大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・096『ゆったり女子会』

2022-11-18 14:49:29 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

096『ゆったり女子会』   

 

 

 三人で出かけるのは初めてかもしれない。

 

 豪徳寺の駅近にイタ飯屋が出来たと言うので、玉ちゃんとねね子の三人で出向く。

「うわあ! なんか、お爺ちゃんに気を遣わせてしもうたかもしれん」

 出かけに、お祖父ちゃんくれた封筒を開けて玉ちゃんが恐縮する。

「おお、諭吉がトリオでいるニャ(^▽^)/」

「まあ、再来年には引退だし、諭吉にも旅をさせてやろうって気持ちなんだろ」

「え、ひるでの祖父ちゃんはとっくに引退してるニャ?」

「諭吉が引退するんだ。後継の渋沢栄一は、もう印刷にかかってるぞ」

「え、そうなのニャ? 短かったニャ、ついこないだまでは聖徳太子だったニャ」

「あたいは慶長小判が出た時ん感動がふてねえ、それまで、日本中バラバラやった貨幣が統一されたときはビックリしたじゃ」

「ああ、そういうこともあったっけニャ?」

「ねね子、あたいと大して変わらん歳なんに、感動うしねえ」

「あはは、仕方ないよ。猫に小判て言うじゃない」

「あ、バカにすんニャ! ねね子は、全国招き猫の総本家ニャ!」

「なにかお土産買うて帰るぞ」

「「うんうん」」

 話がまとまって、商店街の先に新装開店の花輪に彩られたイタ飯屋が見えてきた。

 豪徳寺の商店街にはアーケードが無い。道幅も狭くて、いかにも東京郊外の駅前通りという感じなんだけど、わたしは好きだ。

 スコンと空が覗いて印象が明るい。大きな店というと高架下のデミーズか、高架を出てすぐのみそな銀行ぐらいのもので、その他は世田谷ローカルというような地元店舗が寄り添うように並んでいる。シャッター締め切りの店というのもほとんどなくて、適度な賑わいが好ましい。いまは姿を消したが、クロノスが時計屋を開いていたのもむべなるかなだ。

 お店も新装開店の割には行列が出来ているわけでもなく、それでも三人揃って座れる席は空いていなくて、愛想のいいウェイトレスが、急きょ折り畳みの木製椅子を出してくれて、期せずして日向ぼっこ。

「どうぞ、お待ちの間にメニューをお決めくださ~い(^▽^)」

 差し出されたメニューを開くと、美味しそうなコース料理や単品料理がいっぱい並んでいる。

「イタ飯限定というわけでもないんだなあ……」

 定番のパスタやピザの他にもジャガイモや牛肉の煮込み的な南ドイツの家庭料理風のものまであって、好感が持てる。アルプスを挟んだ北イタリア、南ドイツ、南フランスあたりの家庭料理をベースにアレンジしたメニューだ。

「テイクアウトも充実してるニャー!」

「ほんとだ、柔らかそうで、爺ちゃんばっばんにも喜んでもれそうじゃ」

「じゃあ、テイクアウトに……これとこれ」

「これも、いいニャ(´∀`)」

 席に案内されるころには、自分たちのとお土産のテイクアウトまで決まって、久々のゆったり女子会をもつことができた。

 

「わーい、諭吉と一葉が残ったニャ!」

 

 お勘定をして、意外にも残ったお札をヒラヒラさせて喜ぶねね子。

「ちょっと、恥ずかしいからやめろ!」

「だってだって、嬉しいニャぁ~」

 苦情を言うと、ますます調子に乗るねね子。

「あはは……あれぇ?」

 それを楽し気に見ていた玉ちゃんが、ふと、商店街の空を指さした。

 ひらり……はらり……

「え、お札ニャ?」

 空からひらりはらりとお札が舞い降りてくる。

 諭吉も居れば、一葉、野口英世も……伊藤博文……聖徳太子……大隈重信……板垣退助……神功皇后……武内宿禰……

 道行く人たちも空を見上げたり、手にとってみたり……

 しかし、まともお札は、最初の方だけで、途中からは半分や三つに切られたものがほとんどになった。

 描かれている肖像たちも、苦悶の表情になってきて、手に取った人たちも怖気を振るって投げ出した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・28『凛然とした禿頭』

2022-11-18 07:48:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

28『凛然とした禿頭』  

 

 

「ありがとう……」

 言い尽くせない感謝の気持ち、それが、ありきたりの言葉でしか出てこないことがもどかしかった。

 修学院高校の制服は、問わず語りに、あらましのことを語ってくれた。

 彼は、グラウンドに面した道路を自転車で通りかかり、倉庫の火事に出くわした。だれか人が取り残された様子に、開け放たれた通用門から一気に自転車でグラウンドを駆け抜け、中庭の池に飛び込み、全身を水浸しにして倉庫に突入。すんでのところでまどかを助けたようだ。

 ただの通りすがりがここまでやるか……?

「ところで……」

 と、聞きかけたところで救急車が消防車といっしょにやってきた。

 検査の結果、まどかは、かすり傷。修学院も無事と分かった。

 ただ、まどかはインフルエンザにかか罹っていることが分かり、注射一本うたれて、そのまんま駆けつけたご両親に付き添われ、タクシーで自宅に直行した。それを見送って振り返ると、教頭先生が怖い顔をして立っていた。

 一週間で二度も生徒を危険な目にあわせ、火事まで出してしまった。

 ただでは済まない。とにかく校長……下手をすれば、理事長の呼び出しと覚悟した。

「今から学校に戻って、ご報告を……」
「それには及びません。こちらから連絡するまで、自宅待機……なさっていてください」

 手回しのいいこと、さっそくの自宅謹慎か。


 三日は謹慎させられるかと思った。その間にわたしに関する悪い資料が集められ、理事会で、わたしのクビが決定……と、思いきや、明くる朝には呼び出された。

 職員室にいくと「気の毒に」と「ざまあ見ろ」というオーラを等量に感じた。

「貴崎さん、理事長室に直行してください」

 教頭が頭を叩きながら背中で言った。早手回しに「先生」という敬称も外している。

 理事長室には、来年には卒寿という理事長が一人で待っていた。

「大変でしたな、貴崎先生」

 来客用のソファーにわたしを誘って、理事長が言った。東向きの窓から差し込む朝日がまぶしかった。

「不徳の致すところで……」

 頭を下げかけると、テーブルの上にスポーツ新聞が四つ折りになっているのが目に入ってきた。

 頭に血が上った。

『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』

 一昨日の晩、あのホテルの前で、伸びをしている小田先輩と大あくびをしているわたしの写真が大写しで出ていた。わたしは目こそ隠されていたが、知り合いが見れば一見してわたしと分かる。記事も、学校名は伏せられていたが、二三行も読めば乃木高と知れる。

 わたしは、ほんの一二秒でそれを読み取った。

「いやあ、つまらんものをお見せしましたな」

「これは……?」

「さっき、教頭の識別子が持ってきましてね。いや、つまらんガセネタであることは分かっています。電算機で確認もしましたが、その高橋さんのプロダクションが明確に否定しておりましたよ。なんせ、あなたたちの前を通ったお巡りさんの証言も得ていることですから」

 そう言えば、あのとき二人の前をお巡りさんが通っていったっけ……。

「識別子も、つまらんものを持ってくるもんだ」

 理事長は、見事に禿げあがった頭を撫でた。

 その手を見て思い出した。「識別子」とは「バーコード」の和名である。思わず吹きだしかけた。どうも、このお気楽さは、我ながら女子高生であったころから変わりがない。

「芹沢潤香さんのことなんですが」

「はい」

 わたしは緩みかけた表情を引き締めた。

「今朝早く、お父さんが来られましてね。職員室で、ご心配のあまりなんでしょう、識別子に詰め寄られていらっしゃいました。潤香さんの意識が戻らんようです」

「え、お医者さまが直に意識は戻るだろうって……」

「ええ、だからこそのご心配なんでしょう。もって行き場のない不安を学校に持ち込んでこられたんです。いや、戦時中にもあったもんです。戦闘中に意識不明になり、半年たって意識が戻ったら、終戦になっていた奴もおりました。無論、医学上の問題はよく分かりません。しかし、ここで学校が直ちに責任をとらねばならない問題ではないと認識いたしております。そこのところは場所を、ここに移して、校長さんにも立ち会って頂いて、お父さんには了解はして頂きました」

「……わたしの責任です」

「思い詰めないでください。貴崎先生、潤香さんのことは、お気の毒ではありますが事故であったと認識しております。最初に見たてた医師が大丈夫と判断したんです。MRIでも異常は認められなかった。それに基づいて医師は判断したんです。倉庫の火災も、昨年先生から、配線の垂れ下がりを指摘されていました。これを放置していたのは学校の責任であります」

「でも、わたしも、それを忘れてしまっていました」

「貴崎先生。無理かもしれませんが、ご自分をお責めにならないようにしてください。学校も組織ですので、一応理事会にはかけねばなりませんが。わたしの考えは、今申し上げた通りです」

「ご配慮ありがとうございます。でも……では、失礼します」

 わたしは席を立った。朝日はもうまぶしくないところまで上っていた。

「貴崎先生」

「はい」

「あなたは、淳之介……お祖父さんの若い頃にそっくりだ。熱くて、一徹者で、不器用なくらい真っ直ぐだ」

「……祖父をご存じなんですか?」

「こりゃいかん……こいつは内緒事でしたな」

 上りきった朝日が、窓ぎわに立つ理事長の凛然とした禿頭をまぶしく照らしだした。

「では、失礼します」


 理事長室を出ると胸が震えた。


 怒りでも感動でもない。内ポケットのスマホが着信を知らせている。

 二秒で確認。

 高橋先輩からのメール……学校を出たら電話しよう。

 懐に仕舞った瞬間、また着信。

 一秒で確認。

 妹の咲姫、こいつは無視。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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