大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・364『ドイツに勝ったぁ!!』

2022-11-26 20:39:21 | ノベル

・364

『ドイツに勝ったぁ!!』さくら    

 

 

 ドイツに勝ったぁ!!

 ウワアアア!!

 

 オッサンの叫び声と窓ガラスが震えるほどの歓声で目が覚めた。

「「ふぇ?」」

 横のベッドで寝てた留美ちゃんも半ボケで目を覚ました。

 ウワアアアアアアアア!!

 今度は閉めた窓の外からも歓声。

「ええ、戦争……?」

「か、勝ったんだよ! ドイツに勝ったんだよ!」

 外の歓声で完全に覚醒した留美ちゃんは半纏を羽織って、リビングに下りて行った。

 ちょっと待ってえよ、ウクライナが戦ってるんはロシアで、ドイツやなかったはずやで。

 いや、日本でこれだけ喜んでるんやから、うちの知らん間に知らんとこで戦争やってた?

 ここんとこ文化祭の事で頭いっぱいで、全然気ぃつけへんかった!?

 今日は、家帰って、ご飯もそこそこ、お風呂入って寝てしもたさかい……うちも半纏を羽織ってリビングへ。

 ニャア

 ダミアがリビングの興奮ぶりに恐れをなして、階段の上まで逃げてきてる。

 子ネコの頃やったら「おーよしよし」って抱っこしたんねんけど、10キロ超えのブタネコは放っとく。

 リビングに足を踏み込むと、アホのうちでも分かった。

 なんかの試合に勝ったんや。

 アナウンサーとコメンテーターが興奮組に「奇跡の勝利!」「大金星!」とか言うてて、会場の歓声が怒涛の波音みたいに木霊してる。

「さくら、勝ったよ! 日本勝った!」

 詩ちゃんがパジャマにカーディガンで抱き付いてくる。ついさっきまで、うちといっしょに寝ぼけてた留美ちゃんはソファーでおばちゃんと手ぇとりあってるし、テイ兄ちゃんはおっちゃんとジョッキ片手にできあがってる。お祖父ちゃんまでワンカップの蓋あけながら、もう目つきがおかしい。

「ほら、さくらも、こっちおいで!」

「え、あ、うん……お祖父ちゃん、酒臭い~(^_^;)」

「ほら、感動の瞬間! リプレイやぞぉ」

 浅野おおおおおお スーパーゴーーーーーール!! ウオオオオオオ!!

「うわあ!」「キャー!」「かっこいい!」「惚れるううう!」「ニャアア!」

 みんなすごい興奮で、繰り返されるゴールの瞬間に痺れまくり。

 うちもお祭り騒ぎは好きやから、いっしょに「うわああ!」とかやりたいんやけど、ちょっと乗り損ねる。

 留美ちゃんも文化祭で疲れてるはずやねんけど、もう、お目々ギンギラギン。

 

 文化祭の代休を挟んだ昨日の学校でも、みんなサッカーの話があちこちでやってて、授業に来る先生らも最初にもサッカーの話をしてて、保健の長瀬先生なんか半分サッカーの話で潰してしもた。

 お目出度いのは分かるねんけど、うちは、もう一つ入っていかれへん。

「むう、なんか共産党の議員みたいだぞ」

 頼子先輩にも意地悪を言われる。

「頼子さん、もしさ、ホットドッグ早食い世界大会があって、日本人が優勝しても、そんな風にホットになれます?」

「え、なにそれ?」

「金魚すくい世界大会とか」

「うん?」

「ハナクソ飛ばし世界一とか」

「さくらぁ、ちょっと変」

「あ、いやいや、すんません。で、なんで共産党さんがでてくるんですか?」

「ネットでいいからニュースぐらい見なさいよね」

 そう言いながら、頼子さんはスマホでニュースを見せてくれます。

―― 日本勝っちゃうしで、残念 ――というツイート。

 スクロールすると、日本人ならみんな喜ばなければならないのはおかしい的な話もあってビックリ。

「まあ、あとで謝ったり訂正したりしてるんだけどね」

「あ、うちは、そんなんとはちゃいますから」

「ああ、ごめんごめん。これ見た後だったから、ちょっと重なっちゃった」

「うちて、サッカーだけちごて、スポーツ一般苦手っちゅうか……」

 言葉を濁してると、頼子さんは椅子を回して向き合ってくれる。

「いや、そんな大層なことちゃいますねんけど」

 なんかシビアになりそうと思てると、ソフィーが呼びに来て中断。

 ああ、話が横っちょいきそう。

 続きは、また今度ね(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

 

 

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ピボット高校アーカイ部・32『再生リボンからいきなりの勝負』

2022-11-26 11:50:26 | 小説6

高校部     

32『再生リボンからいきなりの勝負』 

 

 

「こちらに、青山さんのお店でよろしいでしょうか?」

 

 帳場の女の子が「はい、姓は青山、屋号は肥前屋ですが」と笑顔を向けてくる。

「キャ、かわいい……」

 揃って横に立っている麗二郎、いや麗が恥ずかしくなるほどときめいて、巾着持ったままの手を口元に持っていく。

 カミングアウトしたんじゃねえのか! つっこみたいけど我慢。

「こちらに、おリボン置いてらっしゃるって伺ってきたんですけど」

「あら、よくご存じですね、リボンはこちらです。あまり出ないもんだから、お父さんが奥に引っ込めちゃって……こっちに……」

 左手で袂を押え、身を乗り出してリボンが入った箱に腕を伸ばす。

 うなじと右手の肘から先が露わになる。その色の白さと容の良さに、僕もドキッとする。

 うなじも肘の裏側も、街でも学校でも普通に見てるんだけどね……お祖父ちゃんが言っていた『秘すれば華』という言葉が浮かぶ。

 いやいや、僕まで時めいてどうするんだ(^_^;)

「ご維新も二十五年、そうそう古着も売れないんで、いいところを採って、小間物が作れないかって、取りあえずリボンから初めてみたんです」

 籐籠の中には再生品と言われなければ分からない、きれいなリボンが一クラス分ほど並んでいる。

「左前の打合せとか帯で隠れるところとか、けっこう状態のいい生地が採れるんですよ。古着の売れ残りは、雑巾ぐらいにしかならないんです。西洋じゃパッチワークなんてツギハギが伝統的だったりするんですけどね、日本人は好みません。それで、こんな風に」

「そうですね、古手を粗末に扱えば付喪神(つくもがみ)が祟るって言いますものね」

「あら、女学生さんなのに、古風なことをご存知ね」

「貧乏旗本の裔ですからね、モノは大事にいたします」

「それは、よい心がけですね。わたしも同様ですよ、そして、古いものを新しく。明治を生きる古道具屋の心意気です」

 ポンと、小気味いい音をさせて帯を叩く。

 令和の時代なら中学生かというくらいに小柄な人だけど、言葉や表情が小気味よくって先輩と対等に会話ができている。

「過ぎたお洒落はひかえなくてはいけないんですけど、おリボンぐらいは……女学生の心意気!」

 ポン

 アハハハハ

 先輩も帯を叩いて調子が揃って、店の中に花が咲いたようになる。

 その明るさにつられたのか、数人のお客が店を覗き始め、奥から主人が出てきて対応を始める。

 こういうのも女子力って言うんだろうか、傍で見ているだけで楽しくなってくる。

―― 勝負に出る、お前たちもリボンを手にとれ ――

 え、勝負?

 任務の詳細を聞いていないので面食らう、でも、慣れている「これなんかもいいなあ」と呟いてオレンジ色のリボンを手に取る。麗もエンジ色を髪にかざしている。

「着物との釣り合いを見たいから、表で見比べていいかしら?」

「そうですね、お日様にあてると色合いがかわりますからね」

 四人でウキウキしながら通りに出て、髪にリボンをかざしてみる。

―― 脇に寄れ! ――

 先輩の命令は、いつも突然。反射的に看板の方に身を寄せ、先輩は逆に道の真ん中に近づく。

 ガラス戸を鏡にしてリボンの映り具合を見ている感じになる。

 

 ドン!

 

 通行人とぶつかって先輩が倒れ、通行人の大男がタタラを踏む。

「オウ、コレハ、スミマッセーン」

 大男が片言の日本語で謝りながら先輩に手を差し伸べる。

「いえ、わたしこそ、往来の真ん中で……」

 そこで、先輩と大男の目が合った。

 ドッキン

 アニメならエフェクト付きで心臓の音がしただろう。

 大男は、先輩に一目ぼれしてしまった。

 

―― チ、しまった! ――

 

 先輩の舌打ちが盛大に頭に響いて、僕らは緊急タイムリープした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 西郷 麗二郎 or 麗           ピボット高校一年三組 
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

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宇宙戦艦三笠11[テキサスジェーン・2]

2022-11-26 09:08:29 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

11[テキサスジェーン・2]   

 

 

「えーーーーーーあなたたち人間なの!?」

 歓迎の握手を交わすと、その感触で分かったのか、妙なところで驚くジェーン。

「あなたは違うの?」

 樟葉が、まっとうな質問をした。

「あたしはguardian god of a boat……日本語でなんて言うんだろう?」

「船霊よ」

 ミカさんが、まるで、ずっとそこに居たかのように一番砲塔の脇から声を上げた。

「あ、あなたが三笠のguardian god of a boat?」

「うん、だけど日本の船霊というのは、ちょっと違うの。ジェーンは、テキサスが出来た時に生まれた精霊のようなもんでしょ?」

「そうよ。だから、今年で110歳。ミカさんもそのくらいじゃないの?」

「日本の船霊は、船が出来た時に、縁のある神社から分祀されるの」

「ブンシ?」

「アルターエゴ(alter ego)って言葉が直訳だけど、ちょっと違う。コンピューターで言うダウンロードって感じが近い……かな?」

 みかさんはお下げのまま小首を傾げた。

「なるほど、ダウンロードしたら、どれも本物だもんね……で、ミカサはどこからダウンロードしてきたの?」

「ウフフ……」

 みかさんが笑って答えないもんだから、俺(修一)が代わって答えた。

「天照大神……らしいよ」

「アマテラス……それって、アニメでよく出てくる! 日本で一番のボスゴッドじゃないの!!」

 それにしては、可愛らしいナリだという顔を、ジェーンはしている。

「まあ、その場その場に合うような姿になっちゃう。うちはみんな高校生だから、自然にこういうふうになるの……かな?」

「ちょっとジブリ風ね。アメリカでも人気よ。でもさ、どーして人間といっしょにやるわけ? 人間って酸素も要るし、水も食料も要るし、オナラはするし、夜は寝ちゃうし、寝言は言うし……」

 なんだか、すごい言われようだ。

「あたしたち日本の神さまは、人間といっしょになって初めて十分な力が発揮できるの。guardian god of a boatだけでやるアメリカとは……まあ『有り方の違い』的な?」

「でもさ……」

 言いかけて、ジェーンはみかさんにオイデオイデして、なにやら密談ぽくなった。


「なに……」「話して……」「るんだろ……」


 ちょっと感じ悪い……と思ったら、俺の横にシロメとクロメが立った。

「『でも、なにもかも神さまがやったら、あとで文句出ません?』と、ミカさんがおっしゃってます」

「『アマテラスって、ボス神じゃないの? タカマガハラから上から目線で仕切ってますって感じするけど』ジェーンさんがおっしゃってます」

 二人は、神さまの内緒話を読んで中継してくれるようだ。トシ、天音、樟葉も寄ってきた。

「『う~ん、ボスって言うよりは委員長って感じですかね?』と、ミカさんです」
 
 確かに、あれで眼鏡を掛けたら、委員長キャラだ。

「『なるほど、失敗したら連帯責任か』と、ジェーンさん」

「『ちょっと違います。右手と左手が無きゃ拍手は出来ない的な?』と、ミカさん」

「『片手でも指は鳴らせるよ』と、ジェーンさん」

「『指パッチンは、ちょっと品が無い的かも』と、ミカさん」

「『ちょっと待って』と、ジェーンさん」

「『あら?』っと、ミカさん」


「「気づかれてしまいました!」」

 ピューーー!


 あっと言う間に居なくなった。

 代わりにチャメとミケメがやってきて「「お茶の用意ができました」」と声を揃えた。


 長官室でお茶にして隣の家で寛いだようにリラックスして帰っていった。

 その数分後だった。


―― ステルスアンカーをかまされた! ――


 ジェーンの悲壮な声が届いてきた。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・36『ジャンケン必勝法』

2022-11-26 06:57:00 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

36『ジャンケン必勝法』  

 

 

 愛おしさがマックスになってきた……。

 まどか……

 

 忠クンの手が、わたしの肩に伸びてきた……引き寄せられるわたし……去年のクチビルの感覚が蘇ってくる……観覧車のときのようにドギマギはしない。ごく自然な感覚……これなんだ!

「ね、なんで、ここ『アリスの広場』って言うか知ってる?」

 薮先生のおまじないが口をついて出てきた。

「……え、なんで……」

「アリスの『ア』は荒川のア。『リ』はリバーサイドのリ。『ス』はステージのス。ね、ダジャレ。笑っちゃうけど、ほんとの話なんだよ」

「「「へえ、そうなんだ!」」」

 二段上の観客席で声がして、振り返るとクソガキ三人が感心している。

「どーよ、勉強になったでしょ<(`^´)>?」

 怖い顔でにらみつけてやる。

「「「は、はひ(;'∀')」」」

 クソガキ三人が頭をペコリと下げて、川べりに駆けていった。

「まどか……」

 忠クンが夢から覚めたようにつぶやいた。

 マックスな想いは、表面張力ギリギリのところで溢れずにすんだ。

 出番を間違えて舞台に立った役者みたく突っ立て居る忠クン……これじゃあんまり。

「これ……」

 わたしは、ポシェットから花柄の紙の小袋に入れたそれを渡した。

 忠クンは、スパイが秘密の情報の入ったUSBを取り出すように。子袋のそれを出した。

「これは……」

「リハの日にフェリペの切り通しで見つけたの」

 わたしは、台本の間で押し花になったコスモスを兄貴に頼んで、アクリルの板の間に封印してもらった。以前、そうやって香里さんの写真を永久保存版にしていたのを見ていたから。兄貴はニヤッと方頬で笑ってやってくれた。

「え? あ! オレも、持ってるんだ!」

 忠クンは、定期入れから同じようにアクリルに封印したコスモスを出した。

「友だちに頼んでやってもらった。理由聞かれてごまかすのに苦労した」

「これ……あのときの!?」

「うん。花言葉だって調べたんだぜ」

「え……?」

―― よしてよ、また雰囲気になっちゃうじゃない ――

「赤いコスモスだから……調和。友だちでいようって意味だったんだよな」

―― 違うって、わたしそこまで詳しく知らないよ、コスモスの花言葉 ――

「今度のは白だな。また、帰って調べるよ」

「う、うん。そうして」

―― 白のコスモスって……わたしも帰って調べよう(^_^;) ――

 川面を水上バスがゆっくり走っていく。西の空には冬の訪れを予感させる重そうな雲。でも、わたしの冬は熱くなりそうな予感……。

「オレも、もう一つ、ささやかなプレゼント」

「なに……」

 ト、トキメイタ(#^△^#)。

「大久保家伝来のジャンケン必勝法!」

「アハハ……!」

 思わずズッコケ笑いになっちゃった。

「一子相伝の秘方なんだぜ。ご先祖の大久保彦左衛門が戦の最中に退屈しのぎに仲間と『あっち向いてホイ』をやって全勝。神君家康公からご褒美までもらったって秘伝の技なんだぞ」

「そりゃ、たいへんなシロモノね」

「いいか、ジャンケンてのは、『最初はグー!』で始まるだろ」

「うん」

「そこで秘伝の技!」

「はい!」

「次には、必ずチョキを出す……」

 忠クンは胸を張った。

「……そいで?」

「……それだけ」

 わたしは本格的にズッコケた。

「これはな、人間の心理を利用してんだよ。いいか、最初にグーを出すと、次は人間自然に違うものを出すんだよ。違うものって言うと?」

「チョキかパー」

「で、そこでパーを出すとアイコになるかチョキを出されて負けになる……だろ?」

「……だよね」

「ところが、チョキを出すと、アイコか勝つしかないんだ」

「なるほど……さすが大久保彦左衛門!」

「でも、人には喋るなよ!」

「大久保家の秘伝だもんね……でも、これを教えてくれたってことは……」

「あ、そんな深い意味ないから。まどかだからさ、つい……アハハハ」

「アハハハ、だよね」

 笑ってごまかす二人の影は、たそがれの夕陽に長く伸びていった。

 そいで……このジャンケン必勝法は、始まりかけた熱い冬の決戦兵器になるんだよ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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