大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・304『GWは一里塚やで』

2022-05-03 09:56:18 | ノベル

・304

『GWは一里塚やで』さくら   

 

 

 春のゴールデンウイークいうのは一里塚いう気ぃせえへん?

 

 学校やら会社やらの始まりは四月。新しい職場やら学校、学年、クラスで、いろいろ緊張。

 それを解してくれる一里塚。

 峠の天辺に茶店が並んでて、お茶店の前には、松とか楠とかの一里塚の大木がワッサカした緑の木陰を伸ばしてる。

 その茶店の縁台に腰かけて、ホッコリお茶を頂いてる。そんな感じ。

 四月は、ちょっと、もう初夏ちゃうん!? いうくらいの暑い日もあったけど、連休に入ってからの朝夕は、ちょっと寒いくらいの爽やかさ。

 生駒山もごりょうさんも、かすみ一つもかからんと初々しい若葉色。

 で、今朝は、家中のお布団を本堂の縁側に敷き並べて虫干し。

 虫干しの役得で、留美ちゃんとお布団の上でゴロゴロ。

 眠たなったら、このまま寝てしまおという、ずぼらぜいたくを楽しんでおります。

「メグリン、落ち込んでたね」

 空を流れる大きな雲から連想したのか、留美ちゃんはメグリンの話をする。

「ああ、発育測定なあ……」

 連休の直前の発育測定で、メグリンはショックを受けた。

 なんと、身長が178センチで、自己申告よりも3センチも高かった!

 昔と違って、体重計には目隠ししてあるし、胸囲は測定の先生が声にも出さんと書類に書いてくれる。

 せやけど、身長はね……身長計て剥き出しやし、目盛りを読まんでも、並んでるみんなには丸わかり。

「まっすぐ立って、まっすぐ」

 念押しされるくらいに、メグリンは縮こまってた。

「古閑(こげん)さん、まっすぐ!」

 ダメ押しされて、不承不承背筋を伸ばすメグリン。

「…………」

 先生は気を遣って小声で記録係りの保健委員に言うんやけど、バッチリ目盛りには出てしもてるし。

 178センチ……!

 悪気はないねんけど、誰ともなく呟く声がする。

 とたんに、メグリンは真っ赤な顔になって、スゴスゴと列の後ろに回る。

 ちなみに、メグリンは堺市の内申書ミスで繰り上げ合格したんと違って、純粋にお父さんの突然の転勤のせいやった。

 もともと、熊本の真理愛学院やったんで制服はまったくいっしょ。同じ系列のミッションスクールなんで、学年はじめの転校もわりとスムーズに済んだっちゅうことですわ。

 元々の元は、堺の隣同士の中学やったし、メグリンとはええお友だちになれそうな感じ。

 

「お客さん、お帰りよ」

 

 本堂の外陣から詩(ことは)ちゃんの声。

「あ、うん」

 いそいで起き上がる。

 外からは死角になってるけど、庫裏から出てくると丸見えの本堂の縁側。

 布団の上でゴロゴロしていてはみっともない。

 本堂の中を迂回して庫裏の座敷に向かう。

 お茶を片付けたり、後回しになってた座敷の掃除にね。

「ちょ、なに店広げてたんよ!」

 テイ兄ちゃんが、座卓と、その周りにごちゃごちゃとオタクのあれこれを広げてた。

 オタクと言っても、いつものフィギュアとかと違って、パソコンやら、その関係の難しい本。

「ああ、お客さんにいろいろ聞いてたんやけどな……」

「お客さんて、おっちゃんのお客さんやろ?」

「たしかデジタル庁のえらい人なんですよね」

 留美ちゃんは、さすがに情報早い。

「せっかくやから、分からんとこ、いろいろ教えてもらお思たんやけどなあ……」

 お客さんは、おっちゃんの友だちで、デジタル庁とかのお役人。

 東京コンプレックス、上級公務員コンプレックスのテイ兄ちゃんは、これ幸いに、日ごろ分かれへんかったデジタルのあれこれを、そのお客さんに聞いたということらしい。

「そら、諦一、あいつはあかんで」

 座敷に戻ってきたおっちゃんが、無慈悲に宣告。

「なんでや、天下の日本国デジタル庁やろ? 出身も東京大学やいうてたやんか」

「あいつは経産省からの出向や」

「ほんでも、デジタル専門やさかい、デジタル庁に行ったんちゃうん?」

「新しい役所ができるとな、出向いう形で、他の役所がスパイを送り込むんや」

「「「スパイ?」」」

 なんや、話が面白なってきたんで、うちらも座卓の端っこに座る。

「せや、自分とこの役所の縄張りの仕事……まあ、マスコミでいう省益っちゅうやつやな。それを侵さへんか。自分とこでパクれる業務はないかスパイさせるんや」

「なに、それぇ?」

「デジタル庁は、去年の秋にできたばっかりの役所や。そこの上級公務員が、連休やいうて旅行なんかでけるかいな。ほんまに仕事してるのは、民間から来た人ら……あ、土産のバナナ饅頭、よかったらみんなで食べ。いちおう東京土産のベストワンや」

「仏さまにお供えしなくていいんですか?」

 留美ちゃんが気を遣う。

「ええねんええねん、お供えは山ほどあるしなあ。みんなで食べてしまい。あ、そろそろお参りの時間やなあ……」

 そう言うと、おっちゃんは淹れなおしたお茶を飲みもせんと行ってしもた。

 

 あとでおばちゃんに聞いたら、おっちゃんは若いころに、あのデジタル庁といっしょに公務員試験を受けたらしい。

「あ、おっちゃん、落ちたん?」

「え、そうじゃないんだけどね……」

 おばちゃんは、あいまいな笑顔を返すだけ。

 その笑顔は、困った時の詩ちゃんソックリでした。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・36『美玲(みれい)』

2022-05-03 06:17:25 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

36『美玲(みれい)』 

      


 カタを付けなければならない……車窓を飛んでいく景色を見ながら何度目か分からないため息をついた。

 ほんの五日ほど前のことである。『美玲友の会』から手紙が来ていた。宛名は佐藤正一、つまり亭主のことである。いつもなら亭主の机の上にそっと置いておく。いつもなら……。

『美玲友の会』とは、ミレニアム、つまり2000年を記念にして連帯を組んだ教師仲間の親睦会で、数か月に一度泊まりがけで、青臭いというか阿呆くさい話題を種に飲み明かす会である……と、亭主の正一は言ってきた。封筒も大判の定形最大のもので、表には会の名前から「事務局」の先生の住所や、メルアドまで緑のインクで印刷されていて、宛名もパソコンで打ち出したシールで貼ってあった。そして、それはいつも月の初めに来ることが決まりのようになっていた。

 それが、四月の中旬過ぎ、それに宛名もいつものシールではなく、幼いといっていいような女の子の字で書かれている。ピンと来た乙女先生は、封筒のお尻に蒸気をあてて中身を取りだして読んでみた。

 そして、長浜行きの快速に乗り、近江八幡を目指しているのだ。

 

 その子は、タクシー乗り場の近くに自転車に跨ったまま乙女先生を待っていた。

 乙女先生を見つけると、自転車を降りて深々と頭を下げた。悪戯な春風がスカートをなぶっていき、「あ」と、その子は小さな声を上げた。

「お久しぶり、大きなったわねえ(^O^)」

 満面の笑みでロータリーの横断歩道を渡った。母親似の小顔で、愛くるしいが、今日は目に光がない。

 ただ怯えがないので、とりあえずは成功だと思った。

「今日は制服で来たのね……」
「伯父さんには部活だって言ってあります」

 駅前の甘いもの屋さんに入って、最初の会話がこれであった。

「奥さんから、直接電話もらったときは、びっくりしました」
「わたしは、全てお見通し……というか、あんな時期に手紙が来るのは初めてやし、宛名が、美玲ちゃんの字やねんもん。大丈夫、今日はわたしが全部話をつけたげる」
「あの、お父さ……佐藤先生は?」
「仕事、この春から教頭先生やさかいに。それに、これは定時連絡と違うから本人にはなんにも知らせてないの。それから、お父さんて言うていいのよ。正真正銘、美玲ちゃんのお父さんやねんさかい。あ、言いそびれるとこやった。お母さんのことは、ほんまに……ご愁傷様でした」

「……………」

 美玲の目から、大粒の涙がホロホロとこぼれた。

「いやあ、お別れっちゅうことになると、送別会ぐらいしてやりたい思いますねけんど」
「いや、ほんま、急なお話やよってに。これ、あんたら表で遊んどいで!」
「はーい……と、小遣い」
「もう、こんなときに」
「そやかて、美玲ちゃんは、たんとお父さんから小遣いもろて……」

 ブン……父親の平手が空を切った。

「もう、これで、夕方まで帰ってきたらあかんで!」

 母親は、平手を上手にかわした年かさの男の子に千円札を隠しながら渡した。

「おー、みんないくぞ!」

 賑やかに、男の子ばかり三人が飛び出していった。

「すんませんな、てんごばっかりしくさってからに」
「それでは、ひとまずこれで美玲さんをお預かりしてまいります。手続きなどは仕事柄慣れてますんで、わたしどもの方でさせていただきます。ほんなら、美子さん……お参りさせてもろてよろしいでっしゃろか」

 乙女さんは、そう言いながらバッグの中から、分厚いご仏前の袋を取りだし仏壇に向かった。

「ほんまに、長い間、正一のスカタンが……ごめんなさいね、美子さん……」

 ゆっくり手を合わせ振り返ると、いっしょに仏壇に向かっていた美玲の後ろに、学校のサブバッグが置かれていた。

「当面の着替えとか、入れといたさかい。あとの荷物はまたゆっくりと、改めてお話させていただくおりにでも」

 義伯母は、にこやかに念を押した。

「はい、それは、それで……ほなタクシーを」
「もうおっつけ……ア! 来ました来ました!」

「あ、あれを……!」

 タクシーのドアが閉まる寸前に美玲は、義伯母を突き飛ばすようにして、家の中に戻った。

「すみません、これだけ、持って行かせてください」
「なんや、アルバムかいな。かんにんな気いつかんで」

 そして、タクシーが走り出すと、美玲はアルバムだけを握りしめ、一度も後ろを振り返らなかった。

 ギリギリ間に合った快速の中でも、美玲は一言も口をきかなかった。

 大阪が近づくにしたがって、乙女先生の心の中にも溜まっていた澱が浮き上がってくるように、怒りとも寂しさともつかぬ感情が湧いてくる。

「これ、よかったら使ってください」
「え……」
「お顔が……」

 窓ガラスに映る自分の顔が狸のようになっていることに初めて気づいた。

「ありがと」

 そういうと、乙女先生は、おおらかに化粧を直した……。

 

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