大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・4『その襲名する』

2022-05-23 13:03:51 | 小説3

くノ一その一今のうち

4『その襲名する』 

 

 

 目覚めたんだね

 

 家に帰ると、お祖母ちゃん、ボケの新バージョン……かと思ったよ。

 玄関入ったすぐの所に正座しててさ、ビシッと睨みつけて言うんだもん。

「こっちへおいで」

「あ、まだ晩御飯の用意買ってないし……」

「そんなことはいい……」

 お祖母ちゃんは、普段は使っていない客間兼仏間に、あたしを連れて行くと、お仏壇の前に進んだ。

「ここにお座り」

「う、うん……」

 お仏壇には、すでにお線香の煙が立っていて、昔やったひいばあちゃんの法事みたいな感じ。

 ひょっとして、今からひいばあちゃんの十三回忌? それにしちゃ季節が合わないよ、何月だったか忘れたけど、あれは春だった。やっぱ、まだらボケの新バージョン?

「これを羽織りな」

 え?

 お祖母ちゃんが示したのは、畳んだ黒の着物。

 やっぱ、法事? ひいばあちゃんの七回忌は、お祖母ちゃん黒の紋付、あたしは学校の制服だったし……て、これ紋付じゃないし。丈が短すぎるし。

「ほんとうは、装束一式身に付けなきゃいけないんだけどね、急なことなんで略式だ」

「これは……」

「忍者装束だよ」

「ニンジャショーゾク!?」

「これをご覧」

 お祖母ちゃんが差し出したのは、仏壇の真ん中に安置してある過去帳。子どもの頃から知ってたけど、おどろおどろしいので、マジマジと見たことはない。

 風魔家過去帳……カザマのマの字が違う。うちは風間と書いてカザマだよ。

「風魔とかくのが正式で、読み方はフウマだ」

「フウマ?」

 なんだか不幸な馬を連想してしまった。

「我が家は、風魔小太郎を始祖とする風魔忍者本家。そのは、二十一代目の当主になる」

「ニ十一代目? あたしが!?」

「そうだよ。そもそも風魔流忍術は、舒明天皇の御代の役小角(えんのおづぬ)を開祖とする日本忍者の本流。当主は十三の歳に開眼して忍者道に入るとされている。ひいばあちゃんは、その十三の歳に開眼。わたしは十五の歳。そのの母は開眼することなく大人になってしまい、もはや風魔の流れは途絶えてしまうものと諦めていた……しかし、その、お前は十七歳にして、ようやく目覚めたんだ……」

 え、お祖母ちゃん泣いてるし……ボケの新バージョンにしては凝り過ぎてるし……。

「あのう……だいじょうぶ、お祖母ちゃん?」

「自覚せよ! そなたは、本日ただいまより、風魔忍者本家の当主なるぞ!」

「ヒッ( ゚Д゚)」

「ご先祖様に拝礼!」

「ハ、ハヒ!」

 なんか、すごい迫力、こんなお祖母ちゃん初めてで逆らえないよ。

 チーーン  ナマンダブナマンダブ……。

 五年前の法事を思い出して、殊勝に手を合わせる。

「知らせは受けたが、いちおう確認する」

「なにを?」

「目覚めの証じゃ。昨日は、駅前で猫を助けたのじゃな?」

「え、あ、うん……猫が赤信号で渡ろうとするから、気が付いたらニャンパラリンって感じで」

「ニャンパラリン!?」

 あ、不まじめっぽい?

「えと、口にしたらそんな感じ」

「そうか……そうか……ニャンパラリンは、風魔流跳躍術の掛け声じゃ。隠れていたのじゃのう、その血の内に」

「お祖母ちゃん『じゃ』とか『じゃのう』とか、なんだか成りきっちゃって(^_^;)」

「忍者として語る時は忍者言葉じゃ。そのもおいおい慣れるがよい」

「アハハ……」

「それから?」

「えと、今日は、駅に着いたらゾワってして、ロータリーの歩道歩いてた女の人が――死ぬ――って感じて、すぐにニャンパラリンで書店の壁際に寄せて、それから、屋上に跳んで……」

「ニャンパラリンじゃの」

「う、うん。で、飛び降りかけてた男の子引き倒して、説教した」

「どのように?」

「『このまま飛び降りたら、歩道のオネエサン巻き添えにしてるとこだったよ!』って、で、一発張り倒して『死ぬのは勝手だけど、人の迷惑も考えろ!』って……」

「そうか、でかした」

「でかしたの?」

「ああ、こういう場合、張り倒しておかなければ身にも心にも入らぬものじゃ」

「そうなんだ」

「人の心は聞こえたか?」

 聞かれてハッとした。学校でも、街でもなんか聞こえた、妄想かと思ってたけど。

「妄想ではないぞ」

「あ、いま、あたしの思ったの……」

「そう。こういうことを『読む』という。ん?」

「なに?」

「パンツ、青の縞々だった……助けた男の想念じゃな」

「ああ、それ無し!」

「使いこなせるようにはなってはおらぬが、目覚めの素養としては十分じゃ……では、世襲名を与える」

「セシュウメイ?」

「代々、風魔家の当主が受け継ぐ名前じゃ……今日より、女忍者『ニ十一代目そのいち』と名乗るが良い」

 そのいち……その一……なんだかモブ丸出し。

「不足か?」

「いえいえ(^_^;)」

「『その』とは風魔家の女が代々いただく名前じゃ。わたしがその子、そなたの母はその美」

「あたしは、ただの『その』なんですけど」

「『その』は初代さまの名じゃ。二十一代にわたり、他の字を冠せずに『その』と名乗りしは、初代、十五代、そしてそなたしかおらぬ」

「そ、そうなんだ」

「襲名に当り、これを遣わす」

 なんだか懐から取り出したのは、小汚い石ころ。

「これは、風魔の魔石じゃ。大事大切なものゆえ、めったには、その身から離さぬようにのう」

 石には小さな穴があって、そこから何か聞こえてくるような……思わず耳を寄せる。

 ……………ん?

 とたんに意識がとんでしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
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ピボット高校アーカイ部・8『シフォンケーキと桃太郎』

2022-05-23 09:51:45 | 小説6

高校部     

8『シフォンケーキと桃太郎』

 

 

「あれって、桃太郎だったんですよね?」

 

 あくる日の部活、すっかり僕の仕事になった部活前のお茶を淹れている。

 今日のお茶うけはコンビニで買ってきたらしいスポンジケーキだ。

 けっこうボリュームがありそうで、こんなの食べたら晩御飯食べられるだろうかと心配になるが、口にはしない。

「まあ、食ってみろ」

 口にしなくても読まれてる。

 クポクポクポ……

 お茶を淹れて、フォークでケーキを切る。

 あれ?

 フォークをいれたケーキは、押しつぶしたようにひしゃげてしまう。

「シフォンケーキというんだ、見かけの割には頼りない」

「はい……あ……」

 口の中に入れると、頼りなく萎んでしまう。ケーキというよりは綿あめかマシュマロを食べているように頼りない。

「こういうソフトな感触がいいというので、街では、ちょっとしたブームでな。コンビニでも置くようになったんだ」

「はあ……」

 これなら、晩ご飯の心配はしなくていいようだ。

「このソフトというか頼りな路線は、桃太郎の昔話にも及んでいてな……」

「先輩、美味しそうに食べますね」

「うん、でも、こんなものばかり食べていては咀嚼力も消化する力も弱ってしまう……で、桃太郎だ」

「あ、はい」

「お婆さんは洗濯に夢中になって、流れてきた桃に気付きませんでした……という異説がもてはやされてきた」

「ああ、それで、前回は桃を上流まで運んで、強引にお婆さんに気付かせたんですね」

「うん、ああでもしないと、桃はさらに下流まで運ばれて、別のお婆さんに拾われてしまう」

「別のお婆さんじゃダメなんですか?」

「いや、別のお婆さんでも構わないんだ。だがな、拾って持って帰ってお爺さんといっしょに桃を切るとな……」

 先輩のフォークが停まってしまう。

「切ると……どうなるんですか?」

「腐りかけの桃太郎が出てくるんだ」

「ハハハ(^O^)」

「笑い事ではない、桃太郎のナニは腐って無くなってしまっているんだぞ。桃太郎ではなくて桃子になってしまう」

「だめなんですか?」

「だめだろ、そんなのが幅を聞かせたら、金太郎は金子、浦島太郎は浦島太子になってしまうぞ」

「アハハ(^O^)」

「ということで、もう一度、桃太郎の世界に行くぞ!」

 

 そして、いつものように魔法陣の中に入って、前回と同じ田舎道に立った

 

「……やっぱり、お婆さんは桃を見過ごしてしまいますねえ」

「いくぞ!」

 同じように下流にまわって桃を拾い、これまた気づかれないように上流に持って行って桃を流した。

 ポチャン

 桃のすぐ前に石を投げ入れて、お婆さんに気付かせる。

「「あれ?」」

 お婆さんは、桃に一瞥はくれるんだけど、知らんふりして洗濯物を続けるではないか!

「ちょっと、お婆さん!」

 あ、先輩(;'∀')!

「なんじゃ、おまえら?」

「ちゃんと桃を拾わなきゃダメじゃない!」

「フン」

 鼻で笑われた!

「桃太郎なんぞ、つまらん……」

 つ、つまらん!?

「拾って育てても、鬼退治に行くだけじゃ」

「そ、それが桃太郎じゃないですか!」

 思わず声が大きくなってしまった。

「鋲!」

「すみません、でも……」

「『ノーモア鬼ヶ島』じゃ……おまえらも、これに署名せえ!」

 バインダーに挟んだ署名用紙とボールペンを突き付けるお婆さん。

 署名用紙には、こう書いてあった。

『桃太郎を二度と戦場に送らないための請願署名』

 先輩は、署名のためのボールペンを握ると、署名はせずに、こう聞いた。

「このボールペンは、どこ製か知ってるかい?」

「ん、こんなものは、たいがいC国製じゃろが」

「そうだね。じゃあ、先っちょのボールはどこ製?」

「C国製じゃないのかい?」

「日本製なんだよ」

「おや、そうなのかい」

「じゃあね、ごめんね洗濯の邪魔して。いくぞ、鋲」

 

 そして、僕と先輩は部室に戻って、お茶の後始末をした。

 

「わたしは、ちょっと残ってる。鋲は先に帰れ」

「あ、はい」

 部室を出て昇降口に向かって校門を出たんだけど、桃太郎の事が気になって、駅の手前まで来て学校に戻った。

 昇降口で上履きに履き替えていると、旧校舎から出てくる先輩が目に入った。

 旧制服から今の制服に着替えた先輩は、なんだか眩しくて、けっきょく声も掛けずに下足に履き替え、校門を出る先輩を見送ってから家に帰ったよ。

 

彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
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漆黒のブリュンヒルデQ・003『神都ヴァルハラ』

2022-05-23 06:08:18 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

003『神都ヴァルハラ』  

 

 

  神都ヴァルハラは辺境の勝利に湧きかえっている。

 
 主神オーディンにまつろわぬ辺境の蛮族どもが、やっと平定されたのだ。

 誰もが、この戦いに臨むのはトール元帥であると思っていた。誰もが、遠征軍の馬印はトール元帥の得物たるミョルニルのハンマーであると願っていた。

 しかし、遠征軍の中軍に掲げられたのは、プラチナの兜であった。

 プラチナの兜は、ヴァルキリアの主将たるブリュンヒルデの標である。漆黒の甲冑を身にまとうブリュンヒルデであるが、この漆黒に染められたプラチナの兜を被ることはめったになく、常にはセキレイの御旗とともに馬印として中軍に掲げさせている。

 姫が出陣なさるぞ! 数多の傷をものともせずに! これで七百を超える御親征なるぞ! 

 漆黒の姫騎士の勝利は姫の使い魔たるフェンリルによって伝えられたばかりである。黒き狼は表情を殺しているが、七百を超える遠征の伝令を務めてきたため、神都の人々は、フェンリルのたてる風音だけで勝利が分かった。むろん、七百余度の戦はことごとく姫の勝利で終わっているが、勝利の有り方で風音が異なる。決戦の前に敵の主将が心臓まひで倒れた不戦勝では、不甲斐ない敵に立腹。姫が負傷した時は、どこか苛立ち、戦死者が少ないときは巻き返す風が軽やかであったりもした。

 勝ち戦であることに疑いは無いのだが、此度のフェンリルの風音は、どこか怖れているようであった。人々は、わずかに戸惑ったが、フェンリルも歳なのだ、あまりの勝ち戦に身が震えているのであろうと合点した。そして、オーディンの城より正式な伝達が城下に触れだされると、まだ、姫の凱旋を見もせぬのに、神都のときめきは最高潮に達し、城の儀典長は、どのように凱旋を祝えばよいか、嬉しい悩みに頭を絞っているという。

 ビューーーーーー!

 その戦勝祝賀の空気の中を、いま一つの黒い影が疾駆した。

 神民の中にはいぶかる者も居たが、フェンリルの息子たちが父の後を継ぐために速駆けの稽古でもしているのであろうかと笑って納得した。

 しかし、その黒影はフェンリルの息子たちでも、フェンリル自身でも無かった。

 城の辰巳櫓の窓から飛び込んできたのは、いつになく漆黒の鎧に馬印の兜まで身に着けたブリュンヒルデ姫、その人であった。

 

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