やくもあやかし物語・140
霧だか霞の中に坂道だけが浮かび上がってる。ほら、グーグルアースとかで、都合の悪い家とか景色とかボカシてる、あんな感じ。佇まいは二丁目の坂道に似ている。
100メートルほど行ったところで右に曲がっていて、道幅も二丁目のと同じくらいで舗装道路。
でも、逆なんだよ。
二丁目の坂道は下りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。
目の前の坂道は登りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。
曲がると、まだ上りで、50メートルほど進んで、アーチ形の門。
門扉は赤っぽい茶色で、駅のシャッターみたいに上下に動いて開くみたい。
え~どうしよう……どこかにスイッチがあるのか、それとも「開けてください!」とか「かいも~ん!」とか言わなきゃならないのか。言うとしたら、どの程度の声を出せばいいのか、ひょっとしたら、そこらへんにインタホンとがあって、そこで言わなきゃならないのか、人感センサーとかがあるのか……怖がりで人見知りなわたしは悩むわけですよ。
悩んでいると、道以外は霧か霞みたいなので見えなかったところが、ちょっとずつ見えてくる。
立ち眩みが治る時に似ている。
立ち眩みって、視野の周囲が鉛色に溶けていて、景色がよく見えないじゃない。
その逆で、ちょっとずつ見えてくる。
…………あ、お城なんだ!
アスファルトの坂道を上がってきたから、近所と同じ住宅街かと思っていたら、なんだか山の中。
その山の峰の一つみたいで、峰一つがまるまるお城になってる。
シンデレラ城みたいで、壁は白っぽいクリーム色。
門の向こうには、青っぽい塔がいくつも覗いていて、とっても雰囲気。
ギギギギ……
城門が開いていく。ひょっとしたら、足もとの敷石のどれかがスイッチになっていて、それを踏んだのかもしれない。
左から八個、城門の前から十個目くらい……うん、覚えた。
門を潜ると、石畳の広場。前後左右に建物があって、城門を破って突入しても、あっちこっちから弓や鉄砲を撃ちかけられてしまいそう。
ええと……どっち行ったらいいんだろう?
左右の建物には、木製の片開きのドア。
正面は二階に上るくらいの石段があって、その向こうに大きい建物……窓を数えたら五階くらいありそうで、屋根の上には塔が立ってる。日本のお城で云ったら天守閣になるところっぽい。
石造りだし、ドアはみんな閉まってるし。入り口とかエントランスとかの表示も無いし……。
そうだ、こういうところって受付とか切符売り場とかがあるよね。
そういうのって、入ってすぐの右だか左だかの受付って感じになってるはず。
もう一度、門の所に戻って確かめてみたけど、それっぽいのは見当たらない。
スマホで検索!
あ、スマホは棚の上で充電中だ。
取りに戻るには、門を出て、合わせて200メートル近くはある坂道を下らなきゃならない。
どうしよう……戻ったら、もう来ようって気にならないよ。
五分ほど悩んで、正面の石段を上がる。
上がったところはテラスっぽくって、正面に観音開きの扉。
どの石畳踏むのかなあ……ウロウロしているうちにドアが開く。
「こんにちは」「ごめんください」「ごきげんよう」
どの挨拶にしようか困ってしまう。
えと……あ、ごきげんようは、お別れの時の挨拶だった!
それだけで、胸がドキドキしてしまう。
キョロキョロしていると、正面の階段に小さな注意書きの看板があるのに気付く。
『二階の謁見の間にお越しください』
そうか、二階なんだ。
おっと!
一歩足を出して、立ち止まる。
上履きに履き替えなくてもいいのかなあ……見回しても、それっぽいのは見当たらないので、そのまま失礼する。
ホールから控えの間を通って、いよいよ謁見の間。
ハ!?
ビックリしたような気配がして、そっちを向くとメイドさんが目をこすっている。でも、0・5秒でメイドらしい笑顔になって応えてくれる。
「あ、申し訳ありません。つい……」
「えと……ここでいいんですよね?」
「はい、こちらでございます……陛下……あ、寝てしまわれました(^_^;)」
わたしがモタモタしている間に、メイド王は玉座に座ったまま寝てしまっている。
「ああ……寝起きの悪いお方ですので、しばらくお待ちくださいませぇ~」
「アハハ、そうですか……(^_^;)」
メイデン勲章改・Ⅱを見つめて、メイド王からもらった屋敷を見ておこうと思って、愚図で怖がりのわたしは、ちょっと時間がかかり過ぎてしまったみたい。
どうしようかと思ったら、控えの間に案内されて、メイドさんに紅茶を淹れてもらって、メイド王が起きるのを待ちましたよ。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王