大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・25『してやられる』

2022-11-02 08:58:46 | 小説3

くノ一その一今のうち

25『してやられる』 

 

 

「行ってきまーす」「行ってらっしゃい」

 

 お祖母ちゃんと言葉を交わして玄関を出る。

 三歩で通りに出て左に曲がる。

 お線香の匂いがして、つい「お早うございます」を言いかける。

 筋向いのお爺ちゃんは、仏壇にお線香をたて、リンを鳴らして、ナマンダブを三回唱えるのが朝のルーチン。

 そのあと、郵便受けに新聞を取りに出て、玄関を出たばかりのわたしに「お早う」を言ったり「お早うございます」をこっちから投げかけたり。

 でも、先月、お爺ちゃんは亡くなったので「お早うございます」は言わない。

 それが、つい口をついて出てしまったのは、お線香の匂いがしたからだ。

「お早う、そのちゃん」

 お爺ちゃんの声。

 思わず振り返ると、郵便受けから新聞を取り出しながらお爺ちゃん。

「お早うございます」

 してやられたと思いながらも挨拶が口を突いて出る。

 忍者が変異に出会った時の対応は二つだ。

 さっさと逃げるか調子を合わせるか。

 変異の正体や出方が分からない時は、とりあえず調子を合わせる。

 そして、相手の意図や力を推し量れたところで、次の行動に出る。

 さあ、なにが起こるんだぁ?

 お爺ちゃんは、笑顔一つ残して家の中に入って行った……生きていたときのまんま。

 ハッ

 小さく息を吐いて角を曲がる。

―― このまま事務所に行け ――

 不覚、ブロック塀の上の猫が語りかけてくる。

『なんでですか?』

 猫は課長代理に違いなく、こないだからしてやられっぱなしなので、少しムキになる。

―― その車に乗れ ――

 キーー

 聞く間も無く、スライドドアを開けながらミニバンが横付け。

 

「全部読まれてるね」

 

 ハンドル操作をしながら力持ちさん。

「力持ちさんも?」

「ああ、テレビ局に行こうとしたら電話がかかってきた。ソノッチを送り届けたらまあやを迎えに行く。今週のまあや番はわたしがやることになった」

「任務ですか?」

「うん、ソノッチもな、おそらく、事務所全体で対応している。ムカつくくらい機先を制されているからな。わたしらに考える隙を与えない。ソノッチも考えないほうがいい」

「はい」

 それからは沈黙になり、五分余りで丸の内の会社に着いた。

 

「お早うでござる、そのさん。このまま屋上に参られよ」

 

 二課のドアを開けると、案内ロボットが真ん前で待っていて、胸のディスプレーに屋上へのルートを表示してくれている。

「了解」

 屋上へは、八階までエレベーターで、そこからは階段だ……で、エレベーターの前で気が付いた「って、ここは八階じゃん」。完全に指示で動くようにならされてしまった。 

 走って階段を上がり、屋上に出る。

 バーーン

 せめての腹いせに、元気よくドアを開ける。

 ウワ

 騒音と激しい風が同時にやってきた。

 バラバラバラバラバラバラバラ!

 目の前にヘリコプター!?

 ガラ

 胴体のドアが開いたかと思うと……わたしが出てきた!

 出てきたわたしは、評判のアクションアニメ『リコリ〇リコイ〇』の制服を着ている。

「お早う、次は、あんたの番ね。頑張って!」

 軽く肩を叩くと、背中のカバンを肩掛けにして階段室に入って行った。

「早く乗って!」

「はい……!?」

 振り返ったヘリコプターの中からは、もう一人のわたしがオイデオイデして急き立てているし……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・12『メイクを落として制服に着替えた』

2022-11-02 05:23:42 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

12『メイクを落として制服に着替えた』  

 

 

 幕間交流の間に、バラシも搬出も終わっていた。

 

 わたしは、スタンディングオベーションのきっかけになったアイツを探したかったけど、マリ先生の様子が気になって搬出口に急いだ。

 バタンと音がして、荷台のドアが閉められたところだった。

「まどか、大儀であった。じゃ、先に行ってる。柚木先生、あとはよろしく」

 柚木先生がうなづくと、トラックはブルンと身震いして動き始めた。助手席の窓から、お気楽そうに、マリ先生の手が振られた。二台目のトラックのバックミラーに、ほっとした山埼先輩の顔が一瞬映った。

 ホーーーーーーー

 ため息一つつく間に、二台のトラックはフェリペの通用門を出て行ってしまった。

 実際にはもう少し時間があったんだろうけど、頭の中がスクランブルエッグみたくなってるわたしには、そう感じられた。

「じゃ、わたしたちは地下鉄で学校に行ってます」

 舞監助手の里沙がそう言って、あらかじめ決められていたメンバーを引き連れて歩き出した。学校で道具をトラックから降ろして、倉庫に片づけるためだ。

 残ったメンバーは、わたしも含め、誰も何も言わず、それを見送った。

「先生なにか言ってました?」

 柚木先生に聞いてみた。

「え……ああ、なにも。さ、わたしたちも交流会に行くよ。そろそろ終わって審査結果の発表だろうから」

「先輩。潤香先輩……」

 峰岸先輩に振ってみた。

「必要なことしか言わないからなマリ先生は……大丈夫なんじゃないか」

 言葉のわりにはクッタクありげに歩き出した……ボンヤリついていくと叱れた。

「まどか、そのナリで交流会はないだろう」

 わたしったら、衣装もメイクもそのまんまだった。

「すみません、着替えてきます」

 ひとり立ち止まると、訳もなく涙が頬を伝って落ちた。

 

 メイクを落として制服に着替えて……気づくと、窓の外には夜空に三日月。秋の日はつるべ落としって言うけど……ヤバイ、もう八時前。審査発表が終わっちゃう!

 

 急いで会場に戻った。交流会はまだ続いていた。

「審査発表まだなの?」

 あくびをかみ殺している夏鈴に聞いてみた。

「遅れてるみたい……まどか、なにしてたのよ。さっきまでまどかの話で持ちきりだったのよ」

「うそ……!?」

「そりゃ、あれだけのアンダースタディーやっちゃったんだから」

「そうなの……でも、道具係の夏鈴がどうしてここにいるのよ?」

「地下鉄の駅まで行ったら、お財布忘れたのに気づいて。そしたら、宮里先輩が『夏鈴はもういい』って」

「プ、夏鈴らしいわ」

「まどかこそ。楽屋で声かけたのに気づかなかったでしょ。空は三日月だし狼男にでもなんのかと思っちゃったわよ」

「女が狼男になるわけないでしょうが」

「なるよ。うちのお父さん、お母さんのことオオカミだって言ってるわよさ」

「だいいち、狼男が狼になんのは満月の夜じゃん」

「うそ。わたし、ずっと三日月だと思ってた!」

「ハハ、でも、そういうズレ方って夏鈴らしくてカワユイぞ」

「どうせ、わたしはズレてますよ。まどかみたく物覚えよくないもん!」

「二人とも声が大きい……」

 峰岸先輩が、低い声で注意した……でも手遅れ。夏鈴の声で面が割れてしまった。

――え、乃木坂のまどか!――あの、まどかさん!――マドカァ!!
 
 ……と、取り囲まれてしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 里沙          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする