大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠8[思い出エナジー・2]

2022-11-14 08:26:01 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

8[思い出エナジー・2]   

 

 

 疾風(高機動車)の前方30メートルほどのところに、チャドル姿の女性が倒れこんだ。

 隊長は、すぐ全車両に停止を命じた。

「隊長、自分が見てきます」

 山本准尉は、隊長と目が合ったのを了解と解して疾風を飛び出した。自爆テロの可能性があるので、うかつに大人数で救助に向かうわけには行かなかった。


「きみ、大丈夫か?」


 姿勢を低くし、二メートルほど離れたところから、山本准尉は女に声を掛けた。爆発を警戒してのことでは無かった。そこここに現地住民の目がある。異民族の男が女性の体に触れるのははばかられるのだ。

「ゲリラに捕まって、やっと逃げてきました。日本の兵隊さんですね……助けてください」

 チャドルから、そこだけ見せた顔は、まだ幼さが残っていた。


「……分かった。君の村まで送ってあげよう」


 山本は、優しく、でも決意の籠った声で少女に応えた。

 山本は、いったん疾風に戻ると装具を解いて、隊長に一言二言声を掛け、様子を見ていた現地のオッサンから、ポンコツのトヨタをオッサンの半年分の収入くらいの金を渡して借りた。オッサンは喜んだが、目で「気をつけろ」と言っていた。それには気づかないふりをして、少女に荷台に乗れと言った。座席に座らせるわけにはいかない。イスラムの戒律では、男と女が同じ車に乗ることはできない。荷台に乗せるのが限界である。

「あたし、体の具合が悪い。日本のお医者さんに診てもらえませんか?」

「あいにくだが、男の医者しかいない。あとで国連のキャンプに連れて行ってあげよう。それまで我慢だ」

 山本が目で合図すると、自衛隊の車列は作業現場へと移動し始めた。山本は長い敬礼で車列を見送ると少女に二本ある水筒の一本を渡して、トヨタを発進させた。

「どうして停まるの?」

 少女は、少しこわばった声で山本に聞いた。

「サラート(礼拝)の時間だろ。専用の絨毯はないけど、これで我慢してくれ」

 山本は、毛布を渡してやり、コンパスでメッカの方角を探し、コンパスの針を少女に見せた。少女は毛布に跪きサラートを始めた。山本は異教徒なので、少女の後ろで跪いて畏敬の念を示した。

「どうもありがとう」

 サラートが終わると、少女は毛布を折りたたんで山本に返した。

「信心は大事にしなきゃな……よかったら、そのチャドルの下の物騒な物も渡してもらえるとありがたいんだけど」

 少女の目がこわばった。

「これを渡したら、村のみんなが殺される……」

 少女の手がわずかに動いた。

「ここで、オレを道連れにしても、日本の兵隊を殺したことにはならない。君を送る前に隊長に辞表を出してある。だから、オレを殺しても、ただの日本人のオッサンを一人殺したことにしかならない。後ろを向いているから、その間に外しなさい」

 山本は、無防備に背中を向けた。

 戸惑うような間があって、衣擦れの音と、なにか重いベルトのようなものを外す音がした。

「ありがとう。君も村の人たちも殺させやしないよ」

 それから、山本は少女を村に送り届け、トーブとタギーヤ(イスラムの男性の衣装)を借りた。

 山本は、少女に地図を見せた時、二か所に目をやったことに気づいていた。一か所は自分の村で、もう一か所は、それまで彼女が居たところだろうと見当をつけた。

 案の定、少女が見ていたところは岩場が続く丘の裾野で、声がかかる前に銃弾が飛んできた。ゲリラの前進基地のようだ。車を降りると「手を挙げて、こっちに来い」と言われた。

「隊長、こいつ体に爆弾を巻き付けている!」

 身体検査をした手下が隊長に言った。

「スイッチは、この手の中だ。動くんじゃない! 血を流さずに話し合おうじゃないか」

 そのあと二言三言やり取りがあった後もみ合いになった。

 そして、もつれ合い倒れたショックで、自爆スイッチがオンになり、山本は10人あまりのゲリラを道ずれに死んでしまった。

 日本のメディアは、現地で自衛隊員が除隊したことと、山本が民間人として死んだことを別々に報道した。当然殉職とは認められなかった。


 そして、山本が日本に残した一人娘は、横須賀の海上自衛隊の親友に預けられた。


「だから、あたしの本当の苗字は山本っていうんだ……」

 長い物語を語り終え、天音はため息をついた。

 三笠は速度を上げて遼寧とヴィクトリーを追い越した……。


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・24『幽体離脱』

2022-11-14 06:25:08 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

24『幽体離脱』  

 

 

「なんで、ちゃんとたたまないのかなあ!」

 くしゃくしゃになった衣装を広げながら、衣装係のイト(伊藤)ちゃんがぼやいた。

「ボヤくなって、大ラスで、審査長引いて……」

 と、山埼先輩。

「結果があれだったんだからな」

 と、勝呂先輩がうけとめる。

 放課後の倉庫。夕べは、とりあえずの片づけしかできなかったので、本格的な片づけと、衣装やらの天日干し。

 衣装は一見きらびやかそうにできているけど、洗濯できないものがほとんどで、天日干しにして除菌剤をスプレーする。シワの寄ったものは平台を尺高(約三十センチ)にして、その上でアイロンをかける。

 昨日の疲れと審査結果で、一年が三人と二年が一人休んでいる。そのうちの二人は学校には来ていたのに、クラブには「休みます」と舞監の山埼先輩にメールをよこしただけ。

 思えば、これが演劇部崩壊のキザシだったのかもしれない。

 里沙は峰岸先輩とマリ先生といっしょに、道具や衣装の置き場所を相談している。

「新しい倉庫が欲しいですね」

 ポーカーフェイスの峰岸先輩がつぶやく。

 たとえポーカーフェイスでも、たとえ呟きであったとしても、峰岸先輩が口に出して言うのは、わたしたちなら「やってらんねー!」と叫んだのと同じ。

「進駐軍だって、手をつけなかったってシロモノだもんね」

 マリ先生もつぶやく。

 マリ先生がつぶやくのは命令と同じなんだけど。さすがにこれは単なるボヤキでしかない。

「進駐軍って、なんですか?」

 里沙が真面目な顔で聞く。一拍おいてポーカーフェイスと、空賊の女親分が爆笑した。

―― 明るさは滅びのシルシであろうか ――

 はるかちゃんの言葉がなんの脈絡もなく思い出された。

「ま、峰岸クンが卒業して出世したら、寄付してよ」

「先生こそ……」

「ん……!?」

「失礼しました」

「え?」

 里沙一人分かっていない。わたしも、そのときは分かっていなかった。

「まあ、やっぱり大きな変更はできませんね」

 峰岸先輩が結論づけて、三人が倉庫から出てきた。

「ち、アイロンきれちゃった」

 イトちゃんが舌打ちした。

「ボロだからな」

 と、中田先輩。

「それ、去年アンプ買ったポイントで買ったから、まだ新しいよ」

 カト(加藤)ちゃん先輩。

「電源じゃないのか……」

 山埼先輩が呟いた。

「……なんか、焦げ臭くないか?」

 ミヤ(宮里)ちゃん先輩が、コードをたどって倉庫へ……。

 ストップモーションをかけたような間があった。

「火事だよおおおお!」

 ミヤちゃん先輩が駆け出してきた。

「え!?」

 みんなが同じリアクションをした。

「ヌリカベ一号が、上の方から燃えてます!」
「あ、あそこ、天井の配線が垂れ下がっていたんだ!」

 山埼先輩が思い出した。

「だれか、火災報知器を鳴らして! あとの者は消火器集めて!」

 マリ先生が叫ぶ!

「危険です。火のまわりが早い!」

 誰かが叫んだ。もう倉庫の軒端から白い煙が吹き出しかけている。

 ヂリリリリリリリ!!

 火災報知器が鳴った!

「あ、わたしの、潤香先輩の衣装!?」

 自分が叫んでいるようには思えなかった。頭に病院で見た潤香先輩の姿が浮かび、どうしても、あの衣装だけは取りに行け! と、悪魔だか神さまだかが命じている。

「だめ、もう間に合わないよ!」「やめとけ!」「まどか!」「まどかっ!」

 そんな声々が後ろに聞こえた。大丈夫、衣装ケースは入り口の近く。すぐに戻れば……。

 うそ……定位置に衣装ケースがない!? 

 そうだ、修理に出す照明器具を前に持ってきたんで、衣装ケースは奥の方だ……今なら、まだ間に合う。火はまだ天井の方を舐めているだけだ。体の方が先に動いた。とっさの判断。いや、反射行動。

 衣装は一まとめに袋に入れておいたのですぐに分かった。すぐにとって返そうと、スカートひらり……とはいかなかった。だれか悪魔みたいなのが、わたしのスカートを掴んでいる。ク、クソ……少し冷静になって見ると、スカートの端っこがパネルの角にひっかかっているのが分かった。

 他のスタッフのようにジャージに着替えていないことが悔やまれた。わたしは衣装整理の仕事だったんで、制服のまんま。

 普段だったら、こんなものすぐに外せる。でも、今のわたしってパニクってる。いっそスカート脱いじゃえば、あっさり逃げられるんだろうけど、こんなとこで半端な乙女心が邪魔をする……ワッ、パネルがまとまってわたしの上に落ちてきた! もう火は、立っていたときの頭の高さほどのところにきている! もうスカートを脱ぐどころか身動きもとれない。

「ゲホ、ゲホ、ゲホ……」

 息が苦しい……かろうじて、首にかけたタオルで口を押さえる。朝、しこたま汗を拭いて、ヨダレや鼻水も拭った。その自分の匂いが懐かしい……遠くでみんなが呼んでいる……背中が熱くなってきた。パネルに火がまわったようだ……かすむ意識……ごめんなさい、潤香先輩。先輩の衣装……燃えちゃいます……。

 その時、急に背中の重しがとれて、体が軽くなったような気がした……これって、幽体離脱……。

 わたし死ぬんだ……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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