大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・30『明治25年にセーラー服は無い』

2022-11-07 09:58:46 | 小説6

高校部     

30『明治25年にセーラー服は無い』

 

 

 ちょ、大丈夫!?

 

 再び転げ落ちて心配なのは、僕たちの後に転げ落ちてきた女生徒。

 先輩と僕は自分の意思で魔法陣に立ったけども、放課後の混雑の中、正門付近は下校の生徒が一杯いて、巻き込んでしまったことは想像に難くない。

「う、う~~ん」

 呼びかけに、こっちを向いた女生徒を見て、僕も先輩もビックリした!

 

 カ、カミングアウト!?

 

「……わたしたちの後に魔法陣に飛び込んでしまったという訳なんだな?」

「はい、先輩と田中くんが抱きしめ合って消えたものだから、つい、追いかけてしまったんです」

「だ、抱きしめ合っていたんじゃない! ダウンジングの感度を上げるためにだなあ……」

「いや、結果的には抱きしめていたんだから間違いではないだろう」

「そこは否定してくださいよ!」

「それで、ここはどこなの? 何が起こったんですか?」

「おまえが飛び込んだのはタイムリープに特化した魔法陣だ、そして、ここは明治25年の新宿区、たぶん牛込川の土手下だ」

「明治25年……」

「ああ、130年ほど昔だ」

「ええと……平成、昭和のもう一つ前?」

「二つ前だ、大正時代をないがしろにするな」

「先輩、いちど令和に戻りませんか、ちょっとイレギュラーな展開ですから」

「確かめてからな。リープそのものはカミングアウトが来る前に確定していたからな」

「えと……」

「「なんだ?」」

「カミングアウトには違いないんですけど、名前で呼んでもらっていいですか?」

「そうか、では、名乗れ」

「はい、一年三組の西郷……です」

「西郷……下の名前は?」

「麗(うらら)です、麗しの麗と書いてうららです」

「へえ、かわいい名前だね」

「へへ(^_^;)」

「本名を聞いている(ㅎ.ㅎ)」

「本名です!」

「西郷麗と打ち込んでもグリーンにならんぞ」

 先輩が示したインタフェイス、西郷麗の文字が赤く点滅している。

「え?」

「本名を打ち込まんと、魔法陣は正しく機能しないんだ。戻れなくなるぞ」

「そうなんですか!?」

「えと……西郷麗二郎……」

 サイゴウレイジロウ!?

「なんだ、男らしくていい名前じゃないか……よし、グリーンになった。ん……ミッションが出てきたぞ」

「ミッション!?」

「麗二郎は初めてだろうが、我々は任務遂行のためにタイムリープしているんだ」

「今回は、どんなミッションですか?」

「……ちょっとデリケートな任務だなあ」

「「デリケート?」」

「ああ……しかし、このナリで明治25年の東京は歩けんなあ」

「ダメなんですか制服じゃ?」

「ああ、令和の制服じゃなあ。セーラー服が現れるのは大正9年だ。明治25年では違和感がある。まして、お前たちの制服ではなあ」

 ということで、明治25年に相応しいナリになった。

「って、どうして、僕まで女装なんですか(,,꒪꒫꒪,,)」

 三人とも矢絣の着物に海老茶や紺の袴姿。

「わ、女子大の卒業式みたいですね(^▽^)/ 鋲も似合ってるよ!」

 麗二郎は喜んでいる。

「この時代、男女の学生が一緒に歩くと白い目で見られるんだ」

「そうなんですか?」

「不順異性交遊なんですよね(^▽^)」

「嬉しそうに言うな!」

「鋲、歩くときは内股でな」

「こ、こうですか?」

「こういう風に歩くのよ!」

 麗二郎が見本を示す。悔しいけどサマになってる。

「まあ、それでいいだろ。では、行くぞ」

「「はい!」」

 

 というわけで、僕たちは牛込納戸町の骨とう品屋を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 西郷 麗二郎 or 麗           ピボット高校一年三組 
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・17『KETAYONA』

2022-11-07 06:50:21 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

17『KETAYONA』  

 

 

 それからの片づけ作業は敗戦処理のようになってしまった。

 

 わたしも、どこか気が抜けていたのだろう。なんせ広いだけが取り柄の倉庫。進駐軍が、この学校を接収したときも、この倉庫だけは除外したというシロモノ。ちょっと気を抜くとコウモリが巣くったり、野良猫が住み着いたり。いつもなら隅々までチェックするんだけど、この時ばかりは……。

「ヤマちゃん、オーケー?」

 ヤマちゃんも……。

「里沙、オーケー?」

 と、伝言ゲーム。

 ルーキーの里沙はチェックシートを見てオーケーサイン。

 そのチェックシートは去年のコピーで、この春にみつけた欠陥は書かれていなかった……。


 生徒達を解散させたあと、北畠先生に電話した。まだ病院にいるようなら交代しなければならない。なにより潤香の様態が気がかりだった。

――大丈夫ですよ、潤香の様態は安定しています。お医者さまも「危険な状態じゃない」っておっしゃって、わたしも、もう家に帰ってきたんです……ええ、お母さんも、そうおっしゃって家に戻っていらっしゃいます、お父さんも。念のため、お姉さんが付き添っていらっしゃいます……ええ、大丈夫ですよ。

 わたしは切り替えが早い。それなら一杯ひっかけて明日に備えよう。

 柚木さんも誘おうかと一瞬思ったけど、玄関ホールのガラスに映った自分の顔を見てやめた。

 こんなくたびれ顔のオネーサン(柚木さんとは四つっきゃ変わんない。けしてオバチャンではゴザイマセン)と飲んでも気を遣うだけだろうと、あえて声をかけなかった。


 お店は六本木と乃木坂の間あたり。


 街の喧噪からは程よく離れている。いちおうイタメシ屋だけど、客のわがままなオーダーに気楽に応えているうちに国籍不明なお店になった。

 お決まりのゲソの塩焼きと、ハイボール。乙女には似つかわしくない組み合わせだけど、学生時代からの定番。これ、最初は虫除けだった。リキュールのソーダ割り(いまは、リッキーとか言う)にサラダとチーズのセットなんか乙女チックにやってると、すぐに虫が寄ってくる。で、この組み合わせ。

「ア イ カ ワ ラ ズ ダ ナ」

 二つ向こうの席で宇宙人みたいな声がした。

「ん……あ、小田先輩!」

 そう、今日の審査で乃木坂を落とした審査員の高橋誠司こと小田誠が、当たり前のような顔をして座っていた。手には、アニメの少年探偵が持っているような、蝶ネクタイ形変声機……?

「実写版やったとき小道具さんにもらったんだ。市販品のオモチャなんで、本物みたいなわけには……いかないのよネ」

 今度は女の子の声になってきた。

「ハハハ、もう、やめてくださいよ。キモチ悪い」

「でも、こうやって、女の子とは仲良くなれる」

 と、席を一つ寄せてきた。

「まだ、女の子ですか。わたし?」

「誉め言葉のつもりなんだぜ」

「わたし、もう二十七ですよ」

「まだまだ使い分けのできる歳だぜ」

「大人です。もう五年も教師やってんだから」

「ほう、そうなんだ……と、驚いたほうがいいんだろうけど、とっくに知ってた。ほら……」

 と、コンクールのパンフレットを出した。

「ああ、なーる……」

「ネットで、ときどき検索もしてたんだぜ。おれも一応高校演劇出身だからな」

「おまたせしました。『イチオウ・タパス』です」

 マスターがタパスもどき(スペインの小皿料理)をカウンターに置いた。

「おう、本物じゃないですか。マスター……ソースも本物のサルサ・ブランコだ」

「筋向かいがスパニッシュなんで、時々食材の交換なんかやってるもんで」

「サルのブランコ?」

「「ハハハ……」」

 わたしのトンチンカンに、オッサン二人が笑い出した。

「スペインのサン・セバスチャンて街の、特製ソースだよ」

 で、白ワインで乾杯することになった……ところで大疑問!?

「なんで、わたしが、ここに居ることがわかったんですか?」

「だって、アドレスの交換やったじゃないか」

「は?」

「おれのスマホは最新型でね、相手の電源が入っていればGPSで、居場所が分かるって優れもの」

「うそ!?」

「ほら、現在位置」

 差し出されたスマホには、まごうかたなきイタメシ屋「KETAYONA」のこの席あたりに緑のドットが点滅していた。

「わ、消してくださいよ。これじゃおちおちトイレにも行けないじゃないですか!」

「大丈夫だよ、通話にしてなきゃ音が聞こえるわけじゃないし」

「わたしのほうで消去しちゃうから!」

「待てよ。これはただのGPS。点滅してんのはオレのドットだよ」

「またまた……」

「ほんとだってば、ここは、学校の警備員さんに聞いたんだよ」

「なんで警備員さんが?」

「キミがそれだけ注目されてるってことだよ……良く言えばね」

「普通にいえば?」

「自信が強すぎて、周りが見えない……ほらほら、そうやって、すぐにとんがる」

 先輩の手が伸びてきて、わたしの頬を指で挟んだ。「プ」と音がして自分でも笑ってしまった。

「乃木坂を落としたのは、オレなんだよ」

「先輩に気づいたとき、ヤバイなあとは思いましたけど。まあ、わたし本番観てませんし」

「乃木坂は、貴崎マリそのものだったよ」

「やっぱし」

「パワフルで、展開が速くて、役者も高校生ながら華があった。とくにアンダースタディーやった、まどかって子は可能性に満ちた子だ。学生時代のキミに似ている……いや、キミが似せさせたんだ」

 わたしは、ワインに伸ばしかけた手をハイボールに持ち替え、オッサンのように飲み干し、氷を口に含んで、ガリっとかみ砕いた。

「キミの芝居は、一見華やかでパワフルだけどドラマがない。役者が一人称で、台詞を歌い上げてしまっている。パフォーマンスとしては評価できるけど、芝居としては評価できない」

「それだけですか……」

「登場人物が類型的だ。他の審査員なら等身大の高校生とか言って誉めるんだろうけど。オレには、そう見えなかった。主人公の自衛隊への使命感みたいな入隊希望。彼女の彼への気持ちの変化。彼女の不治の病。みんな最後のカタルシスのための作り物だ。あの芝居、最初にラストシーン思いついたんだろ。マリッペのことだからバイクかっ飛ばしてるときか、なんか食ってる時にひらめいたんだろ?」

 ゴリッ!

 わたしは、もう一個、氷をかみ砕いた……ちょっと歯が痛かった。でもポーカーフェイス。

「そのカタルシスもなあ……」

「なんですかぁ!?」

 思わず声が尖った。

「彼女の最後『あとは……あとは、最後は自分で決るんだよ……研一君』で、彼氏が彼女を抱きしめて『真由……!!』と、慟哭。もったいぶった台詞の羅列。劇的だけどもドラマが無い。人間が関係しあってないんだよなあ……コロスたちの『イカス』の繰り返しのシャウト……コロスにイカスなんて笑えるけどね。そいで大河ドラマの最終回のラストみたいな曲とコーラス。ステレオタイプの典型」

「わたし、大学で習った『共振する演劇』を実践したつもりなんですけど!」

「あれは平田先生だからできた荒技さ。オレが反発してたの知ってるだろ」

「天才は量産できるもんじゃない……でしょ。あのタンカしばらく学部で流行りましたよ。主に単位落とした学生の間にですけど」

「それと、自衛隊への目線に偏りがある。『暴力装置』って言葉は思想的すぎるよ。ま、反体制的ってのは拍手しやすいけどな。ちょっと前世紀の遺物だな」

 コトリ

 半ば溶けた氷が音を立て、グラスの中ででんぐりかえった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 里沙          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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