大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・362『文化祭は明日になりました』

2022-11-23 11:22:46 | ノベル

・362

『文化祭は明日になりました』さくら    

 

 

 今日は朝から文化祭!

 

 ……のハズやったんやけど、平常通りの水曜日の授業です。

 なんでかっちゅうと、この雨ですわ。

 週間予報で、今日の勤労感謝の日ぃだけが高確率で雨やいうのは、先週の土曜日には分かってた。

 先週の土曜と言うと、マスコミまで呼んで、華々しく公開リハーサルをやった日。

 陣頭指揮と演出でメッチャ忙しいはずの前生徒会長の百武真鈴(本名の田中真央よりも通りがええ)は、それを見越して秘密裏に学校と交渉してたんやて!

「晴れていなければ企画は失敗です! 23日は90%の確率で雨になります、どうか24日に変更してください!」

 校長、理事長、組合の分会長、PTA会長、同窓会長、生徒会顧問、三年生学年主任、学食のオーナーなんかに働きかけてた。

 なんせ、三年生には最初で最後の文化祭、これがポシャッタら、留年してもっかい三年生をやらならあかん。

 で、20日の月曜日には24日への延長が決まって、予測通りに雨が降ってるというわけです。

 

「ちょっとぉ、いちおう授業なんだよ、みんな!」

 

 ペコちゃんが、バサリと教科書を教卓に叩きつけてキレた。

「午後からは、完全に文化祭準備できるんだから、集中しなさい!」

 ペコちゃんいうのは愛称で、本名は月島さやか。担任で現社の先生。

 愛称の通り、笑うとペコちゃんそっくり。

 明日の本番に向けて、いろいろ細かい作業やらやり残しがあるんですわ。衣装のフリフリつけたり、チラシを用意したり、食券を束にしてホッチキスで止めたり、ダンスのフリを確認したり。

 クラスの半分くらいが、そういうのんを机の下やら教科書で隠したりしながらやってる。

 ガサゴソガサゴソ……

 お嬢様学校やさかい、一応は片づけるんやけど、ぜんぜん授業には身ぃ入らへん。

 ペコちゃんいうのんは、笑顔の神さまみたいなもんやと思う。

 えべっさん(戎さん)、大黒さん、ビリケンさん、ドラえもん……デフォルトが笑顔のキャラはいっぱいあるけど、ペコちゃんは独特やと思う。

 ペコちゃんは、AMAZONのトレードマークみたいな口して、チョロッと舌出した笑顔。

 他のキャラは、もっと派手に笑ってるけど、目ぇはかまぼこ型かXになってる。

 笑顔やけど、目ぇ開いてるのはペコちゃんの特徴。

「月島先生って、元々は神社の巫女さんでしょ。笑顔は、職業的に顔に刻まれたもので、実は違うんだと思う」

 留美ちゃんが言うたことがある。

「よく観るとね、月島先生、目だけは笑ってないことが多い。先生がほんとうに怒ったらどういう顔になるんだろうね」

 そんなことを寝物語に言うたこともある。

「大魔神て古い映画があるじゃない。大映だったと思うんだけど、穏やかな埴輪の顔してるのが、いったんキレると、悪魔みたいな憤怒の顔になるんだよね……あんな感じ」

「そうなん? ちょっとググってみよ……」

 で、初めて大魔神の変身を見てビビってしもた。

「こんなのもあるよ……」

 留美ちゃんは、他にも美女が般若になったりとか、メロスが激怒した時の顔とか、怖い変身をいっぱいググって見せてくれて。

 最後にペコちゃんが激怒した顔……それは留美ちゃんがペンタブで描いたイラストやったけど、メッチャ怖い。

 で、あたしは率先してノートを開いて恭順の姿勢。

 すると、あたしの周囲から、徐々に授業の態勢になって、なんとか事なきを得る。

 

 やっぱりペコちゃん大明神の威力はすごい(^_^;)

 

「ちがうよ」

 四限が終わって、みんなで学食へ。列に並ぼうとしたら留美ちゃんが顔を寄せてくる。

「え、なんで?」

「それだけさくらの影響力も大きいということだよ」

「ええ、ないない(^_^;)」

 ハタハタハタ

 手にしたトレーを団扇みたいに振る。

 うんうん。

 留美ちゃんの後ろでメグリンが、変身前の大魔神みたいな顔で神妙に頷いておりました。

 ソニーは我関せずと、早々とランチをゲットしてテーブルに着いて、明日は、いよいよホンマの本番です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・33『今年の秋も終わりが近い……』

2022-11-23 07:25:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

33『今年の秋も終わりが近い……』  

 

 

 一斉送信しおえて、ヨーグルトを半分食べて気がついた。

 クラブのことに触れたメールが一つもなかった。そして、潤香先輩のこともなかった。

 気になって、もう一度ラインとメールをチェックした……やっぱり無い。


 一つだけ発見があった。マリ先生のメールを読み落としていた。

 先生は、メールを寄こしてくるときは、いつも「貴崎」と苗字で打ってくる。今回のは「MARI」と書かれていて気づかなかったんだ。

―― 早く元気になって、乃木坂ダッシュの新記録を作ってね ――と、書き出して、過不足のない、お見舞いの心温まる言葉が並んでいた。 

 さすがマリ先生(^o^;)。

 時間は、ちょうど五時間目が終わったところ。里沙にメールを送った。

 三十秒で返事が返ってきた。

―― クラブ&潤香先輩も順調に回復中。心配無用 ――

 横で見ていたおじいちゃんが呟いた。

「なんだか、昔の電報みたいだな」

 里沙のメールって、いつもこんなだけど、おじいちゃんの一言がひっかかり、思い切って潤香先輩にメールしてみた。

 こちは三分で返事が返ってきた。

―― 潤香の意識は、まだ戻らないけど。体調に異常はありません。まどかさんこそ大変でしたね。お大事になさってくださいね。紀香 ――

 返事はお姉さんからだった……潤香先輩、大丈夫なんだろうか……。


 はるかちゃんの大阪でのあらましは、さっき伍代のおじさんから聞いた。

 なんと、転校した大阪の高校で演劇部に入ったそうだ!

『すみれの花さくころ』って、タイトルだけでもカワユゲなお芝居やって、地区のコンクールで最優秀(乃木坂が取り損ねたやつ!)をとったらしい。

 で、大阪の中央発表会に出たんだけど、惜しくも落っこちたそうなのよね。南千住の駅で、いっしょになったとき、伍代のおじさんにかかってきた電話がその知らせだったらしい……と、時間だ。電話、電話……携帯代をケチってお家電話を使う。

 プルル~ プルル~ ポシャ

『はい、はるか……もしもし……もしもし(わたしってば五ヶ月ぶりの幼なじみの声に感激がウルってきちゃって、言葉も出ないのよ)』

「……はるかちゃん……はるかちゃんなんだ」

『……て、その声。もしかして、まどかちゃん!?』

「そう、まどかだわよ! どうして、黙って行っちゃうのよ!」

『おひさ~』

 お気楽に言うつもりがこうなっちゃった。

『……ごめんねぇ、いろいろ事情あってさ。わたしも、それなりの覚悟してお母さんと家出てきちゃったから、携帯の番号も変えちゃったし、大阪のことは誰にも言ってなくて』

「夏に、一回戻ってきたんだって?」

『うん。生意気にも、お父さんとお母さんのヨリもどそうなんてね……タクランじゃったんだけど、大人の世界ってフクザツカイキでさ。そんときゃ、頭の中スクランブルエッグだったけど、今はきれいにオムレツになってるよ』

「そうなんだ。で、はるかちゃん演劇部なんだって!?」

『イチオーね。まだ正式部員にはさせてもらえないの』

「どうしてぇ。地区予選で一等賞だったんでしょ?」

『わたし、最初は東京に未練たっぷりだったから、わたしの方から保留にしちゃったんだけどね。今は修行のためだって、顧問の先生とコーチから保留にされてんの。まどかちゃん、あんた演劇部なんでしょ?』

「いいえ。ちがいます」

『だって、まどか、四月に入学早々、演劇部に入ったんじゃなかったっけ?』

「そんじょそこらの演劇部じゃないの。この仲まどかは栄えある乃木坂学院高校演劇部の部員なのよ!」

『アハハ、そうだったわね。演劇部のスター芹沢潤香に憧れて入ったんだもんね』

「その潤香先輩がね……」

 潤香先輩のことには、はるかちゃんもビックリしたようだ。最後に、もう一つ話したげだったんだけど部活が始まっちゃうみたい。

『またゆっくり話そうね』

「うん、バイバイ」

 ということで電話を切った。と、同時に……。

「よ、南千山!」

 びっくりした!……おじいちゃんが地元出身の力士に声をかけた。

 振り向くと、テレビが幕内力士の取り組みになった九州場所を映していた。

 今年の秋も終わりが近い……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

 

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