大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・161『なんだか癪です』

2022-11-06 15:14:22 | ライトノベルセレクト

やく物語

161『なんだか癪です 

 

 

 あれから十日。

 

 わたしの部屋は殺風景なまま250時間経ってしまった。

 うう……時間に換算すると、めちゃくちゃ長い。

 勉強道具とか、生活に必要なもの以外のアイテムが無い。

 黒電話、相変わらず机の上に載ってるんだけど、うんともすんとも言わない。

 受話器を取っても、交換手さん出てこない。

 神保城で逓信大臣の仕事が忙しいのかもしれない。

 神保城にも行けなくなった。

 神保城に行くには眠らなくてはならない、半分くらい眠ったって時に神保城に通じる坂道が出てくるんだけど、それが出てこない。

 そもそも夢を見なくなった。見ても忘れてるのかもしれない。

 寝床に着くと、一日のあれこれがポワポワと浮いてくるんだけど、神保城や、フィギュアたちや、あやかしたちのことを思い浮かべると、いっしゅん思い浮かんで消えてしまう。

 数学の問題なんか解いていると、答えが浮かんでくるしゅんかんてあるよね。

 あ、分かった! っていう感じ。

 けども、次のしゅんかん、分かった先の答えが消えてしまう。えーと、なんだったっけ? なんだったっけ? 確かに思い浮かんだのにって、あのもどかしさ。

 あれに似てる。

 

 二丁目の坂道もただの坂道。

 以前は、いろいろ意識したんだけど、もう、ほとんど意識することも無い。

 どうかすると、通ったことも忘れて、気が付いたら学校に着いていたり、家に戻っていたり。

 昨日は、坂道のとっかかりで工事をしていて、ペコリお化けそっくりのガードマンさんが立っていたけど、目も合わせないで赤い指示棒を振っていただけ。

 まあ、わたしも試験に備えて単語帳繰っていたんだけどね。

 そろそろ高校入試のことも考えなきゃならない時期にはなってきたんだけどね。

 

 そうそう。

 

 杉野君が小桜さんにアタックしてるところを見てしまった!

 図書当番に行こうと、階段の踊り場にさしかかったらね、向こうの校舎の階段の踊り場で小桜さんに杉野君が迫っているのが見えたんだ。

 杉野君は、なんだか思い詰めたっぽい顔。小桜さんは胸のとこで両手を小さいワイパーみたいに振って、そのあと杉野君は、俯いたまま階段を駆け下りていった。

 杉野君は、わたしに気があるって思ってた。小桜さんも、そんなこと言ってたしね。

 まあ、本命は小桜さんで、わたしはカモフラージュだった。まあ、いいんだけどね。

 今日も、普通に図書当番やってきたしね。

 あいかわらず、図書当番は暇なんだけど、暇な時間、ラノベを読んだり、地図を広げてマップメジャーで遊んだりはしなくなった。二人とも、来週に迫ったテストの勉強。次のテストの結果で、希望できる高校の枠が決まってしまうからね。

 

 その机の上に、おミカンが二つ。

 

 ほら、ブンちゃんからもらった……これも夢だったかもしれないけど。

 ダイニングのテーブルの上にお婆ちゃんが買ってきたおミカンがザルに入って載っていて、色も形もいっしょだった。

 夕飯でおミカン食べて、お風呂上がりに――そろそろ食べなきゃ――と思って、食べたらお婆ちゃんのと同じ味がした。

 もう一個は、明日いただこう、そう思って寝たよ。

 起きてみると、その残り一個が無くなっていて、夢の欠片がキラリと蘇る。

 女の子のあやかしが食べていた。

 それが誰なのか、思い出そうとしたら、次の瞬間にはおぼろになってしまった。

 鼻の先まで出てきたクシャミがひっこんだみたいで、なんだか癪です。

 

 では、学校に行ってきます。

 

 やくもあやかし物語 第一期 完

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・16『演劇部の倉庫』

2022-11-06 06:26:44 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

16『演劇部の倉庫』  

 

 

 揺れるトラックの中で潤香の一束の髪は、わたしのバッグの中に入っている。

 あのあと、潤香のお母さんは、こう付け加えてくれた。

――潤香の脳内出血は、原因がはっきりしないんです。最初の事故で出血したのをお医者様が見逃したのか、二度目のことが原因なのか……それに血統的なこともあるんです。主人の父も兄も、同じようなことで……あ、今は潤香の容態も安定していますので。先生もコンクールの真っ最中なんでしょ、どうぞお戻りになってください。

 そこに、潤香の担任の北畠先生もやってこられたので、お任せしてフェリペに戻ってきた。そして気になることがもう一つ……。


「先生、着きましたよ」

 そう言って、運ちゃんはポップスをカットアウトした。

「おかえりなさい」

 警備員のおじさんが裏門を開けて待っていてくれていた。

 裏門からグラウンドを斜めに突っ切ると、演劇部の倉庫のすぐ前に出る。トラックを入れるとグラウンドが痛むので体育科は嫌がるんだけど、正門から入ると、中庭やら、植え込み、渡り廊下の下をくぐったり、十倍は労力が違ってくる。長年の実績で大目に見てもらっている。え、わたしが脅かしてんだろうって? 断じて……多分、そういうことはアリマセン。

 トラックを降りると、里沙をはじめとする別働隊が渡り廊下をくぐってやってくるところだった。

「先生、ドンピシャでしたね」

 里沙が嬉しそうに言った。

「一服できると思ったんだけどな。いつもの道が進入禁止で回り道したもんだからよ」

 そう言いながら運ちゃん二人はそれぞれのトラックの荷台を開けた。

「しまう順序は、分かってんな。助手」

 舞監のヤマちゃんが、舞監助手の里沙を促した。

「はい、バッチリです。まずはヌリカベ九号から」

 と、いいお返事。技術やマネジメントは確実に伝承されているようだ……あれ?

「ねえ、夏鈴がいないようだけど?」

「ああ、あいつ駅で財布忘れてきたの思い出したんで、フェリペに置いてきました」

 例外はいるようだ……。

 それは、最後のヌリカベ一号を運んでいるときにかかってきた。

 三年唯一の現役、峰岸クンからの電話だった。わたしも疲れていたんだろう、思わず声になってしまった。

「え……落ちた!」

 鍛え上げた声は倉庫の外まで聞こえてしまった。みんなの手がいっせいに止まった。携帯の向こうから、峰岸クンのたしなめる声がした。

 やっぱ、あの人が審査員にいたから……連盟の書類を見たときには気づかなかった。あの人の本名は小田誠、それが芸名の高橋誠司になっていたから。風貌も変わっていた。あのころは、長髪で、いつも挑戦的で、目がギラギラしていた。

 それが、今日コンクールの審査員席で見たときは、ほとんど角刈りといっていいほどの短髪。目つきも柔らかく、しばらくは別人かと思っていた。分かったのは、不覚にも向こうから声をかけられたときだった。

「よう、マリちゃんじゃないか!」
「あ……ああ、小田さん!?」

 時間にして、ほんの二三分だったが、一方的にしゃべられ、気がついたらアドレスの交換までさせられてしまった。この人が審査員……まして、こっちは潤香が倒れて、まどかのアンダースタディー……。

 気づいたら、みんながわたしの周りに集まっていた。仕方なく要点だけを伝えた。

「さあ、みんな。仕事はまだ残ってるわよ!」

 パンパン

 手を叩いてテンションを取り戻そうとした。

「先生。潤香先輩のことも教えていただけませんか」

 憎ったらしいほどの冷静さで、里沙が聞いてきた。

「分かったわ、手短に話すわね……」

 わたしは潤香のお父さんが感情的になられたことを除いて淡々と話した。

 むろん、潤香の髪がバッグに入っていることは話さなかったけどね。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 里沙          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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