大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・296『ポチョムキン村・5・広場のお祭り騒ぎ』

2022-11-13 11:08:28 | 小説

魔法少女マヂカ・296

『ポチョムキン村・5・広場のお祭り騒ぎ語り手:マヂカ 

 

 

 コクンと頷いて、ほんの一瞬エリザはフリーズした。

 

 ほんとうに一瞬の事で、エリザはすぐに、またステップを踏み始めた。

 印象としてはループしている。

 大事な秘密を明かして、次の行動に移ろうとして躊躇っている。そんな感じだ。

―― なにかあるのか? ――

 悟嬢が目だけで聞いてくる。

 リズムをとって、エリザのダンスに手拍子を打って合わせてはいるが、中国有数の魔法少女。この桃源郷の底にあるものに気付いて、どうしたものかと思っているんだ。

 エリザのステップが、微妙にコマ落としになってきている。

―― フレームレートが下がってきたみたいな感じだな ――

 スペックの低いゲームパソコンで高精細で動きの激しいVRゲームをやっている感じ。

 144ほどのフレームレートが72に落ちてしまったような……遠景の景色も微かにエッジが立ってきている。アンチエイリアスの値が下がってきたみたいな、テクスチャのクオリティーが落ちてきたような気がする。

「エリザ、村の広場に行ってみないか。どうせ踊るなら、みんなと一緒の方がいいだろ」

 思い切って提案してみた。

「ああ、それがいい。あたしも爺ちゃん譲りで賑やかなのは好きだし」

 悟嬢も賛成してくれて、エリザともどもリズムを取りながら広場に向かった。

 

 広場は、もう村人たちが集まってお祭り騒ぎになっていた。

 

 広場の真ん中には、太鼓とリュートとバイオリンの村人が、とても三人だけじゃないだろうという演奏をして、その周りを村人たちが二重の輪になって踊っている。

 わたしたちの姿に気付くと、村人たちは輪の一角を開いて招じ入れてくれる。

 フレームレートは、さらに落ちて36くらい、激しく踊ると分身の術を使ったような残像が残る。

―― プリンセス、ご決心を(^_^;) ――

―― エリザさま、これを逃せば、次はいつか分かりません ――

―― うん、ありがとう ――

―― リアルにもどりましょう ――

―― ここに居れば楽ですが、リアルは、もう収穫の時期です ――

―― 痩せた畑ですが、放ってはおけません ――

―― このままではフリーズしてしまいます ――

―― 初期化されて一からやり直しになってしまいます ――

―― 侯爵が戻ってくる前に ――

―― 女帝がお気づきになる前に ――

―― エリザベートさま! ――

―― プリンセス! ――

―― みんな、みんな、ありがとう! エリザは決心したわ! ――

 

 シュリーーーーン!

 

 急ブレーキがかかって逆回転が始まったような嫌な音がした。

 フレームレートは、さらに下がって一桁に落ちると、遠景の方からテクスチャのレベルが落ちて、書割っぽくなって、さらには、消え落ちるものも現れてきた。

 村人たちもフリーズして、パラパラと姿を消していき、ついには、僅かなオブジェクトを残して、わたしたちの他には教会があったあたりに気を失ったミーシャが倒れているだけになった。

「今のうち! 手遅れになる前に!」

「「了解!」」

 ちぎるように応え、悟嬢と二人跳躍して、畳一畳ほどになった床に倒れているミーシャを抱えて走る!

 

 グオオオオオオオオ!

 

 ゴジラのような咆哮!

 咆哮の圧は後ろからやってくる。見ずとも分かる、ポチョムキンだ。

 エリザの裏切りに怒髪天を突いた状態なんだろう。

 ここはひたすら逃げるしかない。

「この孫悟嬢が時間を稼ぐ、マジカはミーシャを、クマさんを逃がせ!」

「おまえは?」

「大丈夫! 爺ちゃんから受け継いだ斉天大聖の称号は伊達じゃない、当分は令和の日本には来れないだろうがね。ゆっくり休んで、またがんばろうぜ!」

 そう言うと、悟嬢は髪の毛を毟って一個中隊ほどのミニ悟嬢隊を作って「セーーイッ!」と渾身の掛け声とともにポチョムキンに打ちかかって行った。

「悟嬢ーーーーーーーーっ!!」

 ビューーーー!

 悟嬢隊の勢いがクマさんを抱いたわたしを前に突き飛ばす。

 しかし、加速がついたのはいいが、どうやって、このフェイクの亜空間から抜け出すんだ?

「う」

 右の中指が締め付けられる。

 見ると、悟嬢からもらった指輪が光り出している。

「そうか!」

 インスピレーションが湧く。

 指輪を抜いて前方に掲げると、一条のビームが伸びて亜空間に台風の目のような穴を穿った。

 チリチリチリ……

 指輪は微小な火花を発しながら痩せていく。

 考えている暇はない。

 クマさんの頭を庇うように体を丸くして穴の真芯に飛び込んだ! 

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・23『地下鉄で三駅行ったY病院』

2022-11-13 06:49:44 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

23『地下鉄で三駅行ったY病院』  

 

 


「そりゃ、君たちの気持ちも分かるがね……」

 予想通り、教頭先生はバーコードの頭を叩いた。教頭先生が機嫌のいいときのクセなのよね。

「でしょでしょ、わたしたちも深夜帰宅しなくてすむし。いいえ、わたしたちはかまわないんですけど、このごろ、ここから青山にかけて変質者が出るって噂ですし……親が心配しますでしょ。それに、生徒は、まだだれもお見舞いに行ってないんです。先輩のご両親もきっと喜んでくださると思うんです。なにより、わたしたち先輩のことが心配で、いてもたってもいられないんです、先生!」

「「そうなんです!」」

 里沙と夏鈴が合いの手を入れる。

「よし、君たちの先輩を思う気持ちは、まことに麗しい。ぜひ行ってきなさい。付き添いは……」

「「「貴崎先生が空いていらっしゃいます!」」」

「ああ、それはいい。貴崎先生は芹沢さんにとっても君たちにとっても顧問の先生だ!」

 職員室の向こうで、マリ先生が怖い顔をしている。そんなことは意に介さず……。

「ちょっと、すみません貴崎先生!」

 教頭先生が、頭を叩きながらマリ先生を呼んだ。


「こんな手、二度と使うんじゃないわよ」

 校門を出ると、マリ先生は横目で睨んできた。

 ちょっと怖いかも。

「でも、教頭さんに直訴するなんて、だれが考えたの?」

 二人が、黙ってわたしの顔を見た。

「まどか~!」

「すみません。でも、スケジュールなんか考えると……あ、そもそも考え出したのは里沙」

「分かってるわよ、最初に頼み込んできたんだから。でも、こんな手を思いつくとはねぇ」

 声は怒っていたけど、踏みしめるプラタナスの枯れ葉は陽気な音をたてていた。


 潤香先輩が入院している病院は、地下鉄で三駅行ったY病院だ。


 駅を出ると、青空といわし雲のコントラストが美しく。まだ少し先の冬を予感させている。

 面会時間には間があったけど、ナースステーションで訳を言うと笑顔で通してくれた。

 マリ先生は集中治療室を覗いたが、看護師のオネエサンが、今朝から一般の個室に移ったと教えてくれた。


 ショックだった。


 あのきれいな髪を全部剃られ、包帯にネットを被せられた頭。

 点滴の他にも、体のあちこちに繋がれたチュ-ブ。かたわらでピコピコいってる機械。

 なによりも、あんなに活発にきらきら光っていた目が閉じられたまま……これは、わたしの憧れ。希望の光だった潤香先輩なんかじゃない……そう信じたかった。

「どうも、わざわざすみません。姉の紀香です」

 潤香先輩によく似たお姉さんが振り返った。少し疲れた顔ではあったけど、一瞬で元気な顔を作って挨拶された。

「ほんとうに、今回は申し訳ないことをいたして……」

「もうおっしゃらないでください。先生のお気持ちは母からもよく聞いています。潤香も子どもじゃありません。自分が承知で参加したんですから。それに、母も申し上げたと思うんですけど、原因は、まだはっきりしていないんですから」

「ありがとうございます。でも、わたしも潤香さんの熱意に甘えていたところもあると思います」

「先生、そこまでにしてください。それ以上は大人の発言ですから……先生のお気持ちとしてだけ、承っておきます」

「はい、ありがとうございます。あ、この子たち後輩の……」

「えと、まどかさんに、里沙さん。あなたはオチャメな夏鈴さんね」

「「「え……!?」」」

 同じ感嘆詞が、三人同時に出た。

「いつも潤香から聞かされてました。潤香、机の上にクラブの集合写真置いてるんですよ。ほらこれ」

 枕許の小型ロッカーの上に乗った額縁入りの写真を示してくださった。その写真はアクリルのカバーの上から、小さな字で、部員全員の名前が書かれていた。

「先輩……(;▽;)」

 夏鈴が泣き出した。

「泣かないでよ、夏鈴ちゃん。意識がもどった時に泣いていたら、潤香が驚いちゃうから」

「意識もどるんですか!」

 頭のてっぺんから声が出てしまった。

「はい、お医者さまが、そろそろだっておっしゃってました」

 ホッとした。

 みんなで顔を見かわす。

 やっぱりお見舞いに来てよかった。

 しかし窓から見えるスカイツリーが心に刺さったトゲのように感じたのは気のせいだろうか。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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