大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・18『ブラボー!』

2022-11-08 06:51:57 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

18『ブラボー!』  

 

 

「初日、中ホリ裏の道具置き場を見に行ったよ」

「マスター、ハイボールおかわり!……で、お化けでも居ました?」

「いたね、ヌリカベの団体さん筆頭にいろいろ」

「あれはね、フェリペが中ホリから後ろ半分使わせてくれないから……」

「逆だね。あんなに飾りこまなきゃ、道具はソデに置いて舞台全体が使えた。芝居の基本は……」

 グビグビグビ……グルン!

 お代わりのハイボールを一気飲みすると九十度旋回して先輩と正対した。

「おい、大丈夫かマリちゃん?」

「大丈夫。お説拝聴させていただきます」

「じゃあ、言わせてもらうけどね……」

 互いに芝居で鍛え上げた声、店内いっぱいに響く大激論になった。

 しかし、激論しているのがテレビでも有名な(わりに、わたしは、その日まで知らなかったけど。なんせテレビ見ないし小田先輩は様変わりしちゃってるし)高橋誠司と、この界隈じゃ、ちょっとした顔の乃木坂学院の貴崎マリというので、みんな観戦者になってしまった。

 何分だか何十分だったかして、それに気づいた。

 余裕のふりして、それぞれお勘定する。お客さんが、みな拍手で送り出してくれたのには閉口。小田先輩はカーテンコールのように慇懃なポーズでご挨拶。

「ブラボー!」

 マスターがトドメを刺した。


 夜風が心地よかった。


「あの店のマスター、昔は芝居をやっていたとにらんだね」

「あのブラボー?」

「うんにゃ、あの店の内装、客席の配置。タパスの料理の並べ方。ミザンセーヌ(舞台での役者の立ち位置と、そのバランス)が見事」

「そう……ですよね」

 と、わたしは頼りない。

「酒と料理を出すタイミングは、名脇役のそれだ!」

「先輩、酔ってます?」

「程よくね……それに、あの店の名前」

「KETAYONA?」

「わからんか。まあ、暇があったら逆立ちでもしてみるんだな!」

 先輩は立ち止まって、大きな伸びをした。わたしもつられて大アクビ。

 ふと気づいて後ろを見ると……なんと、その種のホテル!

 視線を感じると、横で先輩がニンマリ。あわてて首を横に振る。パトロ-ルのお巡りさんが、チラッと見て通り過ぎた。その後をたどるようにわたしたちは歩き出した。

「ハハ、そういうリアクションが苦手なんだよな。マリッペは、芝居作りよりレビューってのかな、そういうものとかプロデュースの方が向いてるかもな」

「わたしは、現役バリバリの教師です!」

「はいはい、貴崎マリ先生」

「あのね……」

 その時、人の気配に気づかなかったのは、やっぱり二人とも酔っていたのかもしれない。


 明くる日、わたしは珍しく遅刻してしまった。

 

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 里沙          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする