せやさかい・361
セイ! トアッ! ハアッ! ハッ! ノアアア!
ゲシ! ドガ! シュィン! ビシ! バシ! ドゲシ!
ハアッ! ハッ! ノアアア! セイ! トアッ!
ドガガガ! ズッゴオオオオオン!
裂ぱくの掛け声とサウンドフェクトがピロティー前の広場に木霊して、満場の生徒や教職員、テレビ局や卒業生やご近所の方々、果ては交通整理の警備員さん、マスコミ関係、一部某国の諜報部員たちが固唾を呑んで『サクラ・ウメ大戦』の練習を見守る。
「オッケーー!」
メガホンを通しても損なわれないアニメ声が本番を五日後に控えた文化祭の雰囲気を盛り上げる。
「うん、やっぱ、ソフィーとソニーのアクションはピカイチだわ。取り巻きは見とれてりゃいいからね、下手に動くとケガするからね。ただ、ただ、いい? みんな『白梅隊』と『八重桜隊』の敵味方同士なんだから、自分の隊長を応援してね。両方声援したくなる気持ちは隊長二人が和解したあと。いいね!」
ハーーーーイ!!
「じゃ、五分休憩して、ラストいきまーす! 休憩!」
緊張がほぐれて、静かなどよめきが起こる。
なんだか黒澤明の撮影現場みたい(見たことないけど)
ソニーが短期留学で入ってきて『サクラ・ウメ大戦』のボルテージはさらに上がった。
百武真鈴のアイデアで、わたしのチームはピロティー前の広場での公演が二回追加された。
ソフィーとソニーのアクションは体育館のステージでは収まり切れない。
ステージ用にアレンジしたらと先生たちは言うけど「それではもったいないです!」ということで急きょ決定。
今日のリハーサルは大っぴらな宣伝こそはしないけど、SNSで情報は流してあるので、ご近所やファンの人たちにテレビ局までやってきた。
一時は開催まで危ぶまれた文化祭だけど、ちょっと期待が持てる。
わたしたち三年生は、最初で最後の文化祭だからね。
「C国、K国、R国のエージェントが入っていた」
「アメリカとイギリスも」
ソフィーとソニーが囁く。
「あ、あ、そう……まあ、もめ事だけは起こさないでね(^_^;)」
「「相手の出方次第」」
「こ、声揃えなくても……」
ソニーが派遣されたのは文化祭のためでも、本人が留学を熱望していたためでもない。
正式にヤマセンブルグの王女になったので、警備のためなんだ。
近ごろの世界情勢、安倍さん暗殺で露呈した日本の危うさを鑑みると、今までの警備では不安……というお婆ちゃんの気持ちが反映されている。まさに老婆心。『今の日本は頼りない』というヤマセンブルグ、ひいてはEUのメッセージが籠められている。
「次の登場なんだけど」「ちょっと変えてみたいんだけど」
一回目のリハを終えたあと、二人は百武真鈴に申し入れた。
「え、また?」
二人はリハをやる度にアクションに変更を加えている。
「今度はね……」
意地悪なソフィーは、わたしには言わない。
「だって、リッチ(ご学友モードの時のわたしの呼ばれ方)は表情に出るから」
「さくらたちにもすぐバレるし」
うう、容赦がない。
「まあ、ひとにケガさせないようにね」
「「もちろん!」」
で、最終リハでは、本館と図書館の屋上から飛び降りて登場した!
それも、盛大にジャンプして、着地したのは門の外!
ウワアアア!
盛大な歓声と拍手をもらってから、軽々と塀を飛び越えて入って来る。
「ちょっと、やり過ぎ」
やり過ぎを注意したら、シレっと、こう言った。
「日本の公安がダレてたんで……」
「……ちょっとカツを入れてきました」
ああ、やれやれ……
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
- 月島さやか さくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首