大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・132『氷室神社の御祭神は秋宮空子内親王』

2022-11-15 11:11:36 | 小説4

・132

『氷室神社の御祭神は秋宮空子内親王』兵二  

 

 

 自分の任務は隠密に似ているのかもしれない。

 隠密というのは、物語にあるような忍者めいたものではない。任地に赴き、ほとんど、その地に同化して報告を上げ続ける。そういう地味な任務だ。

 西之島にやってきて五年、西之島は、ほとんど故郷のようになってきた。

 漢明との戦争に突入しようとしている今日、ひょっとしたら、この島に骨を埋めることになるかもしれない。

 

 五年前、上様の馬ならしのお供をしていて西之島新島に向かうように命ぜられた。

 中学同窓の穴山彦が発行している扶桑通信をお持ちしたところ、西之島新島の熱水鉱床からパルスギ鉱が発見されたというニュースに目を停められた。

 パルス鉱はニ十三世紀の主要な動力源で、純度によって、パルス、パルスラ、パルスダ、パルスギの四種に分類される。

 パルスギ鉱は、理論結晶とも呼ばれる高純度の鉱石で、ひところは自然界には存在しないとまで言われていた超高純度の鉱石だ。

 宇宙船の動力に使えば光速を超える速度が出せて、人類の行動半径は太陽系の外に広がり。発電に使えば、野球ボールほどのパルスギで扶桑将軍府の十年分の電力が賄えるという。

 西之島(島内では、いちいち新を付けずに西之島と呼ぶ)では、三つあるコロニー(カンパニー、胡同、ナバホ村)のうちのカンパニーの世話になって、今日に及んでいる。

 カンパニーの氷室社長は、他の二つのコロニーからの信頼も厚く、西之島が西之島市という本土並みの行政区になった現在でも市長や議会の権威を超えるほどの力……いや、尊崇の念を持たれている。

 

「賽銭箱は勘弁してくださいよ(^_^;)」

 

 社長は、頭を掻きながらシゲ老人に頼んだ。

「しかしなあ、お参りに来る者からすると、賽銭箱が無いのは頼りないぞ」

「いや、だから、僕は神さまじゃないから」

「いや、ほとんど神さまじゃ」

 シゲ老人のトドメに、社長は言葉に詰まった。

 社長も分かっているんだ。

 この西之島の危機に当って精神的な支柱が必要なことを。そして、その位置に自分が着きつつあることを。

「なら、社(やしろ)を建てよう」

「社ですか?」

「うん、社を建てて、社長自身、そこに手を合わせれば、社長以上の存在があると納得するじゃろ」

「ああ……」

「どうじゃ?」

「ま、シゲさんがいいと思うやり方でやってください(^o^;)」

 

 このやり取りがあったのが先週のこと。

 

 今週は、胡同沖で起こった衝突(漢明側は『西之島海戦』、日本側は『西之島沖事件』と呼称)の後始末に追われて、社長も自分も、カンパニーには帰れなかった。

 一週間ぶりに賽銭箱の様子を見に行くと、社長は「あ、ああ…………」と、風船が萎むような声を漏らして腰を抜かしてしまった。

 賽銭箱は新しく建った鳥居もろとも海を背にして設えられ、鳥居には『氷室神社』の扁額が掛けられていた。

 ウォッホン

 咳払いをして現れたのはシゲ老人。

 正しくは斎服というんだろうが、いわゆる神主服をまとって、手には幣(ぬさ)を捧げているではないか!

「御祭神はパルスギにしようとも思ったんじゃが、社長のご先祖がええと思って『氷室神社』としたぞ。社長の五代前は渡米された、なんとかいう親王さまじゃろが」

「内親王、その子孫だから普通の人間ですよ。国籍も一時はアメリカだったし」

「その内親王様がご神体じゃ。社長本人を神さま扱いするんじゃないから、ええだろが」

「シゲさん、ご神体は何にしたんですか?」

 火星にも日本式の神社があるので、気になって聞いてみた。

「それそれ、大仰なのは社長の好みじゃないと思ってな、海そのものとか……」

「海がご神体とか海からやってくるというのは、ちょっと普通っぽくないですか?」

「うん、安芸の宮島とか、沖縄のニライカナイとかあるのお……」

「ポセイドンとかもありますねえ」

「あるのう……」

「うん、ちょっと二番煎じですかねぇ」

「じゃ、兵二、これはどうじゃ!」

 シゲ老人はポンと手を叩くと、鳥居の下まで走って、背筋を伸ばして空を指さした。

「え、空ですか!?」

「そうじゃ、空は宇宙に続いとる。大きくてええじゃろが!」

 すごい事を言う。

 社長は言い返す気力も無くて、そのまま決まってしまった。

 ちなみに、あとで確認すると、社長の五代前は『秋宮空子内親王』ということが分かった。

 アキノミヤ?

「ちがうよ、秋と書いてトキと読むんだ」

 教えてくれたのは食堂のお岩さん、以前は大手銀行の支店長もやっていたとか、日ごろはおくびにも出さないが、かなりの才媛だ。

「秋でトキですか?」

「ああ、秋というのは収穫の時だからね、実りを刈るという神聖な意味がある」

「ときのみやそらこ……時……空……時空か!?」

 シゲ老人は、どこまで意図したか分からないけど、大きな名前だ。

 

 この氷室神社ができたことが唯一の明るいニュースになって、西之島は第二次西之島海戦を迎えることになっていった……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・25『寝過ごしてしまったのだ』

2022-11-15 07:07:58 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

25『寝過ごしてしまったのだ』  

 

 


 教師になって、こんなことは初めてだった。

 寝過ごしてしまったのだ。

 子どもの頃から自立心の強かったわたしは、大学で要領をカマスことを覚えるまで、無遅刻、無欠席だった。大学もおおやけには無遅刻、無欠席なんだけど、個人的心情では、代返の常習者。文学部演劇科に籍を置き、教職課程をとりながら、キャンギャルやら、MCのバイトに精を出していた。これくらいの要領はカマシておかないとやっていけない。

 え、その歳なら忌引きの一つや二つはあったろうって?

 わたしの家系は、みんな元気というか、長生き。今年メデタク卒寿を迎えたお祖父ちゃんは、まだピンピン。

 お祖父ちゃん、過剰に孫娘に構い過ぎるのよ。

 大学のときも勝手にわたし達の口座に、学費と称して、多額のお金を振り込んでくれた。でも、わたしは、そのお金にはいっさい手を付けなかった。

 意地もあったけど、そういうバイトやら、要領カマスことまで含めて勉強だと思っていたからだ。

 お祖父ちゃんのことは、訳あって、部長の峰崎クンしか知らない。

 で、わたしは乃木坂をスカートひらり……バサバサとはためかせながら、百メートルを十一秒で走れる脚で駆け上っていた。

 緩いカーブを曲がると、正門まで三百メートル。

 あと四十秒、さすがにキツイ!

 しかし目の前を走る遅刻寸前の女生徒を見て、俄然闘志が湧いてきた。

―― ガキンチョに負けてたまるか! ――

 正門が軋みながら閉め始められたところで、その女生徒を鼻の差で抜いて一等賞!

 チラっと追い越しざまに見えた女生徒は、わが演劇部の仲まどか。

 昨日のコンクールでは大活躍のアンダースタディー(主役の代役)をやった。 疲れたんだろうなあ……そう思いながら中庭を抜けて職員室へ。

「貴崎先生、遅刻されるんじゃなかったんですか?」

 教務主任の中村先生が声をかけてきた。

「なんとか間に合いましたから……今から行きます」

「そうですか、一応、自習課題は渡しておきましたんで」

「ありがとうございます……」

 と、返事をして、自分が汗みずくであることに気がついた。

 膝丈のチュニックの下はいつもコットンパンツなんだけど。走ることが頭にあったので、家を出る寸前に薄手のスパッツに穿きかえた。

 でも、この汗……ラストの三百メートル全力疾走がきいたようだ。

 ロッカーからタオルを出し、顔と首を拭き、チュニックの胸元をくつろげて、胸から脇の下まで拭いた。

 われながらオヤジである。

 まどかも今頃は……と、粗忽ながら可愛い生徒のことを思う。

 どこかで、オヤジのようなクシャミ……が聞こえたような気がした。

 教頭と目が合った。ちょうど、オヤジよろしく脇の下を拭いていたときに。

 ただのスケベオヤジのようにも、教育者の先達として咎めるようにも見えるまなざしだ。

 目線をそらし、ツルリと顔を撫でたところを見ると前者のようだ。

 クルリと背中を向けて、思い切り「イーダ!」をしてやった。


 教室へ行くと、すでに里沙が自習課題を配り終えていた。


「説明も終わりました」

 と、口を尖らすのがおかしかった。

「武藤さんの言うとおりね」

 と、あっさり自習にしてやった。

 まどかのカバンから、オヤジくさいタオルがはみ出ているのがおかしくも、親近感が持てた。

 課題は「日本の白地図に都道府県名を入れなさい」というシンプルなもの。

 レベルとしては小学校だけど、案外これがムツカシイ。関東は分かっても、近畿以西になってくると怪しくなってくる。香川と徳島、島根と鳥取などで悩んでしまう。鳥取など字の順序でも悩ましい。九州など、鹿児島以外お手上げという子もいる。

 五分たった。

「地図見てもいいよ」

 と、言ってやる。

―― チョロいもんよ ――

 と、まどかなど何人かは出来上がったようだ。

 わたしの課題は、それからが勝負。任意に東京以外の道府県を選び、それについて八百字以内で思うところを書けというところ。

 ちなみに、わたしの教科は「現代社会」だ。

 便利な教科で、頭か尻尾に「現代」とか「社会」がつけば、なんでもアリ。

 今は、「現代青年心理学」なんか教えている。「保健」と内容的には被るところもあるんだけど、わたしのはポイント一つ。「高校時代の恋愛を絶対視するな」ということ。

「たった一度、忘れられない恋が出来たら満足さ~♪」と歌なんかにはあるけど、今の高校生は簡単に、最後の一線を越えてしまう。乃木坂のようなイイ子が多い学校もいっしょ。スレてないぶん、より危ないと言えるかも知れない。

 校長や教頭は「いい学校=いい生徒」と思っているようだが、わたしは基本的には、どこも同じと思っている。管理職のところまでいく前に、現場の教師で、どれだけ問題を解決していることか……理事長は、さすがに経営者で、どことなくお分かりのご様子。

「できました(*`ω´*)」

 まどかが、正直なドヤ顔で一番に持ってきた。

「書けたら、好きなことやっていいですか?」などと言っていた奴らは、まだシャーペン片手に唸っている。

 まどかの得意顔をオチョクッテやろうと、読み始めた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする