大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・363『文化祭本番です!』

2022-11-24 16:20:38 | ノベル

・363

『文化祭本番です!』さくら    

 

 

 昼行燈(ひるあんどん)いう言葉があるやんか。

 

 ボンヤリっちゅうか、ボーっとしてるやつを指して言う言葉で、あんまりええ言葉やない。

「まあ、あの人すてきね! まるで昼行燈みたいに優しそう!」「そのセーター、淡い色合いがステキ! まるで昼行燈!」「このお弁当、昼行燈みたいに優しいお味ねえ!」とか言うて褒めたとしたら、アホかと思われる、場合によっては張り倒される。

 例外は、吉良上野介を討ち取るまでの大石内蔵助。色町で遊びまくったりしてて昼行燈みたいやと言われてて、あれでは討ち入りなんて企んでるはずないと世間を欺いた。

 そういう昼行燈みたいなもんやと思て期待はしてなかった。

 なにかっちゅうと、花火です。

 三年ぶりに行われる聖真理愛学院の大文化祭!

 ほとんどの取り組みが三年生中心、一二年生はサポートとかアシスタントにまわります。

 屋台とかの飲食店の大半は中庭のフードコートにまとめてある。入り口のとこに各店共通の食券売り場があって、各店舗で買ったもんは、どこで食べてもええねんけど、中庭のあちこちに特設のベンチとテーブルが設置されてて、半分以上のお客さんは中庭で食べます。

 中庭の花とか植栽は園芸部と総合授業で園芸をとってる子ぉらで、あちこちに油絵やイラストや彫刻の展示、むろん美術部、漫研の作品。

 中庭の中央には十二畳ほどの特設ステージ。ここでは、音楽部、軽音、筝曲なんかがBG的に演奏。あくまでBGなんで、エレキなんかはありません。

 グラウンドには、それよりも大きな野外ステージ。

 軽音、ブラバン、有志参加のバンドなんかの音の大きい出し物をやってます。

 むろん、体育館やら本館の教室では普通にクラスやらクラブの取り組みも。

 そのいちいちを説明したいねんけど、やっぱり『サクラウメ大戦』です。全部で四チームで四回の公演を体育館の出し物として上演したあと、昼の一番にピロティー前の野外公演。

 頼子先輩の園城寺ゆき、百武真鈴の長船さくら。

 なんちゅうても、百武真鈴は高校生声優で『恋するマネキン』で一躍人気声優のベストスリー入りした期待の新人、いや、中学三年でデビューしてるから、もう中堅、いや、ベテランの貫録。

 頼子先輩も『恋するマネキン』の最後四回は声優として参加(285『「恋するマネキン」を観る』)、この夏には正式にヤマセンブルグ公国の王女になったし、話題性も充分。

 わずか十分ちょっとの芝居やけど、半分近くは園城寺ゆきの「やさぐれ白梅隊」と長船さくらの「はみだし八重桜隊」の戦闘シーン! 双方にソフィーとソニーという現役の諜報部員兼シークレットサービスが入ってて迫力満点!

 そして『サクラウメ大戦』が終わったあとは、そのまま、ブラバンを先頭に参加者全員と希望者がハローウィンの仮装衣装を着てパレード!

 むろん事前に警察への届け出も怠りなく、校門前と駅前には地元警察のお巡りさんが出動してくれてます。

 

 ドーーーーン パチパチパチ ドーーーーン パチパチパチ ドーーーーン パチパチパチ

 

「昼行燈って、花火のことだったんだね!」

 メグリンが、空を見上げて感心。うちらも行進しながら空を見上げる。

「少しは前向いた方がいいよ(^_^;)」

 留美ちゃんのチェックが入る。

「せやかて、こんなんやと思わへんかったし……」

「昼間の花火って、煙と音だけになるかと思ってた……」

 その名も真鈴スペシャルという花火は、空中で破裂すると、一発当たり十個ぐらいの落下傘と無数のスパンコールをまき散らす。

 全部で百個ぐらいの落下傘がキラキラ光るスパンコールの中をユラユラと落ちてくるのは、ディズニーランドのパレードかっちゅうくらいのもんで、ほんまにスゴイ!

「キャ!」

 留美ちゃんがけ躓いて、メグリンが受け止める。

「ごめん、わたしも見入っちゃった(^o^;)……でも、あとの掃除大変そう……」

「苦労性だね留美ちゃんは(^_^;)」

「あ、ほら見てみぃ!」

 PTAのお母ちゃんらと先生、それに、学校に残った生徒らで掃除にかかってる。

「あれも、真鈴先輩が手配しておいたんだろうね」

「すごい人だね、頼子先輩も真鈴先輩も」

『こら、さくら隊、遅れてるぞ!』

 骨伝導イヤホンから真鈴先輩の声。

「「「は、はひ!」」」

 グループに一個づつ渡された時は、こんなもんいらんやろと思たんやけど、いやはや……。

「最初で最後の文化祭だから自由にさせてくれって言ってたけど」

「やっぱ、キチンとしてるよね先輩たち」

『ヘックチ!』

 イヤホンを通して、どっちの先輩かわからないクシャミが聞こえてきた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・34『ここからやり直してみよう』

2022-11-24 07:00:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

34『ここからやり直してみよう』  

 

 

 明くる日、かかりつけのお医者さんに行った。

「もう大丈夫だ。明日……は、土曜か。月曜から学校行っていいよ」

 先生が、狸のような体をねじ曲げ、カレンダーを見ながら言った。

「あの……」

 と、カーディガンを着ながらわたし。

「うん?」

 カルテに書き込みしながら背中で応える先生。

「明日、出かけてもいいですか?」

「デートかぁ?」

 と、カルテをナースのオネエサンに渡しながら先生。

「そ、そんなんじゃないですよ!」

 ウフフ

 ナースのオネエサンが笑う。

「ま、あらかわ遊園ぐらいにしときな……日が落ちる前には帰ること。で……」

「手洗いとウガイ!」

「まどかも、そんな歳になったんだ……」

 わたしの方に向き直った拍子にハデにオナラをした。

「ワハハハ、歳くうと緩んできちまってな……窓開けようか。昼に食った芋がよくなかったかな」

 先生は、お尻を掻きながら窓を開けた。思わず笑ってしまう。

 このユーモラスに騙されて、ガキンチョのころ、よく注射をされた。

「アハハ」

 と、笑っているうちに、ブスリとやられる。油断のならない狸先生だ。

「あらかわ遊園に行くんだったら、一つ教えおいてやろう。まどかもジンちゃん(うちのお父さん)に似て雰囲気と行きがかりってのに弱えからな……」

 老眼鏡をずらして、おまじないを教えてくれた。

 思わず吹きだした(灬º 艸º灬)。

 狸先生は、いつもこんな調子。昔ケンカ別れしかけたお父さんとお母さんを、こんなノリでヨリを戻したこともあるそうだ。

 ま、そのお陰で、わたしがこの世に生まれたってことでもあるんだけど。

 帰りに、しみじみとなじみの看板に目をやる。

――内科、小児科。薮医院……と、診療室の開けた窓からハデなくしゃみが聞こえた。


 狸先生に言われたからじゃない。

 ここからやり直してみようと思ったのさ。


 床上げ祝いにもらったシュシュでポニーテール。ピンクのネールカラー、サロペットスカートの胸元には紙ヒコーキのブロ-チ。そんな細やかな、ファッションへの気遣いにあいつは気づきもしない。

「思ったより元気そうじゃん」

 と……間接話法ながら一応の成果はある。病み上がりと思われるのヤだったから。

 あらかわ遊園、観覧車の前。むろんあのときのクソガキはいない。

「ここで、まどかが『キミ』なんて言うから」

 ヤツ……忠クンが口を尖らせた。

「飛躍しすぎだったし」

「観覧車が回り終えるまでに言わなきゃと思っちゃってさ……」

「で、精一杯アタマ回転させて出てきたのが、あのストレートなんだよね」

「言ってくれんなよ……」

「わたしもゴンドラが着くまでに答えなきゃって……この観覧車、速いのよ。返事考えるのには」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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