大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠6[話の続きとスタンウォーク]

2022-11-03 09:21:43 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

6[話の続きとスタンウォーク]   

 

 

 

「で、なんだよ、怖い話って?」

 みんなが、朝食のテーブルから、突っ立ったままのトシに顔を向けた。


「それが……ピレウスを目指しているのはボクらの三笠だけじゃないみたいなんです」

「え、ほんとかよ?」

「世界には、三笠以外に保存されている戦艦は20隻ちかくあって。そのほとんどが三笠と同時にピレウスを目指しているようなんです」

「え、他にも残っているのなんてあるの?」

「そういや、ミズーリがハワイで残ってたな……」

「アメリカは、ミズーリを入れて8隻が記念艦で残ってます。中国はレプリカだけど定遠が。それに、戦艦じゃないけど遼寧が出てきています」


 リョウネイ?


 どうも、樟葉も天音も、こういうことには疎いようだ。オレは説明を加えた。

「ウクライナから買った航空母艦だよ。でも、どうして空母が?」

「現代の戦艦にあたる海軍勢力は空母だって理屈らしいっす」

「そう言いながら、ハリボテの定遠までかよ。なんか矛盾してんな」

「テイエンって?」

「100年以上前の日清戦争で、日本が沈めたドイツ製の中国の戦艦だよ。他にもとんでもないのがありそうだな」

「はい、韓国が独島を、イギリスがヴィクトリーを……」

「ヴィクトリーって、ネルソンが乗ってた帆船か!?」

「一応は、動態保存で、軍籍にも残ってますから。今でも艦長は現役の海軍士官が任命されてます」

「ほかには?」

「なぜだか、ドイツのビスマルクも……?」

「ビスマルク? あれは沈んでるはずだぞ」

「艦体は、わりにしっかりしているようで、海底で原形をとどめていて、船霊がまだ憑りついているんだそうです」

「でも、それだけの船が出てるんなら、心強いじゃないの」

「そうなんですけど……先にピレウスに着いた船の国が、その……新しい地球のヘゲモニーを握りそうなんです」

「え、じゃあ、中国なんかにとられたらたいへんじゃないか」

「で、どうしても三笠が一番にピレウスに着かなきゃならないんです」

「う~ん……そうだ!」

 みんなの視線がオレに集まった。

「とにかく朝飯を食おう。腹が減ってちゃいい考えも浮かばないよ」


 ようやく、本格的に朝食になった。

 朝食は、各自のテーブルの上に、各自の好みに合わせたものが載っていた。おれがガッツリ味噌汁、ごはん、目玉焼きに納豆。樟葉と天音はイングリッシュマフィンとトーストの違いはあったが、パンとスクランブルエッグ、ヨーグルトのセットだった。

「もう一つ夢を見たんですけど……」

 オレが納豆飯をかっ込んでいるときに、トシが小さな声で話し出した。

「なんだ、いい夢か、悪い夢か?」

「……それが、よく覚えていないんです」

「どういうことよ?」

 天音がオッサンみたくシーハーしながら聞いた。

「なんか、とても緊張して……でも楽しい夢でした」

「トシの楽しいは、なんだかマニアックな感じがするな」

「そんなことないっすよ。ごく一般的に緊張して、楽しいことだったです」

 まあ、雲をつかむような話なんで、それっきりになった。

 朝食をすますと、取り立ててやることがない。

「なあ、ここは司令長官室だろ?」
 
 天音が指を立てた。悪戯とかを思いついた時の癖で、俺たちも連動したオートマタみたいに首を向けてしまう。

「ああ、三笠で一番のスィートルームだ」

「なら、そこのドアを開けたところはスタンウォークなんじゃないか?」

「「「ああ」」」

「長官専用の展望デッキ、出られるのかなあ」

 スタンウォークは帆船時代の名残で、艦尾のいちばん偉い人の部屋の外に付けられたベランダみたいなデッキのことだ。
 
「立ち入り禁止じゃないの?」

 真面目な樟葉が注意する。

「それは、記念艦三笠だろ、これは宇宙戦艦三笠だ」

「でも、そこ開けたら宇宙空間なんじゃ……」

 トシも普通にビビってる。

 カチャ

「お、開くぞ」

「あ」「ちょ」「え」

 言葉を継ごうとしたら、もう、天音は開けてしまった!

「「「「うわああ」」」」

 ドアの外は、スタンウォークの手すりがあって、その向こうには広大な海が広がって、長官室は潮の香りでいっぱいになった。

「みんな、来てみろよ!」

 さっさと出てしまった天音が感動の声をあげた。
 
 なんで、海が見えるんだ?

 出てみると、理屈は分からないけど、見た目には分かった。スタンウォークの艦尾方向120度あまりが大海原で、ボンヤリした境目の外は宇宙空間なんだ。

「CGの一種なんですかねえ?」

「トシは、こういうスペースファンタジー系のゲームが好きだったな」

「はい、『スターパシフィック・6』が出てなかったら、学校に来れてたです!」

 トシの不登校はゲームのせいなんかじゃないんだけどな、そう言って気が楽になるなら構わない。

「お、インタフェイスが出てきた」

 天音の前に異世界系アニメに出てきそうな仮想インタフェイスが現れた。

「いろいろ設定が変えられるみたいだな」

 画面にはロケーション設定があって、宇宙空間、大海原、夜景、富士山頂、シアターとかまで選択肢がいっぱい。

「あ、リアルがある。いい?」

 スクロールした末にリアルを発見した樟葉が断りを入れてからタッチした。

 シュラララ~ン

 切り替わると、正面に地球、その斜め向こうに月が見える。

「やっぱり地球は青いな……」

「微妙に小さくなっていく……」

「だんだん離れていくのね……」

「先輩、泣いてるんすか?」

「うっせえ、そういうトシだって」

「あははは……」

「さ、もう中に入ろうか」

「ああ」

 出た時とは逆に俺が先頭で長官室に戻る。


 カチャ


 ドアを開けてビックリした!

 四人の猫耳メイドさんが、朝食の後片付けと掃除をやっていた!

 キャ!

 ビックリしたのはメイドさんたちもいっしょで、目をまん丸にしている。

 その可愛らしさに俺の萌ゲージの針は振りきれてしまいそうになった(#´∀`#)!
 

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 みかさん(神さま)   戦艦三笠の船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・13『コンチクショウ』

2022-11-03 06:55:45 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

13『コンチクショウ』  

 

 

 あやうく握手会というところで三人の審査員の先生が入ってきた。

――ただ今より、講評と審査結果の発表を行います。みなさん、お席にお着きください。

 みんな慌ただしく席に戻った。

「審査員、表情が固い……」

 峰岸先輩がつぶやいた。

 三人の審査員の先生が、交代で講評していく。

 さすがに審査員、言葉も優しく、内容も必ず長所と短所が同じくらいに述べられる。配慮が行き届いていると感じた。単細胞の夏鈴はともかく柚木先生まで「ほー、ほー」と感心している。
 ただ、乃木高の講評をやった高橋という専門家審査員の先生が「……と感じたしだいです」と締めくくったとき、峰岸先輩だけが再びつぶやいた。

「講評が……」

「なんですか?」

 思わず聞き返した。

「シ、これから審査発表だ」

 舞台美術賞、創作脚本賞から始まったが、乃木坂は入っていない。そして個人演技賞の発表。

「個人演技賞、乃木坂学院高校『イカス 嵐のかなたより』で、神崎真由役を演った仲まどかさん」

――え、わたし?

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 みんなの拍手に押されて、わたしは舞台に上がった。

「おめでとう、よくがんばったね。大したアンダースタディーでした」

 と、高橋先生。賞状をくださって、がっちりと両手で包むように握手。

 大きな温もりのある手が優しかった。

「ど、どうも、ありがとうございます(#'∀'#)」

 カチコチのわたし。

 そして優秀賞、つまり二等賞の発表。最優秀を確信していたわたし達はリラックスしていた。

「優秀賞、乃木坂学院高校演劇部『イカス 嵐のかなたより』」

 一瞬、会場の空気がズッコケた。

 乃木坂のメンバーが集まった一角は……凍り付いた。

 少し間があって、ポーカーフェイスで峰岸先輩が賞状をもらいにいった。峰岸先輩が席に戻ってもざわめきは続いた。

「最優秀賞……」

 そのざわめきを静めるように、高橋先生が静かに、しかし凛とした声で言った。

「フェリペ学院高校演劇部『なよたけ』」

 キャーーーーーーーーー!!

 フェリペの部長が、うれし涙に顔をクシャクシャにして賞状をもらった。
 高橋先生は、皆を静めるような仕草の後、静かに語りはじめた。

「今回の審査は紛糾しました。みなさんご承知のとおり、高校演劇には審査基準がありません。この地区もそうです。勢い、審査は審査員の趣味や傾向に左右されます。われわれ三名は極力それを排するために、暫定的に審査基準を持ちました。①ドラマとして成立しているか。ドラマとは人間の行動や考えが人に影響を与え葛藤……イザコザですね。それを起こし人間が変化している物語を指します。②そして、それが観客の共感を得られたか。つまり感動させることができたか。③そのために的確な表現努力がなされたか。つまり、道具や照明、音響が作品にふさわしいかどうか。以上三点を十点満点で計算し、同点のものを話し合いました。ここまでよろしいですね」

 他の審査員の先生がうなづいた。

「結果的に、乃木坂とフェリペが同点になり、そこで話し合いになりました……」

 高橋先生は、ここでペットボトルのお茶を飲み……お茶が、横っちょに入って激しく咳き込んだ。

「ゲホ、ゲホ、ゲホ……!」

 マイクがモロにそれを拾って鳴り響いた。女の審査員の先生が背中をさすった。それが、なんかカイガイシく、緊張した会場は笑いにつつまれた。夏鈴なんか大爆笑。どうやら、苦しんでいる高橋先生とモロ目が合っちゃったみたい。

「失礼しました。えーと……どこまで話したっけ?」

 前列にいたK高校のポニーテールが答えた(9『もの動かす時は声かける!』で出てきた子)

「同点になったとこです」

「で、話し合いになったんです」

 カチュ-シャが付け足した。

「ありがとう。で、論点はドラマ性です。乃木坂は迫力はありましたが、台詞が一人称で、役が絡んでこない。わたしの喉は……ゲホン。からんでしまいましたが」

 また、会場に笑いが満ちた。

「まどかさんはじめ、みなさん熱演でしたが……」

 という具合に、なごやかに審査発表の本編は終わった……。


 でも、わが城中地区の審査には別冊がある。生徒の実行委員が独自に投票して決める賞がね。

 その名も「地区賞」 

 これ、仮名で書いた方が感じ出るのよね。だって「チクショウ」

 その名のとおり、チクショウで、中央発表会(本選)には出られない。名誉だけの賞で、金、銀、銅に分かれてんの。

 で、一等賞が金地区賞。通称「コンチクショウ」と笑っちゃう。そう、このコンチクショウを、わが乃木坂は頂いたわけ!

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 里沙          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋          城中地区予選の審査員
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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