大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 94『皆虎の新興屋敷街』

2022-11-20 11:22:51 | ノベル2

ら 信長転生記

94『皆虎の新興屋敷街』織部 

 

 

 信長の潜入調査では、皆虎の街は寂びれた軍都で、かつて扶桑国侵攻の最前線だったころの面影はない。

 土塁や城壁も満足なものは少なく、僅かな観光収入とささやかな定期市の上りで城塞都市の面目を保っていた。

 

 それが、曹茶姫の騎兵軍団が皆虎を起点として扶桑との国境地帯を東西に打通して以来、急速に往年の賑わいを取り戻しつつある。

 詰まった血管に血が通うように、人や物の流通が盛んになり、ささやかな定期市は常設の商業地に変貌しつつある。

 変貌は商業地帯だけではなく、その周囲に富豪や豪族の別宅、別荘が建ち始めている。

 市の広場で声を掛けてきた女は、わたしたちを、その中でも一二の規模の新築に誘った。

 

「ここは、呉の孫権さまのご別宅。お妃さまがお出ましになられますので、どうぞ、こちらの庭の亭でお待ちになってください」

 案内を小女に任せると、女は奥の屋敷に入っていった。

 小女に誘われて亭に着くと、相棒の本性が出てしまう。

「備えができていない」

 リュドミラは愛想が無い。

「備えとは防備の事ね」

「ああ、起伏が大きく植栽が多すぎる。亭や庭石も侵入者が姿を隠すために置かれているようなもんだ」

「リュドミラはどこまでいっても、ものを見る目が物騒だわよ」

「スナイパーだからな」

「自分を狭く定義づけしないほうがいいわよ、あんたの身体能力はダンサーにも向いているし」

「あれは、ただのお遊びだ。子どもの頃、村のお祭りに出たいばかりに憶えたお祭りのステップ」

「そうかしら、わたし、むしろそっちの方が向いているような気がしてきた」

「フン」

「鼻で笑わないでくれる、これでも、審美眼じゃ扶桑一の古田織部なんだからね」

「癖だ、気にするな。それよりも織部、完全に女になってないか? 言葉とか、完璧女言葉だし」

「ここは三国志よ、女商人の設定だし、審美眼的にも、こうでなきゃおさまりが悪い」

「そうか」

「リュドミラこそ、これから会うのは、ここの主筋の人だろうし、気を付けてね」

「気には留めるが、あいにくの不調法だ、そっちでフォローしてくれ」

「うう……どっちがガードなんだか」

「あ、来たぞ」

 

 屋敷の方から、小女を従えて女主人めいた奴が庭木の向こうからやってきた。

 

「どうもお待たせしました。この館の主、大橋紅茶妃さまでございます」

 小女が紹介したのは、楊貴妃の姉妹と言われても頷いてしまいそうな美女だ。

「大橋紅茶妃と大層な名乗りですけども、あなた方とはお友だち付き合いでいこうと思いますので、コウチャンと呼んでいくださいましな」

「え、そのお声は?」

「さっきの宮仕え風?」

「オホン、先ほどまでは外出用にメイクをされていたのです」

「これ、誇るようなことではありません」

「これは、古田織部、一生の不覚でした!」

「反則的なイメチェンだ……」

「いえ、いまの大橋さまは、ほとんどスッピンでいらっしゃいます(*`ω´*)」

「これこれ」

 グヌヌ……安全のためなのだろうけど、あえてブス、いや、先ほどまでの宮仕え風でも、あっぱれ一級品の美人だったけど、それが変相であったとは……古田織部、ますますの審美眼修業をしなければと自戒するのでありました。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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宇宙戦艦三笠9[思い出エナジー・3]

2022-11-20 08:58:46 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

9[思い出エナジー・3]   

 

 


「お兄ちゃーん、待ってー!」

 妹の声は思ったより遠くから聞こえた。


 いっしょに横断歩道を渡り終えていたつもりが、妹の来未(くるみ)は車道の真ん中。信号が点滅しかけて足がすくんで動けなくなっていた。

「来未、動くんじゃない!」

 トシの言葉は正確には妹には届かなかった。妹は、変わりかけている信号を見ることもなく買ってもらったばかりの自転車を一生懸命に漕ぎながら横断歩道を渡ってきた。それまでの幼児用のそれに比べると買ってもらったばかりの自転車は大きくて重い。

 たいがいのドライバーは、この可憐な少女が漕ぐ自転車が歩道を渡り切るのを待ってくれたが、トラックの死角に入っていたバイクがフライングした。

 ガッシャーーン!

 バイクは、自転車ごと妹を跳ね上げてしまった。

 妹は、空中で一回転すると、人形のように車道に叩きつけられた。寝返りの途中のような姿勢で横たわった妹の頭からは、それ自体が生き物のような血が歩道に、じわじわと溢れだした。

 トシは、自分のせいだと思った。

 ついさっきまで乗っていた幼児用の慣れた自転車なら、妹はチョコマカとトシの自転車に見えない紐で繋がったように付いてきただろう。
 だが、ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車は、そうはいかなかった。なんとかホームセンターから横断歩道までは付いてきたが、横断歩道でいったん足をつくと、ペダルを漕いで発進するのに時間がかかった。

 むろんトシに罪は無い。一義的には前方不注意でフライングしたバイクが悪い。二義的には、そんな幼い兄妹を後にして、さっさと先に行ってしまった両親にある。

 だが、妹の死を目の前で見たトシには、全責任が自分にあるように思えた。しばらくカウンセラーにかかり、半年余りで、なんとか妹を死なせた罪悪感を眠らせ、それからは普通の小学生、中学生として過ごすことができた。

 高校に入ってからも、ブンケンというマイナーなクラブに入ったことで、少しオタクのように思われたが、まずは普通の生徒のカテゴリーの中に収まっていた。

 一学期の中間テスト空けに転校生が入ってきた。

 それが妹の来未を思わせる小柄で活発な高橋美紀という女生徒だった。

 トシはショックだった。心の中になだめて眠らせていた妹への思いが蘇り、それは美紀への関心という形で現れた。

 周囲が誤解し始めた。

 本当の理由のわからないクラスの何人かには、転校生に露骨な片思いをしているバカに見え、冷やかしの対象、そして、美紀本人が嫌がり始めてからは、ストーカーのように思われだした。

 美紀は親に、親は担任に相談した。そうして、クラスみんなが敵になった。

 もし、トシが本当のことを言えば、あるいは分かってもらえたかもしれない。実際トシは、妹が亡くなる前の日に撮った写真をスマホの中に保存していた。美紀をそのまま幼くしたような姿を見れば、少なくとも美紀や担任には理解してもらえただろう。

 しかし、そうすることは、妹を言い訳の種にするようで、トシにはできなかった。トシは、そのまま不登校になった。

「どうして、こんな話しちまったんだろう!」

 トシは目を真っ赤にして突っ伏した。

「いいんだよ、トシ。この三笠の中じゃ、自分をさらけ出すのが自然みたいだからな」

「それにしちゃ、わたしたちの話はマンガみたいよね。ただの腐れ縁てだけなんだもんね」

 樟葉がぼやいた。

「樟葉さんと東郷君は、まだ奥があると思う。でなきゃ、この三笠が、こんなにスピードが出るわけないわ」

 みかさんが微笑んだ。

 三笠は、冥王星をすっとばしていた。

 太陽が、もう金星ほどにしか見えなくなっていた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 みかさん(神さま)   戦艦三笠の船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・30『掛け布団を胸までたぐり寄せ』

2022-11-20 06:54:54 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

30『掛け布団を胸までたぐり寄せ』  

 

 

『ほかに、言いようってもんがあるだろう。命の恩人なんだからよ』

 帰ってきたお父さんの声が二階の部屋まで聞こえてきた。忠クンの家までお礼に行って帰ってきたところなんだ。

『でもねえ。あのときは、あの子も、ああしか言いようがなかったのよ』

 と、お母さんの声。


 そうなんだ。ひとがましい感情は家に帰ってから蘇ってきた。


 インフルエンザで、お風呂に入れないもんだから、幼稚園以来久々にお母さんが体を拭いてくれた。髪もドライシャンプー一本使って丹念に洗ってくれた。そうやってお母さんの気持ちが伝わってくる間に、フリーズしていたパソコンが再起動したように蘇ってきた。

 恐怖と安心と、忠クンへの感謝と愛おしさ、お母さんの愛情、その他モロモロの感情が爆発した。

 お母さんの胸で泣きじゃくった。

「いいよいいよ、もう怖くない、怖くないよ。なにも心配することもないんだからね」
「そうじゃない、そうじゃない、それだけじゃないの……」
「分かってる、分かってるわよ。まどかの母親を十五年もやってきたんだ。全部分かってるわよ」
「だって、だって……ウワーン!」

 このとき、襖がガラリと開いた。

「まどか、大丈夫か!?」

 兄貴が慌てた心配顔で突っ立ていた。

「このバカ!」

 と、お母さん。わたしは慌てて、掛け布団を胸までたぐり寄せた。

『ノックもしないで……!』
『だって、まどかのこと……』

 二人の声が階段を降りていく。階下でおじいちゃんが息子と孫を叱っている気配。お母さんとおばあちゃんが、それに同調している。

 嬉しかった、家族の気遣いが。

 シキタリに一番うるさいおじいちゃんが、自分でそう仕付けたお父さんを叱っている。

「お前は器量が悪いからなあ」

 と、いつもアンニュイにオチョクってばかりのアニキは、襖を開けた瞬間、わたしの顔を見た。火事で救急車で運ばれたと聞いて、やけどなんかしてないか気にかけてくれたんだ。分かっていながら、わたしは反射的に裸の胸を隠した。わたしは、いつの間にか住み始めた自分の中のオンナを持て余していた。

 注射が効き始め眠くなってきた。

 眠る前に忠クンにお礼を、せめてメールだけでも……そう思って携帯を手にする。「今日はありがとう」そこまで打って手が止まる。「愛してるよ」と打って胸ドッキン……これはフライングだ。「好きだよ」と打ち直して、戸惑う……結局花束のデコメをつけて送信。

―― 他に打ちようがあるだろ ――

 そう叱る自分がいたが、ハンチクなわたしには精一杯……で、眠ってしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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