大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・360『皆既月食と呪文』

2022-11-10 15:35:48 | ノベル

・360

『皆既月食と呪文』さくら    

 

 

 ペコちゃんがすべった。

 

 と言っても、なにかの試験に落ちたわけやないし、バナナの皮を踏んだわけでもない。

 ベテランの芸人さんが、ここ一発のギャグをとばして反応が薄かった。こういうのを「スベった!」って言うでしょ?

 その「スベった!」ですわ。

 

「昨日の皆既月食はすごかったよねえ(^▽^)/」

 

 授業の冒頭でかましたんやけど、「あ、ああ……」いう反応がチラホラ。あとは「え、それなに?」という反応。

「あ、いや、だから昨日は皆既月食だったでしょうが」

 言いながら、黒板に『皆既月食』と大きく書いた。

―― え、みんなで月を食べる? ――

 そういうスカタンもちらほら。

 なんちゅうか、それがどないしたいう感じ。

「ほら、太陽と地球と月が一直線に並んで、月が地球の陰に入って見えなくなることを言うんだよ!」

 教師の性やろね、ペコちゃんは黒板に図を描いて、皆既月食の仕組みを説明。

―― ああ、なるほど ――

 という空気にはなるねんけど、もう一つ感動が薄い。

 たぶん、みんなテレビ見いひんし、新聞も読まへんからやと思う。

 それに日食やったら、夜みたいに暗くなるけど、月食は、わざわざ空見てなら分からへんしね。

「昔はね、月食を見てしまったら死んでしまうとか運が悪くなるとか言って嫌われたんだよ。天皇さんなんか、月食の日は、月が出てくる前から籠ったりして、大変だったんだよ」

 うんうん、なるほど……

 やっぱり反応が薄い。

「えと、英語では……」

「total lunar eclipse(トータル ルナ― エクリプス)です」

 ソニーが答える。

「そうそう、そうだよね。ヤマセンブルグとかじゃ言い伝えとかあるのかなあ」

「はい、ヨーロッパでも月食は不吉なものだとされていましたね。王さまの力が弱まるとされて、月食の日は、一日べつの人間を王さまとして立て、本物の王さまは一般人の格好をして隠れたりしました。月食が終わったら出てくるんですけどね」

「え、影武者?」

 聞いたのはあたし。

「影武者はどうなるの?」

 メグリンが聞く。

 他の子ぉらは――それでそれでぇ?――いう子らと、悪い答え(殺されるとか)を予感して眉を顰めたりしてる。

「居なくなります」

 え?

 ちょっと斜め下の答えやったんで、みんなは俄然興味を持つ。

「居なくなるとは?」

「居なくなるんです」

「せやから、どう居なくなるのん?」

「それは聞いてはいけないんです。災いが起こります……」

 ちょっと、シンとしてきた。

 ソニーは――ちょっとまずかったか――いう顔をして、話を続けた。

「他にも、皆既月食の日に呪いをかけるとよく効くと言われています」

「ええ、呪いって、どんなん!?」

「両手をこんな風にして……ヘックマリオッサ! エイ!」

 ちょっと雰囲気。

「しまった、ほんとにかけてしまった! みんな、ドアと窓を開けて! 呪いを逃がすから!」

 ヒエ!

 あたしが腰を浮かすと、他のみんなにも伝染って、いっせいにドアと窓を開ける。

 ガラガラガラ!

「サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ! サッオリマクッヘ!」

 腕を大きく払うような仕草をしながら呪文を唱えるソニー!

 大きく目を見開いたかと思うと、すぐに目を細めて、低く呪文を唱え続け、教室はシーーンと静まり返ってしまう。

「……と、まあ、こんな感じですね。雰囲気楽しんでいただけたら幸いです(^▽^)/」

 パチパチパチ!

 率先して拍手。みんなもそれにつられて拍手して、やっと平常の授業になった。

 

 ほんまは、ソフィーとソニーがもう一チーム作って文化祭の劇をする話をしたかったんやけど、それは次にね。

 

「いやあ、さっきの魔法は真に迫ってたねぇ!」

 帰りの昇降口でソニーを褒めたたえると、階段を怖い顔してソフィーが下りてきた。

 で、なんやら英語で言い合いしたあと、二人で魔法の杖を持って走って行った。

「取りこぼしの魔法があるみたいよ……」

 頼子先輩が渋い顔をして立っておりました(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・095『皆既月食の夜に煌めく星座、閃く玉ちゃん』

2022-11-10 09:42:31 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

095『皆既月食の夜に煌めく星座、閃く玉ちゃん』   

 

 

 ちょっとちごっかもしれん

 風呂上がりの髪を乾かしながら玉ちゃんが呟く

 

 空には、間もなくコンプリートしそうな月食の月。なにかの閃きが居候の神さまにあるのかもしれない。

「寅どん(吉田松陰)も望東尼どんも、彼んこっ『高杉どん』て呼んじょったんじゃね?」

「あ、うん。二人とも受け持ちの生徒かクラスメートを心配する感じだったよ……なにか?」

「うん、思い出したたっどん、高杉晋作は亡くなっ二年前に谷と苗字を変えちょっ。名前は潜蔵、谷潜蔵が最後ん名前やったじゃ」

「でも、それって、身を隠すための偽名とかじゃないの? 晋作って、ずいぶん敵も多かったみたいだし」

「うん、じゃっどん、名前を変えたんな藩命で、高杉ん籍も離れっせぇ、録も新知に百石になっちょっで正式やっど。寅どんも松下村塾んしたちも、そげんケジメはしっかりしちょっで」

「そうなんだ……玉ちゃんも、俄然詳しくなってきたねえ。うちへ来たころは、千数百年ぶりの人の世の中なんで、こっちも玉ちゃんも戸惑うことばっかりだったけど、なんだか、わたし以上に詳しくなってきてない?」

「うん、あたいは荒田八幡宮からは出らんやったじゃっどん、参拝に来っしは多かったでねインプットはされちょっみて。ただダウンロードされたアプリみてなもんせぇ、解凍せんな使い物にならんのじゃなあ」

「そうか……わたしのはウィキペディア的だからね。そういう玉ちゃんの助言は助かるわ……で、なにか気にかかる?」

「うん、プラスマイナス両方あっかなあ……」

「プラマイ?」

「一つは、寅どんも望東尼どんも、妖か物ん怪的なものが化けちょっとかもしれん……そいが、高杉晋作んこっが目障りで、ヒルデにやっつけさせようとしちょっとかも……」

「それは怖いな」

「もう一つは、ヒルデにもあたいにも分からん長州人の機微があっせぇ、旧姓ん高杉で通しちょっとかも……」

「玉ちゃんは、どっちだと思う?」

「うう~ん……月食はあたいん潜在能力を喚起すっどん、今夜は天王星がねえ……」

「天皇制?」

「お星さぁん天王星じゃ。土星と海王星ん間んお星さぁ」

「ああ、天王星」

「そん天王星が、何百年被りん惑星食で姿が消えちょっ……あや、あたいん能力を引き起こすシッチになっちょっみて……」

「シッチ?」

「スイッチんこっじゃ……ああ、髪も乾いて眠うなってきた……わり、ヒルデ、先に寝させてもらうわ……」

「ああ、ありがとう、お休み……もう寝てるし(^_^;)」

 

 煌々と星々は輝くも月が見当たらない夜空は、どこかとりとめがない。

 海王星なんて、太陽系の七番惑星としか知識には無かった……いや、我が北欧神話にも、なにかしら言い伝えがあるのかもしれないが、戦に明け暮れていたわたしには無縁の星だった。

 こんど親父(主神オーディン)と話す機会があったら、話の枕にでも聞いてみるか。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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宇宙戦艦三笠7[思い出エナジー・1]

2022-11-10 06:52:27 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

7[思い出エナジー・1]   

 

 

 メイドさんは四人とも同じメイド服なんだけど色がちがう。白、黒、茶、そして白黒茶の混ざったの。

 

「「「「お早うございます、ご主人さま、お嬢様」」」」

 一瞬驚いたあと、四人のメイドさんは揃って挨拶をしてくれる。

「あ……」「う……」「え……」「お……お早う」

 互いに挨拶を交わして、あとが続かない。

「わたしたち、陰ながらみなさんのお世話をいたします。わたくしがミケメ」

 白黒茶が口火を切った。

「シロメです」「クロメです」「チャメです」

「陰ながらのお世話のはずでしたが、申しわけございません、早々にお目に留まってしまいました」

「あ、いや、それはいいんだけど……」

「三笠はフルオートの自律戦艦ですが、やはり、細々とした気配り目配りはメイドがいなければ叶いません。そのために、わたしどもが乗艦しております。お目に留まった以上は、遠慮なくお世話をさせていただきますが、わたしどもの居場所、キャビンはご詮索なさらないでくださいませ。必要な時は『ミケメ』とお呼びくださいませ」

「シロメとお呼びくださいませ」

「クロメとお呼びくださいませ」

「チャメとお呼びくださいませ」

「「「「よろしくお願いいたします」」」」

 四人そろって挨拶されて、天音がピンときた。

「キミたち、ドブ板のネコだろ!?」

「「「「ニャ!?」」」」

 言い当てられて、四人とも尻尾と猫耳が出てしまう。

「し、失礼いたします!」

 ピューーーー

 ミケメを先頭に四人とも飛んで行ってしまった。

「アハハ……バレちゃいましたね(^_^;)あの子たち」

 呆気に取られていると、神棚からミカさんが現れた。

「ミカさんは知ってたの?」

「はい、三笠が旅に出ると知って手伝ってくれることになったんです。みなさんが横須賀を愛してくださっているのを知って、ぜひお手伝いしたいと。まあ、よろしくお願いしますね」

「それで、今日は何をしたらいいのかしら(^_^;)?」

「まずは、寛いでください、長い旅になりますから、あとはおいおいとね……」

 そう言うと、ミカさんは神棚に戻ってしまった。


 寛げと言われて、自分から仕事を探すような俺たちじゃない。

 サイドテーブルの上には、お茶のセットやポットがあるので、自然とお茶会のようになってしまう。長官室も雰囲気があって居心地もいいしな。


 オレは、保育所の頃、樟葉からおチンチンを取られそうになった……。

 オレと樟葉は、保育所から高校までいっしょという腐れ縁だ。かといって特別な感情があるというわけではない。

 例えれば、毎朝乗る通学電車は、乗る時間帯がいっしょで、気が付けば同じ車両で隣同士で突っ立てっていることとかがあるだろ。       
 互いに名前も知らなければ、通っている先も分からない。サラリーマンやOLだったりすると、まるで接点がなく、春の人事異動なんかで乗る電車が違ってしまうと、それっきり。高校生だと、制服で互いの学校が知れる。ごくたまに、こういうことから関係が深まっていくやつもいるけど、大概そのまま口も利かずに三年間が過ぎていく。基本的に樟葉とはそうだ。ただ保育所のころというのは、ネコや犬の子と同じようなところがあって、その程度には関係があった。

 年少のころだったけど、オレには鮮明な記憶がある。トイレの練習で、一日に二回オマルに跨って、自分でいたす練習をやらされた。

 まだ二歳になるかならないかで、みんな記憶には残っていない。でもオレは鮮明な記憶が残っている。

 オマルに跨って用を足していると、視線を感じた。それが樟葉だった。

「あたちも、おチンチンがほちい……!」

 と、言うやいなや、樟葉はオレに襲い掛かり、オレのおチンチンをひっぱりまわした。樟葉は道具一式を両手でムンズと握って引っ張るものだから、女には分からない激痛が走って、オレは泣きだすどころか悶絶してしまった。すぐに先生が飛んできて樟葉を引き離して事なきを得たが、幼心にも樟葉の顔が悪魔のように見えた。

「だって、テレビのコンシェント抜けるよ」

 涼しい顔で、先生に言っていたのを、オレは覚えている。

「そんなこと知らないもん!」

 樟葉は、真っ赤になり、パーにした両手を振って否定した。

「そう、その手でオレのナニをムンズと握って、ひぱったんだ!」

 天音とトシがケラケラと笑う。引きこもりのトシが笑うのは目出度いことだ。でも、そのあと樟葉が洗面で思いっきり洗剤使って手を洗ったのには、可笑しくも情けなかった。

「修一だってね、年中さんの時に、みんなでお散歩に行ったとき、他の保育所のかわいい子のあとを付いていっちゃって行方不明になっちゃったじゃないよ!」

「あ、あれは、傍で『お手手つないで』って、声がしたからさ」

「あ、覚えてるんだ、確信犯だ!」

「そうじゃなくって……」

「あのあと、その保育所の先生に手を引かれて泣きながら帰ってきたんだよ。保育所も大騒ぎだったんだから」

「ハハハ、二人とも、そんな昔の話を」

 天音が笑うと、はっきり体で分かるくらいに三笠のスピードが上がった。

「なんだ、これは!?」

 トシが、テーブルの端で体を支えながら叫んだ。

「ホホホ、三笠は、みんなの思い出や、熱中みたいな精神的なエネルギーで、力を増幅してるのよ」

 再び、ミカさんが現れて、みんなを見まわして微笑んだ。

「舷窓から、外を見て」

 おお!

 三つある舷窓に群がると、中国の定遠をみるみる追い越していくのが分かった……。
 


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ     

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・20『武藤さんの言うとおりね』

2022-11-10 06:22:20 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

20『武藤さんの言うとおりね』  

 

 

 下足室まで走って気がついた、今朝の一時間目はマリ先生の現代社会……。

 晩秋だっていうのに、どっと汗が流れてきた。

 職員室は、教室のある新館とは中庭を隔てた反対側の本館。授業の準備なんかしていたら、わたしよりは二三分は遅くなる。

 ゼエゼエ……ゼエゼエ……えへへ

 息を整えながらも、余裕で階段を上り始めた。

 ただね、噴き出す汗がたまんなくて、三階の踊り場で立ち止まった。タオル(クラブ用なのでタオルハンカチのようなカワユゲなものじゃない)で、顔、首、そいでもって、セーラー服の脇のファスナーをくつろげ、脇の下まで拭いちゃった……われながらオッサンであります。

「ヘックショ!」

 慌てて、手をあてたけど間に合わなかった。「ン」はかろうじて手で押さえられたけど、大量の鼻水とヨダレが押さえきれない手から溢れ出た。すぐにタオルで拭いたけど。だれが聞いても、今のは立派なオッサン。

 風邪をひいたか、だれかが噂をしてくれているか……。

 教室に入ると里沙がプリントを配っていた。里沙と夏鈴は同じクラスなのよ。

「運良かったね、マリ先生遅刻で一時間目自習だわよ」

 最後の一枚をくれて里沙が言った。

「でも、わたしといっしょに学校入ったから、もう来るよ」

「ええ、もう自習課題配って説明もしちゃったわよ!」

 そこに、汗を滲ませながらマリ先生が入ってきた。みんな呆然としている。

「……どうしたの。みんな起立。授業始めるよ!」

「だって、先生。もう自習課題配ってしまいました……説明もしちゃいましたし」

「でも、わたし間に合っちゃったんだから」

「教務の黒板にも、そう書いてあったし。公には自習になると思うんですけど」

 里沙は、こういうところがある。真面目で決められたことは、きちんとこなすけれど、融通がきかない。みんなは自習課題を持てあまして、どうしていいか分からないでいる。

「……そうね、武藤さんの言うとおりね。自習って届け、出したの先生のほうだもんね。じゃ、この時間はその課題やってて」

 マリ先生は、里沙とは違う意味でけじめがある。授業では、けして「里沙」とか「まどか」とかは呼ばない。自分のことも「わたし」ではなく「先生」なんだ。

「できた人は先生のとこ持ってきて。あとは自由にしてていいから。ただし、おしゃべりや携帯はいけません。早弁もね、須藤君」

 大メシ食いの須藤クンが頭をかいた。

「あの、ラノベ読んでもかまいませんか?」

 夏鈴が聞いた。

「いいわよ、十八禁でなきゃ」

 たまには芝居の本も読めよな、四ヶ月もしたら後輩ができるんだぞ。人のこと言えないけど。自分のことを棚にあげんのは女子の特権。

 ……そのときのわたしは、この名門乃木坂学院高校演劇部が存亡の危機に立たされるなんて想像もできなかった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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