大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・140『頂いたお屋敷はお城だった』

2022-05-21 11:37:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・140

『頂いたお屋敷はお城だった

 

 


 霧だか霞の中に坂道だけが浮かび上がってる。ほら、グーグルアースとかで、都合の悪い家とか景色とかボカシてる、あんな感じ。佇まいは二丁目の坂道に似ている。

 100メートルほど行ったところで右に曲がっていて、道幅も二丁目のと同じくらいで舗装道路。


 でも、逆なんだよ。


 二丁目の坂道は下りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。

 目の前の坂道は登りの坂道で、突き当たったところで右に曲がる。

 曲がると、まだ上りで、50メートルほど進んで、アーチ形の門。

 門扉は赤っぽい茶色で、駅のシャッターみたいに上下に動いて開くみたい。


 え~どうしよう……どこかにスイッチがあるのか、それとも「開けてください!」とか「かいも~ん!」とか言わなきゃならないのか。言うとしたら、どの程度の声を出せばいいのか、ひょっとしたら、そこらへんにインタホンとがあって、そこで言わなきゃならないのか、人感センサーとかがあるのか……怖がりで人見知りなわたしは悩むわけですよ。

 悩んでいると、道以外は霧か霞みたいなので見えなかったところが、ちょっとずつ見えてくる。

 立ち眩みが治る時に似ている。

 立ち眩みって、視野の周囲が鉛色に溶けていて、景色がよく見えないじゃない。

 その逆で、ちょっとずつ見えてくる。


 …………あ、お城なんだ!


 アスファルトの坂道を上がってきたから、近所と同じ住宅街かと思っていたら、なんだか山の中。

 その山の峰の一つみたいで、峰一つがまるまるお城になってる。

 シンデレラ城みたいで、壁は白っぽいクリーム色。

 門の向こうには、青っぽい塔がいくつも覗いていて、とっても雰囲気。

 
 ギギギギ……


 城門が開いていく。ひょっとしたら、足もとの敷石のどれかがスイッチになっていて、それを踏んだのかもしれない。

 左から八個、城門の前から十個目くらい……うん、覚えた。

 門を潜ると、石畳の広場。前後左右に建物があって、城門を破って突入しても、あっちこっちから弓や鉄砲を撃ちかけられてしまいそう。

 ええと……どっち行ったらいいんだろう?

 左右の建物には、木製の片開きのドア。

 正面は二階に上るくらいの石段があって、その向こうに大きい建物……窓を数えたら五階くらいありそうで、屋根の上には塔が立ってる。日本のお城で云ったら天守閣になるところっぽい。

 石造りだし、ドアはみんな閉まってるし。入り口とかエントランスとかの表示も無いし……。

 
 そうだ、こういうところって受付とか切符売り場とかがあるよね。

 そういうのって、入ってすぐの右だか左だかの受付って感じになってるはず。

 もう一度、門の所に戻って確かめてみたけど、それっぽいのは見当たらない。

 スマホで検索!

 あ、スマホは棚の上で充電中だ。

 取りに戻るには、門を出て、合わせて200メートル近くはある坂道を下らなきゃならない。

 どうしよう……戻ったら、もう来ようって気にならないよ。

 五分ほど悩んで、正面の石段を上がる。

 上がったところはテラスっぽくって、正面に観音開きの扉。

 どの石畳踏むのかなあ……ウロウロしているうちにドアが開く。

「こんにちは」「ごめんください」「ごきげんよう」

 どの挨拶にしようか困ってしまう。

 えと……あ、ごきげんようは、お別れの時の挨拶だった!

 それだけで、胸がドキドキしてしまう。

 キョロキョロしていると、正面の階段に小さな注意書きの看板があるのに気付く。

『二階の謁見の間にお越しください』

 そうか、二階なんだ。

 おっと!

 一歩足を出して、立ち止まる。

 上履きに履き替えなくてもいいのかなあ……見回しても、それっぽいのは見当たらないので、そのまま失礼する。

 ホールから控えの間を通って、いよいよ謁見の間。

 ハ!?

 ビックリしたような気配がして、そっちを向くとメイドさんが目をこすっている。でも、0・5秒でメイドらしい笑顔になって応えてくれる。

「あ、申し訳ありません。つい……」

「えと……ここでいいんですよね?」

「はい、こちらでございます……陛下……あ、寝てしまわれました(^_^;)」

 わたしがモタモタしている間に、メイド王は玉座に座ったまま寝てしまっている。

「ああ……寝起きの悪いお方ですので、しばらくお待ちくださいませぇ~」

「アハハ、そうですか……(^_^;)」

 
 メイデン勲章改・Ⅱを見つめて、メイド王からもらった屋敷を見ておこうと思って、愚図で怖がりのわたしは、ちょっと時間がかかり過ぎてしまったみたい。

 どうしようかと思ったら、控えの間に案内されて、メイドさんに紅茶を淹れてもらって、メイド王が起きるのを待ちましたよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・001『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』

2022-05-21 07:05:21 | 時かける少女


漆黒ブリュンヒルデQ 

001『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』  

 

 
 主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将! 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士! 

 我が名はブリュンヒルデなるぞ!

 
 佩刀オリハルコンを抜き放ち、天をも貫く勢いで大上段に構えられると、かくも雄々しく姫は名乗りを上げられました。
 たちまちのうちに雷鳴響き稲妻が走ると、電光は御佩刀オリハルコンにまとい付き、姫の憤怒を荘厳いたします。
 姫の憤怒は、もはや御身の内に留まること能わず、御身に負われた数十の傷口から血と共に噴き出し、電光に短絡せしめられ、御身の周りに血の虹を現出いたします。

 姫の従者となって幾百年の年月を経ましたが、かくも荒ぶるお姿を拝するのは初めてでございます。

 身が縮むほどに凄惨ではございますが、そのお姿は鬼神でさえ、その凄絶な美しさにため息を漏らしたでありましょう。

 端女(はしため)の身は、むろんのこと、そのお姿を目にして息をすることさえ忘れるほどでございます。

 思えば、あの時、我が身の内の乏しい勇気を振り絞ってでもお停めすべきでありました。むろん、事ここに至ってしまった今になって思う後知恵にすぎないのではございます。
 辺境の魔王一匹助けたとて姫の運命は変わらなかったのかもしれません。わたくし自身、姫の凄絶な美しさに身を震わせていたのですから、姫の美しさは罪であります、いいえ、罪などと申すは言い訳と申すにも畏れ多く、ついには、姫を、この窮地に立たせてしまったのですから、この罪は万死に値します。

 
 グオーーーーー!!

 
 魔王が雄たけびを上げ、戦死者の骸を砂塵のように蹴散らして姫に切りかかりました。

 闘志からではありません、魔王は、姫の美しさに耐え切れなくなったのでございます。

 ブオン!!

 魔王の剣は虚しく空を切りました。

 むろん魔王は、正しく姫の正中を両断しておりましたが、それは虚しい残像でありました。姫は鬼神の勢いに勝る敏捷さで舞い上がり、刹那の後に魔王を切り伏せなさいます。

 斬!!

 魔王は数十歩駆け抜けたところで二つ身になり、はるかバルハラからでも見えようほどの血潮を噴き上げて倒れてしまいました。

 ドウ……

 わたしは、わななきわななき立ち上がり、震える手でエルベの水を満たした革袋を差し出します。

 「エルベの水をお持ちいたしました……」

 「すまぬ……血まみれで最後の戦いに臨みたくないというのは見栄であったかもしれぬ。あまりの憤怒から古傷からも血を噴き出させてしまった」

「お身を清めさせていただきます」

「ああ、頼む。もう立っているのもやっとなのだ……」

「お寛ぎを」

「うむ……」

 ガチャリ

 膝をおつきになった姫の甲冑を解き、戦衣を寛げます。露わになったお体をエルベの水で清めて差し上げます。
 わたしが使える魔法は癒しの水を灌ぐことだけ。
 革袋に満たせば解呪するまで灌ぐことができよう、エルベの水は最高の効能があるのだから。魔王との戦いに間に合わせようと、それが、少し遅れてしまった。戦いが早くなってしまったためと……もう一つの理由。

「レイアの手は優しいなあ……母上の顔など憶えては居らぬが、きっと、このようなものでこそあったのであろうなあ……」

「身に余る例えに恐縮いたしますが、お喋りになっては、傷に障りますよ」

「よいのだ、レイアの声はエルベの水同様にこの身を癒してくれるのだ。幼子のお喋りと許してくれ……やっと、これで、討ち死にした者たちも、無事に彼岸にたどり着いてくれるだろう、そう思うと少しは楽になる……こたびは2531人を送った。世界の魔を屠るためとはいえ……いや、こうやって戦いを重ねて行けばラグナロクは起こらない、父上もおっしゃった。『ブリュンヒルデが戦死者を選ぶのはけして無駄なことではない、おまえに選ばれれば、彼岸への往生は間違いないのだから』と……しかし、今度は一人っ子を320人も逝かせてしまった……レイアと仲の良かったアロヤも、やっと彼女ができたロイルも……お調子者のルイラも……」

「それぐらいになさいませ、これ以上お喋りになられるのなら、ムクゲの花で眠らせてしまいますよ」

「子どものころに、よくやられたなあ……気持ちよく眠れるが、三日も目覚めぬのではかなわない……いや、それもいいか、こたびの戦は……堪えたからなあ」

「はい」

 いつもの五倍ほどの傷を負っておられた。傷口を塞ぐだけでも八倍の水を灌いでいる……早くしなければ。

「レイア」

「なんでございましょう」

「この水……なにか、語り掛けてくるようだぞ」

「え……?」

 
 不覚にも革袋持つ手が止まってしまいました……。

 

 

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