殿下、わたしには丁寧な言葉使わなくていいですよ。島じゃ、みんなタメ口ですし』

「そう、それじゃ、お二方とも、わたしには普通に接してください。わたしは、島で一番の駆け出しですから」

「じゃあ、心子」

「心子(こころこ)って言いにくいでしょ、普通に『こころ』とか『ここちゃん』とかでいいですよ」

『名前はちゃんと呼ばなきゃ、わたし、省略されたらニッパですからね』

「あら、ニッパなんて呼ぶ人いるの?」

『アハハ、こどもたちとか……』

「ムー、そういう時は『わたしだってチが通ってるんだからね!』とか、言ってやるといいです」

『ああ、それナイスです! ココちゃん頭いいです!』

「そうか、じゃあ、ニッパチには特別にパルスガドリンクをやろう」

『わーい、今日のメグミ、気前いい!』

「あら、ニッパチさん、とても手がきれいね!」

『うん、メグミが最初に付けてくれたリアルハンド。普段から手入れしてますからね』

「へえ、そうなんだ」

 これ以上、殿下……いや、ココちゃんに聞かれては敵わないので、さっさと定期点検を切り上げた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王          今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

乙女先生とゆかいな人たち女神たち・51『もらった南天』

2022-05-18 05:44:17 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

51『もらった南天』  

          

 

 中間テストの初日であったが、朝から全校集会になった。

「黙祷!」

 首席の桑田が号令をかけた。さすがに水を打ったように静かになった。

 一昨日、墓参りのあと、田中教頭が霊園の門前で急死したことを、校長の水野が簡潔に述べたあとである。一分間の黙祷が終わった後、校長は再び演壇に上がり、話を続けた。

「田中教頭先生は、この春に淀屋橋高校から赴任されてこられたところで、赴任以来、本校の様々な問題について、わたしの女房役を務めていただきました。昨年わたしが本校にまいりましてより、我が校の改革に邁進してきましたが、今年度に入り、様々な軌道修正をしながら、本格的な改革案を練る作業に入ったところであります。その実務を裏で支えておられたのは田中先生です。先生を、突然失いわたしは両腕をもがれた思いであります……正直、先生達がやろうとしている改革は、君たちが在学中には実現が難しいほど壮大な難事業であります。時間と、途方もない忍耐力が要ります。先生は、持ち前のモットー『小さな事からコツコツと』を実践してこられました……」

 それから、校長は新しい教頭が決まるのには数日かかること、田中教頭は妻子を早くに亡くし孤独な生活を送ってきたが、生徒のみんなを自分の子どものように思っていたことなどを交え、田中教頭の姿を美しく荘厳して話を終えた。

 生指の勘で、校庭の隅のバックネットの裏に生徒の姿を感じて、現場に急いだ。

――こんなときにタバコか――予想は外れた。

 そこには、しゃがみこんで泣いている栞がいた。

「栞、どないしたん……」
「わたし……わたし、人が死ぬなんて、思ってもいなかったんです!」
「栞……」
「学校の改革は必要だと思ってました。だから、進行妨害事件でも、あそこまで粘りました。それが正しいと思っていたから。そして改革委員会ができて、実際の進行役が教頭先生で、苦労されていることも父から聞かされて知っていました。でも……でも亡くなってしまわれるほどの御心労だったとは思いもしなくて、いい気になってMNBなんかでイキがちゃって……なんて、なんて嫌なやつ! 嫌な生徒!」

 パシン!

 乙女先生は、栞を張り倒した。

「自分だけ、悲劇のヒロインになるんとちゃう!」
「先生……」
「オッサン一人が死ぬのには、もっと深うて、重たい問題がいっぱいあるんじゃ!」
「他にも……」
「いま分からんでも、時間がたったら分かる。さ、もう試験が始まる。教室いき……」
「……はい」

 駆け出した栞に、乙女先生は思わず声をかけた。

「栞がしたことは間違うてへん。それから……教頭さんのために泣いてくれてありがとう」

 栞は、何事かを理解し、一礼すると校舎の方に戻っていった。

「しもた、シバいたん謝るのん忘れてた!」

 振り返ったが、栞は全て理解した顔をしていたので、もう、それでいいと思った。

 

 あくる日の葬儀には、手空きの教職員が行った。

 職員の受付には技師の立川さんが座っていた。土地柄であろうか、細々とした仕事は明らかに、プロではない地元の人たちが手伝っている。その様子を見ていると、上べだけではなかった教頭の近所づきあいの良さがうかがえた。

「ほんまに、去年の盆踊りにはなあ……」
「そうそう、正月のどんど焼きでも……」

 家族がいないせいか、ご近所にはよく溶け込んでいたようだ。

 焼香を終わって一般参列者の群れの中に戻ると、喪服に捻りはちまきというジイサンが呼ばわっていた。

「どないだ、米造が丹精した盆栽です。お気に召したんがあったら、持って帰っとくなはれ!」

 半開きにされたクジラ幕の向こうには、全校集会のように盆栽たちが並んでいた。ゆうに、中規模の盆栽屋ぐらいの量があった。とても会葬者だけでさばける量ではなかった。

「これ、残ったら、どないしはるんですか?」
「あ、わしが引き取ります。ヨネが生きとったころから、そう話はつけたあります。生業が植木屋やさかい、どないでもなりますけどな。どこのどなたさんか分からん人に買うてもらうより、まずは縁のあった人らにもろてもらおと言うとりました。あんさんには、これがよろしい」

 おじいさんは、小ぶりな南天の盆栽を、なんの迷いもなく、慣れた手つきでレジ袋に入れてくれた。

「お棺のフタを閉じます。最後のお別れをされる方は、こちらまで」

 係の人に促され、乙女先生は棺の側まで行った。田中教頭は、着任式の印象とは違って、とても穏やかな顔をしていた。

「よかったな、ヨネボン。こないぎょうさん来てもろて。好子さんも碧ちゃんもいっしょやで」

 喪主のお姉さんが、二枚の写真を入れていた。一枚は卒業式の妻子の写真……そして、もう一枚は、なんと乙女さんの娘美玲の制服の写真だった。どうやら、娘さんの碧ちゃんと間違われたようだった。

 乙女さんは、一瞬混乱したが、田中教頭の大阪城での嬉しそうな顔を思い出した。

――これでええ、本人さんは、よう分かってはる――

 傍らに掲げられた府教委の死者への表彰状だけが、そらぞらしかった。

「教頭さん、ああ見えて、なかなか周旋能力の高いひとでしたからね、あとが大変だ。乙女先生、よろしくお願いしますよ……」

 ハンドルを握りながら、校長が呟いた。

 脇道から自転車が飛び出したが、さすがの校長、緩い急ブレーキで止まった。

――あ……!――

 南天が驚いたような声をあげたような気がした。

 レジ袋を見ると、鉢にさした札には、一字で、こう書いてあった。

 碧…………

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする