大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・28『潜入・1・草原を走る』

2022-11-29 11:43:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

28『潜入・1・草原を走る』 

 

 

 たぶん中央アジアのどこか。

 

 小さいころから、お祖母ちゃんに日本の地理については教えられた。

 物心ついたころの玩具は、都道府県の形をしたブロックだった。

 毎日、それを組み立てて、保育所に行く頃には都道府県名と旧分国名を県庁所在地と合わせて憶えていた。

 小学校に入ると、都道府県別のブロックになって、国内の地理に関しては、そこいらへんの教師よりも詳しくなった。

 ただ、世界地図になるとお手上げだ。ざっくりと五大陸が分かって、ニ十個ほどの国の位置と名前が分かる程度。

 まあ、並みの高校生レベル。

 これで、観光バスのバスガイドになれるかなあと四年生になるくらいまでは思っていた。

 五年生になると、鏡に映る自分の顔を見てバスガイドじゃなくてブスガイドになると思った。

 お祖母ちゃんは、万一忍者になることを考えて教えてくれたんだと思う。

 それでも、地理は国内だけで、世界地図には踏み込まなかった。

 空飛ぶ犬や猫が居ないように、忍者が世界を舞台に働くことがあるとは思わなかったんだ。

 

 原チャで爆走しているところは見渡す限りの草原。だから漠然と中央アジアだとしか分からない。

 

「ここからは、脚でいく」

 わたしと同じ姿で社長が宣言し、わたしと嫁持ちさんも停車。社長に倣って原チャを茂みの中に隠す。

 C130を降りてから二時間ほどたっている。たっているけど、相変わらず草原のど真ん中。どうするんだろうと思うけど、質問はしない。

 忍びの任務に就いたら、あとは指示に従って動くだけだ。上司がそこにいるいないは関係が無い。

「横一列で走る」

 セオリー通り。縦列で走ると序列が知れてしまう。今日日は、はるか成層圏からでも、人工衛星が地上を覗いている。油断ができない。

 ニ十分ほど走ったところで匍匐前進。

 匍匐前進には五段階あって、五分おきに姿勢を変え、最後は蛇がのたうつような第一匍匐で十分あまり。

 

 あ……!

 

 声には出さないけど驚いた。

 草原は、そこから緩やかな下り坂になっていて、五キロほど先にゲームに出てきそうな街が見える。

 街の向こうには、さらに草原が広がっていて、山々を背景に三つばかりの街が霞んでいる。

 どうやら、C130で降り立ったのは広大な台地の上で、そこから、原チャと足で人界に近づいているらしい。

「あの街に潜入する」

 いつの間にか、社長が左に、嫁持ちさんが右に寄ってきて匍匐姿勢のままブリーフィングになる。

「街の寺院に、この国の王子が幽閉されている。その救助が目的だ」

 そう言って、A4サイズの紙を二枚広げた。

「こっちが、街の地図。三方から別々に侵入する。こことこことここだ、仮にA・B・Cとする。Aは嫁持ち、Bは儂、Cがソノッチだ。そして、これが寺院の見取り図。王子はこの経蔵庫の中。五時間後に二つ西側の什器倉庫の屋根裏で落ち合う。一分で地図と見取り図を憶えろ」

「「………………………………………………………………」」

 一分後、社長は地図と見取り図を粉々に引き裂いて風に飛ばした。

「食べてしまわなくていいんですか?」

 忍者は、命令書などは目を通したあと、証拠を残さないために食べてしまうものなんだ。

「紫外線にあたると半日で分解される。時計を合わせるぞ」

「え、電波時計でしょ?」

「気分の問題なんだよ」

 嫁持ちさんが注釈して、三人で時計を見つめる。

「5秒前、4、3、2、1、テー!」

 それを合図に、わたしたちは三方に散った。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・38『……九人しかいない』

2022-11-29 07:13:41 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

38『……九人しかいない』  

 

 

 部活の稽古場になっている視聴覚教室に向かう。

 

 思わず急ぎ足になる。

 ―― 早く、お礼とお詫びを言わなっくっちゃ ――

 わたしは、二十七人の部員一人一人に言葉をかけようと、夕べはみんなからのメ-ルをもう一度見なおした。

 忠クンへのお礼ってか、想いは昨日伝えた。

 これでほとんど終わったつもりでいたんだけど、あらためてみんなのお見舞いメールを見ると、それぞれに個性がある。アイドルグル-プのMCの子がコンサートの終わりでやるような全体への挨拶じゃいけない。一人一人に言葉をかけなくちゃ……って、ついさっきも言ったよね(^_^;)。

 緊張してんのよ、わたしって……そうだ副顧問の柚木先生……ま、普段の部活には来ないから、あとで教官室に行けばいいや。お礼は、それまでに考えればいい……。

 

「おはようございまーす!」

「おはよう……」「おは……」「おう……」

 まばらで、元気のない返事が返ってきた。

 あ……

 予想に反して柚木先生がいたので面食らった。まだ、お礼の言葉考えてない……。

 で、次に目についたのが、集まってる部員の少なさ……九人しかいない。

「さあ、まどかも来たことだし、始めようか」

 峰岸先輩がポーカーフェイスで言った。

「あの、最初にみんなに……」

「お礼ならいいよ、メールもらったし。早く本題に入ろう」

 勝呂先輩がいらついて言った。勝呂先輩のこんな物言いを聞くのは初めてだった。

「いらつくなよ勝呂。まどかは、まだ何も知らないんだから。まどかへの説明を兼ねて、問題を整理しよう」

―― いったい、何があったの……? ――

「まどか」

「はい……」

「まず、座れ。落ち着かなくっていけないよ」

「立ったままだと、倒れるかもしれないからな」

「勝呂!」

 ポ-カーフェイスの叱責がとんだ。

「じつは、まどか……マリ先生がお辞めになった」


 え?


 足が震えた……。

「顧問をですか……?」

 恐れてはいたが、かすかに予想はしていた。

「いいや、この乃木坂学院高校をだ」

 教室がグラッと揺れた……立っていたら倒れていた。むろん地震なんかじゃない。

「今回のことで責任をとってお辞めになった」

「学校が辞めさせたんですか!?」

「少し違う……」

 峰岸先輩がメガネを拭きながら、つぶやいた。

「それについては、わたしが話すわ」

 柚木先生が間に入った。

「今から話すことは部外秘。いいわね」

 みんなが頷く。

「理事会で少し問題になったみたいだけど、潤香のことも火事のことも……本人を前に、なんだけど、まどかのこともマリ先生の責任じゃない。詳しくは分からないけど、理事会としてはお構いなしということになった」

「じゃ、なぜ……」

「ご自分から辞表を出されたらしいわ」

 柚木先生は目を伏せた。

「それは違います」

 峰岸先輩が静かに異を唱えた。

「峰岸君」

 上げた先生の目は、鋭く峰岸先輩に向けられた。

 先輩は静かに続けた。


「柚木先生のお言葉は事実ですが、部分にすぎません。大事なポイントが抜けています。学校は先週のスポ-ツ新聞が取り上げた記事を気にしているんです」

「なんですか、それ?」

「ほら、コンクールで、うちの地区の審査員をやった高橋って人。マリ先生とは大学の先輩と後輩になるんだ。この二人の関係がスキャンダルになった。コンクールが終わった後、先生が立ち寄ったイタメシ屋で二人はいっしょになった。新聞には待ち合わせてと書いてあった」

「ウソでしょ……」

「乃木坂を落とした理由を説明するために、高橋って人はイタメシ屋に行ったんだ。それは、うちの警備員のおじさんも、店のマスターも証言している。店では大論争になったらしいよ。で、店を出た二人は地下鉄の駅に向かい、たまたま通りかかったホテルの前で写真を撮られたんだ。そして『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』という見出しで書かれてしまった」

「そのホテルなら知ってるよ。六本木寄りにある『ラ ボエーム』って言うホテルだ。店の面構えですぐに分かった」

 宮里先輩が言った。

「なんで高校生のオマエが知ってるんだよ?」

 と、山埼先輩。

「そりゃあ、道具係だもんよ。日頃から、いろんなもの観察してんだよ」

「あ、その気持ち分かります!」

 これは衣装係のイトちゃん。

「それって、濡れ衣だって分かったんでしょ。先輩……」

「むろんだよ、明くる日には謝罪訂正記事が出た。隅っこの方に小さくね。で、学校の一部の理事や管理職は気にしたようだね。マリ先生にこう言った。『丸く収めるために形だけ辞表を出してもらえませんか。いや、すぐに却下ということで処理しますから』で、先生は、その通りにした。『ご本人の硬い意思ですから』と理事長を納得させた」

「うそでしょ……」

 柚木先生の顔が青くなった。

「本当です。ここに証拠があります……」

 先輩は、小さなSDメモリーカードを出した。

「これは……」

「マリ先生とバーコードとの会話が入っています。ときどき校長と、ある理事の声も」

「峰岸君、キミって……」

「こんなもの、今時ちょっと気の利いた中学生でもやりますよ。な、加藤」

「え、ええ……」

 音響係の加藤先輩があいまいな返事をした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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