大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・298『桟橋を転がる』

2022-11-30 16:20:27 | 小説

魔法少女マヂカ・298

『桟橋を転がる語り手:マヂカ 

 

 

 南無三!

 

 海面まで数十メートルを残すのみ! 

 わたしは最後の決意をした!

 セイ!!

 キャーーーーーー(≧∇≦)!

 渾身の力でクマさんを放り上げた。見届ける余裕はないが、いまの馬力とクマさんの悲鳴なら百メートルの高さは確実だ。

 出でよ風切丸!

 シャリーーン!

 顕現した風切丸を一角獣の角のように構えると、全身の力をその先端に籠めアリヨールを貫かんとする!

 一撃で倒せれば、そのまま海面を蹴って落下してくるクマさんを受け止めて着水。うまくいけば視野の端に見えている桟橋に濡れずに着地できるだろう。

 ピカ!

 その桟橋の先端が光ったかと思うと、一条の光芒が発せられ、瞬時にオリヨールを包み込んで北方の水平線の彼方に消えていった。

 ズシャ!

 落下しつつ風切丸を一閃する。たった今までオリヨールを倒すべく渾身の力が溜められていたので、その反動で上空に弾き飛ばされる。

 姿勢を立て直して腕をいっぱいに広げ、落下してくるクマさんを視界にとらえると、すこし逸らして横ざまにさらうようにしてクマさんを抱きとめる!

 キャ!

 余力を持って、そのまま桟橋に突っ込み、クマさんを抱えたまま二転三転!

 

 ゴロゴロゴロ……ゴロ…………やったあ!

 

「大丈夫、クマさん……もう目を開けていいぞ」

「……あ、真智香さん」

「なんとか助かったようだ……ん、どこを見ている?」

 クマさんは、わたしの肩越しに別のものを見ている。

 振り返ると、桟橋の前の方に数十人の兵士……いや、復員兵たちが佇立していた。

「あなたがたは……」

 その中の一人、髭づらの将校外套が―― 助かってよかった ――口の形で言うと、みな声も無く雲間から差し始めた日の光に姿を消していった。

「いまの人たちは?」

「シベリアからの復員兵だ……たぶん、帰還の途中で命を落としたか……復員したものの、家族や知り合いが全滅していた者たちだろう。彼らが、残った最後の力でアリヨールをやっつけてくれたんだ……」

「シベリア……ですか?」

 そうか、関東大震災の後に拉致されたクマさんにはシベリア抑留は分からないんだ。

 さて、どこから話したものか……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・39『なにかがタギリはじめた……』

2022-11-30 06:54:55 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

39『なにかがタギリはじめた……』  

 

 

 ガタガタガタ……気の早い木枯らしが脅かすように立て付けの悪い窓を揺すった。

 一瞬そちらに目を奪われたけど、すぐに机の上のSDメモリーカードを見つめる視線の中に戻った。

「再生してみますか……」

 加藤先輩が小型のレコーダーを出した……ほんとは気の利いたカタカナの名前がついてんだけど、こういうのはスマホとパソコンの一部の機能しか分からないわたしには、そう表現するしかない。

「マリ先生が再生するなって……」

「じゃ、マリ先生は……」

 わたしは持って行き場のない怒りに拳を握って立ち上がった。

「そう……じゃ、マリ先生は、全てを知った上で辞めていかれたのね」

 柚木先生が腰を下ろした。木枯らしはまだ窓を揺すっていたが、もう振り返る者はいなかった。

「あとは山埼、おまえがやれ」

 峰岸先輩は山埼先輩にふった。

「……今日は結論を出そうと思う」

 山埼先輩が立ちながら言った。

―― 結論……? ――

「部員も、この一週間で半分以上減った。このままでは演劇部は自滅してしまう。倉庫も、機材ごと丸焼けになってしまった。今さらながら乃木坂学院高校演劇部の名前の重さとマリ先生の力を思い知った」

―― 思い知って、だからどうだと言うんですか ――

「忍びがたいことだが、まだオレたちが乃木坂学院高校演劇部である今のうちに、我々の手で演劇部に幕を降ろしたい」

 みんなウツムイテしまった……。

「……いやです。こんなところで、こんなカタチで演劇部止めるなんて」

「気持ちは分かるけどよ、もうマリ先生もいない、倉庫も機材もない、人だって、こんなに減っちまって、どうやって今までの乃木坂の芝居が続けられるんだよ!」

「でも、いや……絶対にいや」

「まどか……」

「わたしたちの夢って……演劇部ってこんなヤワなもんだったんですか」

「あのな、まどか……」

「わたし、インフルエンザで一週間学校休みました。そしたら、たった一週間でこんなになっちゃって……駅前のちょっと行ったところが更地になっていました。いつもパン買ってるお店のすぐ近く。もう半年以上もあの道通っていたのに、なにがあったのか思い出せないんです」

 なにを言い出すんだ、わたしってば……。

「ああ、あそこ?」

「なんだったけ?」

「そんなのあった?」

 などの声が続いた。外はあいかわらずの木枯らし。

「今朝、グラウンドに立ってみました。倉庫のあったとこが、あっさり更地になっちゃって。他の生徒たちはもう慣れっこ。体育の時間、ボールが転がっていっても平気でボールを取りにいきます。あたりまえっちゃ、あたりまえなんですけど。わたしには、わたしたちには永遠の思い出の場所です」

「なにが言いたいんだ、まどか」

「今、ここで演劇部止めちゃったら……青春のこの時期、この時が、駅前のちょっと行ったところの更地みたく、何があったか分からない心の更地になっちゃうような気がするんです。たとえ燃え尽きてもいい。今のこの時期を、この時間を、あの更地のようにはしたくないんです……」

「まどか……」

 里沙と夏鈴が心細げに引き留めるように言った。

「それは感傷だな……」

 峰岸先輩が呟いた。

 ガタガタガタ!

 一段と強い木枯らしが校舎を揺すった。

 わたしの中で、なにかがタギリはじめた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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