ライトノベルベスト
「やっぱりねえ……」
「成績はそこそこ」
「部活の実績もあるんですが……」
「気が短いと言うか……」
「ケンカばかりしていてはねえ……」
「見送りますか……」
「「「「「やむなし」」」」」
進路部会で篤子のS女子大への推薦は見送られた。
「キャー、先生、パンツがあれへん!」
プールの授業が終わって、更衣室に戻ると二クラス分の女子のパンツ、48人分がなくなっていた。
「うそ、先生、ちゃんと更衣室の鍵かけたで!」
Y先生は、法廷の検察官のように宣言した。
「あ、あとでチーコら遅刻して、鍵借りとったやろ?」
「うちら、ちゃんと返しにいったもん。なあ、先生?」
「うん……そやけど、鍵返しにくるのん、ちょっと遅なかったか、チーコ?」
「……あたし、準備運動してから、鍵に気いついて。ほんでも、ほんの3分ほどですよ」
48人のノーパンガールズを沈黙が支配した。
「3分あったら変態泥棒には十分や。せやけどチーコは悪ない。悪いのんはパンツ泥棒や!」
Y先生は、状況確認とチーコへの弁護を一言で片づけ、次の対策に入った。スマホを取り出すと、学校に一番近い下着屋を探した。
「あった。赤坂屋や!」
Y先生は赤酒屋に電話すると、パンツの在庫を聞き、全員に確認した。
「なんとか、ありそうや。今からサイズ言うから手え挙げなさい。Sサイズ……Mサイズ……Lサイズ……LLサイズ……ようし、48人揃たな」
先生は、サイズごとの枚数を言って、赤坂屋のオバチャンに持ってきてもらうことにした。
ことは急を要するので、赤坂屋のオバチャンは、同じ白いパンツの4種類48枚を原チャで運んでくれた。この間8分。Y先生といい、赤坂屋のオバチャンといい、大阪のオバチャンの連携と馬力は凄い!
これで無事に、次の授業は5分遅れただけで間に合った。
噂は、瞬く間に学校中に知れ渡り、二つのクラスの女子はAKP48の異名をいただくことになった。AKPとは赤坂屋のパンツの略である。
昼休みに小さな不幸が起こった。
ビリ
着やせが自慢の篤子はお決まりの丼とラーメンを食べて教室に戻り、席に着いたとたん、かそけき音を立ててパンツが破れたのだ。
篤子は普段生パンの上にヘッチャラパンツ(見せパン)を穿いているが、支給されたのは生パンだけである。
5・6時間目、篤子は椅子の上に胡坐をかくことも、スカートをパカパカやって暑気を逃がすこともできなかった。放課後には篤子が大人しくなったと職員室でも評判になった。
篤子は後悔していた。
篤子はLサイズなのだが、Y先生が手を挙げさせたとき、つい見栄でMに手を挙げてしまった。
放課後は、珍しく部活の少林寺も休んで、早々に帰宅組の中に混じった。
駅に着くと、隣接するS女学院のワルたちがたむろしていた。
「やあ、あんたら今日パンツ盗られたんやてね!?」
「「「「「よ、AKP48!」」」」」
「全員はおらへんから選抜やな。な、篤子!」
中学時代から篤子の敵役の真夏がひやかした。
「なんやと……もっかいぬかしてみい!」
で、篤子の取り巻きと、S女学院のにらみ合いになった。
夏子は中学時代からの少林寺なので、篤子の得意技の回し蹴りなどを警戒していたが、意に反して足を大きく使わなくてすむ小技ばかりでS女学院あっさりと倒されてしまった。
相手に怪我を負わせることも無く終わったので、特段学校からとがめだてられることは無かった。
篤子としては回し蹴りのダイナミックな技で決めたいところだったが、ヘッチャラパンツはおろか、生パンも破れているので、技が出せなかっただけである。
しかし、学校や仲間は「篤子も大人になったもんだ」と評判になり、AKP48選抜は期せずして学校の模範生となった。
あの篤子が? そうか……。
よし!
篤子の推薦が復活した。