大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 95『毒食わば皿ま……わし』

2022-11-28 11:10:36 | ノベル2

ら 信長転生記

95『毒食わば皿ま……わし』織部 

 

 

「大橋(だいきょう)さま。ムースが仕上がりました」

 

 鈴を転がすような声がして、案内のそれとは別の小女がお茶とお菓子を捧げてきた。

「あら、うまく仕上がったようね。では、お客人といっしょに試食してみましょう。そうね、あなたたちも、これに合うようにお召し替えしましょうね」

 クリン

 大橋が指を振ると、二人の小女はメイド服に変わった。

「豊盃でカフェを出しているお友だちに教わりましたの、フワフワで、とても美味しいのだそうです。実験台になってくださいな」

 茶道で供されるお菓子は、干菓子と主菓子(生菓子)と決まっているが、このガラスの器に収まっているのは褐色の泡立ち。茶筅で泡立てたばかりの茶に似ているが、これは、食品サンプルのように固まっている。固まってはいるが、卓に置かれた瞬間は小さくフルフルと揺れて、いささかの粘りがあるようにも見える。

「ババロアに似ていますが、ゼラチンを使っていません。どうぞお召し上がれ」

 リュドミラは、ちょっとたじろいだような顔をしている。食に関しては保守的なんだろうね。

「いただきます」

 小さく手を合わせて、一口いただく。

「……口の中で溶けるよう……いえ、解けると書いた方が適切ですね。ふんわりと閉じ込められていた甘さと、チョコの香りと、ほんのりした香ばしさが解れて、とても新鮮です」

「そうなのか?」

 リュドミラも、おそるおそる一すくい口に運ぶ。

「!……おお、味覚の的のど真ん中を射抜かれた感じだ!」

「喜んでいただけてなによりです(^▽^)。鶏卵とクリームとチョコが最高の塩梅でハーモニーを醸し出してくれますでしょ」

「たしかに、味覚の三位一体です」

 これは濃茶にも合うかもしれない。茶道は完成されたものだとする者が多いが、新発見があれば、進んで取り入れるべきだと思う。織部の美意識は絶えず進歩と発見を欲するのだ。

「この庭も、魏・呉・蜀の職人たちに競わせましたのよ。まだまだムースのように昇華するところまではいきませんが、いずれは良いものになるだろうと期待しています」

「そうだったんですね」

 癪だけども、信長に似た感性を感じた。あやつの珍しもの好きは、子どものガラクタ集めに似ているが、十に一つほど見事な調和と飛躍を感じさせる。

「それで、こちらのリュドミラさんの胡旋舞を見せていただいて、インスピレーションを感じましたの」

「わたしの胡旋舞に?」

「はい、三国の舞姫たちは器用に胡旋舞を舞ってくれますが、芯のところで力がありません」

「うん、あれでは、酒の蒸気に火をつけたようなものだ。香りはするが、ぜんぜん力が無い」

「そうなんです、リュドミラさんのように大松明のような力がありません。爆ぜるような力が無ければ真の胡旋舞にはならないのです」

「大橋さま、おっしゃる通りです。しかし、リュドミラの胡旋舞は時と場所を選びます。花を愛でる園遊会や、祝言の宴席、老人の慰労などには不向きです」

「そうですね、だからこそ、その塩梅を見極め、他のものと掛け合わせる目が必要なのです。それは、織部さん、あなたの役割だと思います。いかがですか?」

「大橋さま……」

「市での、あなたの商いぶりも見せていただきました。あなたも、今少し大きな所で踊ってみてはいかがでしょう?」

「う…………」

 見抜かれている。だけど、けして嫌な感じではない。平蜘蛛の茶釜を初めて見た時の高揚だ。

 あの時は目の前に信長が居て――お前も同類よのう――という顔をされ、それ以来、奴に取り込まれたようになってしまった。

 その恍惚と危うさが同時に沸き起こってせめぎ合っている。

「どう、いっしょにやって頂けるかしら?」

 けして、その嫣然とした微笑みに絡めとられたわけじゃない。

 

 毒食わば皿……まわし。

 ……下手な洒落が浮かんで、承知した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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宇宙戦艦三笠12[ステルスアンカー]

2022-11-28 08:49:42 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

12[ステルスアンカー]   

 

 

 ステルスアンカーとは、巨大な銛(もり)のようなものだ。

 大きさは10メートルほどであろうか、テキサスの艦尾に食い込み、その端には丈夫な鎖が付いていて、鎖の端は虚空に溶けて見えないし、コスモレーダーにも映らない。テキサスは出力一杯にして振り切ろうとしたが、まるで弱った鯨が捕鯨船の銛にかかったように、艦尾を振り回すだけだった。

「修一くん、直ぐに助けてあげて。時間がたつほどあのアンカーは抜けなくなるから!」

 みかさんの声にこたえ、修一は樟葉とトシに命じた。

「テキサスの前方に出る。艦尾のワイヤーを全部使ってテキサスの艦首のキャプスタン(巻き上げ機)やボラート(固定金具)に結束!」

「了解、全ワイヤーをテキサスの艦首に固定!」

 三笠の艦尾から、ありったけのワイヤーが発射され、自動的にテキサスのキャプスタンや、ボラートに絡みついた」

「微速前進いっぱーい!」

「了解、微速前進いっぱーい!」

 トシが復唱し、エンジンテレグラムの針は、いっぱいに振れた。

「三笠は、見かけによらず出力は20万馬力です。必ず引っ張り出します!」

 引きこもりのトシが、こんなに真剣にやる気を見せるのは初めてだった。やがて、テキサスの艦体は軋みだし、軋みは、やがて苦悶の悲鳴に変わっていった。

 ギシギシ……ギギギ……グギギ……グキーン! ゴキーン! ガキゴキン!

「ジェーン、大丈夫か!?」

―― 大丈夫。テキサスは110年も生きてきた丈夫な子だから……! ――

 テキサスの軋みは、やがて言葉になってきた。

―― 公民権運動……ヴェトナム戦争……奴隷制……マンハッタン計画……大統領暗殺……イラク戦争……ポリコレ……TPP……排出権取引……キューバ危機……南北戦争……移民問題…… ――

 アメリカにとって、過去の過ちや、暗礁に乗り上げている問題などが、次々と悲鳴になって出てくる。ステルスアンカーというのは、その船の所属する国が苦悶している過去と現在の問題を引きずるようにして、船の自由を奪うもののようだ。

―― あ、ああーーー(##゜Д゜)!! ――

 ブッチーーーン!!

 ジェーンの声が悲鳴になったかと思うと、テキサスは艦尾1/4をアンカーに食いちぎられて、スクリューや舵を失って、やっとアンカーから離れた……海に浮かぶ船なら、もう沈没状態だ。

「ジェーン、大丈夫!? 大丈夫、ジェーン!?」

 しばらく、テキサスもジェーンも沈黙していた。もう船としては死んだかもしれない。

―― ……なんとか生きてる。しばらく曳航してくれる? そいで、ちょっと……むちゃくちゃになったから、しばらく居候させてくれないかしら…… ――


「いいよ。なんたって、こっちは4人しかいないんだから大歓迎だよ!」

 やってきたジェーンはボロボロだった。髪はあちこち引きむしられたようになり、シャツもジーパンもかぎ裂きや、破れ目だらけになっていた。

「ジェーンを、中央ホールの神棚の下へ。わたしが看病するわ」

 へたりこんだジェーンをみかさんが助けようとすると、ジェーンは、キッパリとその手を払いのけた。

「あのステルスアンカーは、アメリカの矛盾を引き出し、拡大させて自縄自縛にし動けなくする。無理に引っ張ろうとすると艦体がバラバラになる。艦尾だけで済んだのは三笠のお蔭よ。でも、このままじゃ、いずれメリカ艦隊は全滅する……電信室を貸して、今からワクチンを作る」

「わかった。その間に、テキサスの修復工事をやっておくわ」

「ありがとう、日本の技術なら安心だわ」

「でも、とりあえずは、治療を優先!」

 ミカさんがまなじりを上げる。

「ミケメ、おまえたちでジェーンを医務室へ!」

「「「「ラジャー!('◇')ゞ」」」」

 ジェーンは、ネコメイドたちに助けられて電信室に向かった。その間にもジェーンの服は、さらにズタボロになっていき、ほとんど裸と変わらないかっこうになっていた。なんとも痛ましくはあるが、見上げた根性だと思った。

「こら、なに見てたのよ。CICに行ってテキサスの修復工事の段取りよ!」

「あ、そんなヤラシイ意味で見てたわけじゃないから……」

「うそ、二人からはイヤラシオーラが出てるわよ!」

 神さまとは言え、女子高生のナリをされていると、つい口ごたえしてしまう。第一オレに関しては誤解だし。

「トシ、離れて歩け。オレが誤解される」

「そんな、オレのせいにしないでくださいよ!」

「どっちもどっちよ。さあ、CICに急ぐわよ!」

 とりあえずグリンヘルドの脅威からは離れた……ように感じられた。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・37『火事の痕跡』

2022-11-28 07:16:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

37『火事の痕跡』  

 

 

 あの火事騒ぎから一週間、わたしは久々に学校へ行った。

 久々という感覚は人によって違うんだろうけど、なんせひいじいちゃんの忌引きで、小学校のとき二日しか休んだことのないわたしは、本当に久しぶり。

 地下鉄の出口を出て、百メートルほど歩いて発見。

 え?

 斜め向かいのお店が並んだ一角が工事用シートで囲まれている。シートに隙間があって、中が見える。シートの中は……更地になっていた。更地……つまり何もない空き地。

 こないだまで、ここには何かのお店があったはず……はずなんだけど……思い出せない。

 駅の出口を出ると、ちょっと行って乃木神社。道路を挟んで乃木ビル。ブライダルのお店、飲み屋さん、コンビニと続いて……あとはそんなに意識して歩いているわけじゃないから記憶もおぼろ……パン屋さん。うん、あそこは覚えてるってか、時々お弁当代わりにパンを買っていく。
 で、その隣り……へー、建築事務所だったんだ。その上は五階までテナントの入ったビル。ビルの名前は街路樹に隠れて見えない……で、その隣りが、シートで囲まれた更地。

 一週間前には何かがあった。もう半年以上この道を通っているのに思い出せない。

 気になるなあ……と、思っているうちに通り過ぎてしまった。

 コンクールの明くる日は、ここをダッシュで走ったんだ。三百メートルを五十秒。

 思えば、あれで汗だくになり、オッサンみたいなくしゃみ……あれがインフルエンザの始まりだったのかもしれない。


 学校に着いて、そのままグラウンドに行ってみた。

 焼けた倉庫は、きれいサッパリ片づけられていた。

 土まで入れ替えられたようで、火事の痕跡は、コンクリ-トの塀と、側の桜の木が半身焼けこげて立っていることだけだ。

 知らない人が見たら、ただの更地だよ。そこに戦争の空襲からもGHQの接収からも逃れた古ぼけた倉庫があったなんて想像もできないだろう……。

 わたしは、この倉庫とは半年あまりの付き合いしかなかった。

 でも、その思い出の中には、潤香先輩への憧れ。マリ先生の厳しい指導。里沙や夏鈴とのズッコケた失敗なんかが……そして、なによりわたしはここで死にかけた。
 それを救ってくれた忠クンのことといっしょに、思い出というには、まだ生々しい記憶がここにはある。

「まどか、もう予鈴鳴ったよ!」

 中庭から、わたしを呼ばわる里沙の声がした。夏鈴が横にくっついている。

 わたしは予鈴が鳴るのにも気づかないで二十分近く、そこに立っていたようだ(^_^;)。


 里沙がノートをパソコンで送ってくれていたので助かったけど、やっぱり授業というのは受けてみないと分からないものなのだ(受けていても、分かんないこといっぱいあるんだけど)。

 休み時間も昼休みも、友だちや先生に聞きまくり。

 最初にも言ったけど、わたしってひいじいちゃんの忌引きで、小学校で二日休んだだけ――授業分かんないのは休んだからだ……と、思いこんじゃうわけ。

 もともとそんなにできるわけじゃない、だから、ちゃんと授業受けていても結果的には変わんないんだけど。潜在的には「わたしは、デキル子」という、身の程知らずのオメデタイとこがある。

 だから、コンクールのときでも潤香先輩のアンダースタディーに手を挙げちゃうし、倉庫の火事でも、半ば無意識とはいえ飛び込んじゃうわけ……で、結果は意気込みほどじゃないことは、みなさんもよくご存じの通りってわけなのです。

 やっと放課後になって、クラブ……に直行したかったんだけど、掃除当番。

 それに担任の鈴木先生に、狸の薮先生からもらった登校許可に関する意見書(インフルエンザは法定伝染病なんで、登校するのには、正式には診断書。これだとお金かかっちゃうので、意見書でいいことになっている)を渡さなければならない。朝ドタバタして渡し損ねたのだ。

 鈴木先生は女バレの顧問。体育館に行くと、練習前のミーティング。それが終わるのを待って、ようやく手渡し。先生も朝、言葉がかけられなかったので、慰労と励ましのお言葉をくださる――はしょってください――とも言えず、神妙に聞いていると、もう四時二十分。とっくにクラブが始まっている。

 急がなくっちゃ(><)!

 

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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