大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・108『新しいお隣りさん』

2022-05-13 10:15:37 | 小説4

・108

『新しいお隣りさん』加藤恵 

 

 

 2DKに住むようになるとは思わなかった。

 

 自分の家はおろか、自分専用の住居スペースというのが初めてだった。

 もの心ついたころには施設で集団生活。「まだ二年居られるのよ」という施設長の言葉を振り切って16歳から外で働いて、初めての二人部屋でも広かった。施設に居る時は6人部屋だったしね。

 紆余曲折あって天狗党に入ると、ずっと移動ばかりで、車やシップ、あるいは潜入先のあちこち雑多な場所を仮寝の宿にしていた。西之島のカンパニーに来てからはラボの仮眠室、倉庫の隅、ハナちゃんたちと名ばかりの女子寮の三人部屋……ここが一番長かったし楽しかった。

 西之島に市政がしかれて、人口が増えてくると、いつまでも秘密基地みたいなわけにもいかなくなって、ナバホ村にもフートンにも移住者が住み始める。それにつれて、普通の街のようになってきて、一部の古参以外は普通の所に住むようになった。

 わたしも、居住五年目、ラボ主任研究員とかになってしまって女子寮というわけにもいかなくなった。

 で、西之島市営住宅にお住まいなわけ。

 落ち着かない2DKにもようやく慣れてきたころ、出張で出かけた市役所で呼び止められた。

「待ってました、加藤さん」

 通り過ぎたばかりの守衛室から出てきたのは及川市長、その人だ。

「え、市長直々に?」

「御用は、開発室でしょ?」

「ええ、開発案のすり合わせ……」

「開発室に話は通してあります。このまま、ご同行願います」

「え?」

「さ、こちらへ」

「あ、ちょ……」

 有無を言わさず連れていかれたのは三階の空きになっている議員控室だ。

「お連れしました」

 市長に続いて、奥の議員室に入って驚いた。

「御足労おかけします」

 ソファーから立ち上がった、その人は、二日前に島にやってきた心子内親王殿下だ!?

「どうぞ、お掛けになってください」

 殿下のオーラで気づくのにコンマ五秒遅れたが、部屋の隅で佇立しているのは、気配から云って第一級の警護官だ。

「こちら、警護官の橘さんです」

「役目柄、同席させていただきます」

「はあ、どうも……あ、ヒムロカンパニーの加藤です。あ、ラボの主任をしています」

「あ、まあ、その紹介も、座ってからにしましょう」

「「あ、はい!」」

 アハハ

 殿下と返事が被ってしまい、思わず、揃って笑ってしまう。

 作り笑いや演技の笑いなら天狗党……いや、施設に居たころからの習い性だが、自然に出てしまうのは、焼きが回ったか、殿下の雰囲気なのか。

「実は、心子内親王殿下は、しばらく西之島市の嘱託職員としてお勤めになられます」

「そうなんですか」

 皇族の方が働かれるのは、さほど不思議なことではない。ただ、前話も無く、いきなりということに少し面食らう。

 所属も市の嘱託ということである、カンパニーのわたしがどうこうという話ではないはずだ。

「ついては、当分の間、島にお住まいになるのですが、その御住まいが、加藤さんの隣の部屋なのです」

「え、ええ!?」

「正確には、間の部屋には警護の橘さんに入って頂き、同じフロアは全て空き部屋になります」

「でも、角部屋には人が……」

「今日転居なさいます」

 殿下が申し訳なさそうに目を伏せられる。

「いえ、これは、たまたまの偶然ですから」

 確かに、島では人口増加を見込んで官民ともども居住施設の増築増設を急いでいるが、さすがに偶然はあり得ないだろう。

「ああ、そう言えば、角部屋さんエレベーターで一緒になったとき不動産のチラシとか見てましたね(^0^)」

 わたしも、かなり調子がいい(^_^;)

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王          今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・46『家族写真』

2022-05-13 06:33:33 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

46『家族写真』  


        


「こんちわ、クロヤマタヌキの宅配便です!」 

 ドアホンのカメラで宅配便のオニイサンを確認すると、美玲は代引きのお金とハンコを持って玄関に出る。
 今度は、カバン一式だった。リュックにも手提げにもなる優れもののメインバッグはAKBの『SO LONG』の持ち道具を思わせるようでカッコよかった。

 思い出が味方にな~る♪

 思わずワンフレーズが口をついて出てしまった。近江八幡の中学で使っていたものは、基本はビニールの手提げで、ストラップを調整することで肩から掛けられるようにもなっていたが、いま手にしている森ノ宮のものはリュック……鏡に映してみると、形がしっかりしていて小粋なランドセル。人工皮革だけど、緑地に細い赤のラインが入っていてオシャレだ。サブバッグは、同じデザインで、近江八幡の時と同じ手提げにも肩掛けにもできるものだったけど、一見コットンで出来ているように見えて、シックで高級感。

 ウフフフ(n*´ω`*n)

見とれているうちにお昼になった。残ったご飯でチャーハンを作っている間も。テーブルに置いて眺めながら作ったので、少し焦げてしまった。

 お焦げの味は、程よいというか、美玲の十三年の人生そのもののような感じがした。

 父親がいない寂しさ、伯父家族への遠慮、それは苦さだった。死んだお母さんは美玲を産むと、大阪の学校を辞めて、もう一度滋賀県の高校の先生になった。何度か転勤したが、美玲が物心が付いてからは、大津や長浜の高校で、いつも帰りが遅く、その間、馴染めない伯父の家に居るのも辛く、学校の図書室や街の図書館で過ごすことが多かった。
 お母さんは、亡くなる三日前に美玲を枕許に呼び「万一のことがあったら、お父さんに連絡を取るように」と言っていた。それから、思いがけず乙女母さんが来てくれるまでは火宅のようなものだった。

 最初に来た教科書を入れてみた。全部入れるとメインバッグもサブバッグもパンパンになったが、美玲には、それが、これからの人生の希望のように思えた。
 午後からは、靴と体操服一式が来た。やっぱり公立中学のときのよりもオシャレで、美玲は着替えてみたかったが、一番楽しみにしている制服が来るかもと思うとおちおちファッションショーをするわけにはいかなかった。

 とうとう、その日、制服は来なかった。

 けれどお父さんもお母さんも早く帰ってきてくれた。

「なんや、制服はまだか……」

 お母さんは、美玲と同じテンションでガックリしていたが、お父さんは落ち着いていた。

「少し、補正をお願いしたからな、時間がかかるんだろう」

 森ノ宮での、お父さんを思い出した。

「メジャーを貸してください」というと、お父さんは美玲の体のあちこちを計りだした。親でなかったらセクハラだと思うような計り方だったが、既成の七号サイズでは、線の細い美玲では合わないところがあり、業者に電話で補正の注文を付けていた。

「いやあ、これから大きくなられますから」

 という業者のアドバイスに、父は、こう答えた。

「大きくなったら、また買い直します!」

 その補正で遅れていると言いながら、じゃ、お父さんは、なぜ、こんなに早く帰って来たのだろう……?

「あんたも待ち切れへんねやろ(o˘д˘)」

 乙女お母さんが、お父さんを冷やかした。 

「管理職は、遅までおったらええ言うもんとちゃうねん!」

 と、なぜか意地になっていた。

 そして、昨日、美玲は朝から新品の教科書を読んだりしていたが、さすがに成績優秀な美玲も、ちっとも中身が頭に入ってこなかった。昼に、またチャーハンをこさえていると(美玲が作れるのは、これしかない)宅配便がきた。喜んで玄関に出ると宅配屋さんは、A4の段ボールの袋を置いていった。宛名は美玲、注文主はお母さんだった。開けてみるとラノベが出てきた『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』という、大橋むつおという人の作品だった。あまり上手いとは思えない表紙絵に、かえって新鮮さを感じて、読み出した。序章だけで止めておこうと思ったら、面白くてうかつにものめり込んでしまった。

 そして、お母さんが帰ってくるのと、宅配便が来るのがいっしょになった。お母さんは、その日は遠足で、帰ってくるのが早かったのだ。

「ミレちゃん。来たよ、来たしい(*^ω^*)!」

 賑やかにお母さんが制服の箱を開けながらリビングに入ってきた。

――わたしと忠クンは……二人、あらかわ遊園で、この半年にわたる物語を振り返り、そっと栞をはさんだところです――

 ふけっていた余韻は、ふっとんでしまった。乙女さんは、美玲をさっさと裸にして、制服を着せた。これも親でなければセクハラである。

「「うわー!」」

 同じ言葉が、母子の口から出た。亭主の補正注文が功を奏して、美玲はまるでアイドルの制服姿だった。で、それをスマホで撮って二秒で亭主に送った。

――直ぐ帰る――

 そのメールが着いて、きっちり四十五分後に正一が帰ってきた。

「うわー、やっぱり生で見るとちゃうなあ!」

 とりあえず、娘の制服姿に大感激したあと、正一は、亭主として夫婦のイッチョウラを出すことを命じ、一家で正装し終わると車を出した。

「あんた、写真屋さんには予約入れたんのん?」
「転入試験の日に予約入れた!」
「お父さんも、やるー!」

 写真屋のスタジオに入ると、美玲は迷った。言い出しかねているのである。乙女さんが気づいた。

「美子母さんやろ……?」
「は……はい」
「写真屋さん、ちょっとお願い」

 三人の新品親子の前に、小さな台が置かれ、美子お母さんのお骨の入ったリップクリームは可愛く花で飾られた。
 それから、美玲一人の立ち姿も別に撮られ、それは四枚焼き増しされ、それぞれ違った色のフレームに収められた。

 美玲は幸せだった。まるで昼間読んだラノベの主人公まどかのような感じで、人生の一ページに栞が挟まれたような気になった。

 その夜、予期せぬ電話が手島弁護士から掛かってきた。

『美子さんの遺産なんですが、生命保険だけは受取人が娘さんになっていまして、これだけは受け取ってください』

「しゃあないなあ」

 そう思いながら、これは実の母である美子さんの、美玲への餞別であるような気がした……。 

 

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