筑波 松島 陸奥
「このカワチを合わせると、みんな不慮の爆発で爆沈した戦艦ですね」
松島は1908年、遠洋航海の帰途立ち寄った台湾で、陸奥は1943年柱島沖で爆沈している。
他に戦艦三笠なども爆沈しているが、後に浮揚せられて戦列に復帰している。
河内を始めとする四隻は、いわば無念の爆沈である。
そのいずれもが、質量を持たない幻とは言えカワチと同じ進路を目指しているのは暗示的だ。
「四隻とも同じ役目を担っているのかもしれないね」
サクラは返事の代わりに三隻が通過していった五番砲塔の上空に向かって合掌した。
艦長も、それに習いながら思った。
これも時空の歪の為せる技なんだ、パラレルワールドでは爆沈した艦が蘇り、同じ任務を帯びて航海に乗り出したんだ。
まだ太陽系に不安は残るが宇宙の果て、もう一つの地球、もう一つの大阪を目指して旅立つときだろう。
慎重かつ大胆であれというのが小林艦長のモットーであるが、今こそ大胆になる時であろう……艦長は科長全員に招集をかけカワチを土星軌道から発進させようと決心した。
「サクラ君」
呼びかけに応えは無かった。
すぐ横で合掌していたサクラの姿が無かった。
そして、微妙に違和感を感じる、同じカワチなのにどこかが違う……。
艦長
呼ばれた気がして再び振り返ると、艦尾方向にアイドル清美がステージ衣装で立っていた。
たったいま舞台の真ん中でスポットライトを浴びた瞬間のようにキラキラしている。もともと屈託のない明るい笑顔の似合う清美だが、この笑顔は震えがくるようだ。艦長は不覚にもときめきを覚えた。
「清美くん……」
震えた声が恥ずかしかったが、清美はなにも応えなかった。
「え……」
閃きが吐息になって、それが吹きかかったように清美のステージ衣装はハラハラと落ちて、裸になった……。
バタン
笑顔のまま清美はうつ伏せに倒れた。
清美の後ろ半分は巨大なバーナーで一瞬に焼かれたように赤黒くただれていた。
「ム、これは……」
肉の焼ける臭いにむせながら艦長は理解した。
アイドル清美は背後で核ミサイルが爆発した直後に時空を吹き飛ばされカワチのデッキに出現したんだ。
もう猶予は無い!
思った瞬間目に映る全てのものが二重にダブり始めた。
「時空に裂け目が出来る!」
艦長は自販機のボタンを押したときのような直感でズレ始めた片方のデッキにまろび出た。
うつ伏せの清美を乗せたデッキは急速に遠くなり、かわってサクラの心配顔が滲み出てきた。
「大丈夫ですか、艦長!」
「艦橋に指示、前進強速! 土星軌道離脱!」
カワチは左舷に傾ぎつつ土星軌道を離脱していった。