大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・133『日漢秘密会談・1』

2022-11-25 15:35:41 | 小説4

・133

『日漢秘密会談・1』越萌マイ  

 

 

 少し後悔しているのかもしれない。

 

 北大街大酒店、日本語風に言うならば北大街グランドホテルになるだろうか。

 この五年ほど漢明国では、ちょっとした満州ブーム。それにあやかって、漢明財閥が金にものを言わせて世界中に展開したのが北大街酒店集団だ。名前に漢明や中華を冠していないところがミソだ。

 五年前に『北大街』という漢明製大河ドラマが流行った。

 かつての敵国マンチュリアの話などもってのほかという反対も起こらないでは無かったが、大方の漢明国民には好意的に受け止められた。

 いまは無きマンチュリア、その国際色豊かな文化は漢明でもノスタルジーをもって語られることが多い。

 マンチュリアは、日本が主導して満州平原に作り上げた新興国だったが、四百年前の満州国のイメージを払しょくするために、完ぺきな民主制を貫かれた。その自由闊達な空気は、マンチュリアの首都奉天の北大街に象徴されて、その北大街での漢・日・満・露・朝、五族の有名無名の人々が北大街を守るために奮闘する姿を描いた群像劇、それが『北大街』だ。

 かつて敵国であったマンチュリアのドラマを、漢明政府がよく許したものだと日本でも評判になった。

 だが、ドラマの主人公は北大街の漢明人だ。かれらの活躍があったからこそ現在でも奉天が国際自由都市を標榜していられるという結論で、漢明国は、この奉天のカルチェラタンと言われた北大街をこそ鏡にしなければならないというメッセージが込められている。

『北大街』に描かれた精神に学ばなければならないと、時の漢明国大統領が試写会で漏らした感想がブームに火をつけた。

『今の漢明はまだまだですが、目指すべき見本は、漢明の先人たちが北大街で示してくれています。今の漢明は、まだまだ建設途上、いささかの逸脱はありましょうが、どうかご寛恕いただき、国家建設の大行進の列に加わってください』

 ニ十三世紀の劉邦と言われた大統領の言葉は、大方の共感をもって漢明国内に受け入れられた。

 今の漢明には不満いっぱいの民衆たちであったが、今劉邦の大統領が謙虚に『北大街』の理想を目指すのなら、今の漢明の矛盾にも目をつぶろうという空気が生まれた。

 そして、その名も北大街大酒店に向かう日本国総理専用車に岩田総理を乗せて、その運転手兼通訳の秘書としてわたしが乗っている。

 このわたし、シマイルカンパニーCEO、越萌マイ。カンパニーの経営は妹分のメイに委ね岩田総理の懐刀として動いていることは、漢日首脳陣の中では公然の秘密になっている。

 さて、後悔。

 ニ十一世紀に道半ばで凶弾に倒れたA首相を見習って、フットワークの軽さを心情にと進めてきたが、今夜の判断は間違っているような気がし始めている。

「申し訳ないね、また付き合わせてしまって」

「いいえ、総理の任期中、特に漢明相手の時はお付き合いいたします」

「いや、助かってはいる……マイさんが付いているからこそ『岩田にハニトラ効かない』と伝説ができた」

「恐縮です、でも油断は禁物です、篭絡の手段はハニトラとは限りませんし、敵はハニトラを諦めたわけでもありません」

「しかし、マイさんは仮にもシマイルカンパニーのCEO、その上、独身ときている……」

「いえ、覚悟はしています。だいたい、出会いの時が出会いの時ですから」

「あ、ああ、いきなりハニトラの刺客を張り倒すんだもんな。それもシマイルカンパニーの越萌マイと啖呵を切ってだ。僕は、ただただ目を白黒させるだけだった」

「あれでよかったんですよ、天下の日本国総理の心情迫る慌てぶり、誰もが、二人の関係は本物だと思ってくれています」

 いや、一人だけは知っている、わたしの本性は満州戦争でPIした児玉であることを。妹分の越萌メイ。

「すまない、当分の間シマイルカンパニーを任せる」

 そう言った時のメイは噴き出すのをこらえるのに必死だった。

 他にも、孫大人……桜を見る会で見かけた時はビールが横っちょに入ったふりをして盛大にむせかえっていた。

 もう一人、天皇誕生日でお見かけした時は、ただおだやかに「ごきげんよう」とご挨拶された。

 二千年の歴史に裏打ちされたポーカーフェイスは、いやはや身の縮む思いだった。

 さて、信号の向こうに北大街大酒店が見えてきた。

 できれば、この一戦で西之島事件の始末を……思わずバックミラーの総理を見てしまう。

 総理もコクンと頷いて、いよいよ日漢首脳の秘密会談が始まる。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・35『アリスの広場』

2022-11-25 07:08:25 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

35『アリスの広場』  

 

 

 アリスの広場に出てきた。狸先生おすすめのスポット。

 アリスの広場は、あらかわ遊園の一番北にあって隅田川に面した観客席八百の水上ステージ。

 時々イベントが行われるんだけど、晩秋の今日はなにもやっていない。

 野外の観客席は人もまばら。


「……わたし、きちんと言っておきたいの」

「……なにを?」

「ほんとうに、ありがとう。あの火事の中助けてくれて……忠クンが助けてくれなかったら、わたし焼け死んでた。ほんとうにありがとう!」

 わたしは川に向いたまま頭を下げた。

 コンクリートの床に、ポツリポツリとシミが浮かぶ。

「顔あげてくれよ。オレ、こういうの苦手なんだ」

 忠クンも川を向いたまま言った。

「わたし、病院じゃボケちゃってて、きちんとお礼も言えてなかったから」

「いいよ、お父さんがキチンと言ってくださったし。メールもくれたじゃん」

「でも、でも、自分の口で言っておかなきゃ。ほんとうにありがとう……」

「だから、もう分かったからさ。頼むから顔あげてくれよ(^_^;)」

「……」

 わたしは、なにも言えなかった。顔もあげられなかった。

「まどか……」

 やっとあげた目に、忠クンの顔がにじんで見えた。晩秋のそよ風は、涙を乾かすには優しすぎる……愛しさがこみ上げてきた。

「オレこそ……お礼が言いたくて。んで、顔が見たくて。乃木坂の裏門のとこに行ったんだ。あそこ、演劇部の倉庫がよく見えるだろ」

「……わたしに、お礼?」

 右のこぶしで明るく涙を拭った。

「まどかのアンダスタンド……じゃなくて……」

「ハハ、アンダスタディー」

 拭った涙が乾かないままのこぶしで忠クンの胸を小突いた。

「うん、それそれ。すごかった。なんかわたしの青春はこれなんだって、自己主張してるみたいだったぞ」

 忠クンは照れて、頭を掻いた。

「わたしは、ただ憧れの潤香先輩のマネしてただけだよ。マネはマネ。お決まりの一等賞もとれなかったし……エヘヘ」

「それでも感動したもん。なんてのかな……うん。オレも、これくらい打ち込めるものがなきゃって、そう感じさせてくれた……オレ、高校入ってから、ずっと感じてたんだ。もう、ただのお祭り大好き人間じゃダメなんだって」

「忠クン……」

 忠クンは無意識に髪をかき上げ、かき上げた手を、そのまま頭の形をなぞるようにもっていき、もどかしそうに頭を叩いた。

 そのもどかしさが、切なくて、愛おしい。

「学校の先輩たちには、すごい人がいっぱいいるもん。ただの勉強だけじゃなくてさ、人生に目標持って勉強してるような人とかさ。クラブとかもさ、『オレはこの道極めるんだ』みたいな人がさ……オレ、入学以来ずっとクスブっていたんだ。オレは、とても、そんな先輩みたくにはなれないって……そしたら、なんと、まどかがそうなっちゃってるんだもん。アハハ、まいっちゃうよな。でも、オレも、クスブリのオレだって、ガンバったらそうなれるんじゃないかって希望をくれたんだよ、まどかは。そんなまどかにお礼が……ってか、一目会いたくって裏門のとこに行ったんだ。そしたら倉庫から煙りが出てきて、火事騒ぎになって……みんなが『まどか!』って叫ぶのが聞こえてきて……あとは切れ切れの記憶……自転車乗ったまま、グラウンドを斜めに走って、中庭の池に飛び込んで、水浸しになって……燃えてるパネルの下敷きになってるまどか見つけて……体がカッと熱くなって……気づいたら、担架にまどかを寝かしてた」

「忠クン……(灬⁺д⁺灬)」

 拭った涙が、また、とどめなく頬をつたって落ちていく。

 さっきまで聞こえていた、子どもたちの遠いさんざめきも、川面を撫でていく風の音も、なにも聞こえなくなった……。

 景色さえ、おぼろになり、際だって見えるのは忠クンの顔だけ……目だけ……ちょっとヤバイ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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