魔法少女マヂカ・295
「父はポチョムキン侯爵、そして母はエカチェリーナ二世……だよね」
「あら、マジカさんはご存知だったんですか?」
「うん、対ロシア工作をやっていた時に、少しだけロシア史を齧った」
「わたしはサッパリだ。歴史については西遊記と三国志ぐらいしか分からないかな」
そんなはずはないのだけど、まあ、一人が聞き役に回った方が、話が早いという悟嬢の姿勢だろう。
「エカチェリーナ二世はピョートル三世と結婚したけど、クーデターで夫を倒して、自らロシア皇帝になったんだったね」
「なんだか則天武后のようだな」
「ええ、そこだけ聞くと、とんでもない悪女に聞こえますけどね(^_^;)」
「違うのかい?」
「ピョートル三世は、大のドイツかぶれで、普段はドイツ語しか喋らないくらいでした。母もドイツ貴族の娘でしたから、ピーさん、あ、ピョートル三世と呼ぶのは長いですから、母はピーさんと呼んでました」
「アハハハ」
悟嬢が笑う。
確かに、親しみと軽蔑と人物評価において的確な呼び方だ。
気が付くと、お祭が近いのだろうか、村のどこからか陽気な音楽が聞こえてきた。
「タリラリラ~~~♪」
「なんだい、急に踊り出して」
「きれいなステップでしょ? 母に仕込まれたんです」
「お母さんは、ダンスも上手かったんだ」
「ええ、ピーさんに嫁ぐことになって、ダンスとロシア語は大まじめに勉強したんです。ロシア皇帝の妃になるんですからね」
ドイツ娘の木真面目さが思われて、ちょっと微笑ましい。
「でも、ピーさんは、ダンスはヘタッピだし、ロシア語は喋らないし」
「え、ロシア皇帝がロシア語喋らないのか?」
悟嬢も目を丸くする。
「ピーさんもドイツ育ちでしたし、ロシアはどうしようもない田舎だと思ってました」
「ふーーーーん、清朝の皇帝は女真人だけど、普段はきれいな中国語を喋っていたよ」
「まあ、それはいいんです。皇帝に限らず、貴族もフランス語とかドイツ語喋ってましたから……笑っちゃうのは、母とは体の関係が無かったこと」
「「ええ!?」」
これには驚いた。
「母は、五人の子どもを産みましたけど、遺伝学的には、みな父親が違います。すぐ上の兄の時なんか、屋敷が火事になったどさくさに産んだんです。というか、都合よく出産に合わせて火事が起こったんですけどね」
「凄まじいなあ……」
「でも、父も母も、とても大事にしてくれました。こんなポチョムキン村を作ってくれたんですからね……と、ここでレヴェランス」
パチパチパチ
話の区切なんだろう、きれいなレヴェランス(ダンスのお辞儀)を決めた。
「孫悟空の孫だから雅なことは分からないけど、上手いもんだなあ、祭りの音楽に適当に合わせたんだろう?」
「あ、いえ、ここでお話をしているんで、村人が雰囲気を作ってくれているんです」
「村人はキャストというわけだ」
「そうなのか?」
「はい、ポチョムキン村ですから」
「あ、ポルカに変わった」
文化祭の終りのファイアストームを思わせる陽気な音楽に変わった。
佳境に入ったのか、ややボリュームが高くなって、顔を突き合わせるようにしなければ声が聞こえなくなってきた。
「これは、核心についてお話しなさいというサインですね」
村祭りは単なる環境音楽というためだけではないようだ。
「じつは……あのミーシャは、マジカさんたちがお探しになっている人物なんです」
「え……まさか?」
コクン
エリザは小さく頷くことで答えにした。
※ 主な登場人物
- 渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
- 安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
- 来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
- 渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
- ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
- ガーゴイル ブリンダの使い魔
- サム(サマンサ) 霊雁島の第七艦隊の魔法少女
- ソーリャ ロシアの魔法少女
- 孫悟嬢 中国の魔法少女
※ この章の登場人物
- 高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
- 春日 高坂家のメイド長
- 田中 高坂家の執事長
- 虎沢クマ 霧子お付きのメイド
- 松本 高坂家の運転手
- 新畑 インバネスの男
- 箕作健人 請願巡査
- ファントム 時空を超えたお尋ね者