大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・361『盛り上がる公開リハーサル』

2022-11-19 09:44:03 | ノベル

・361

『盛り上がる公開リハーサル』頼子    

 

 

 セイ! トアッ! ハアッ! ハッ! ノアアア!

 ゲシ! ドガ! シュィン! ビシ! バシ! ドゲシ!

 ハアッ! ハッ! ノアアア! セイ! トアッ!

 ドガガガ! ズッゴオオオオオン!

 

 裂ぱくの掛け声とサウンドフェクトがピロティー前の広場に木霊して、満場の生徒や教職員、テレビ局や卒業生やご近所の方々、果ては交通整理の警備員さん、マスコミ関係、一部某国の諜報部員たちが固唾を呑んで『サクラ・ウメ大戦』の練習を見守る。

「オッケーー!」

 メガホンを通しても損なわれないアニメ声が本番を五日後に控えた文化祭の雰囲気を盛り上げる。

「うん、やっぱ、ソフィーとソニーのアクションはピカイチだわ。取り巻きは見とれてりゃいいからね、下手に動くとケガするからね。ただ、ただ、いい? みんな『白梅隊』と『八重桜隊』の敵味方同士なんだから、自分の隊長を応援してね。両方声援したくなる気持ちは隊長二人が和解したあと。いいね!」

 ハーーーーイ!!

「じゃ、五分休憩して、ラストいきまーす! 休憩!」

 緊張がほぐれて、静かなどよめきが起こる。

 なんだか黒澤明の撮影現場みたい(見たことないけど)

 

 ソニーが短期留学で入ってきて『サクラ・ウメ大戦』のボルテージはさらに上がった。

 

 百武真鈴のアイデアで、わたしのチームはピロティー前の広場での公演が二回追加された。

 ソフィーとソニーのアクションは体育館のステージでは収まり切れない。

 ステージ用にアレンジしたらと先生たちは言うけど「それではもったいないです!」ということで急きょ決定。

 今日のリハーサルは大っぴらな宣伝こそはしないけど、SNSで情報は流してあるので、ご近所やファンの人たちにテレビ局までやってきた。

 一時は開催まで危ぶまれた文化祭だけど、ちょっと期待が持てる。

 わたしたち三年生は、最初で最後の文化祭だからね。

「C国、K国、R国のエージェントが入っていた」

「アメリカとイギリスも」

 ソフィーとソニーが囁く。

「あ、あ、そう……まあ、もめ事だけは起こさないでね(^_^;)」

「「相手の出方次第」」

「こ、声揃えなくても……」

 ソニーが派遣されたのは文化祭のためでも、本人が留学を熱望していたためでもない。

 正式にヤマセンブルグの王女になったので、警備のためなんだ。

 近ごろの世界情勢、安倍さん暗殺で露呈した日本の危うさを鑑みると、今までの警備では不安……というお婆ちゃんの気持ちが反映されている。まさに老婆心。『今の日本は頼りない』というヤマセンブルグ、ひいてはEUのメッセージが籠められている。

 

「次の登場なんだけど」「ちょっと変えてみたいんだけど」

 

 一回目のリハを終えたあと、二人は百武真鈴に申し入れた。

「え、また?」

 二人はリハをやる度にアクションに変更を加えている。

「今度はね……」

 意地悪なソフィーは、わたしには言わない。

「だって、リッチ(ご学友モードの時のわたしの呼ばれ方)は表情に出るから」

「さくらたちにもすぐバレるし」

 うう、容赦がない。

「まあ、ひとにケガさせないようにね」

「「もちろん!」」

 

 で、最終リハでは、本館と図書館の屋上から飛び降りて登場した!

 それも、盛大にジャンプして、着地したのは門の外!

 ウワアアア!

 盛大な歓声と拍手をもらってから、軽々と塀を飛び越えて入って来る。

「ちょっと、やり過ぎ」

 やり過ぎを注意したら、シレっと、こう言った。

「日本の公安がダレてたんで……」

「……ちょっとカツを入れてきました」

 

 ああ、やれやれ……

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・29『阿弥陀さま?』

2022-11-19 06:41:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

29『阿弥陀さま?』  

 

 

「おーい」

 という声で目が覚めた。

 ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。

 十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。

 真ん中に大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。

 でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?

 ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。

「気がついた、まどか!?」

 ドアップが叫んだ。

「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」

 阿弥陀さまが文句を言った。

「すみません」

 ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。

 そして、ようやく気づいた。


―― わたしってば、助かったんだ ――


 頭の中がジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。

 これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。

 阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は看護師のオネエサンだった。

 その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。

――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……?

「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」

 阿弥陀……お医者さんが言った。

 わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。

 手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。

 それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。

「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」

 お医者さんが笑顔で言った。

――よかった。

「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」

 さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。

「ちょっとチクってするよ……」

 チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。

 お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。

 やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。

「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。

「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」

 お父さんが、そいつを押し出した。

「ども、無事でなによりだった……」

 ヤツは……忠(ただ)クンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。

「ども、ありがとう」

 マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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