🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!
16『これは間違いだ!』
階段下の旧演劇部の部室は、軽のワンボックスカーほどの広さしかない。
隠れ家にして二週間余り、自分に適うように整理してみようと思った。
部室は、発見した時のままで、床には古い衣装やら台本やらがグチャグチャになっていて、元々の床も見えない。
なにより、持久走で三好紀香を救けたあとに、ひっくり返って、思わず手に触れた縞柄のショーツが気になっていた。
こんなものを放置していたら、万一見つかった時に、あらぬ疑いがかけられる。
「ゲ……こんなにあるのか!?」
グチャグチャの上には、舞台に使う幕の切れ端みたいなのが掛けられていたが、それを取り払うと、いくつか段ボールの箱が潰れていて、中身がはみ出ている。雑多な中味の半分ほどが女物の下着だった。以前オレが手に握ったのは、そこからはみ出した、ほんの一部のようだ。
とにかく、まとめて袋にでも詰めよう。
ところが、まとめて入れるべき袋が見当たらない。
教室の教卓の中にゴミ袋があることを思い出す。ようし、こういうことはサッサとやったほうがいい。
放課後で人気のない階段を上がって、右に折れると教室。
「あった、あった」
黒いゴミ袋を掴んで教室を出ると、腰のところに違和感。なんだか、ポケットが外れたような感じがした。
「……え、どうして?」
足許には、薄桃色のブラが落ちている。ブラのカップにはガムテープの切れ端……どうやら、潰れた段ボール箱のガムテープがブラに貼りつき、その上に乗っけた尻に付いてきたもののようだ。オレは、直ぐに掴んでゴミ袋に入れようとした。
「ゲ、桃斗……!」
憶えのある声が目の前でした。なんというタイミングの悪さ……階段を上って来た桜子が、廊下に足を踏み出したところで出くわしてしまったのだ! その距離、わずかに2メートル足らず。
パシーン!
「ちょっと見直したら、桃斗ってデブの上に変態だったんだ!」
そう言うと、桜子は踵を返して階段を駆け下りた。
「ち、違うんだって、桜子!」
この誤解は解いておかなければ取り返しがつかない。張り倒された頬の痛みもどこへやら、オレは桜子を追いかけた。
「寄るな、触るな、変態デブ!」
「違う、これは!」
「キャ!!」
一階の廊下を10メートルほど走ったところで、桜子が転倒した。
「う、うわ!」
オレもつんのめって、桜子に覆いかぶさるように転倒!
勢いとは恐ろしいもので、桜子に激突することを避けようとした右手が、桜子のスカートを派手に捲り上げてしまった。
おまけに、右手には、さっきのブラが握られたまま。
「す、すまん。こんなつもりじゃ!」
「イヤー!!!!」
「お、おまえら!?」
不幸は重なるもので、廊下の向こうに聞きなれた声。
「や、八瀬、これは間違いだ!」
バレンタイン明けのオレは、とっても不幸なところから始まった。
🍑・主な登場人物
百戸 桃斗……体重110キロの高校生
百戸 佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚
百戸 信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い
百戸 桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる
百戸 信子……桃斗の祖母 信二の母
八瀬 竜馬……桃斗の親友
外村 桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した