大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・131『オロオロ』

2022-11-05 14:45:22 | 小説4

・131

『オロオロ』穴山 彦  

 

 

 地球で戦争が起こると、火星人は身も世も無くオロオロしてしまう。

 火星で最大の戦争であったマース戦争の最中でも、満州戦争が起こると、ほとんど休戦状態になって、最前線では敵味方双方が、自分の戦争を放り出して、地球の戦争について情報交換をしたほどだった。

 戦争経験者には悪いんだけど、外で姉弟げんかをしていたら「おまえんちの父ちゃん母ちゃんが大喧嘩してるぞ!」と教えられ、心配になって自分たちの喧嘩どころではなくなるのと同じだ。

 これは、つまり、火星が真の意味で独立できていないことの現れだ。

 二十幾つの独立国になって、国家としては地球の国家と変わりがない。頭の中では分かっていても、開拓時代を入れても二百年の火星の国家群は心の底では自信が無い。

 我が扶桑は、建国以来幕府の体制をとっていて、他国よりは求心力が強い。

 それは、日本史における三つの幕府の体制が上手く機能したからだ。

 鎌倉幕府は、世界で唯一モンゴルの侵略を跳ね除けた。室町幕府は勘合貿易で貿易立国の萌芽を示し、江戸幕府は地球史でも稀な非武装平和国家をニ百六十年の長きにわたって実現した。

 その国号と在り様を内外に示している扶桑だけれども、今般の西之島紛争が本格的な日漢戦争になりはしないかと、この三日余り、大人は仕事が手に付かず、学生も勉強どころではない。

 集めた限りの情報では、西之島は南方の海上と島内で武力衝突が起こっている。

 西之島は日本領ではあるけれど、パルス鉱採掘の特区に指定され、かなりの自治権が認められ、小規模ながら海賊防衛のために戦闘部隊も保持している。

 現在は、国際社会の注目もあって、漢明国も艦隊の保全と島内の同国人保護以上の動きは控えている。

 日本政府は、以上の状況から、監視も含めて軍の派遣を見送っている。

 一方、満州、南西諸島方面では漢明軍の終結も確認されており、大局的なは一触即発の状態と言えるだろう。

 

「ちょっと、なんなのよ、この生ぬるくて掴まえどころがなくて、まとまりのない記事は!?」

 

 扶桑通信のゲラを握って、ミクが小姓宿舎に飛び込んできた。

 他の寄宿生も、ミク程の馬力ではなくとも、似たような非難の目で戻って来るだろう。

 まずは、仲間から叱られるところから、この事変への、大げさに言えば、僕たち寄宿生の対応……いや、まだ現実世界に踏み出すのには数か月ある僕たちの身の置き方を決めてみようと思う火曜日の午後だった。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・15『思わず歯ぎしり……我ながら可愛くない』

2022-11-05 07:05:07 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

15『思わず歯ぎしり……我ながら可愛くない』  

 

 


 お気楽そうに手を振るのがやっとだった。

 バックミラーに、いつまでも不安そうに見送るまどかの姿が見える。
 フェリペの通用門を出るまでの、ほんの数十秒なんだけど、やたらに長く感じられる。

 体が、グイっと左に傾き、四トンの巨体は通りに出た。

「いつもの、かけます?」

 馴染みの運ちゃんが気を利かせてくれる。返事も待たずにオハコのポップスをかけてくれた。運ちゃんと二人のデュオになった。

「この曲って、Mアニメのテーマミュージックなんですよね。家で唄ってたらカミサンに言われました」

「わたしも。そのアニメからこのミュージシャンにハマちゃったのよ」

「へえ、そうなんだ」

 運ちゃんは、わたしがダッシュボードに片足乗っける前に、缶コーヒーをとった。

 運ちゃんは飲み残しの缶コーヒーを飲み干すと、昨日のお天気を挨拶代わりに確認するような気楽さで聞いてきた。

「なんか、あったんすか?」

「どうして?」

「なんとなくね……」

 ルームミラーにウィンクした運ちゃんの顔が見えた。

「オトコがらみ……かな。先生ベッピンさんだから」

「ドキ……!」

 大げさに胸に手を当てとぼけておく。大方のとこ外れてはいるが、二割方はあたっている……。

「すんません、ここからは進入禁止だ……」

 話のことかと思ったら、グイっとハンドルがきられた。

――進入禁止――この先、工事中の看板が、助手席に流れる景色の中に一瞬見えた。

 それから、運ちゃんは黙って運転に専念した。予定にない道を走っているせいか、わたしに気を遣ってのことか、判断がつきかねた。おのずと、わたしは物思いにふけった……。


 病院に行くと、受付でその場所を告げられた……集中治療室。

 最初に怖い顔をした教頭の顔が飛び込んできた。その向こうに潤香のご両親。
 気の弱いバーコードは、ご両親に顔を向けられず、ずっとドアを見ていたんだろう。

「先生、お忙しいところすみません」

 潤香のお母さんが頭を下げた。

「いえ、それより……」

 わたしの言葉で上げたお母さんの顔は戸惑っていた。

「実は……」

 母親の言葉が続くと、潤香のお父さんが割って入ってきた。

「先生、あんた、なんでこのこと言ってくれなかったんだ!?」

「は……?」

 出されたお父さんの手には、潤香のスマホが乗っていた。

「大変なことですよ、これは!」

 スマホの文面を読む前に、バーコードがつっこんできた。

「すみません」

 言葉だけでシカトして、スマホの画面に目をやった。ヤマちゃんの気をつかったメールの一つ前のメールが目に入ってきた。

―― 今日は、ほんとうにすみませんでした。不注意からとはいえ、申し訳ありませんでした。タンコブ大丈夫ですか? 明日の舞台楽しみにしてますね。K高 工藤美弥 ――

「送信履歴、と写メも見てやってください」

 スクロールしてみた。

―― 石頭だから大丈夫。K高の芝居はソデで観てました。がんばってましたね♪ 明日はよろしく。 芹沢潤香 ――

 そして、写真を見ると、K高のポニーテールと潤香のツーショット。そして、背後に少し離れて怖い顔をしたわたしが写っていた。

「先生、あんたこの事故を見てたんでしょ?」

「はい。こんな大事になると思わずに……申し訳ありませんでした」

「かわいそうに、潤香は……」

 お父さんが向けた顔の先には、集中治療室のガラスの向こうに潤香が横たわっていた。

 長い髪を剃られた頭には包帯が巻かれ、ネットが被せられ、体のあちこちにはチューブが繋がれていた。

「こないだ、頭を打ったばかりなんだ、気のつけようがあるでしょうが。こんな危険な裏方やらせずとも!」

「申し訳ありませんでした。不注意でした。本当に申し訳ありませんでした」

「これ、持っていてやってくださいな」

 渡されたのは、一束の潤香の髪の毛だった。

「……これが遺髪になるようなことになったら、訴えてやるからな!」

「あなた……!」

 お母さんがいさめると、お父さんは充血した目に涙を溢れさせて去っていく。バーコードは最敬礼で見送った。

「すみません、先生。主人はあんな気性なもんですから……そんなものを渡したりして」

「いえ、わたしが不注意であったことは確かなんですから。戒めとして……潤香さんの回復を祈るためにも持っています」

 そこまで思い出して胸が震える。

 と言ってもしおらしく動揺しているわけじゃない。この件は、可愛いく萎れて済む話じゃない。

 胸ポケットのスマホが震えたんだ。

―― 年内には帰る ノッペラボーになるくらい顔洗って待ってて 咲姫 ――

 チ

 妹からのメールに、舌打ち一つしてリュックに突っ込んだ。

 突っ込んだ拍子にビニール袋が手に触れる。

 ウ

 ビニール袋には潤香の髪が入っている。

 ギギ

 思わず歯ぎしり……我ながら可愛くない。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 里沙          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋          城中地区予選の審査員
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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