大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・31『納戸町』

2022-11-16 16:52:44 | 小説6

高校部     

31『納戸町』 

 

 

 この先が目的地だ。

 

 商店街の入り口みたいなところで先輩は立ち止まった。

「まずは現場の下見だ。三百メートルほど行くと右手に骨とう屋が見えてくる、わたしたちと同年配の女の子が店番をしているはずだから、よく見ておけ」

「イケメンの番頭さんとかいないんですかぁ?」

「真面目にやれ、麗二郎」

「麗二郎言うな(`Д´)!」

「麗と呼んでやれ、ここでは花の女学生なんだからな」

「は、はい」

 なんで僕が怒られるんだ(>o<)。

「行くぞ」

「「はい」」

 

 ゆっくりと通りを歩く。

 納戸町は新宿区だから、もうちょっと賑やかかと思ったけど、人通りが、そこそこあるだけで印象としては田舎町だ。要(かなめ)の駅前通りの方がイケてるかもしれない。

「明治25年だからな」

「着物ばっかり……それに、ちょっとダサイかも」

 確かに、みんなゾロリとした着こなしだ。姿勢が悪いし、胸元が緩くて帯の位置も低い。もうちょっとシャンとすればいいのに。

「フフ、あたしたち、ちょっとイケてません?」

「まあな、この時代に合わせてはいるが、若干の趣味は入れている。ただな、この時代の着こなしにも意味がある」

「どんな意味ですか~?」

「我々の着こなしは、長時間になると胸と腹を圧迫する。朝から晩まで着物で居るには、ああいう着こなしの方が楽なんだ」

「あ、言えてるかも。これでディナーとか言われたら半分も食べられないかも」

「だろ、だが、この時代で晩飯を食べるつもりは無いから、見た目を重視した」

「さっすがあ、螺子せんぱ~い!」

「こら、抱き付くなあ!」

「先輩、見えてきました……」

 電信柱の向こうに骨董屋の看板が見えてきた。

「よし、まずは通り過ぎるぞ」

「「はい」」

 

 コンビニに鞍替えしたら、ちょうどいい感じの大きさ。ここまで歩いた感覚では中の上といった規模の角店。

 チラッと目をやると、帳場と言うんだろうか、今でいえばレジみたいなところにお人形のように小柄な女の子が店番をしている。

 うりざね顔の和風美人……お祖父ちゃんなら「門切り型の言葉で感動しちゃいけない」って言うんだろうけど、そういう印象。でも、口元は可愛いだけじゃなくてキリっとしている。見かけによらず意地っ張り……いや……通り過ぎてしまった……緊張したぁ。

 

「なかなかの観察眼だぞ、鋲」

 

 電柱一本分行ったところで先輩が褒めてくれる。

「いえ、もうちょっとと言うところで通り過ぎてしまいました(^_^;)」

「ちょっと気になるんだけどぉ」

「なんだ麗?」

「二人って、時どき心で会話してない? 今も、鋲君は何も言ってないでしょ?」

「ふふ、鋲とは深い付き合いだからな、以心伝心なのさ」

「そうなんだ、ちょっと羨ましいかもぉ」

「ちょっと、先輩(;'∀')」

「まあ、ちょっとした相性だ。これでいいか、鋲?」

「どっちも良くないですから」

「アハハ、よし、次は直接口をきいてみることにしよう」

「じゃ、とりあえず帰りますか?」

「いや、たった今からだ」

「うわあ、ワクワクするぅ」

「ちょ、先輩!」

「ハハ、鋲も分かっているくせに。ま、そういうところも可愛くはあるんだがな~」

「うわあ、微笑ましい~」

「違うから麗二郎~!」

「麗二郎言うな~!」

 通行人の明治人の人たちが微笑ましそうに笑っていく、こういうところは令和よりは人の垣根が低いのかもしれない。

 僕一人ワタワタしているうちに、先輩と麗は店の中に足を踏み入れた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 西郷 麗二郎 or 麗           ピボット高校一年三組 
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・26『怖い顔をしているのに苦労した』

2022-11-16 07:20:22 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

26『怖い顔をしているのに苦労した』  

 

 

 オチョクルまでもなく二行目で吹きだした。

「スカートめくり」という単語が目に入ってきたからだ。

 幼いころ、はるかちゃんという幼なじみと、どうやったらスカートがきれいにひらめくか、おパンツ丸出しにしてスカートをまくってクルクル回っていたというものだ。

 文章としては面白いが、肝心の道府県名は、その、はるかちゃんが大阪に越していったということだけ。

 でもエッセーとしてよく書けているので、わたしは花丸をつけてやった。

 ……はるかという名前が大阪という単語と共にひっかかった。

 昨日、その種のホテルの前で大伸びと大あくびしたあと、地下鉄の駅に行くまでに小田先輩が言っていた中に『はるか』という名前が出ていたような……。

 小田先輩の恩人、この業界で身を立つようにしてくださったという白羽という名プロデューサー。

 この人が、大阪のナントカはるかという新人を発掘……しかけているという話をしていた。

 あまりに嬉しいので、苗字や写真などのデータは伏せたまま、喜びのメールを寄こしてこられたらしい。

 小田先輩を可愛い身内と思ってこそのメールだったんだろうけど、先輩としてはいささかライバルの予感。それくらい白羽さんというのはすごい人のようだ。

 ま、はるかって名前は、どこにでもある。

 そう言えば、去年の学園祭。潤香に次いで準ミスに選ばれたのも下の名前は「はるか」だった。今は二年生になっているはずだが、なんせズータイの大きい私学。学年が違えば、よその学校も同様なんだ。


 次の休み時間に、廊下で里沙と夏鈴につかまった。


 三四時間目が自習になったので、潤香の見舞いに行きたいと言う。

 ついては、わたしに引率者になって病院まで付いて来て欲しいというのである。ちょうど三四時間目は空き時間ではあるけれど、なんでこいつら知ってるんだ?

 すると里沙が、おもむろにスマホをわたしに見せた……。

―― ゲ、わたしの時間割がキチンと曜日別にまとめてあるではないか!? ――

「なんで、こんなもの!?」

「そりゃ、先生はクラブの顧問ですもん。万一のときや、都合つけなきゃいけないときの用心です」

「こんなもの、舞監のヤマちゃんだって持ってないわよ」

「こんなのも、ありますよ……」

 里沙が涼しい顔で画面をスクロール。

「え……わたしのゴヒイキのお店。蕎麦屋、ピザ屋、マックにケンタに、もんじゃ焼き、コンビニ……KETAYONA(夕べ、小田先輩といっしょだったイタメシ屋)まで……里沙、あんたねえ……」

「わたしって、情報の収集と管理には自信あるんです。いわばマニュアルには強いんですけど、クリエイティブなことや、想定外なことには対応できないんです。で、そういう判断しなくちゃならないときに、いつでも先生と連絡できるようにしてあるんです」

「そんなときのために、番号教えてあるんでしょうが!?」

「マナーモードとかにされていたら、連絡のとりようありません。夕べだって……」

「夕べなにかあったのぉ?」

 これは夏鈴。

「ちゃんとした挨拶の確認できなかったから。一日は、挨拶に始まり、挨拶に終わります」

「そりゃ、そうだけどね……(-_-;)」

「正直、不安だったんです。あんな結果に終わったのに、なんかきちんとクラブが終わり切れてないみたいで」

「あ、それは、わたしも……思いました。なんか……投げやりな感じで終わっちゃったなって」

 夏鈴はめずらしく、マジな顔で、まっすぐわたしを見て言った。

「多分KETAYONAだとは思ったんですけど、先生もやっと解放されたところだろうって、ひかえました。二十二時三十分ごろです」

 ……ちょうど小田先輩と論戦の真っ最中(^_^;) 気持ちは分かるんだけどね……。

「ちょっと、スマホ見せなさいよ(`_´)!」

 返事も待たずにひったくった。

「あ、消去しないでくださいね。一応バックアップはとってありますけど……」

「あのなあ……」

 ケナゲではあるんだけど……一応チェック……よかった、わたしの裏情報までは知らないようだ。

「で、三四時間目の件は……」

 携帯を受け取りながら里沙が上目づかいで聞いた。

「だめ。自習とはいえ人の授業。勝手なことはできないわ」

 上から目線できっぱりと言ってやった。

「だめですか……」

「だめなものは、だめ!」

 二人はスゴスゴと帰っていった。

 ほんとのところは、二人のアイデアに乗りたかった。

 しかし、生徒からの希望とはいえ、申し出て許可を得るのはわたしだ。クラブで勝手が許されるのは、他のところで手を抜かない。教師としての仁義に外れたことをしないことに気をつけているからだ。

 学校って、狭い世界なのよ。ごめんね……遠ざかる二人の背中に呟いた。

 で、次の休み時間。まどかを先頭に、あの子たちはバーコードに直訴におよびやがった!

 どうやら、まどかの発案であるらしい。

 三人同じクラスということもあるんだけど、三人でワンセット。もし、あの三人を一人の人格にまとめることができたら。最強の演劇部員になりそうだ。

 いや、身内に一人……浮かびかけたそいつを意識の底に沈め、わたしは、職員室の端っこで、心の耳をダンボにした。

 内心、エールを送りたい心境だったけど、立場上そういうわけにもいかず。怖い顔をしているのに苦労した。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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