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家に帰ると居場所が無くなっていた!
うちは3LDKなので、妹の伸子とは10・5畳の部屋をシェアリングしている。一応折り畳みの間仕切りはあるんだけど、普段は半分開けて、テレビや本棚の入ったボードなんかを共有している。
で、それぞれ間仕切りで隠れたところにベッドを置いて一応のプライベートスペースと言うことにしてある。ドアは別々にあるんだけど、つい便利なので手前の妹のスペースのドアを使っている。子供の頃に間仕切りなんかしていなかった頃の名残で、伸子も特になんとも言わないので、そういうことになっている。
ところが、その共用のドアを開けると間仕切りが完全に閉められて、オレは行き場所が無くなって茫然とした。
「あ、兄ちゃんのは全部そっちのほうにやっちゃったから。出入りも自分のドアを使ってね」
そう言われて部屋を見渡すと、テレビはもちろんボードも完全に取り込まれてしまって、オレの本とかフィギュアとか、オレに関するものは、何一つ見当たらない……いったい、なんの仕打ちだ!?
オレのスペースのドアは、普段使わないので、背の低いボードなんかが置いてあって普段は開けることができない。それが、スッと開いた。
中は、完全に物置状態に成り果てていた。リビングに置いてあった、小学校の頃のトロフィーやら、ソファーに載っていたオレ用のクッション。ダイニングのオレの椅子から、玄関のサンダル……。
「あ、これもしまっといてね」
伸子は、いまオレが玄関で脱いだばかりの靴まで持ってきた。
「ほんとは、お父さんのも片付けてあったんだけど、スペース的にね。だから、内縁の男がいることにした。ちょっと同情を買うシュチュエーションになったと思わない?」
ピンときた。
玄関のドアに出てみると、勘はあたっていた。表札が登坂だけになっていて、落葉のは外され、表札が張ってあった周りの汚れもきれいに拭かれていた。
――家庭訪問があるんだ!――
前も言ったけど、うちの両親は出来心で離婚し、そのうちに引っ越し先を探すのが面倒になり。経済的には一緒にいる方が何かと便利なので一緒に暮らしていながら、所帯は別と言うことになっている。だから、当然学校も伸子は母子家庭。オレは父子家庭と思われている。
オレは劣等生と言う以外、なにも問題のない生徒だ。妹も、今日の午前中までは問題のない普通の女子高生だった。それが授業をエスケープして、生活指導の部屋に連れていかれ、だんまりを決め込んだ上に、国語の福田先生を張り倒してしまい、エスケープと対教師暴力で停学になったのだ……慣例から言って、教師の家庭訪問がある……そうだったんだ。
それから、お袋が帰ってきた。
事情は伸子本人と学校からの連絡で知っている。いろいろ愚痴をこぼしたあと、オレに、外に出てろと言った。で、ついでに晩飯の材料を買いにスーパーまで行けということになった……ところで、玄関のチャイムが鳴った。
オレは、仕方なく物置と化した自分のスペースに潜り込んだ。
なんせ、狭い3LDKだ、リビングで喋っていることがまるまる聞こえてくる。
やってきたのは、担任の八重桜(ハナより前にハが出る)さんと、生指の梅本のオッサンだ。
「……だんまりの訳がわかったよ」
「友情からだったのね……」
梅本と八重桜さんの話は意外だった。
「二組の鈴木が、全部喋ってくれたよ……」
それから、しばらくダンマリが続いた。
「鈴木さん……妊娠してるのよね」
八重桜さんが言うと、伸子がワッと泣き伏すのが分かった。
「友美も同じ時間にエスケープしとったんで、直ぐに分かった。妊娠のことも直ぐに話した。だけど、相手の男のことは言わないんだよな」
「登坂さん、事情を知ってたら教えてくれないかな。こういうことは男に責任があるの。なんたって鈴木さんは未成年なんだからね」
伸子は、泣き崩れるばかりで、なかなか答えを言わなかったが、冷静に考えれば大人の力を借りなければ解決のしようのない問題だ。伸子は、しゃくりあげながら真相を言った。
「相手は……数学の陣内先生です」
!!!……思わず声が出てしまうところだった。
陣内と言えば、この春に来たばかりの新卒教師で、一部の女生徒からは人気があった。しかし、商品に手を出さないというのは労働者の基本だろーが!
事情が確認できたので、しばらく話した後二人の先生は帰って行った。事態は、一生徒の停学問題を超えてしまった。
あくる日津守から、伸子の停学は3日になったことを教えられた。
レギュラーよりも4日短いので、津守は首を捻っていた。さすがの情報屋にも、新卒教師の不始末は伝わっていないようだった。
分からないと言えばミリーだ。ヌードの絵を描く理由を言うと言って4日になるが、あれから何も言わない。まあ、無理に聞くこともないと思って、オレは二度目のミリーの絵を描くために成城に向かった。
慣れかもしれないけど、その日のミリーは、前よりもスタイルが良く、肌の色艶にも大人びた美しさを感じた……。