大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・275『戻った……』

2022-05-30 09:37:34 | 小説

魔法少女マヂカ・275

『戻った……語り手:マヂカ  

 

 

 あ、テレビのゴースト?

 

 原宿駅がダブって見えた。

 ほぼ同じ駅舎が、アナログテレビのゴーストのようにダブっている。

「……戻ってきたんだ」

 数秒でゴーストの片方が消えて、ようやくブリンダが吐息のように呟いた。

 わたしも首の重さに耐えきれないように頷くだけ。

 時空の狭間はデジタル的には変異しないのだ、以前いた時空を夏の蜃気楼のように引きずって、時空の旅人に感傷を強いる。

 完成間もなかった駅舎は、数秒ダブった後、百年後の解体保存の準備に入った微睡(まどろみ)みの姿に落ち着いた。

 その屋根越しに見える神宮の森は、マジシャンが「ワン……ツー……スリー!」ともったいを付けるようにホワホワとして、見慣れた令和の茂みに変わり、足もとの道路はアスファルトの硬さを取り戻した。

「戻った……」

 ブリンダに続いてため息ついた口に飛び込んできたのは、どこか甘ったるい令和の原宿の空気だ。

 道行く人たちは、僅かに違和感の気を発して通り過ぎていく。

「学習院の制服は、大正時代から変わってないんだろ?」

「うん、でも、冬服だし……」

 冬服のせいにしたけど、原宿はファッションフリーの街。年中ハロウィンのようなところがあって、季節外れの冬服を着ていても不思議には思われない。

 纏っている空気が大正時代のままなんだ。

 それに、富士山頂から転移してきたから、纏っている空気は夏の原宿より三十度は低いだろう。サーモグラフィーのカメラで撮影したら、わたしとブリンダは低温を表す青から濃紺で写るはずだ。

「どうする、師団本部に帰るか?」

「そうね……ちょっと東郷神社に寄ってみる」

「東郷神社……ああ、そうだな」

 東郷神社は高坂侯爵邸の跡に建てられている。

 こういう感傷めいたことは鼻先で笑うブリンダだけど、この時はあっさりと同調してくれる。

 お互い、腐るほど魔法少女をやっているけど、今回は、ちょっとクールダウンに時間がかかりそうだ。

 

 神社の庭に高坂邸の名残がある。

 

 稲妻方の石橋を渡ると、大正時代からそのままいるのではないかと思うような錦鯉が泳いでいる。

 二人の影を見ても寄り集まってこないのは、まだ、富士の冷気を纏っているからか、完全にはソウルが戻っていないからなのか。

「人が餌をやり過ぎた後じゃないか、どの鯉もでっぷりと肥えてるぞ」

「アメリカ人は情緒が無いよ」

「ちょっと心外だが……ファントムはまだ生きているしな」

「そうね……クマさんも、おそらくファントムに取り込まれて、この時代に……」

「詰子とノンコも残ったままだしな……」

「うん、とりあえず、資料を漁って、虎の門事件の顛末を調べ……ちょ、どこ行くの?」

 スタスタと拝殿の方に向かうブリンダ。

 アメリカ人の少女が、キチンとお参りし、日本人の少女が後に倣うという図になる。

「高坂の母屋があったのが、このあたりだったろう」

「あ、そうだね……そうだったね……」

 仮にも神社の拝殿、本来なら二礼二拍手一礼なんだけど、二人は、長いこと拝殿の奥を見つめ、ゆっくりと頭を下げた。

 背後には参拝客に混じって、高坂侯爵、田中執事長、春日メイド長、松本運転手はじめ高坂家の人々……そして、箕作巡査や霧子の気配がして……一刻も早くクマさんを取り戻してほしいと願っているような気がした。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・010『芳子の迎えで学食へ』

2022-05-30 06:23:25 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

010『芳子の迎えで学食へ』 

 

 

 

 教室の席は窓側の一番後ろだ。

 
 先月の席替えでここになったことになっているが、実のところは、父王オーディンが設定に手を抜いたのだろう。

 武笠ひるでという子は、敬して遠ざけられる性格がデフォルトになっている。しがらみが少ない。

 キンコーンカンコーン  キンコンカーンコーン

 昼休みの鐘が鳴る、一人で昼食かと思ったら廊下に芳子が立っている。

「先輩、お昼行きましょ!」

「おう、芳子も学食か?」

「はい、急がないといっぱいですよ」

「そうだな」

 財布を掴んで学食を目指す。同じように学食に向かう子がけっこう居て、早足になっている。

 階段を下りて、二階まで来ると、ドタドタと男子たちが追い越していく。腹ペコの男が食に向かって走っているのは好きだ。良き兵士の根源は食欲だ。生きるエネルギーが陽気にほとばしっているようで、いっしょに走りだしたくなる。

「走るか!」

「止してくださいよ、朝の件でも評判なんですから、先輩」

「あ、あ、そか(^_^;)」

 ひとりの男子の正体が二つ尾の犬の化け物だったことは伏せておく。

 
 おおーーーー!

 
 二台の券売機の前はすでにいっぱいで、カウンターも列ができ始めていた。

「芳子、券売機の増設を実現したら生徒会の支持者が増えるぞ」

「もう、提案済みです。ランチで良かったら食券ありますよ」

「おお、いつの間に!?」

「一週間分まとめ買い、券売機は四時間目の前から動いてますから」

「愛い奴じゃ、では、あとでジュース奢ってやるぞ(⌒∇⌒)」

 ランチとご飯系に男子が集中している。猛々しいというほどではないのだが、女子は敬遠しているのか麺類の方が多いようだ。

 ランチを食べるので当然ランチの最後尾に付く。すぐに、後ろに列が伸びる。二人女子が加わった。わたしらが並んだので勇気が出たのかもしれない。

 キャ!

 後ろの女子から悲鳴、振り向くと姿が無く、すぐ後ろは男子が続く。

 ムギュ!

「だ、だれだ! 人の尻に触るのは!?」

「先輩?」

「おまえらだな!?」

 三人の男子がニヤついている。こいつら、女子の尻を触って下衆な色欲満たしながら列の独占を図っているんだ。

「ここで暴れちゃだめですよ、先輩」

「むむ」

 確かに迷惑になる。口の中で小さく呪文を唱える。数秒後……。

 
 ギャーー!

 
 後ろの男子が悲鳴を上げてぶっ飛んだ。

「なにかしました、先輩?」

「いいや」

 ちょっと、サンダーの魔法を、わが尻にかけておいただけだ。触る奴が悪い。

 
 食後はジュースの自販機に向かう。芳子にもおごってやらなきゃな。

 
 きのうと同じ、この秋限定のコーヒー……と思ったら、寸前のところで人が立つ。女子だし、悪気は無いのだろう。

 ムッとするが、割り込みと言うほどでもないので、グッと我慢する。芳子にも言われてるしな。

 ゴトン。

 前の女子が缶コーヒーを取る。去り際に目が合う、なんだかニヤッと笑われたような……いや、気のせいだ。

 ム。

 ちょうど売り切れになってしまったではないか!

 ククククク

 今の女子が缶コーヒーを見せびらかしながら笑ってやがる。

 こいつ、耳まで口が裂けて……こいつも妖か!?

 気づくと同時に、そいつはジャンプして、自転車置き場の屋根の上を走っている。

 待て!

 続いてジャンプすると、奴は二階の庇へ。続いて駆け上がると、奴は塀に飛び移り、塀の上を数メートル走ったかと思うと、塀の向こうに着地。わたしは一気に塀を飛び越えてあとを追う!

 外では、もう女生徒の姿ではなく、大きめのネコになっている。制服のリボンが首に無ければ確信が持てなかったかもしれない。

 予測がついた。次の角を曲がって民家の庭を抜けて、向こうの道路に逃げる気だ。

 漆黒の姫騎士を舐めるんじゃない!

 小さくジャンプして、増幅した力でさらにジャンプ。先回りした路上で待ち受ける。

 存外、バカでも無いのだろう。そいつはO学園の女生徒に化けなおして、あたかも、その家から出てきた風を装っている。

 こちらも殺気を消して、手前の家に帰宅するようにすれ違う。

 トーーーッ!!

 すれ違いざまに、渾身の回し蹴り!

 ドゴッ!!

 きれいに延髄を直撃。

 グニャ!!

 衝撃で、顔面が猫に戻り、一目散に経堂駅方向に逃げていく。

 そいつは二股の尾っぽを持った猫の後姿だった。

 このあたりの犬や猫は、みな妖なのか?

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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