大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・042『巨大パルスミサイル』

2019-05-25 06:14:37 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・042
『巨大パルスミサイル』



 主砲三基六門から斉射されたテラパルスは重力波異常の中心点で炸裂した!

 漆黒の宇宙空間の真ん中に穴が開いたようになった。

 友子(艦長の娘)のジーンズを洗濯しようとして漂白剤を落とした時のことを思った。
 漂白剤が落ちたところは瞬間でインディゴブルーが抜けて真っ白になってしまった。アレに似ている。
 たった二ミリほどだったがひどく目だった。友子はブチギレて一週間口をきいてもらえなかった。

 宇宙空間のそれは二ミリでは済まなかった。

 ほんの数秒で漂白は拡大してカワチを包み込んでしまった。
 続いて艦内の人工引力が失われた。
 上昇していたエレベーターのワイヤーが切れて落下するような無重力感。
 それも一瞬のことで、宇宙空間の闇が戻るのにシンクロして人工引力が戻って来た。

 これがアニメだったらビビットに音や衝撃のエフェクトが入るのだろうが、実際は光と闇だった。

 闇夜に突っ立っていたら、一瞬灯台の光を浴びたような感触だ。
「どうやらパラレルに引き込まれたようです」
 ニコ動のコメントが流れるようにモニター上を数値やコンピューター言語が流れていく。それを素早く読み取って砲雷長が告げる。
「抜け出せるか?」
「待ってください……」
 せわし気にキーボードを叩く砲雷長、CICのスタッフの動きも連動している。砲雷科の連携はいいようだ。
 
――艦長、これは残像です――

 ブリッジの航海長が連絡してきた。
「残像?」
――周辺の土星や衛星に質量がありません――
「確かかい?」
――艦の進路が0・12ズレています――

 カワチの推力は周辺天体の引力を計算して決められる。つまり周辺の星などの天体は質量を持っていることが前提なのだ。引力の影響もないのに推力補整をやっていては艦の進行に歪みが出てくるわけだ。つまり、いま見えている宇宙空間は瞬間飛び込んでしまったパラレル宇宙の残像と言えるわけだ。

「補正を解除して元進路を維持」
――了解、トーリカージ一度――
 操舵手の復唱の声が聞こえてカワチはかすかに取舵になった。
「艦尾後方2パーセクに質量喪失の形跡があります」
「イメージを出してくれ」
「二番モニターに出します」
 画面にはボンヤリとした滲みが出ている。それは数秒前まで巨大な、あるいは高エネルギー物質が存在していたことを示している。
「こいつは巨大なパルスミサイルだな」
「1000テラはあるでしょう」
「地球が吹っ飛ぶほどの威力だ……」
 CICのだれもがパルスミサイルの残留滲に目を見張った。
「こいつが重力波異常の原因ですね……」
「レーダーに感あり、右舷二時パルスミサイル、巨大!」
「面舵一杯! 左舷砲雷戦、目標パルスミサイル!」
 
 左舷に微変進したばかりの艦体が大きく傾いだ。じきに巨大なミサイルが左舷に見えてきた。

「対ショック対閃光防御をなせ、艦長ギガパルスでいきます」
「了解、照準に入り次第発射」
「6 5 4 3 2……軸線にとらえました!」
「テーーー!」

 ズビユーーーーーン!

 瞬時にパルスミサイルは破壊され、二秒遅れて衝撃がカワチを襲った。

「間に合ってよかったです……カワチが太陽系を離れたあとに地球がやられるところでした」
「戦闘配置を解く」

 五分に満たない戦闘配置だったが、解除されると艦内に安堵の空気が艦内に流れた。
 
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・8《アナスタシア・4》

2019-05-25 06:05:01 | 時かける少女
時かける少女BETA・8
《アナスタシア・4》                 


「さあ! 何からやったらいいのかしら!?」

 アナは張り切っていたが、大使館のキッチンでやることは「お湯を沸かすこと」だけだった。
「で、あとは?」
 当然な質問だった。しかし、アリサの答えは「段ボールの箱を運ぶ」ことだけだった。
 それは、アリサが個人的に大使館から借りている物置で、部屋の中は、その50センチ四方ほどの箱で一杯だった。
「日本で一番簡単で、栄養も温かさも摂れる新開発の非常食です。まずは大使館のみんなと試食です」

 とりあえず運び出した。

「アリサ、力持ち!」
「見かけより軽いんです。アーニャ(大使館ではアーニャで通すことにした)も持ってごらんなさい。5箱は軽いですよ」
「そんな、あたしは……あ、持てた!」
 その箱は大きさの割には軽く、ひと箱1キロ程でしかなかった。
「さあ、手すきの大使館員のみなさん、ちょっと試食に付き合ってくださいな!」
 なんだなんだと、警備以外の大使館員がホールに集まった。
「アーニャ、その箱開けて、中身を人数分出して」
「はい……なんだろ、これ」
 中からは紙でできたカップが30個ほど入っていた。日本語で書いてあるのでよくわからないが、カップの中はカサコソ音がして、何か入っていることは確かだが、食べ物にしては、あまりにも軽い。
「カップの蓋を1/3ほど開けてください」
 この段階で、皆がざわついた。良い匂いはするが、中はカチカチにこんぐらがってプレスされた針金の塊のようなもの。そこに、エビや野菜、小さな肉のようなものがミイラのようになって入っていた。
「台所のお湯は沸くのに時間がかかります。サモワールのお湯を中に注いで、もう一度蓋をして3分待つ。3分経ったら、蓋を開けて、カップに貼りついているセルロイドのフォークで食べてください」

 いい匂いがして、3分間の沈黙になった。

 あちこちで、蓋を開けてカップラーメンをすする音がした。
「美味しい! でも日本人て、食べるとき行儀が悪いわね」
「それは違うの。アーニャ、これは『すする』という食べ方で、麺状の食べ物を食べる時には一番早く食べられるし、のど越しって感覚が、とってもいいの……ズルズル」
 アナは吹き出しかけたが、たしかに日本人たちは美味しそうに、そして早く食べている。
「有紗さん。これ美味いけど、新製品かね?」
 一等書記官の水野が聞いてきた。
「はい、これで一儲けしようと思っております。なんたって、お湯さえあれば、このロシアの真冬だって温かいものが食べられます。軍の携帯糧秣なんかにいいんじゃないかと思っています」
「さすが大黒屋光太夫の末ではあるなあ」
「え、アリサって、コーダユーの子孫なの?」
「はい、玄孫(やしゃご)のひ孫になります。縁あってロシア人みたいな顔になっておりますけど」
「すごい! エカチェリーナひいひいひいひいお祖母さまから尊敬された日本人よ。歴史のセミョーノフ先生からも聞いたことあるわ!」
「しかし有紗さん。これでは男の腹はくちくならないね」
「それは試食用。炊き出しに使うのは……こちらの方です!」
 アリサはスーパーカップを取り出した。
「おお、デカイ。それにみそ味って書いてあるじゃないか!」
 一等書記官は素直に喜んだ。さすがに迫水大使が心配げにアリサの肩を叩いた。

「炊き出しは無理だ。君の部屋にあるものじゃ5分ともたない。足りなければ騒ぎになる。ペトログラードは革命の寸前だよ、大使館が無事で済まなくなる」
「大丈夫です。仕掛けは申せませんが、この携帯食料は無尽蔵です。お湯をかけてあげるのは最初の百人ほど。あとは箱ごと渡します。食べ方も箱とカップの両方に絵文字で印刷してあります。それよりもお話が……」
 アリサは、大使にだけはアーニャの身分と処遇について話をしておいた。

 アーニャは、楽しげに炊き出しの手伝いをやり始めていた……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・15』

2019-05-25 05:55:12 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・15


 

『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ5』


 基礎練習は、少しずつ難しくなってきた。

 まず、無対象メソード。

 縄跳びまでは、みんな楽しげにやれたけど、ボールから戸惑いはじめた。
 手にするところまではできるんだけど、互いにキャッチボールしはじめると、ボールが途中で見えなくなってしまう。大橋先生は、野球のボール、テニスボール、バレーボールなど様々な見えないボールをよこしてくる。
 先生が投げる時はなんのボールか、たいてい分かるんだけど、自分の手元にくる寸前で消えてしまう。まあ、バレーボールがなんとかできるかなあってとこ。
 三日もすると、八人で輪になって、トスバレーができるようになった。しかし、無対象というのは集中力がいるもので、このトスバレーも一分もやると、ボールが消えてしまう。

 玉子を割って、目玉焼きを作った。案外無対象で玉子を割るのは難しかった。
 バケツを持ったり、雑巾をしぼって机を拭いたり。

 そうそう、コーヒーを飲むのが、難しいってか、おもしろい。
 だれも最初はできないんだけど、その「できてない」のを見てるのがね。
 口にカップを持っていくまでにカップを壊したり。飲めずに、口の脇からこぼれていたり。ドバっとコーヒーをかぶってしまったり。とにかく人の失敗はおもしろく。自分の失敗は分からないものだ。

 極めつけは、お風呂。

 これは、無対象で服を脱いだり着たりをやった、その明くる日に予告無しにやらされた。
「タロくん、風呂入ってみぃ」
 タロくんとは、唯一の男子部員、山田太郎先輩のことである。
 密かに自分の名前を「平凡すぎる」と悩んでいる人。
 小柄でブッキチョな先輩だけど、わたしは好きだ。
「山田太郎って、平凡じゃないですよ。わたし今まで山田太郎って名前の人に会ったことないですよ」
 ごく当たり前のことを言うとひどく喜んでくれた。この人の名前を聞いて覚えられない人はいないだろう。
 稽古も器用ではないが、いわれたことは「はい!」と言って素直にやる。
 この「お風呂のメソード」も言われるとすぐに始めた。でも、なんだか、ムキになったような生真面目さ。股ぐらを洗うときなんか、「ハハハ」と、やけくそみたいに笑っていた。
 クミちゃんこと一年の諸田久美子は、脱衣場と設定された場所で立ちすくんでしまった。「うん、合格。もうええよ」
「でも、あたし、なんにもできてません……」
 と、クミちゃん。
「いいや、合格点や。次はるか!」
 近所の気安さか、玉串川の出会いのまんまというか、わたしは呼び捨て。

 脱衣場のゾーンに入っただけで、胸がドキドキしてきた。
 無対象だから、脱ぐといってもいわば「真似」であって、ほんとに裸になるわけではない。無対象のスカートを脱ぐ。ホックを外せばストンとスカートは落ちる。感覚的には本当に「落ちた」 
 次にブラウス。これって案外全身運動……次に、下着に手がかかる。
 そこで手が止まってしまった。クミちゃんのときのように「合格」と声がかからない。わたしは顔を赤くしてフリ-ズしてしまった。
 
「よっしゃ、分かったか?」

「え……」
「無対象やけど、恥ずかしかったやろ。その恥ずかしいという気持ちになれたら合格や。無対象もきちんとできると、それに伴った感情が湧いてくる。それが分かっただけで合格や。むろんプロの役者やったらルンルンでできならあかんけどな。せやろ、あんなヤケクソな顔して風呂入るやつおらんやろ。な、タロくん」
「は、はい」
 タロくん先輩は頭をかいた。
「で、ひとつ分かったな。役者は羞恥心の壁を越えならあかん……いつの日か、君らもな」

 そのいつの日の前に二年の西尾さんと諸田さんが辞めていった。少し寂しかった。みんなも……。
 でも大橋むつおは平気なコンニャク顔だった。
「人間関係はかけ算や」
「え……?」

 乙女先生がタコ焼きと、も一つの紙袋をぶら下げて久々に現れた。
「ほんなら、タコ焼き食べながら話そか」
 さっそく一つを口に放り込み、思わぬ熱さに目を白黒させた。しかし大橋先生は器用に口の中でタコ焼きをホロホロさせて、ちゃんと咀嚼して飲み下した。

――さすが大阪のオッサン!――

「みんなも冷めんうちに、おあがり」
 チェシャネコの乙女先生が勧めた。
 で、あっちこっちでホロホロ……わたしはフーフーと冷ました。
「人間は、ものごとに、やる気とか興味とかの数字を持ってる。これは人間性とは関係ない。ホロホロ……」
「で、相手の持ってる数字がゼロとかマイナスやと、掛け合わせて出てくる答えは?」
 乙女先生が引き受けて、三つ目のタコ焼きに手を出そうとしていた二年のルリちゃんこと早田瑠璃子に声をかけた。
「あ、ゼロかマイナスです。ホロホロ……」
「そこに、義理とか、付き合いとかの変数が加わる」
 と、大橋先生。
「家庭事情とか、アルバイトいう変数もあるなあ……」
 と、乙女先生。
「答えが出てくるのに、時間がかかる」
 二人の先生の間には、なにか了解事項があるようだ。タコ焼きの数が、ちょうど人数で割り切れることに気が付いた。

 わたしは、鋭いのか、みみっちいのか自分でも判断がつきかねた。

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高校ライトノベル・せやさかい・019『頼子さんの企み』

2019-05-24 12:49:17 | ノベル
かい・019
『頼子さんの企み』  

 

 

 まことに申し訳ありませんでした。

 

 角を曲がったら職員室というところで聞こえてきた。頼子さんが神妙に謝る声が。

 留美ちゃんと二人でフリーズしてしもた。ただ事やない雰囲気やから。

「鏡……」

 留美ちゃんが小さな声で廊下の鏡を指さした。

 鏡には、男子と、そのお母さんらしいオバチャンに深々と頭を下げてる頼子さんと頼子さんの担任、その後ろのは教頭先生。

「あ、女装させられてた男子やわ!」

 留美ちゃんの観察で事態が呑み込めた。こないだ、正門のとこで男子に女子の制服、頼子さんが男子の制服を着て制服改定のアピールしてた。男子はむっちゃ恥ずかしそうな顔してた……その件で親がねじ込んできたんや。

 

 見たらあかんもんを見てしもた……。

 

 噂は学校中に広まった。

 部活で、どんな顔したらええねんやろ……

 ところが、当の頼子さんはアッケラカ~ンとしてた。

 いつもの紅茶を淹れた後、俯いてるわたしらに頼子さんは切り出した。

「心配してくれたのよね、ありがとう」

「あ……いえ」

 わたしは、かろうじて声が出たけど、留美ちゃんはうつむいたまま。

「こりゃ、きちんと話さなきゃいけないわね……これ、見てくれる?」

 頼子さんは、一枚のプリントを差し出した、プリントには『2020年度からの制服改定』とタイトルがあって、頼子さんが書いてたのとは別の制服プランが載ってる。頼子さんのとは違うねんけど、女子のズボン、男子のスカート着用を認めるという点に変わりはなかった。そして、下の方には安泰中学校制服改定委員会と書いてある。

「これ、うちの学校のんですか?」

「うん、わたしの件が無かったら、今日のホームルームで配られるはずだった」

「学校が企んでたんですか!?」

 留美ちゃんは手厳しい言い方をする。こないだの部活で頼子さんのプラン聞かされて動揺してたもんなあ。

「うん、きょう三田くんのお母さんがねじ込んできたので、タイミングが悪いって中止になったの」

「え、えと……どういうことなんですか?」

 男子のスカートを喜んでた頼子さん。正門のとこでファッションショーまでやって、頼子さんはジェンダーフリーの制服に大賛成やったはず……。

「毒を制するには毒をもってよ」

「あ!」

 留美ちゃんが、パッと明るい顔をした。

「わかりました! 先に生徒に見せておいてヒンシュクになるのを見越してたんですね! 男子も、わざわざ嫌がる子にやらせて……ひょっとして、親がねじ込んでくることも計算に入ってた!」

「ハハハ、留美ちゃん勘いいよ!」

「「そうだったんだ……」」

「わたし一人が反対したって、学校って動かないじゃない。先生からも睨まれるしね。あえてね」

「さっすが、頼子先輩!!」

「う~~~ん」

 わたしは感心したけど、留美ちゃんは腕を組んだ。

「なにか?」

「でも、スカート穿かされた男子かわいそう……なことないですか?」

「三田と黒田はね、クラスの子イジメてたのよ。それで、バラされたくなかったら手伝ってと、お願いしたわけ」

「……それって(恐喝なんとちゃいますのん?)」

「なに?」

「いいえ、なんでも」

「あの二人、まだイジメてた子には謝ってないから、これから第二幕。そーだ、わたし、明日から修学旅行だからね。この問題も修学旅行までには片づけたかったから、まあ、わたし的には満足。帰って来るのは月曜の夜だから、二人に会うのは火曜日かな。ま、お土産とか楽しみにね」

「「はい!」」

「それと、部活では敬語禁止、いいわね」

「は、はい」

 返事はしたけど、こんなスゴイ先輩に友だち言葉……ちょっと無理です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・7

2019-05-24 06:53:13 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・7


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 二人身をひそめる。バサバサと音をたてて、ドラゴンが梢の高さほどのところを通り過ぎる気配がする(音と光で表現)

白雪: ……今の見えた?
赤ずきん: ううん、気配だけ。多分ドラゴン。
白雪: そう、ドラゴンよ。夕方わたしを襲った時も、半分体が透けていたけど、とうとう……。
赤ずきん: ステルスになっちまいやがった。よほど気をつけないと、不意打ちをくらってしまう。この分では狸バスも……。
白雪: どうしよう……。
赤ずきん: 仕方ない、今夜はわたしも婆ちゃんちに……。

 スマホを出そうとすると、下手よりかすかなパッシングと間の抜けたクラクション。

赤ずきん: 狸バス、あんなところに隠れていたんだ……(狸語が返ってくる)
 え、今日は特別に婆ちゃんちまで送ってくれる? 
 じゃ、白雪さんを送ってもらって、それから、ちょこっとだけ婆ちゃんと話して、それからお城まで……。
 オッケー?(狸語)え、そのかわりしばらく休業? 
 仕方ないわねえ、あんなぶっそうなドラゴンがいたんじゃねえ……。
 (白雪に)婆ちゃんに薬をもらおう、よく効くの持ってるから。じゃタヌちゃん、お願いね!(狸エンジンの始動音)

 二人、下手の狸バスに行くところで暗転、小鳥たちの朝を告げる声で明るくなる。
 花道を、王子を先頭に、ヨンチョが続き、赤ずきん遅れて駆けてくる。


王子: だから何度も言ったろう、その場で気持ちが変わったのではない。
 姫の女性としての尊厳を守るために、わたしはあえて我慢をして……。
赤ずきん: なにが尊厳を守るよ、白雪さんの気持ちはズタズタよ。
王子: それを乗り越えて自分で行動を起こさねば、一生わたし、つまり男性に従属せねばならなくなる。
 男の口づけを待って生命をとりもどすなど、女性を男の玩具とし、その尊厳を汚すものだ。
 わたしに出来ることは、男とか女とかを越えた人間としての地平から「がんばれ、めざめられよ!」と叫び続けることだ。
ヨンチョ: 王子は叫ばれた!
王子: 「がんばれ、めざめられよ!」
ヨンチョ: 「がんばれ、めざめられよ!」
赤ずきん: ……それが何やらつぶやかれるってやつね。それ、自分の考えじゃないよね。
王子: わたしのの考えだ!
ヨンチョ: 王子さまのお考えである!
赤ずきん: 影響されたわね……女王さまに? 朝の御あいさつに行ってから変だもん。
王子: ……参考にはした。しかし自分の考えではある。
ヨンチョ: 御自分の考えではある! とおおせられた。
赤ずきん: うるせえ!
ヨンチョ: おっかねえ……。
赤ずきん: 家来にバックコーラスしてもらわないと自分の考えも言えないの!? 
 女王にちょこっと言われただけでコロッと考え変わっちゃうの!?
王子: ……。
赤ずきん: わたし、昨日は自分の説得力に自信持ったけど、とんだピエロだったようね。
 さようなら、時間かかるけど別の王子さま探すわ。そして白雪さんの怪我はわたしが治して見せる!
王子: 待て! 姫は怪我をしているのか……!?
赤ずきん: ええ、森のドラゴンが成長し、夜と昼のわずかな境にも居座るようになり、
 ガラスの棺からよみがえろうとして、まだ低血圧のところを襲われた。心配はいらない、全治一ヶ月程度の怪我よ。
 それにこれからは、わたしたちグリムの仲間で白雪さんを守るから……じゃ、さよなら!
王子: 待て、待て、行くな……行くなと申しておるのだぞ!(ヨンチョに)赤ずきんをつかまえろ!
ヨンチョ: アイアイ(サー……と動きかける)
赤ずきん: (花道の途中で立ち止まり)バカヤロー! そんなことも家来に言わなきゃできないのかよ!
王子: ……すまん、わたしの悪い癖だ……頼む、もう一度もどってきてはくれないか?

 階段(花道のかかり)まで進み、手をさしのべる 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・041『試射をしていてはタイミングを失う』

2019-05-24 06:38:08 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・041
『試射をしていてはタイミングを失う』




 そこは避けてきたんですが……

 航海長は当惑していた。

 重力波異常のところを重点的に航海しろというのだから、艦の安全航行を担う者としては当たり前だ。
 高速道路を走るのに、わざわざ亀裂や穴の開いているところを走れというようなものである。
「思っている以上に時空の歪は深刻なようなんだ」
 艦長は、それまでに出くわしたアクシデントやインシデントをかいつまんで話した。

 ツクヨミとの激突、激突犠牲者の宇宙葬のあとカワチの近くを流れた流星群、アイドル清美の出現など。

「艦長と同じ見解です、だからわずかな重力波異常のところも避けて飛んできました。艦内の態勢が整い次第土星軌道は離脱しようと思っています、それをわざわざこちらから突っ込んでいこうというのは無謀です」
 食堂でたこ焼を焼いているときの食堂のおばちゃんの感じは全然しない。こと航海に関わることでは艦の安全を第一に考え、相手が艦長であっても容易には頷かない気迫がある。
「たとえば……この壁面にヒビが入っているとしよう。亀裂と言うほどではない、アナライザーの非破壊検査でやっと分かる程度の」
 艦長はブリッジの壁面にクラックのシルシを入れた、橋梁検査で入れるチョークのシルシだ。
「ヒビの進行を緊急に止めるにはどうしたらいいと思う?」
「樹脂の充填、あるいはクラックを生じた部位全体の縛着ですね」
「そうだね、震災直後の橋梁修理などでは、よくやられた正攻法だ。でも、今日明日にでも橋梁を破壊しそうな場合は……こうだ」
 艦長はヒビの両端にドリルによる穿孔のシルシを入れた。
 穿孔、つまり穴をあけると、短期的にはクラックの進行が停められる。
「これをやれと……」
「うん、理念的には冷めたたこ焼きをフリーズドライの再生たこ焼きにするのと同じだよ」
「クラックは食べられませんけどね」
「呑んでかかろう、どうせ呑むなら大きい方がいい」
「なら、これですね。地球の方を向いている重力波異常です、微細なものですが奥が深そうです」
「よし、かかろう」

 艦内放送のスイッチを入れると、落ち着いた声で指令した。

――総員戦闘配置、総員戦闘配置、対ショック対閃光防御をなせ――

――面舵二十度、第二戦速――

 航海長の指示が続き、カワチは大きく艦首を振った。

 航海長が振り返ると、艦長が小気味よくラッタルを下りる音だけを残した。CICに向かったのだ。

「砲雷長、一番二番三番主砲を座標に指向」
「撃つんですか?」
「配置完了しだいテラパルス斉射」
「テラパルスは試射をしないと危険です」
「試射をしていてはタイミングを失う」
「了解しました」

 戦闘配置の完了を受けて、カワチは主砲三基九門が最大出力のテラパルスの一斉射を放った!

 ズビューーーーーン!!
 
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・7《アナスタシア・3》

2019-05-24 06:26:05 | 時かける少女
 時かける少女BETA・7
《アナスタシア・3》                 


 
「もう目を開いてもよろしゅうございますよ」

 アナスタシアは、一瞬鏡を見ていると錯覚した。
 目の前に自分と同じ姿の少女がいて、同じ表情で驚き、同じしぐさをしていた。アナは驚くと口と胸元に手をやる癖がある。そのタイミングまでいっしょで、数秒後には興奮になり、胸元を手でさすり始めた。100年後のアイドル前田敦子の癖ににている。
「アハハ、そっくりでございましょ?」
 その子はアリサの声で笑った。
「アハハ、あたし、びっくりして気絶するところだったわ。でも、喋ると、やっぱりアリサなのね」
「でも、喋ると、やっぱりアリサなのね」
 アリサは、アナそっくりの声で繰り返した。
「エ、エエ……!?」
「アハハ、やろうと思えば、声だって、この通り!」
「アハハ、すごいすごい! これならお母様やお姉さまが聞いても分からないわ。すごい、アハハ!」
「アハハ!」
 その時ノックと同時に、ベテラン侍女のベラが怖い顔をして入ってきた。
「街では暴動の真っ最中。宮殿の中の者は、畏れ多くも皇后陛下から猫まで息をひそめて心配しているのです。お元気であられるのは結構でございますが、もう少し神妙になさってくださいまし。お次の間を通して廊下にまでお声が響いております。アリサ男爵もお気を付けくださいますよう!」
「ごめんなさいベラさん。殿下が、あまりにもお元気がなかったもので、少しはしゃぎすぎました。気を付けます」
 アリサは、自分の姿に戻って、すまなさそうにベラに謝った。
「男爵のご努力には感謝いたします。でも、ほどほどに願います」
 ベラは、幾分落ち着いた顔にもどって、ドアの向こうに去った。
「アリサ、いつの間にもとにもどったの?」
「これが伊賀流の術です」
「すごいのね忍術って!」

 その時、遠くで一斉射撃の音がした。

「軍が発砲したのかしら……」
「おそらく。でも、銃声に緊張感がありません。あれは威嚇射撃ですね」
「怪我人が出なければいいのに……」

 ペトログラードは二月革命の真っ最中である。昨日の国際婦人デーに、街のカミさんたちが請願デモをおこした。
 平穏なデモは戦争と飢餓、政情不安で沸点に達していた市民の不満に火を点けてしまった。12年前におこった「血の日曜日事件」にならないように、警備の軍隊は慎重だったが、もうなだめすかしでは通じなくなってきた。
 皇帝ニコライ二世は前線の部隊から数個連隊をペトログラードに派遣させた。その知らせを受けて軍の警戒部隊も強気に出たのである。

「大丈夫ですよ。12年前も無事に収まりました。今度も無事にいきます」
「アリサ……あたし怖い」
 アナは、アリサの胸に飛び込んだ。アリサは優しくアナをハグした。まるで仲のいい姉妹のようだった。
「怖がっていてもなにも解決しません。あたしたちでできることを考えましょう」
「え、あたしたちが役に立てるの!?」
「はい、元々は街のオカミサンたちの請願運動。要は食べられるようにしてあげればいいんです」
「でも、宮殿は広いけど、とてもあの街の人たちみんなを食べさせられるだけのスペースも食材もないわ」
「そりゃ、ここじゃ無理です。民衆は強いのです。知恵を授けてやれば、自分たちでやります。日本には貧しい食材でも美味しくてお腹がいっぱいになって温かくなる料理がたくさんあります。それを学びに日本大使館にいきましょう」
「日本大使館?」
「ええ、あちらの方はまだ落ち着いています。食材も豊富です。アナ自身が出向いて勉強なさいな。そしてオカミサンたちに教えてあげるのです。皇后さまや皇太后さまでは畏れ多すぎて、街の者たちは寄り付きません。アナは、まだ17歳のオチャッピーです。成功の可能性は高いです。それともマカーキ(猿=日本人)の手を借りるのは嫌かしら?」
「ううん、あたしはお父様とは違う。日露戦争の恨みなんかありません」
「じゃ、きまり。今から行きましょう!」
「でも、この警備の中を……」
「こうします」
 アリサは、毛布とクローゼットの衣装で、アナに似た人形を作ってしまった。
「すごい、これも忍術?」
「はい、忍法空蝉(うつせみ)の術。喋って」
「え?」
「いえ、人形に言ったんです」

「今は一人にしておいて」

 人形はアナそのものの声で言った。
「アナも、ちょっと変えましょうね」
 アリサがちょちょいといじると、黒髪でブラウンの瞳の侍女見習いが出来上がった。
「うわー、新入りの侍女みたい」
「さ、レッツゴー!」

 アリサには分かっていた。アナが二度とこの宮殿には戻れない、戻ってはいけないことを。粗末な馬車は日本大使館を目指した……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・14』

2019-05-24 06:13:59 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・14




『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ4』

 家に帰ると、お母さんがやっとヒトガマシイ姿にもどって、一人で宅配ピザを食べていた。

「あ、娘をさんざんこき使っといて、そんなのありー!?」
「はるかの分もとってあるわよ」
「ピザは、焼きたてでなきゃおいしくないよ」
「だって、はるか遅いんだもん。わたし、夕べからなにも食べてなかったのよ」
「だってね……」
「いらないんだったら、食べちゃうわよ」
「いるいる!」
 にぎやかに母子で遅い昼食の争奪戦になった。
 わたしはピザで口のまわりをベトベトにしながら、午前中のあれこれを話した。お母さんに楽しいことを話すと、二倍にも三倍にも楽しくなる。それに笑っているうちに……。

「ハハハ……で、お釣りは?」

 敵は、その手には乗ってこなかった。
 仕方なく、左のポケットを探ると、例のチラシがクシャクシャになって、お釣りの封筒といっしょに出てきた。
『青春のエッセー大募集!』のキャッチコピーがチラシの上で踊っていた。というか、その下の、賞金五十万円に母子の目は釘付けになった。
「なーんだ、十八歳までか。ガキンチョ相手のA書房だもんね」
 空気の抜けた風船のようにお母さんは興味を失って、ピザのパッケージを片づけはじめた。
 わたしは、その下の、銀賞二十万円から目が離せなかった。東京の学校の学園祭でも準ミスだった。二等賞の銀賞なら手が届くかも……。

 洗濯物を取り込んで、高安山に目をやる。目玉オヤジが夕陽に照らされ神々しく見えた。
 パンパンと、小さく二礼二拍手一礼。
「南無目玉オヤジ大明神さま、われに銀賞を獲らさせたまえ」
 そんでもって……振り返ると、お母さん。
「わたしの原稿料を上げさせたまえ……」
 と、便乗していた。

 その夜は先生に言われたように、その日の出来事を物理的にメモった。そして、明くる日曜日になんとか段ボール箱を片づけ、やっと本格的に新生活が始まった。


 学校は順調だった。
 由香の他にも四五人の友だちができた。
「あんた」の二人称にも親密感を感じられるほどに大阪弁にも慣れた。
 イケメンのテンカス生徒会長吉川裕也は、二日に一度くらいの割りでメールをくれる。廊下とかで会ったら、短い立ち話くらはいするようになった。
 もちろん、今や親友となった鈴木由香とはしょっちゅう。

 演劇部は、最初十五人いたのが八人にまで減ってしまった。残念ながら、その脱落組に由香も入っていた。
「うち魚屋やさかい夕方忙しいよって家のことはあたしがせなあかんねん。お姉ちゃんおるけど忙しい人やし……ごめんな。はるか」
 昼休みの中庭のベンチで、食後のフライドポテト(食堂の特製。百二十円)をホチクリ食べる手を休めて、由香がポツンと言った。
「いいよ、そんなこと。わたしだっていつまで続くか分かんないし(ほんとは、ほとんど首まで漬かりかけていたんだけど)クラブ違ったって親友は親友だよ」
「おお、わが心の友よ!」
 由香は、ジャイアンのようなことを言って抱きついてきた。
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・6

2019-05-23 06:34:06 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・6


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 暗転、フクロウの声などして、夜の森のバス停が浮かび上がる。花道を、スマホで喋りながら赤ずきんがやってくる。

赤ずきん: ごめん、今日はそういうわけで遅くなる、行けないかもしれない。
 どうしてもつきとめておきたいの、だから婆ちゃんごめんね(切る) 
 何よ、てっきり白雪さんを連れてもどってくると思ったのに、もどってきたのは、いつもどおり王子一匹! 
 白雪さんはどうしたの? あの眉間によせたシワはなんなのよ!? 
 聞いてもちっとも教えてくんないし、ヨンチョのおっさんもあてになんないし……白雪さーん……白雪さーん……と、
 ここにも姿が見えない。
 棺は空だったし、きっと森の中にいるはず、小人さんたちのところにいるはずもないし心配だなあ……白雪さーん!

 花道に、腕をつり、杖をつきながら、傷だらけの白雪があらわれる

白雪: 赤ずきんちゃーん……。
赤ずきん: あ、白雪さん……どうしたのその怪我!?(白雪をたすけ、舞台へもどる)何があったの、誰に何をされたの!?
白雪: (泣くばかり)
赤ずきん: 泣いてちゃわからないよ。とにかく大丈夫だからね、わたしがついているから。
 スマホもあるし、いざとなったらお婆ちゃんもオオカミさんもいるからね。ね、どうしたの?
白雪: あの、あのね、ドラゴンがあらわれてね……。
 まだ夕陽が沈みきっていないのにあらわれて、ようやく動けるようになり始めたわたしを襲ったの。
 今日は側にあった棒きれで追い払ったけれど……明日は殺されてしまうわ……(泣く)
赤ずきん: 大丈夫、わたしがついているから、ドラゴンだろうが何だろうが、指一本触れさせやしないんだから……。
白雪: ありがとう……今はあなただけが頼り……小人さんたちにもあんな姿は見せられない。
 心配して、怒ってドラゴンに立ち向かうでしょうけど、とても小人さんたちの手に負えるしろものじゃない。
 逆に返り討ちにあって全滅させられてしまうわ。
赤ずきん: 大丈夫、今夜はおばあちゃんの家に匿ってもらうわ……今朝、お城に忍び込んで、王子さまと話をしたのよ。
白雪: え、お城まで行ってくれたの?
赤ずきん: 言ったじゃない、まかしといてって。水泳とロッククライミングは、白雪さんだけの専売特許じゃないのよ。
白雪: 赤ずきんちゃんもやるんだ……。
赤ずきん: あたりまえよ、友だちじゃないか! 王子さまは真面目な人だったよ。ただ真面目すぎて……。
白雪: 真面目すぎて……?
赤ずきん: 口づけをして救けてあげることはやさしいけども、その後、白雪さんを幸福にできないって。
白雪: どういうこと、他に好きな人でも……。
赤ずきん: そんなのいないよ。あの人も白雪さんのことが大好きだって!
白雪: だったら
赤ずきん: 王子さまは、去年お兄さんを亡くしたの。
 それで王位第一承継者の皇太子になってしまって、今そのための勉強と訓練が大変なんだって……。
白雪: それはわかるわ、わたしも違う王家とはいえ王族の一人。
 皇太子とそれ以下の並の王子とは、その自由さが天と地ほどに違う……。
 だけど、それを考えても、この仕打ちと言ってもいいおふるまいは理解できない。
 たとえ王子さまがどんなにお忙しく、お辛くても、それを分かち合ってこその夫婦……。
 いえ、まだ口づけも誓言も交わしあっていないから夫婦とは言えないけども。
 将来を許しあった恋人としては当然の覚悟、そうでしょ。
赤ずきん: そうだよ、それを、朝の一番鶏が時を告げる前からお城に忍び込み,
 宿直の二人を薬で眠らせて、王子さまが目覚めると同時に説得したわ。
 病めるときも貧しきときにも互いに助けあい、王子さまが帝王学を学ばれ、懸命の努力をなさっている間、
 きっと喜んで我慢も努力もされるはず。
 たとえ何日も顔を会わせなくても、たとえ夜遅く帰ってベットにバタンキューでも、
 きっと白雪さんは耐えて王子さまを支えてくれるはず。
 そう懸命にお伝えしたら、そこは賢明な王子さま、女王さまに朝の御あいさつに行かれるころには、
 ジュピターのように雄々しく……とまではいかないけども……ちゃんと白雪さん救出を神聖な使命とお考えになるようになったわ。
 わたしを近習の一人として森の入口まで、他の御家来習といっしょの供をするようにお命じになったくらいよ。
白雪: 信じられないわ……今朝の王子さまは、いつにも増して、険しい御表情でひざまづいて、
 わたしの顔をいとおしそうにご覧になって、何やらつぶやかれるばかり。
 棺の蓋を開けようともなさらずに立ち去ってしまわれた。
 ごめんなさい……一瞬ではあるけれども、あなたの約束を疑りもした。
 でも、やはり一日や二日の説得ではあの方の心を動かすことはできないのだと、あきらめ……。
 いえ、気長に待つことにしたの……でも、あのドラゴンののさばりよう……気長に待つうちに、
 日干しのミイラになる前に骨にされてしまいそう……。
赤ずきん: しっ! 伏せて、何か邪悪なものが……
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・040『明石焼きが冷めるまで』

2019-05-23 06:15:00 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・040  
『明石焼きが冷めるまで』





 世の中には白黒をつけてはいけないものがある。

 X国の核兵器開発。先代か先々代のアメリカ大統領が白黒をつけていれば日本に核ミサイルが飛んでくることは無かった。
 アメリカは世界の警察官ではないと白黒をつけてしまったためにC国は南シナ海を自分の海のようにしてしまったし、R国は19世紀的な南進政策にためらいを見せなくなった。
 婦人の婦の字を廃止してしまったために『看護師』という性別不明の呼び方になった。以前は看護婦で通った表現は女性看護師という言葉にしても文章にしても無機質でリズムを崩す言葉になってしまった。歴史用語としての『婦人参政権』や『婦人解放運動』が言いにくくなった。そのくせ『主婦』は健在で外国人でなくても言葉の使いように困ることになった。
 パンダの白黒をはっきりさせてしまえば、ただの黒熊か白熊になってしまって、パンダの存在価値は無くなってしまう。

 プハハハ

 そこまで自問して艦長は吹き出してしまった。

「どうかされましたか?」
 メグミ一曹が掃除機の手を停めた。
「いや、すまない思い出し笑いだ」
 掃除の邪魔をしてはいけないのでキャビンを出た。

 井上多聞補給長はアイドル清美を生み出したのは自分だと思い込んでいる。

 五番砲塔脇デッキで自分と清美が話していたところと清美が事業服を残して消えてしまったところを目撃してしまったのだ。
 あのとき手摺の鎖がチャリンと鳴って、そのあとの後姿で補給長の心が分かってしまった。
 アイドル清美が現実化したことに狼狽えているが、心の底では――自分の力は凄い!――とムズ痒くなるような喜びも感じている。
 実際のところ、あの清美は時空の狭間からこぼれ出てきたパラレルワールドの住人だ。補給長の想いとは無関係なのだ。
 バーチャル3Dの清美なら、システムというかゲームを作った砲雷長があんなに照れるはずもない。

 食堂の前を通ると、あちこちのテーブルで非番の乗員たちがアイドルゲームに興じている声がした。

 士官食堂に向かうつもりだったが、活気に誘われて足を向けた。

「おや、新メニューですか」
「明石焼きにしてみました。試してみます?」
 航海長の勧めにのってみた。
「なるほど、出汁に浸けると別物だ」
 たこ焼き一つで、これだけのバリエーションをこなす航海長に脱帽だ。
「兵員食堂だから、幹部はあっちのパーテーションでお願いしますね」
 やかましく区分することもないだろうが、幹部がいっしょでは羽も伸ばせないだろうと艦長は指示に従った。
「お、君もか」

 パーテーションの中には先客が居た。

「ハハ、ゲームの反応をみてるんですわ」
 砲雷長の手元にはアナログなメモ帳が開いている。
「コンピューターの専門家がメモ帳かい?」
「手書きは雰囲気や気分が出ますかられ、あとで読み直すのにはいいんれすよ。あ、しばらく冷ました方がいいれすよ」
 明石焼きを口に運ぼうとしていた艦長に忠告した。
「熱々の出汁に浸かってるんれドライのやつよりも二度ほど温度が高いれす」
「ありがとう、僕も『で』が発音しにくくなるところだった」
 アハハと笑った砲雷長の舌の先は赤くなっていた。

 コップの水を一口あおると砲雷長は真顔になった。

「ツクヨミといいアイドル清美といい、この土星軌道は時空的にかなり不安定になっているように思います」
「それはボクも思っている、もう少し土星軌道に留まって確かめてみようと思う」
 砲雷長はアナログでは無い方のメモ帳を出して電源を入れた。
「航海科のデータをもらってアマテラス(カワチのメインCP)に解析させていたんです……」
 砲雷長がスクロールすると膨大な情報が流れていく、そこから一つの類推ができた。しかし、艦長は容易には口を開かない。
 砲雷長は辛抱強く艦長の言葉を待った。
「分かった、行動を起こすべきなんだな」

 明石焼きは程良さを通り越して温くなってしまった……。
 
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・6《アナスタシア・2》

2019-05-23 06:06:01 | 時かける少女
時かける少女 BETA・6
《アナスタシア・2》   
      


「冬の宮殿は嫌い」

 アナスタシアは日に何度か口にするようになった。「なにをおっしゃいます」と古参侍女のベラなどに言われて、初めて自分がそんなことを言ったのに気付く。近頃では「またでございますか」と言われるようになった。
 事実アナスタシアは冬の宮殿は好きではなかった。夏の宮殿は淡い水色の壁面で、内装や什器も「夏」にふさわしく、まるでチャイコフスキーのポルカを聞いているように軽やかな気分になれたが、冬の宮殿はワーグナーのように重苦しく、壁の濃い赤茶色も、船の喫水線の下のように重苦しく。感受性の鋭いアナは、近づいてくる革命の血のように思えた。
 今まで、こんなにはっきりと口に出して言うことはなかった。

 事実、アリサが家庭教師に来てくれてからは、毎日がときめくことばかりだ。

「へー、パナマ運河って、そんなに落差があるの!?」
「はい、最大で26メートル。この冬の宮殿の倍ほど……世界中の人間の格差ほどではありませんけど。それを閘門によって段差を水平にしてゆっくりと船を進めていきます」
 アリサは本物みたいにきれいに色塗りした写真や図面で説明してくれた。
「アリサは通ったことがあるの?」
「はい、日本で一番のオチャッピーでございますから」
「おませな小娘って意味ね?」
「日本語もお上手になられましたね。特に力を入れてお教えしたわけでもありませんのに」
「フフ、あたしって語学の天才かもね!」

 事実、アナの語学に対する興味と才能はずば抜けていた。しかし、わずか3カ月で数か国語をスラングもろともマスターするほど人間離れはしていない。アリサ=ミナがアナの昼寝の間に直接前頭葉と側頭葉に働きかけるからである。今ではロンドンの下町言葉から、モスクワの貧民街の言葉までマスターしている。これは、これからアナが体験し、自ら乗り越えていかなければならない運命に必要な最低の要件だから。

「ねえ、こないだ、こっそり見に行ったモスクワ芸術座さ」
「ああ、かもめ?」
「それは一つ前よ」
「あ、桜の園ですね?」
「そう、抒情的で味わいはあるけど、わたしは、あれは基本的に喜劇だと思うの。原作も読んでみたけど、ちゃんと4幕の喜劇だって作者もトビラのところで書いてるわ」
「ま、スタニスラフスキーさんの良心的な誤解ですね。何年……何十年かしたら、文字通り喜劇で演じられるでしょう」
「わたし、アーニャって子が好きなの。時代遅れだけど憎めないお母さんのことを思いながら目はちゃんと前を向いている。わたしも愛称アーニャのままにしとけばよかった。いま、わたしのことをアーニャって呼ぶのはおばあ様ぐらいのものだもの」
「どうして、アナって呼ばせるようになさったの?」
「うーん、なんとなく。将来そんな名前の女主人公のストーリーが生まれそうな気がするの」

 アリサはアナを見直す気持ちだった。100年もすると『アナと雪の女王』が生まれる。思わずブルーレイで、このアカデミー賞のアニメを観せてやりたい衝動にかられたが、彼女には準備をさせなければならない。来るべき運命から助け出し、そして目的を果たすために。

「わたしは正式なアナスタシアが好きです」
「どうして?」
「もともとはギリシア語で『再生するもの』という意味だから。再生こそ、あなたにはふさわしいわ」
「そう、わたしは再生するのよ。20世紀の若者として……ハハ、なんだかお芝居の台詞みたいね」
「人生は壮大なお芝居。わたしはアナが、その主役になれるように……」
「人生の主役か……なりたいなあ」

 アナは、無意識に感じている、自分の運命と役割を。アリサはミナの心で、そう読み取った。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・13』

2019-05-23 05:56:56 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・13


『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ3』

「……しばらく様子を見ます」

 と、ビタースマイルで応える。

「よっしゃ、正直でええ」
 ツルリと顔をなでる。元のコンニャク顔。
「え?」
「こんなときに、景気のええ返事する奴は長続きせんもんや」
「ども……でも、どうして真田山なんですか? 他の学校もあるだろうし、なにか因縁でもあるんですか?」
 先生の先回りしたような答えについ意地の悪い質問をしてしまう。飛んでいった鳩がもうもどってきた。
「乙女先生とは、三十年近い腐れ縁でな。あの先生、なんで乙女てなガラにもあわん名前ついとるか分かるか?」
「そりゃ、生まれたときには親の想いもあるでしょうし」
「あの人は六人姉妹の末っ子やねん。生まれたときにお父さんが、また女か言うてウンザリしはってな。それで、もうこれでヤンペいう意味で〈トメ〉いう名前にしはった」
「ハハ……すみません」
「ハハハ、せやけど、いっちゃん上のお姉ちゃんが、あんまりや言うて泣くよって〈お〉を付けて、めでたく乙女にならはった」
「そうなんだ、うるわしいお話ですね」
「それがな……五年前にお父さんが亡くならはって、お母さんも二年前から具合悪うなってきてしもてな。そないなると、あんまりや言うて泣いたお姉ちゃんも含めて姉妹だれもお母さんの面倒見いひん。で、お母さんの介護に手ぇ取られて、とてもクラブの面倒まではみられへん」
「それで……」
「と、いう訳や」
 先生はまた石ころを蹴った。今度は鳩は逃げもしなかった。
「はるか、今東光(こんとうこう。いまひがしひかる、じゃないよ)て知ってるか?」
「ああ、この街に住んでたんですよね、一冊だけ『お吟さま』読みました。天台宗のお坊さんだったんですよね」
 この街に引っ越すと決まって、少しでもトッカカリが欲しくて、土地の有名人を捜した。天童よしみとジミー大西と今東光がひっかかり、作家の今東光を読んだ……といってもネットであらすじ読んだだけだけど、一冊と見栄を張る。わたしも最初は「いまひがし」だと思っていた。

 五分後、わたしたちは今東光が住んでいた「天台院」というお寺の前に来た。拍子抜けがするほど小さなお寺。こんなとこにかの文豪はいたのか……。

「本物の出発点というのは、こんなもんや。瀬戸内寂聴知ってるやろ」
「はい、たまに読みます。主にエッセーのたぐいだけど、去年ダイジェスト版の『源氏』を読みました」
 と、また見栄をはる。
「中味はほとんど忘れちゃいましたけど」
「読書感想言うてみい」
「だから忘れましたって」
「カスみたいなことでもええから言うてみい」
「うーん……やたらと尼さんができるお話」
 ヤケクソでそう答えた。
「ハハ、それでええ。寂聴さんの名前つけたんが東光のおっさんや。自分の春聴いうカイラシイ法名から一字とってなあ」
「へえ、そうなんだ! わたし、寂聴さんの〈和顔施=わがんせ〉って言葉好きなんです」
「ああ、あの、いっつもニコニコしてたらええ言う、金も手間もいらん施しのこっちゃな」
   

 身も蓋もない……。

「ひとつ聞いていいですか?」 
「なに?」
「きのう、プレゼンの部屋に入ったとき、わたしたちだけに……」
「ああ、あのスポットライト」
「と、ファンファーレ」
「はるかの顔、入ってくる前に窓から見えとったから」
「は?」
「和顔施の顔してたつもりやろ?」
「え、ま、ホンワカと……」
「そやけど、目ぇは〈ホンマカ?〉やった。好奇心と不安の入り交じった」
「だれでもそうなるでしょ、あの状況じゃ」
「いいや、あんな見事なアンバランスは、スポット当てならもったいない……ほら、今のその顔!」
 先生は、かたわらの散髪屋さんのウィンドウを指さした。
 ウインドウを通して、店の中の鏡には……はんぱなホンワカ顔が映っていた。
 お店のオヤジさんと。顔の下半分を泡だらけにしたお客さんが、振り返って不思議そうに、私たちを見た。
 わたしは、お愛想笑いを。先生は、店のオヤジさんに片手をあげて挨拶。どうやら先生おなじみの散髪屋さんであるらしい。
「あ、あの……高安山の上にある目玉オヤジみたいなのはなんですか?」
「ああ、そのまんま目玉オヤジや」
「え、まんま……」
「市制何十周年かの記念に建てた、目玉オヤジの像や。朝夕あれにお願いしたら、願い事が叶うというジンクスがある。知り合いがあれに願掛けして宝くじにあたりよった」
「へえ、そうなんだ!」
「はるか、家に帰ったら、今日の出来事メモにしとけ。情緒的やのうて、物理的に。なにを見て、なにを聞いたか、なにに触ったか。『踊る大捜査線』にでも出るつもりで」
「なんのためですか?」
「それは後のお楽しみ。それから、目玉オヤジの願掛け効くさかいに試してみぃ」
「はい……」
 返事をすると、先生はやにわにわたしに指切りをさせ、横断歩道の向こうに行ってしまった。

 その時、踏切の音がして、意外に駅の近くまでもどっていることに気づいた。


 
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・5

2019-05-22 08:06:53 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・5


 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 
 ヨンチョが衣裳を持ってあらわれる

ヨンチョ: 御衣裳をお持ちいたしました。
王子: ごくろう。

 以下着替えをしながら、ヨンチョが慣れた手つきで介添えする。

赤ずきん: 愛しているならやってごらんなさいよ!
王子: シー! 話はそこまでだ。
ヨンチョ: わたしのことならお気づかいなく。
 小鳥のさえずりは聞こえても、殿下の大事なお話は耳に入らなくなっております。
 それが近習と申すもの。しかし、いざという時はお役に立ちますぞ。
 申すではありませんか、遠くの親類よりも、近習の他人とか、ウフフ……。
二人: ズコ(ずっこける)
王子: ギャグは言う前に申告するように。おまえのダジャレは心の準備がいる。
ヨンチョ: ……。
赤ずきん: そんなに落ち込まなくても……。
ヨンチョ: 深刻になっております……わかります? 申告と、深刻……アハハ(二人、よろめく)
王子: いいかげんにしろ(着けかけた剣で、ポコンとする)
ヨンチョ: 僭越ながら、森へのお通いは、殿下にとって大事大切な御日課と存じます。
 殿下が森におられる間、森の入口で邪魔の入らぬよう、しっかと目を配っております。心おきなく御考案の上、そろそろ御決断を……
赤ずきん: 王子さま……。
王子: うん?
赤ずきん: 王子さまは、自分のことばかり気にかけているわ。
王子: どういうことだ?
赤ずきん: 愛しあっているならフィフティーフィフティー、白雪さんにも、変化と努力を求めなければ。
 そう、王子さまが懸命の努力をなさっているなら、きっと喜んで、我慢もし、努力もするはずよ。
 夫婦というものはいつもそう、病める時も貧しき時も互いに助けあい……結婚式で神父さまもそうおっしゃるじゃない。
 彼女は、その苦労をきっと進んで受け入れると思うわ。
王子: ……そうだろうか?
赤ずきん: そうよ。王子さまが期せずして、ファミリーカーからレースカーへの変貌をとげざるを得ないのなら、
 チャンピオンにおなりなさい! キング・オブ・ザ・レーサーに! そして白雪さんは……。
ヨンチョ: レースクイーンに! よろしゅうございますぞ。ハイレグのコマネチルックに網タイツ、
 大きなパラソルを疲れたレーサーにそっと差しかけて、ひとときのくつろぎを与える……。
王子: レースクイーンか……。
赤ずきん: もう! 変な方向に期待を膨らませないでください! ヨンチョさんも! 
 白雪さんは、見かけ華やかなレースクイーンよりも、ピットクルーのチーフをこそ望むでしょう。
 レース途中で疲れはててピットインした王子さまを、クルー達を指揮し、みずからも油まみれになり、
 限られた時間の中で、タイヤやオイルを交換し、ガソリンを注入し、チューニングをして、再びレースに復帰させる。
 白雪さんは、その立場をこそ望み、見事にこなしていくと信じます。
 美しい人形のような妃としてではなく、油まみれの仲間として彼女を愛してやってください……王子さま。
王子: 仲間としてか……ありがとう赤ずきん、迷った山道で道しるべを見つけたように気持ちが軽くなった。
 よし! このこと、この喜びを決心とともに母上に申し上げ、その足で森へ急ぐぞ。二人とも、それまでに馬の用意を……!
ヨンチョ: 馬は何頭用意すればよろしゅうございますか?
王子: おまえの名前ほどに……(いったん去る)
ヨンチョ: 俺の名前ほどに……どういう意味だ?
赤ずきん: ばかだね。ヨンチョだから四丁、つまり四頭という意味でしょ。
 王子さまとヨンチョさんとわたしの分……そして白雪さんの分!
ヨンチョ: なるほど、おめえ頭いいな!
赤ずきん: グリムの童話で主役を張ろうってお嬢ちゃんよ、頭の回転がちがうわよ。

 王子が再びもどってくる。

王子: すまん、馬の数は、おまえの兄の名前の数ほどに修正だ!
ヨンチョ: と、申しますと?
王子: わたしは姫と同じ馬に乗る。鞍もそのように工夫しておけ、では……(緊張して額の汗をぬぐう)
 まず母上から口説かねば……(去る)
ヨンチョ: 女王さまは難物だからな……しかし同じ馬に肌ふれあい互いのぬくもりを感じあいながら……。
 これはやっぱりレースクイーンだべ。

 王子再々度もどってきている。

王子: バカ、変な想像をするな(ゴツン)
ヨンチョ: あいた!
王子: 今度こそ行くぞ、母上のもとへ……!

 王子上手袖へ、ヨンチョがそれに続くとファンファーレの吹奏、ドアの開く音。

ヨンチョ: 皇太子殿下が朝の御あいさつにまいられました!
女王: (声のみ、ドスがきいている)おはいり……モラトリアム……
王子: (うわずった声で)お、お早うございます母上……

 ヨンチョをともない上手袖へ、ドアの閉じる音。

赤ずきん: 王子さま、がんばって……!(手にした王子のガウンを抱きしめている)
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・039『井上多聞補給長の心配り』

2019-05-22 06:46:32 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・039 
 『井上多聞補給長の心配り』



 わざわざありがとうございます。

 後部艦橋当直士官が礼を言う。

「いえ、装備品の補給は速やかでなくてはいけませんから」
「本来なら、こちらから受領しに行くのがすじですのに、恐縮です」
 持ち場の備品や消耗品の補給は、持ち場担当士官が補給科に申し送り、申し出た部署の者が受領することになっている。
 しかし、井上多聞補給長は科業に差し障りが無い限り自分で持っていく。
 迅速な補給が出来るだけではなく、自ら足を運ぶことによって科業中の他の部署を見ることもできるし、タイムリーに科業明けの乗員が居ればコミニケーションをとることもできる。

 新任教師であったあころに先輩から叩きこまれたスキルなのだ。

「補給長のバーチャルアイドルは一筋なんですね」
 当直を終えた士官が親し気に話題を振ってくる。
 ラッタルを下りて五番ハッチから艦内に入る僅かな間だが、自然に話しかけられることが嬉しい。
「お恥ずかしい、いい歳をしてキヨミストなもんですから(n*´ω`*n)」
「その絵文字が入っているような話され方もいいです。あ、話をすれば、あそこに……」
 語尾をしりすぼみにし、士官は一層したのデッキを指さした。
 五番砲塔の横で艦長と清美船務長が語らっている。
「艦長には悪いですが、いい親子に見えますね。むろん艦長も素敵ですけど、さすがは元アイドル、事業服を着ていても、とてもチャーミングです」
「そうですね……」

 答えながら補給長は違うと思った。事業服を着ているが、あれは自分がエディットしたバーチャルアイドル清美だと直感した。
 船務長に、あのフェアリーオーラはない。
「邪魔しちゃ悪いですから四番ハッチから行きましょう」
「そうですね」
 士官に習って反対舷のタラップを目指す、バインダーを置き忘れたのに気が付いた。
「あ、バインダーを置いて来てしまった。取りに戻ります」
「じゃ、わたしはここで」
 ラッタルの上と下で別れると、再び五番砲塔が目に入る。

 え……!?

 思わず立ち止まった。
 艦長が五番ハッチの方を向いた瞬間にアイドル清美の姿が搔き消えてしまったのだ。
 あとには事業服の抜け殻だけが残って、気づいた艦長が手にするところだ。
 なんだか艦長が抜け殻を愛しんでいるように思えて胸の奥に暗い焔(ほむら)が立ち上る。

 コミニケーションツールだと気楽に作ったが、とんでもないものをエディットしたのでは……。

 急いで後部艦橋に向かった、心ならずも手摺の鎖をチャリンと揺らしてしまったことには気づかなかった。
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高校ライトノベル・時かける少女 BETA・5《アナスタシア・1》

2019-05-22 06:38:01 | 時かける少女
時かける少女 BETA・5
《アナスタシア・1》      

                       

 ミナはコビナタから一枚のとても古い写真を見せられた。二秒で解析し任務を理解してミナはリープした。

「殿下、皇后陛下がお呼びです」
 古参侍女のベラがいつもの不機嫌顔をいっそう不機嫌にして呼びに来た。
――また叱られるのか――
 そう思ってため息ついてアナ(アナスタシア)は聖書を閉じた。聖書は表紙だけで、中身はベラにも見せられない小説である。
「殿下、お召し替え願います」
「え、お母様に会うのに?」

 通されたのは、思った通り母アレクサンドラの居室ではなかった。母が私的ではあるが謁見に使っている百合の間だった。

「あら、着替えてきたの?」
 アナが、準正装であるローブを着ていたので、母の皇后は少し驚いた。
「ベラが、これを着なさいって。それに、ここは百合の間でしょ」
「会わせたい人がいるの。居間にしたかったんだけど、お相手がご身分をはばかられるんで、百合の間にしたのよ」
「平民の方?」
「いいえ、ちゃんと爵位をお持ち。ロシアのそれではないけど」
「外国の方?」
「半分正解。エレーナ、お連れして。アナは、そこに掛けて」
 皇后は侍女のエレーナに命ずると、フロアーに置かれた椅子を示した。
 五分ほどすると、エレーナが客を連れてきた。驚いたことに若い女性であった。それも立派なフランス語(ロシア宮廷は日常フランス語)を話すロシア貴族にしか見えなかった。

「アナースタシア殿下、ご機嫌麗しゅう。わたくし日本のアリサ大黒男爵でございます。本日は皇后陛下のお召しによって参内いたしました」
「え……」
 アナは疑問符でいっぱいだった。

 どうみてもスラブ人(それも、かなり高貴な)の若い女性としか見えない。それが日本人だと名乗り、ロシアでは男子にしか与えられない爵位まで持っている。そして威厳と可愛らしさが同居したような落ち着きと好奇心が店番しているような瞳に、瞬間で大変な興味をもってしまった。
「ホホ、案の定好奇心でいっぱいになってしまったようね。アリサさん、大変でしょうが、わたくしに説明したことと、わたしがお願いしたことを、アナに話してやっていただけませんこと」
「うけたまわりました。言葉を少しフランクにさせていただいてもよろしゅうございますでしょうか」
「ええ、どうぞ。アナの言葉遣いもたいがいですから、思う存分に」

 アリサは、アナの向かいではなくテーブルを囲む4脚のうちのアナの隣に腰を下ろした。

「わたしの母はロシア人です。外見は母の血を濃く受け継ぎましたので見かけはこんなですが、中身は100%日本人です。男爵の爵位は、昨年父が亡くなりました後、女の身でありながらゴネ通して授爵いたしました。だって大黒家にはわたし以外に子がいませんでしたから。日本では女性の地位向上運動とジャガイモの品種改良に命をかけております……」
 アナは、ここで吹き出してしまった。さっきとは打って変わった調子の良さと、女性の地位向上運動とジャガイモの不釣合いな対比が面白かった。なるほど、この女性なら多少法律を捻じ曲げてでも、男爵になるだろう。
「で、あなたが品種改良したら男爵イモになるんでしょうね」
「御明察。川田龍吉男爵と競争しましたけど、わたしのジャガイモの方が一か月早く収穫ができました。ま、どちらが成功いたしましても『男爵イモ』の名称には変わりがありませんので、特許申請は川田男爵に譲りました」
「え、女性の地位向上運動をしておきながら、男に譲ったの?」
「深慮遠謀です。この先の運動のために恩を売っておいたのです。情けは人の為ならずです。ロシアには寒冷地での建築と農作物の研究にまいりました。ところが、正直申し上げて、今のロシアでは気楽に農作物の研究などできません。そこで、モスクワ大学のコノスキー先生にロシアの寒冷地での研究についてつきまとわっていました」
「ホホ、それが、あまりしつこいのでコノスキー先生が、わたしに愚痴をこぼしてね」
「それで、エカテリーナ宮殿まで?」
「はい、わたしも皇后さまや、アナスタシア殿下には興味がありましたから!」
「それが、ミイラ取りがミイラになってしまったのよね」
「アハハハ」

 アレクサンドラ皇后とアリサが同時に笑った。

「というわけで、今日から、わたしアリサ大黒男爵は殿下の家庭教師です!」

 ミナのアリサは前線に赴く新品少尉のように宣言したのだった。

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