大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・045『もう猶予は無い!』

2019-05-28 07:04:29 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・045
『もう猶予は無い!』



 それから二隻の戦艦が現れては消えていった。

 筑波 松島 陸奥

「このカワチを合わせると、みんな不慮の爆発で爆沈した戦艦ですね」

 松島は1908年、遠洋航海の帰途立ち寄った台湾で、陸奥は1943年柱島沖で爆沈している。
 他に戦艦三笠なども爆沈しているが、後に浮揚せられて戦列に復帰している。
 河内を始めとする四隻は、いわば無念の爆沈である。
 そのいずれもが、質量を持たない幻とは言えカワチと同じ進路を目指しているのは暗示的だ。
「四隻とも同じ役目を担っているのかもしれないね」
 サクラは返事の代わりに三隻が通過していった五番砲塔の上空に向かって合掌した。

 艦長も、それに習いながら思った。

 これも時空の歪の為せる技なんだ、パラレルワールドでは爆沈した艦が蘇り、同じ任務を帯びて航海に乗り出したんだ。
 まだ太陽系に不安は残るが宇宙の果て、もう一つの地球、もう一つの大阪を目指して旅立つときだろう。
 慎重かつ大胆であれというのが小林艦長のモットーであるが、今こそ大胆になる時であろう……艦長は科長全員に招集をかけカワチを土星軌道から発進させようと決心した。

「サクラ君」

 呼びかけに応えは無かった。
 すぐ横で合掌していたサクラの姿が無かった。
 そして、微妙に違和感を感じる、同じカワチなのにどこかが違う……。

 艦長

 呼ばれた気がして再び振り返ると、艦尾方向にアイドル清美がステージ衣装で立っていた。
 たったいま舞台の真ん中でスポットライトを浴びた瞬間のようにキラキラしている。もともと屈託のない明るい笑顔の似合う清美だが、この笑顔は震えがくるようだ。艦長は不覚にもときめきを覚えた。
「清美くん……」
 震えた声が恥ずかしかったが、清美はなにも応えなかった。
「え……」
 閃きが吐息になって、それが吹きかかったように清美のステージ衣装はハラハラと落ちて、裸になった……。

 バタン

 笑顔のまま清美はうつ伏せに倒れた。
 清美の後ろ半分は巨大なバーナーで一瞬に焼かれたように赤黒くただれていた。
「ム、これは……」
 肉の焼ける臭いにむせながら艦長は理解した。

 アイドル清美は背後で核ミサイルが爆発した直後に時空を吹き飛ばされカワチのデッキに出現したんだ。

 もう猶予は無い!

 思った瞬間目に映る全てのものが二重にダブり始めた。
「時空に裂け目が出来る!」

 艦長は自販機のボタンを押したときのような直感でズレ始めた片方のデッキにまろび出た。
 うつ伏せの清美を乗せたデッキは急速に遠くなり、かわってサクラの心配顔が滲み出てきた。
「大丈夫ですか、艦長!」
「艦橋に指示、前進強速! 土星軌道離脱!」

 カワチは左舷に傾ぎつつ土星軌道を離脱していった。
  
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・11《アナスタシア・7》

2019-05-28 06:55:52 | 時かける少女
時かける少女BETA・11  
《アナスタシア・7》                     


 
 
「大事なお話があります」

 アリサが迫水大使と艦長に声を掛けたのは、スエズ運河間近のアレキサンドリアで補給し終えた後だった。

「冨紗は、わたしの妹ではありません。ニコライ二世の第四皇女のアナースタシア殿下なのです」
「なんだって……!?」
 さすがは大使と艦長である。表情を変えずに驚いた。
「騒乱のどさくさに、アナースタシア殿下お一人を助け出すのが精一杯でした。皇帝のお血筋は革命政府によって断たれるでしょう。あのお方一人が唯一の皇位継承者になられます」
「分かった。日本には暗号電を打つ。ロシアの皇位継承者に相応しいお迎えをしなければならない。しかし……」
「お迎えの船と出会えるのはシンガポールあたりでしょう。それまでは三人だけの秘密ということで……」
「本艦の乗組員は信用のおける者たちばかりだが、どうしても態度に出てしまう。補給中に同盟国とはいえイギリスにも知られるわけにはいかないからな」

 アナは、有紗の妹冨紗として艦内では可愛がられていた。持前の明るさ人懐こさに加えアリサの教育や大使館でのひと月余りが、アナをさらに成長させたことが大きい。

 榊は、機関に故障があるということで、急きょ日本に帰るということにし、スエズ運河をゆっくりとインド洋に向かって進んだ。

「スエズ運河って穏やかね……」
 砂漠に落ちる夕日に目を細めながらアナが呟いた。
「運河の両岸はイギリス軍が守っているの。穏やかな平和は力の裏付けがなければ守れないもの。その力は敬愛されることによって発揮できるのよ」
「国民と王室……ロシアは、その両方を失った」
 アナは敏い娘である、反乱軍や不平市民、共産党らによって軟禁されている家族の行く末は覚悟しているようだった。
 アリサ……いやミナは不憫だった。ミナは、その気になれば皇帝一家全員の救助もできる。でも、それをやれば古い帝政を延命させることにしかならない。アナが軸になって作られるのは血の巡りのいい立憲君主国でなければならない。当たり前の家族なら全員を助ける。ロマノフの血を継いだ者として、アナは一人生きていかなければならない。
「いつだったか、パナマ運河の話をしてくれたじゃない」
「そんなこともありましたね」
「パナマ運河は、26メートルの高低差を閘門でコントロールして、太平洋と大西洋を結んでいるんでしょ。世の中にも高低差があるわ。その高低差を超えて人と人を結びつける……そんな国にロシアがなればいいのに……」

 インド洋に入ってからの航海は順調だった。

 インド洋から南シナ海まではイギリスとフランスの植民地、どこの港で補給しても、この小さな駆逐艦には身に過ぎる歓待ぶりだった。一時はアナのことが漏れているのではといぶかったアリサだったが、それは半分当たって半分外れていた。日本の駆逐艦には駐露大使の中に可愛い女性が乗っているという評判だった。ロシア人と日本人の混血で、女ながら男爵の爵位を持ち……そこまでは良かった。その妹がとても素晴らしいという評判が人を呼んだのだった。

「まあ、どーでもいいけどね!」アリサはぼやいた。

 予想通りシンガポールで日本の迎えの船が待っていた。なんと日本で竣工5年にしかならない最新鋭艦・戦艦摂津が二隻の巡洋艦を従え満艦飾で待ち構えていた。
「これは、もう公表せずばなりませんなあ」
 迫水大使はため息をついた。アナは、髪の色も瞳の色も元に戻し、大仰なローブを着て摂津に乗り換えた。
「さあ、今度は大日本帝国に飲み込まれないようにやっていかなきゃ」

 アリサは、褌を締めなおして……女なのに褌は変だな。と思いつつ気を引き締めたのだった。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・18』

2019-05-28 06:45:59 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・18


『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ 7』
 

 その帰り道、地下鉄の駅を素通りして南に向かって歩き出していた。

「ごめん、地下鉄乗りそびれちゃった……」
「ええやん、これ堺筋やさかい、ほっといても日本橋に着くさかい」
「日本橋まで歩くの?」
「くたびれたら、どこかで地下鉄に乗ったらええやん」
「そうだね……」
「それから、ニホンバシと違て、ニッポンバシ」
「ウフフ、だったよね」

 大阪の地名はムズイんだよね。都島と書いてトシマじゃなくて、ミヤコジマ。放出(はなてん)杭全(くまた)なんて、もうお手上げ。

「でも、はるかが東京帰らへんて分かって安心した」
「……でも、由香って鋭いかもよ」
「え……?」
「東京への未練は、近所の八幡さまにお賽銭といっしょに納めてきちゃった」
 短くスキップして、一歩由香の前に出る。
「お賽銭?」
「うん、ピッカピカの百円玉にしてね……でも一個だけどうしても残ってんの」
「なに……?」
 由香の怯えたような視線を背中に感じる。自分が、とてもケナゲな子に思えてくる。
「なんやのん?」
「ごめん……言ってしまったら、手からこぼれてしまいそうで、ごめんね」
「ううん、かめへんよ。はるかが大阪に居てくれることは、はっきりしたんやさかい! 今は、それだけでええよ」
「うん。言える時がきたら言うわね、由香にだけは……」
「ありがとぅ!」
 スキップで、由香は、わたしの横に並んだ。
 しばらく二人で歌いながら歩いた。カラオケみたく元気に、AKB48、スマップ、ももクロなどなど。大阪に来て、こんなに歌うのは初めてだ。
 帰宅途中のOLさんたちが拍手をしてくれた。
 いつもだったら、こんなこと恥ずかしくて、とてもできない。だけど、この時は平気ってか、とても自然だった。
「あ、すごい!」
 ハイテンション由香の横顔越しにすごいバラ園が見えてきた。

 わたしたちは、中之島まで来てしまった。そして目の下に広がるバラ園!

 二人は子犬のようにバラ園に突撃した!
「わあ、すごいバラだ! バラばたけ! バラだらけ!」
「でました、はるかのおやじギャグ!」
「違うよ、韻をふんだのよ韻を!」
 わたしたちは、子どものように(もう子どもじゃないんだよ! ってときもあるけど、使い分けます。この年代の特権)はしゃぎまくり!
「ねえ、知ってる、黄色のバラは友情を表してんねんよ。赤は情熱。白はえーと清純、純潔。ハハ、これはうちらに向いてないなあ」
「由香、魚屋さんなのに花に詳しいのね!?」
「うちの向かいが花屋さん」
「なんだ、そうか。でも大したものよ」
「あたしが、それともバラが?」
「言わぬが花ってね」
「なんや、その京都のオバハンみたいなあいまいさは。江戸っ子やったら、はっきりせえよ!」
「両方よ、両方」
「また、そんなあやふやな。黄色いバラに賭けて誓いなさいよ!」
「由香って、おっかなーい!」
「アハハ……ねえ、由香。青いバラってないの? 青空みたいに青いの」
「バラに青はあれへんよ。花言葉はあるけど」
「なんての、青いバラの花言葉は?」

「不可能」

「不可能……」
 急速にバラたちが色あせていくような気がした……。


 
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・11

2019-05-28 06:30:50 | 戯曲
連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・11

 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)


 白雪、その場で半歩進み、目を閉じ、王子の口づけを待つ姿勢をとる。

王子: 白雪姫……(白雪を両手で抱きしめ、口づけの一歩手前までいく)しかし、今のわたしは汗くさい……。
三人: ガクッ……。
白雪: 何を汗くささなど、お気にしすぎです。それこそ殿方の雄々しさのしるし、その軽い塩味こそが男の値打ちと申すもの。
赤ずきん: がんばれ、塩味王子!
王子: エヘン、オホン……。
ヨンチョ: 勝負どころでございますぞ、殿下!
王子: ケホン、では……。
白雪: どうぞ!

 再度いどむ王子! しかし一センチの壁を越えられない……。

王子: だめだ……わたしという男は!
白雪: 王子さまあァ……。
ヨンチョ: 殿下ァ……(わが事のように身悶える)
赤ずきん: こんなオクテ見たことないよ……。
王子: (顔を被って)すまん……泣きたいくらい自分が情けないよ。
白雪: 泣きたいのは、わたくしの方でございます。
ヨンチョ: ここで口づけなさいませんと、姫は朝にはまた仮死状態におなりになるのですぞ……!
赤ずきん: わかった、最後の手段!
王子: 何か他の方法が……。
白雪: あるの!?
赤ずきん: 二人とも、例の一万人のお母さんの心のエッセンスの薬、幸福のポーションを飲んだでしょう?
 効き目は半分ほどしかないみたいだけど……握手をしてごらんなさい。
 ほら、二人とも愛しあっているから……握手と言っただけで、外分泌腺を刺激して汗ばんできたでしょ。
 口づけのかわりになるかもしれない……。
王子: 握手ぐらいなら……。
白雪: 少しもの足りないけど……。
王子: では、姫、失礼します!
白雪: どおぞっ!!

 握手する二人、赤ずきんはポンプの仕掛けにかかる。

赤ずきん: 誓いの言葉を……黙っていちゃあ何の握手だかわかんないでしょ!
王子: なんと言えば……。
ヨンチョ: じれってええええええええええ!!
赤ずきん: 「愛しています」でいいわよ
王子: ……(息を吸う)
白雪: 愛しています、神の御名にかけて、そしてわが命にかけて……愛していますっ!!
王子: うん……あ、愛しています、神の御名と、この名誉と……。
白雪: この方々の友情にかけて、愛していますっ!

 この誓いの言葉の途中から、白雪のおなかが膨らみはじめる
 (白雪のスカートの中に風船が仕込んであり、白雪の背後で赤ずきんが懸命にポンプを押している。工夫は様々)

白雪: あ……ああ、なんということ!?
ヨンチョ: おお、なんという神の御技!
白雪: ああ、おなかが、おなかの中に赤ちゃんが……。
赤ずきん: この薬、オクテのおじいちゃんを口説かせる時に使ったって言ってたけど、
 ほんとうに、効き目があったんだ!(白々しい。赤ずきんはかなりの役者である)
王子: これは、早く医者を産婆を……誰がサンバを踊れと言った(ヨンチョをはり倒す)
 そうか、人まかせではいかんのだな、赤ずきん?
赤ずきん: そうよ、自分で、自分の愛する者のために行動をおこして!
王子: わかった、わたし自身、城下まで走り医者と産婆を連れてこよう、ヨンチョ、赤ずきん、それまで姫を頼んだぞ!
ヨンチョ: アイアイサー!
赤ずきん: まかしといてー!
白雪: がんばってね、あなた……。

 間

赤ずきん: けなげねえ……少しかわいそうな気もするけど……。
ヨンチョ: ああやって大人になっていかれるんだモラトリアム王子は……。
白雪: もういいかしら……。
赤ずきん: いいわよ、もう峠のむこうまで行っちゃったから。

 白雪、手にしていたピンで、おなかを一刺しする、ボンと音がして、おなかの風船が割れる。

白雪: なにか騙したようで気がひける。
赤ずきん: 念のためと思ったことが役にたったんだからいいじゃない。
ヨンチョ: 儂も事前に話を聞いていなかったら、ぶったまげて怒ったかも知れねえだども、これでいいよ。
 さっきの戦闘指揮もなかなか立派なもんでがした。お子様の方は、男と女いっしょに暮らしていれば、どうにかなるもんだで。
赤ずきん: おじいちゃんの時はうまくいったんだけどね。
ヨンチョ: 何十年もたってるんだで仕方のないことさ。
 なんせ敵の攻撃をやわらげ、傷もやわらげ、オクテの男もやわらげようって欲ばった薬だもんなあ、
 その分効き目が早く抜けても仕方ねえ。
白雪: 王子さまには想像妊娠だったって言えばいいのね?
赤ずきん: でも、これでもう朝がきても仮死状態にもどらないはずだよ……気がとがめる?
白雪: ……。
赤ずきん: 王子さまの手を握ったとき、心が通じたような気がしたでしょ?
白雪: うん……シャイで恥ずかしがり屋で、普段は思ってることの半分も言えず、
 やりたいことの十分の一もできない……その分良くも悪くも思い込みが強く……これと思うことにはまっすぐで……。
赤ずきん: まっすぐ白雪さんを愛している。
白雪: 手を握って王子さまと目があったとき、一瞬本当に赤ちゃんが……ウッ(口をおさえて、えずきはじめる)
 こ、これって……ウッ
赤ずきん: 効いたんだ! そうか、つわりだよ白雪さん! 
 白雪さんも傷を治すためにゆうべ 飲んだから、飲んだもの同志手を握って汗を通して効き目が〇.五かける二で一に、
 元の効き目が出てきたんだ!
ヨンチョ: ほ、ほんとけ!?
赤ずきん: きっとそうだよ。
白雪: 嬉しい……けど苦しい……ウッ……。
赤ずきん: がんばりな白雪さん。
白雪: うん……がんばる……。
ヨンチョ: 儂は何を?
赤ずきん: 婆ちゃんとオオカミさんに知らせてきて。
ヨンチョ: アイアイ……。
赤ずきん: ごめん、それよりも、王子さまを手伝って二人で、お医者様と産婆さんを背負って……。
ヨンチョ: アイアイ……。
赤ずきん: でも、やっぱりお婆ちゃんに……いえやっぱり王子さま……やっぱ婆ちゃん……
 がんばって白雪さんん……やっぱ王子……やっぱ……。

 白雪がえずきはじめた頃からハッピーエンドを思わせるテーマFI 
 ここで一気にFUして、キャストと出られるだけの黒子、スタッフが出てきてフィナーレの歌とダンスになり……幕 


 ※ 本作は無料上演である限り作者名「大橋むつお」を記していただければ自由に上演していただいてけっこうです。上演許可も取らなくてかまいません。チラシやパンフレット、中高生の場合はコンクール等で連盟に提出する書類等に作者名「大橋むつお」を明記してください。
 大幅な脚色、たとえば、登場人物が増えるとか減るとか性別が変わるとか、劇中のエピソードや台詞が変わる時は脚色者を記していただければ幸いです。


 2024年4月 大橋むつお
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高校ライトノベル・せやさかい・020『頼子さん効果』

2019-05-27 14:02:23 | ノベル
かい・020
『頼子さん効果』  

 

 

 天変地異の前触れかもしれへんなあ……

 

 そう呟くと、テイ兄ちゃんはグビグビと麦茶を飲み干しにかかった。

 喉ぼとけがグビラグビラと動いて、なんか別の生き物みたいや。

 テイ兄ちゃんはビールのジョッキに麦茶を入れて飲む。その方が、喉の渇きが収まるらしい。ペットボトルの口では飲んだ気がせえへんのやとか。最初はアホかいなと思たけど、昨日今日の暑さでは、むべなるかなという感じ。

 お坊さんというのは案外きつい仕事や。

 この異常気象の五月。外は三十度を超える気候やのに、真っ黒の衣着て檀家参り。

 お寺と言うのは休日が無い。というか、土日の方が忙しい傾向がある。

 檀家さんはおおむね普通の仕事してはるから、月参りや法事のお参りは土日を指定しはることが多い。

 それで、土日は、お祖父ちゃん、伯父さん、テイ兄ちゃんの三人がフル稼働。それに突発のお葬式なんかが入ってくると、もうてんてこ舞い。

「それでも、うちはマシやねんで」

 お祖父ちゃんが寿司屋みたいな大きい湯呑で熱いお茶をチビチビやってる。

「そうなん?」

「ああ、親子三代で坊主やってられんのは幸せなこっちゃ。中には、住職が八十超えてんのに後継ぎがおらんいうとこもあるさかいなあ」

「住職が亡くなったら、どうなるのん?」

「おしまいや。坊主せんかったら、寺を出ならあかん。で、寺は近所のお寺が住職を兼務して、檀家さんには迷惑がかからんようにする」

 なるほどなあ……と思いながら、うちのお寺は絶対そうならんという余裕があるから言えるんやろなあと思う。

 お寺と言うのは税金が掛かれへん。お布施は非課税やし、何百坪いう土地を持っててもお寺と言うだけで固定資産税も都市計画税もかかれへん。

「花ちゃんも、得度うけとくか?」

「あたしが!?」

「資格持っといたら喰いッパグレないでえ」

 お分かりやと思うんですが、得度いうのは本山に行って坊主の資格を得ること。浄土真宗いうのは女の坊主も多いと噂には聞いた。けど、自分が坊主……まだ墨染の衣を身にまとう気にはなりません。

「諦一、まだ行ってなかったんか?」

 とっくに午後の部に出たと思たテイ兄ちゃんが、リビングのソファーにドサッと音をさせてへたってしもた。

「あ、ちょっとシンドなってきて……」

 見ると、テイ兄ちゃんの顔が、なんや赤い。手足もしびれが来てる感じや。

「諦一、昼から五件も残ってるんやろ、わしも三件あるから代わりにはいかれへんぞ」

「だいじょうぶや、お祖父ちゃん。ちょっと横になったらいくさかい」

 お祖父ちゃんも、困った顔になる。伯父さんは名古屋の檀家さんに行ってるさかい、ほんまに交代要員はおらへん。

「せや、元気の出るもん見せたる!」

 スマホを出して、頼子さんの画像を呼び出す。

「ほら、頼子さん見て元気だし!」

「おお、頼子ちゃん!」

 お寺の落語界で頼子さんを見かけてから、テイ兄ちゃんは頼子さんのファンや。

 現金なもんというか、ある面可愛げというか、頼子さんの写真で、ほんまに元気を取り戻し、檀家まわりにでかける。

「さくら、その写真、オレのスマホに送ってくれ!」

「それはあかん」

 無断で人に送るのはでけへん。

「ほんなら、しゃあない。効き目切れたら、すぐに見られるように檀家参りについてこい!」

「えーーー!?」

 というわけで、日曜の午後はテイ兄ちゃんと檀家参りに出かけたのでした。

 

 頼子さんは、月曜の夕方には修学旅行から帰ってきます。

 うう、それにしても、なんでこんなに暑いんやあ……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・10

2019-05-27 06:43:14 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・10


 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



ヨンチョ: これは……。
赤ずきん: これがドラゴンの正体……。
王子 :マンガ……CDにゲームソフト……。
赤ずきん: みんな童話の世界の敵……。
王子: 敵にしてしまったんだ……。
二人: ……?
王子: これらは、みな童話の世界から、別れ、自立し、育っていった者たちだ……。
 それが異常繁殖し、ドラゴンとなって、この世界を食いつぶしかけていたんだ。
ヨンチョ: とんでもねえ野郎共だ(踏みつける)
王子: よせヨンチョ……ドラゴンに変化(へんげ)したとは言え、もとはわが同胞、兄弟も同然、後ほど、塚をつくり丁重に葬ってやろう。
赤ずきん: 王子さま……。
王子: おお、こんなに怪我をして……二人ともよくふんばってくれた。
赤ずきん: 王子さまこそお怪我は?
王子: 大丈夫、みな軽いかすり傷だ……。
ヨンチョ: おう、あれに……!

 花道に白雪があらわれる、怪我は意外にも治りかけていて、額や頬にバンソーコウを残す程度に回復しかけている。

白雪: 王子さまーっ! 赤ずきんちゃーん! それに……。
ヨンチョ: 王子さま第一の家来にして近習頭のヨンチョ・パンサと申します。
白雪: こんにちはヨンチョさん、そしてありがとう。
 みなさんの御奮闘ぶりは、その丘の木陰から見せていただきました。
 三度目のドラゴンの突撃の時など思わず目をふせてしまいましたが、御立派にお果たしになられたのですね。
赤ずきん:駄目じゃないか、ちゃんとお婆ちゃんの家に籠っていなくちゃ。
白雪: ごめんなさい、赤ずきんちゃんの話を聞いて、矢も盾もたまらず。
 それに夜になって体が自由になると、思いの他傷も……ゆうべお婆ちゃんにいただいた薬が効いたみたい、幸福のポーション。
赤ずきん: でも、それ古い薬だから、効き目は半分だね、まだ、体のあちこちが痛いでしょ?
王子: お体はしっかりといたわらねば。
白雪: それはこちらが申す言葉ですわ。三人とも、こんなに傷だらけになられて。
赤ずきん: 白雪さん……。
白雪: 御心配ありがとう、でも、もう大丈夫。
 こんな痛み、薬の力で半分に、そしてこの喜びと感謝の気持ちでさらに半分に減ったわ。
 今までは仮死状態の心の目でしか王子さまを見ることができなかったけど、
 やっとこうして、フルカラー、スリーDのお姿として拝見して……バーチャルじゃない、本当の王子さまなのね。
赤ずきん: きまってるじゃないか。百パーセント混じりっ気なしの王子さまだよ。
ヨンチョ: 戦闘で、ちょいと薄汚れっちまってらっしゃいますがね、
 なあに一風呂あびて磨き直せば、この百五十パーセントくらいにはルックスもおもどりになります。
白雪: いいえ、このままでも、わたしには十分凛々しく雄々しくていらっしゃいます。
 これ以上磨かれては、そのまぶしさに目が開けていられなくなります。
王子: 姫……。
白雪: 王子さま……。
赤ずきん: 行け! 白雪さん!
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・044『五番砲塔の幻想』

2019-05-27 06:22:34 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・044
『五番砲塔の幻想』




 ラッタルを上がり切ったところで気が付いた。

「すまん、艦コーヒーを買ってくるよ」
「それならわたしが行って……」

 従兵というよりは副官のようなサクラが気を回す。
「ハハ、これは私の辻占でね、自分でやらなきゃ意味が無いんだ」
 サクラをデッキに残して艦長は上がったばかりのラッタルを下りて行く。
「よし、今日はまだ当たりは出ていないようだな」
 
 艦内の四か所に設置された自販機は日に一回当たりが出る。
 当たりになると、もう一本がタダで出てくる。街中では珍しくもない自販機だが、単調な艦内生活では潤いをもたらす遊びになる。
 先日までは当たりが出たかどうかは分からなかったが、機関科が調整してくれて当たりが出たものはランプが灯るようになった。
 それが灯っていないので、シメタと思う艦長である。

 ちちんぷいぷい~(*^▽^*)

 子どものようなノリでボタンを押す!
 ガタンと音がして艦コーヒーが出てくるが当たりにはならない。
「よし、もう一本」
 ガタンと音がしてもう一本。

 パンパカパ~ン🎶

 電子音のエフェクトがして、全てのボタンが当たりを寿いで点滅する。
「今日はついてる」
 艦長は迷わずに微糖のボタンを押した。
 艦長は、こういう選択の局面では迷わない。艦長という職種からではなく持って生まれた性分だ。
 判断力決断力が求められる指揮官としては求められる資質なのだろうが、日常生活では、ちょっと面白みに欠けるかもしれない。
 娘の友子に敬遠されるのも、こういうところに……苦笑いしてラッタルを上がるとサクラの姿が見えない。

 艦長こちらです。

 声は五番砲塔の向こうから聞こえた。
「やあ、そっちに居たのか」
「すみません、不思議なものが見えたものですから」
「不思議なもの?」
「はい、ほんの数秒ですが筑波が並走していました」
「筑波……巡洋戦艦筑波かい?」
「質量を検知できませんでしたので実体は無いと思われますが、形は筑波そのものでした」

 筑波とは、河内と同じ1917年、横須賀で爆沈した旧日本海軍の巡洋戦艦である……。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・10《アナスタシア・6》

2019-05-27 06:14:54 | 時かける少女
時かける少女BETA・10
《アナスタシア・6》       
 
 
         


 平和な時代ならオーストリア、ドイツを抜けてフランスに入る。

 しかし、今は第一次世界大戦の真っ最中。列車は支線に入り、クリミアを目指した。革命騒ぎでクリミアは混乱していたが、日本大使の一行なので、なんとか港に呼び寄せていた日本海軍地中海派遣艦隊の駆逐艦榊(さかき)に乗ることが出来た。

「このあたりは連合軍が握ったばかりで、まだ100%安全とは言えません。皆さん方も万一の覚悟はなさってください」
「我々も救けてもらうだけでは心苦しい、役に立つことならなんなりと」
 艦長の言葉に迫水大使は元気よく答えた。
「小さい駆逐艦ですので、船酔いなさらないように。それだけで十分です」
「それでは気が引ける。私は退役してはいるが海軍大佐だ、随員の中にも5人ほど海軍出身者がいる。ロートルだが哨戒任務ぐらいはこなせる」
「それは心強いです。なんせ駆逐艦なものですから、途中何度も補給しなければなりません。補給中は艦を停止させますので、Uボートにもっとも狙われやすいのです。その時に海上の見張りをしていただければ助かります。ところで、そのお二人のご婦人は?」
「自己紹介します。わたくし大黒有紗と申します、こちら妹の富紗です。ロシア公女の家庭教師をやっていましたが、革命騒ぎで大使に助けていただきましたの」
「ああ、あの女男爵の。お噂はかねがね……」
「ハハ、日本人には見えないというお顔ね。あたしたち母がロシア人なもので見かけはこんなですけど、中身は大和撫子、それも巴御前か山之内一豊の妻を足したぐらいの力はありましてよ」
「それは、失礼いたしました。お二人にとって、この榊、出来うる限り良き海の馬にならせていただきます」

 艦長が慇懃に挨拶するとアリサは返礼するとともに、コルトを取り出し海に目がけて二発撃った。

「な、なにを……!?」
「あそこをご覧になって」
 アリサが指差した海面に二匹のクロマグロが腹を上に浮き上がってきた。
「あれだけあれば、乗組員のみなさんにお刺身たらふく行き渡りますでしょ」
「アリサ、凄い!」
 アナが口笛吹いて感心した。
「で、オサシミって何?」
 ブリッジの一同がずっこけた。で、その夜の夕食は、船の烹炊所で烹炊員と一緒になって、100人分の握りずしと刺身を作った。
「お魚、生で食べるのぉ……?」
 アナは嫌がったが「日本人なら、だれでも食べる」とアリサが言う。
「もう、あたしのこと話してもいいんじゃないの?」
「まだ、ここはクリミアの港。安心はできないの……そうそう、お醤油をちょっとつけてネタを下にして一口で食べる」
「ウ……美味い……けど、オオ!」
「ごめん、ワサビ効かせすぎちゃった」

 無事にボスポラス海峡とダーダネルス海峡を超えたところで、イギリスの補給艦から補給を受けた。乗組員も大使館員も海上警戒にあたった。
 アリサは、もう30分も前からUボートに気づいていた。なんといっても本性は義体のミナである。百年後の対潜哨戒機並みの探知能力がある。
「兵曹さん、これが12サンチ砲ですか」
「そうです、この弾で撃つんです」
 そう言って兵曹は12サンチ砲弾を持ち上げて見せた。
「これが尾栓ね……」
 易々と尾栓をあけると、砲身の中を覗いた。
「うわー、きれいな筋が何本も螺旋に走ってる!」
「それはライフルと言います。それで弾に回転を与え直進させます」
 アリサは説明を聞きながら砲の照準を決めた。
「九時方向に敵潜、距離800!」
 アリサの叫び声はデッキ中に響いた。
「兵曹、弾を装填。照準ママ、てーっ!」
 アリサが砲術長の声で言ったので、兵曹は条件反射で行動し、潜望鏡深度まで浮上していたUボートを一撃で撃沈した。

「うわー、兵曹さんてかっこいい!」
「いや、それほどでも……」

「今度やるときには、あたしにもやらせてね!」
 オチャッピーのアナが、完全に公女であることを忘れて言った。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・17』

2019-05-27 06:03:57 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
 真田山学院高校演劇部物語・17


『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ7』

 明くる日は木曜日。

 で、部活は休み。由香を誘って、志忠屋へ。
 かねてタキさんが「友だちできたら連れといでぇ」と言ってくれていたから。

 もちろん例のアイドルタイム。
 タキさんは、マカナイのパスタを出してくれた。もち毛糸の手袋の方。でもホワイトソースの中の具は、ランチの食材の残りがあれこれと入っていてとても賑やか。
「あ、モンゴイカ使てはるんですね」
 由香がフォークに突き刺してしみじみと言った。
「よう分かったなぁ」
 タキさんが、仕込みを終えて、原稿用紙を取り出しながら言った。
「あたし、黒門市場の魚屋の子ぉですねん」
 由香は、黒門に力を入れて答えた。
「黒門やったら、儲かってるやろ」
「ボチボチですわ」
 おお、大阪の伝統的ごあいさつ!
「歯ごたえと、甘さのあるイカですねぇ。刺身とか天ぷらが多いねんけど、パスタにも使うんや」
「うん、皮むくのんえらいけどな。美味いしボリュ-ム感があるよってなあ」
 それから、魚介類の話に花が咲いた。モンゴイカがカミナリイカのことであることがその話の途中で分かった。
「ああ、やっと終わった」
 奥でなにをいじけてんのかと思っていたら、お母さんはそのモンゴイカの皮むきにいそしんでいたようだ。
 それから、タキさんは、女子高生二人を相手に最近の映画が、3Dやら、CGのこけおどしになってきたこと、意外なB級映画に見所があることなどを論じ始めた。
 由香は「ええ!」「うそぉ!」「そうなんや!?」「ギョエ!」などを連発して感心した。
 わたしは、タキさんが、そうやって原稿の構想をまとめているのが分かって、おかしかった。お母さんも原稿を打ちながら、肩で笑っていた。
 タキさんにしろ、大橋先生にしろ、大阪のオジサンの話は面白い。

 ひとしきり語り終えると「ゆっくりしていきや」と声をかけて、タキさんはお母さんとカウンターに並んで、原稿用紙を相手にし始めた。
 由香とわたしは、窓ぎわのテーブル席に。
 カウンターではカシャカシャとシャカシャカ。テーブル席ではペチャクチャとアハハが続いた。

 コップの氷がコトリと音をたてて、まるでそれが合図だったように由香が切り出した。

「はるか、あんた東京に戻りたいんとちゃう?」
 お母さんのパソコンの音が一瞬途切れた。
 わたしは完ぺきな平静を装った。
「どうして?」
「え……ああ、あたしの気ぃのせえ。はるかと居ったら、いっつも楽しいよって、楽しいことていつか終わりがくるやんか。お正月とか、クリスマスとか、夏休みとか冬休みとか……」
「アハハ、わたしって年中行事といっしょなの?」
「ちゃうちゃう。せやから、あたしの気のせえやねんてば。演劇部も楽しかったけど、行かれへんようになってしもたさかい。ちょっと考えすぎてんねん」
「うん、ちょっとネガティブだよ」
 その時ケータイの着メロ。名前を確認して、すぐにマナーモードにした。
「ひょっとして、吉川先輩から?」
「え、どうして!?」
「ちょっと評判になってるよ。時々廊下とか中庭とかで恋人みたいに話してるて」
 由香は声を潜めて言った。
 逆効果だってば! お母さんパソコンの画面スクロ-ルするふりして聞き耳ずきんになっちゃったし、タキさんなんかモロにやついてタバコに火を点けだしちゃうし。
「ただの知り合いってか、メルトモの一人だわよさ。タロちゃん先輩とか、タマちゃん先輩みたく。話ったって、立ち話。由香の百分の一も話なんかしてないよ」

 ああ……ますます逆効果。お母さんのスクロ-ルは完全に止まってしまった。
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・9

2019-05-26 06:32:25 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・9


 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)

 
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください

赤ずきん: そんなもんじゃないよ、ちょっとくせがあるけどね(苦しそうに飲む)
王子: なあにハナクソでさえなければ……(飲む。とりつくろってはいるが気持ち悪そう)なあに大したことは……ない。
ヨンチョ: おつな味だねえ……で、本当は何なんだい?
赤ずきん: 聞かない方がいい……。
ヨンチョ: そう言われると余計知りたくなる。
赤ずきん: 青い狼のミミクソ!
二人: ゲッ?!
赤ずきん: 吐いちゃだめ! あーもどしちゃった。(王子はかろうじてこらえる)
ヨンチョ: おまえが言うから……。
赤ずきん: ヨンチョのおじさんが聞くから……
王子: シッ! 来るぞ……。
赤ずきん: ほんとだ……。
ヨンチョ: え、どこに……?
王子: 来た!
ヨンチョ: え?……ワッ!

 ドラゴンの降下音。一瞬目玉を思わせる光が走る、王子と赤ずきんは左右の藪に、素早く身を隠す。
 ヨンチョだけボンヤリ立っていてふっとばされる。脱げ落ちたヘルメットを拾いつつ……。


ヨンチョ: すまん、あのミミクソまだあるか?
赤ずきん: 今度は吐いちゃだめだよ……。
ヨンチョ: ありがとう(あわてて飲む)
王子: 今のはほんの小手調べ、上空を旋回しながら様子を見ている……。
ヨンチョ: 今度は儂にもわかる……。
赤ずきん: 王子さま。
王子 :心配しなくても、貴重な弾を無駄に使ったりはしない。
 降りてきたところを二三度ぶちのめしてから、とどめに……。
赤ずきん: 違うの。王子さまには、もう一つ薬を飲んでもらいたいんです。
王子: 今度は何のクソだ?
赤ずきん: 違いますよ。お婆ちゃんからもらってきた幸福の薬、敵の打撃を弱める力があります。はい、このポーション!
王子: ヨーグルトみたいな味だなあ……。
赤ずきん: 天使たちが世界中の母親の愛情を一万人分集めて作ったエッセンスだそうです。
王子: そうか、一万人分の母性愛に守られるわけだなあ。
赤ずきん: 王子さまは、この国でただ一人の王位継承者、大事にしていただかねば。
ヨンチョ: 来るぞ!

 戦闘のBGMカットイン、飛翔音、降下音、光が走る。
 三人それぞれに剣をふるい、ドラゴンに当たるたびに金属音がする。
 二三合渡りあうと、ドラゴンは再び上空へ、藪へころがりこむ三人(戦闘を歌とダンスで表現してもいい)
 赤ずきんは頬を、ヨンチョは腕に打撃を受ける。


王子: 大丈夫か?!
赤ずきん: ホッペを少し(頬横一線に出血)
ヨンチョ: 右腕を少し、大丈夫でさあ……かえって燃えてきましたぜ!
王子: 気をつけろ、今度は奴も気がたっている……来たぞ!

 再び前に増す飛翔音、降下音、光が走る。
 激闘。ヨンチョ、赤ずきんは何度かころび、ヘルメットはとび、王子の服にも血しぶきが飛ぶ。
 前回にも増して激しい打撃の金属音。
 赤ずきんなど、藪までふき飛び、袖もちぎれ、胸から腕にかけて血しぶきをあび「大丈夫か!?」と王子の声。
 瞬間の気絶のあと、渾身の力をこめて、ドラゴンに斬りかかる(前の台詞を間奏にして、歌とダンスの処理でもよい)


赤ずきん: オリャー!

 ザクッと金属に切り込む音がして、王子が鉄砲を放つ。意外に重々しい「ドキューン」という腹に響く音。
 「キュー」っという悲鳴を残し、また上空へ逃げ去るドラゴン


赤ずきん: やった?!
ヨンチョ: ……いいや、傷は負わせたが急所は外したようだ……。
王子: そのようだなあ……二人とも大丈夫か?
ヨンチョ: まだまだ。
赤ずきん: 大丈夫よ。

 と言いながら二人とも、あちこち服は破れ、血しぶきをあび、あまり大丈夫そうではない
 (これらの傷、血しぶきは藪に忍ばせた黒子による。歌とダンスの処理なら省略)


ヨンチョ: 弾はあと二発です。
王子: わかっている。今度こそしとめてやる!(銃を、目標にあわせつつかまえる)
赤ずきん: 来る……!
ヨンチョ: 来るぞ……!
王子: わたしにまかせろ!!

 戦闘のBGM、カットアウト。
 腰を据え、今や水平からの攻撃の体制に入ったドラゴンにピタリと照準をあわせる王子。
 剣を構えながらも、動物的勘で身をよじり、王子にその瞬間を譲る二人。
 ドラゴンは王子一人を目指し渾身の力でいどみかかってくる。二発連続で発砲する王子。断末魔のドラゴンの叫び。
 この一連の運動はスローモーションでおこなわれる。
 わずかに間を置いて通常のモーションにもどると、ドラゴンの突撃してきた、ほとんど水平に近い方向から、
 大量のマンガ、マンガ雑誌、CD、ゲームソフトなどが、空中分解したミサイルの部品のようにとびこんでくる
 (CD等は実物を使うと危険なので、銀紙を貼ったボール紙などの代用品が良いと思われる。
 または、音と演技だけで表現してもいい)
 
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・043『サーバーがパンクした!』

2019-05-26 06:19:46 | ノベル2
高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・043
『サーバーがパンクした!』




 えーうっそー! なによこれ! バグったー!

 乗組員の憩いの場、兵員食堂で!マーク付きの声が上がった。

「わたしのミナミがへんてこ!」
「なんで、あんたのサワチンになってるわけー!」
「ちょ、わたしのトモチン、アフロになってる!」
「アリコが演歌唄ってるよー!」

 カワチ艦内で流行っているカスタムアイドルが変なことになっているのだ。

「ね、あそこにいる……」
「そだね」
 ひとりが目配せすると、みんなパーテーションの向こうにいる砲雷長のところに殺到した。
 兵員食堂では遠慮してパーテーションの陰で食事をする幹部が多いのだ。
「説明するから、席に着きなさい!」
 砲雷長は手のひらをハタハタさせて、みんなを落ち着かせた。

「あのね、遊んでくれるのは嬉しいんだけども、みんなカスタムに盛り過ぎなんだよ」

「えー、だって個性化個性化って言ってるのは艦長とか砲雷長じゃないですかー」
「元々個性化の応援ツールだったじゃありませんか『カスタムアイドル』はー」
「そうだ!」
「そうです!」
「デフォです!」
「鉄板どぅえーす!」
「だからって、アイドルの五代前までのご先祖設定したり、日にち単位の生活とか友だちの設定とか、マージャンゲーとか野球チームとか、住んでる街をシムシティーやA列車なみにカスタムしたんじゃサーバーが持たないよ。本来は声とか姿かたちしかいじれないゲームなんだからさ」
「でも、ここまでやったんだから、もっと発展させたいですしー」
「このゲームやめたら、あたしたち元の画一化されたアンドロイドにもどっちゃいますよー」
「とにかく、他の子のカスタム被ったりしないようにできませんかー」
「いっそ、アマテラス(カワチのメインCP)に繋げないんですかー」

 個性化が進んだとはいえ語尾にカーカー付けるのが流行っているのはいただけない。

「わかったわかった、善処するから明日まで待ってくれえー!」
 カワチの乗員は全てガイノイド(女性型アンドロイド)だ、没個性的なアンドロイドであったころは平気だったが、個性化が進んで人間ぽくなってくると、砲雷長の神経はリアル女性を相手にしているように落ち着かなくなる。這う這うの体で食堂を後にした。

「ハハ、このカワチが置かれている状況と同じだな」

 艦長は腹を抱えて笑った。
「あの子らの作っているのは、もうパラレルワールドです。アマテラスに介入してもらわないとサーバーがダウンしてしまいます」
「よかろう、ぼくは承知したよ。アマテラスと相談してくれたまえ」
「了解しました」
 敬礼ひとつして、砲雷長は艦長室を出て行った。
「でも、驚きました」
 テーブルを片付けながらサクラが続ける。
「このごろ仮想乗員を作って、ゲームをやらせてるんですよ、本来300人の乗員が『カスタムアイドル』の中じゃ数千人に膨らんでるんですよ」
「まあ、それも乗員のみんなが活性化している表れだと思うんだけどね」
「でも艦長」
 来月のメニューを考えていた航海長が顔を上げた。
「カワチを取り巻く宇宙はパラレルワールドが絡み始めてます、急いだほうがいいですね」

 パラレルワールドの宇宙戦艦が現れたりパルスミサイルが越境してきたりしている。放置していては手遅れになってしまう。

 艦長の眉間にしわが寄っているのに気付いて、航海長はパッと笑顔に切り替えた。

「ちょっと外の空気吸いにいきませんか」

 航海長の気配りに笑顔を取り戻して、艦長は小さく頷いた。
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高校ライトノベル・時かける少女BETA・9《アナスタシア・5》

2019-05-26 06:10:44 | 時かける少女
時かける少女BETA・9
《アナスタシア・5》                  


 
 日本大使館の炊き出し……カップラーメンの配布は好評だった。

 アリサの部屋は二十一世紀初めのN食品の倉庫と時空を超えて繋がっている。一日に100箱かすめてくる。一日と言っても、向こうの世界の話で、一日で一年分持ってきても、日に100箱に変わりはない。これくらいなら毎日工場見学にくる小中学生にふるまっている数の中に紛れて分からない。三日で三年分をペトログラードの市民に配った。10万箱330万食ほどになる。おかげで、史実では三日間しかもたなかったペトログラードは、まだ平穏を保っている。
 三日目にアナは心配になった。
「あの身代わりのお人形じゃ、わたしが居なくなっていることに気づかれているんじゃないかしら?」
「ご心配なく。日に二度はあたしがアナに化けて宮殿に戻っています。あのベラでさえ気づいていません。それより、日本の伝統料理のお稽古いたしましょうか?」
「そうね、あのカップ麺は伝統料理ではないでしょうから」
 そう、毎日がカップ麺では人間は一か月ほどで飽きてしまう。そうのんびりもしていられないがアナの気持ちも引きつけておかなければならない。
「ご飯の炊き方から伝授しましょう」

 大使館のキッチンで、ご飯を炊き始めた。

「お米は、このようにとぎます……洗うんじゃありません。水を少し入れて……こう手をまわしながら、最後はギュッと抑え込むように……それを三回やったら手の甲まで水を入れます。はい、そうしたら火にかけて、始めチョロチョロ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るなです」

 ご飯を炊くと、おにぎりの作り方、さらに焼きおにぎりの作り方へと進んでいった。味噌を塗って焼くと長持ちすることも教えた。最初はご飯の炊きあがる臭いが鼻に着いたアナだったが、醤油や味噌を塗った焼きおにぎりは気に入ったようだ。
 続いて、アリサはかす汁と肉じゃがの作り方を教えた。これもアナのお気に入りになった。

「この肉じゃがは、元々はイギリスのビーフシチューなんです。東郷提督がイギリスに留学したときにレシピを持ち帰り、日本風にアレンジしたものなんです」
「え、あのバルチック艦隊を打ち負かした!?」
「嫌かしら?」
「いいえ、あの方は広瀬中佐とセットで尊敬してます。かす汁もなかなかいけるわね」
「これは、日本酒の搾りかすでできています。後日日本酒の作り方も教えるわ。これ日本酒、ちょっと試してみて」
「……うん、白ワインに似てる。こっちのミルクみたいなのは?」
「それは……」
 いう暇も無くアナは飲み干してしまった。
「こっちの方が刺激的!」
「それは濁酒(どぶろく)です。ちょっとアルコール度が高いの、でもウォッカほどじゃないから、これを飲めばロシア人の酒癖も違ったものになるわ」
「アリサ……あなた、ひょっとしてロシア人の食文化を変えるつもり?」
「少しはね。ロシアは、これから試練の時代に入っていく。それに少しでも役に立ちたいの……」
「いつになく真顔ね……」

「アリサさん、もうカップラーメンじゃ支えきれん。大使館を締めてパリに避難する。そのアーニャ君はどうする?」
「大使、宮殿はどうなっています!?」
「民衆が取り囲んでいる。兵も逃亡しはじめて、早晩軍は機能しなくなる」
「あわたし、宮殿に戻る!」
 そう言ってキッチンのドアから出ようとして、アナは意識を失った。

 気づいた時は列車の中だった。

「ここは?……アリサ。どうして宮殿に戻してくれなかったの!」
「アナ……アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ、あなた一人を助けるのが精一杯だったの。ごめんなさい」
「お母様や家族のみんなは!?」
「幽閉されておいでです。もうあたしの力でも及ばないところで……お命に別状はありません」

 アリサは知っている。来年の7月17日、皇帝一家は皆殺しになる。いや、ならねばならない。そしてアナスタシアを中心にボルシェビキを打ち倒し、新しいロシア……世界を作るために。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・16』

2019-05-26 06:03:06 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
真田山学院高校演劇部物語・16


『第二章 高安山の目玉オヤジと青いバラ6』


「で、今日からほんまのクラブとして扱いたい」

 じゃ、今までのは……。

「ま、クーリングオフ効きのお試し期間」
「ほな、わたし介護休暇とってるさかい。オオハッサン、このプリント見とって。あとはよろしゅう……みんなもな」
 乙女先生はテレビで見た神沼恵美子そっくりの後ろ姿でプレゼンを出て行った。
「ほんなら、クラブのルールを決めよか」
 で、以下のル-ルってかオキテが決まった。

①部活は週四日とする。変にポコポコ休まれるより、いっそ共通の休みを取った方がいい。そのかわり日頃の部活は休まないよう。土日は、公演前を除いてはやらない。くどいようだけど日頃の部活は休んじゃいけない。

②部活は四時から六時。これ、四時に来るんじゃなくて、四時には部活にかかれる体制でいること。われらが真田山学院は、なんと七時間目まであって、クラスの終礼やら、掃除当番なんか当たっちゃうと、この四時ってのが妥当なセン。その代わりってか、六時ってのは部活を終わる時間じゃなくて、校門を出る時間。

③やむを得なく休んだり、遅刻する時は、部長か、顧問の乙女先生に言っておくこと(メール可)

④基礎練習はもちろん、本編の稽古に入ったら、基本的な練習は各自自分の時間でやること。部活の時間はその成果をぶつけ合い切磋琢磨(せっさたくま、って読むんだよ)する場である。

⑤したがって、シャバ(部活以外)の空気を部活に持ち込まないこと。モチベーション八で前日の稽古が終わったら、次の稽古は、そのモチベーション八から始まらなくてはならない。むろん部活の最中に教科の課題やら、宿題をやってはいけません。

⑥これは、一年限りのオキテ。今の演劇部は再建団体なので、顧問とコーチの指示を第一にすること。

 ほかにも大橋先生は、こう言った。

「今年はオレの本だけ演るけど、来年度以後は自分らで本決められるように、暇があったら、戯曲(お芝居の本)読みなさい」
 で、戯曲のリストを配ってくれた。
 ヌヌヌ……五十本ほどの戯曲が書かれていたが、さすがのわたしも読んだことがあるのは四本しかなかった。
「それから、これ『大阪スプリング・ドラマフェスタ』の通し券や、二十本ほどの芝居がタダで観られる。タロくんに渡しとくさかい、できるだけ観ときなさい」
 お、いいものメッケ!
「それから……」
 先生は乙女先生のプリントを広げて見せた。
「八月十八日にピノキオ演劇祭に出るさかいにそのつもりで。で、演る本はこれや」
 乙女先生が置いていった紙袋から台本を取り出してみんなに配った。テレビのバラエティー番組並に段取りがいい。

 台本の表紙には『ノラ バーチャルからの旅立ち』と書かれていた。

 家に帰ると、着替えもせずに部屋に籠もって、パソコンと睨めっこ。
 あの土曜の夜から、わたしはエッセーを書き始めた。
 パソコンだから、いくらでも書き直せる。倒置法を使ったり、やめたり。助詞や改行にこだわったり、あれこれ手を加えているうちに締め切りが迫ってきた。
 タイトルは「オレンジ色の自転車」 つまり、わが中古のオレンジチャリ。中味は、まだナイショ。
 やっと思い切り、プリントアウト。かねて用意の封筒に入れると、オレンジの愛車にうちまたがり街の本局を目指して、走り始めた!

「アッチャー……」

 オッサンか、わたしは。
 
 あと二三秒かってとこで、駅横の踏切の遮断機が下りてしまった。
 このラッシュ時、十分は踏切は開かない。しかたがないので跨道橋を兼ねた、駅の階段を自転車を担いで駆け上がる。「あんた、見かけより重いのね」愛車につぶやくと「はるかに言われたかないわよ」と言い返されたような気がした。

 速達の簡易書留で出し終わって、夕陽を背に受けて帰り道。踏切は皮肉なことに開いていた。タイミングの悪い女だよなあ、わたしって……。
 帰り道は山に向かっているので、いやでも目玉オヤジ大明神さまが目に入って、思わず手を合わせる。
 駅前の塾へ急ぐガキンチョたちが物珍しげに見ていく。心なし笑っていたような気がしたが、「あんたたちも、お受験の前にはやるんでしょうが」と、『アリとキリギリス』のアリさんの気持ち。
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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・027『ちょっと一息』

2019-05-25 12:01:23 | 小説
魔法少女マヂカ・027  
 
『ちょっと一息』語り手:マヂカ   
 
 
 ヒュン!
 
 切っ先が初夏の風を切った。
 真夏ほどではないが三十度にもなろうかという気温。屋上のコンクリートは焼け始め、さっき撒いた水が陽炎になっている。空気は膨張して密度を下げているので、もっと頼りない音になるかと思っていた。
 
――まるで、極寒の大地で刀を振るった時のようだな――
 
 せき上げるように極寒の大地での思い出が蘇ってくる。それを断ち切るように二閃、三閃と太刀を振う。
――ちがう! あれしか方法が無かったのだ!――
 封印していたあの時の記憶が蘇りそうになって、思い切り跳躍、跳躍の頂点で旋回してさらに風を断ち切る。断ち切ってしまわなければ七十余年前の記憶がまざまざと蘇る! 続けて太刀を振う!
 
 トリャアアアアアアアアアアアアアアア!!
 
 裂ぱくの一閃は閃光の衝撃波となって白い尾を引いて伸びていった。
 パラパラパラ……ヘリコプターの長閑な爆音にやっと我に返る。平和な朝だ。
 
 わたしってば、なにやってんだか……。
 
 左手を胸の高さに上げると鞘が現れ、熟練の手さばきで刀身を収める。
 
「なにやってんのよ、朝っぱらから」
 声に振り返ると姉の綾香。
「ああ、刀に名前を付けようと思って」
「江ノ島で蝦蟇を退治した時のね」
「うん、きっと休眠前に使ってた刀で、きちんと名もあるんだろうけど、名前思い出したら、良くない記憶も蘇ってしまいそうで」
「それで、名前浮かんだ?」
「うん、風切丸」
「なんか、まんまだね」
「いいのよ、呼びやすくって」
 鞘を握る手を緩めると風切丸はボールペンに姿を変えて、それを胸ポケットに差して階段に向かう。
 
 友里が新しいお母さんと上手くやって行けるように一肌脱いだことが、江ノ島の蝦蟇を退治することにまで繋がってしまった。ま、江ノ島弁天の八音さんとも仲良くなれたから結果オーライなんだけどね……弁天さんて偉いよなあ、八音さんは擬態なんかじゃなくて分身なんだ。分身としてリアルな生活も持ちながら仏神も務めている。わたしも分身出来たら……いやいや、まだまだ修行、いや、休養だ。
 
「行ってきまーす」
 
 妹らしい声をあげて家を出る。OLの綾香姉の出勤は、わたしより三十分遅い。「ごめんゴミ出しといて」の声に過不足のない不満な顔を返す。お向かいさんに「お早うございます!」と元気に挨拶。
 早くも東池袋の良き住人、はつらつと駅に向かう。
 
 うちは東池袋でも南東の隅っこなんで、最寄りの駅は大塚だ。  「大塚台公園」の画像検索結果 「都電荒川線大塚...」の画像検索結果
 つづら折れに進んで、ランドマークである大塚台公園にさしかかる。他にも道はあるんだけど、公園の緑がいいアクセントになるので、このルートで定着しそう。
「おはよう、真智香!」
「あ、友里もこの道?」
 空蝉橋通りに出たところで、友里に声を掛けられる。
「うん、公園の南っかわ通ってるんだけど、きのう真智香が歩いてるの見て、今日は北っかわにしてみた。ドンピシャだね」
「アハ、そだね」
「これから、ここで待ち合わせよっか?」
「う~ん、なるべくね。うちズボラ姉貴といっしょだから、いつもこの時間とは限らないからね」
「そっか、じゃ、出会ったらってことで。わたしは、いつもこの時間だし」
 
 新しいお母さんともうまくいっているようで、表情も生きている。
 ま、これでよかったんだ。明日からも、できるだけ、この時間に間に合わせよう。
 
 公園の南側を抜けると道は都電荒川線に沿う。ぽっかりと空が開け、目の前をゆるゆると上りと下りの電車がすれ違う。都電に沿って坂道を下って大塚駅だ。物語が始まりそうな風景はドラマの撮影とかでも有名だそうな。
 
 これから、ドラマが始まるならば、穏やかな青春ものがいいなあと思った。
 
 
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・8

2019-05-25 06:21:51 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・8

 
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



赤ずきん: その手は、白雪さんのためにとっておいてあげて(舞台へもどる)
王子: わたしは何をすれば……
赤ずきん: 自分で決めて!
王子: 何をすればいいか、今言おうとしたんだ!
赤ずきん: そう……ごめん……。
王子: わたしはドラゴンを倒す! で……どうしたらいい?
赤ずきん: そうでしょ、けっきょく人に聞かなきゃ何もできない……。
王子: すまん……。
赤ずきん: やっかいな相手です、成長してステルス化したため、ほとんど姿が見えません。
 それに、ほとんど夜にしか現れませんから、戦いは困難が予想されます。
 とどめには、銀の鉄砲に銀の弾……それも正面から急所を狙うか、戦いで弱ったところをしとめるしかありません。
王子: やろう! 銀の鉄砲なら母上のものがある。弾は鉛しかないから、急いで造らせよう。
赤ずきん: 待って。並の銀の弾では効果は半分以下。製造から三十年以上たったもので、
 できたら神の祝福の籠った弾が望ましいんです。昔わたしを救けてくれた狩人のおじさんがそう言ってました。
王子: それはちょっとむつかしいぞ……。
ヨンチョ: なら、これを……兄のサンチョがお守りがわりにくれた銀の弾です。
 サンチョの御主人様が神の祝福をうけられたもので、四百年はたっていますで……。
赤ずきん: ありがとうヨンチョのおじさん。
王子: すまん、この礼はいずれ……。
ヨンチョ: いずれと言わずに今すぐに。
王子: なに? 抜け目のない奴だ、いくら欲しい?
ヨンチョ: なあに、わたしもいっしょに戦わせて下さい。これが条件でさ。
王子: こいつ、わたしに仕えて初めて気の利いた台詞を吐いたな!
赤ずきん: もともとはわたしのアイデアなんだからね!
王子: 赤ずきん!
ヨンチョ: 決まった! 
王子: 三人寄れば文殊の知恵も団体割引!
赤ずきん: 成功疑いなし!
ヨンチョ: 合点!
王子: それじゃあ、実行は今夜、月のアルテミスが、太陽のアポロンと睨みあうころに。
二人: おお!
王子: では、作戦の成功を祈って!(剣を抜く)……一眠りしておこうか、(二人ズッコケる)
 おまえたちも、夜の戦いにそなえて眠っておけ(去る)
ヨンチョ: アイアイサー
赤ずきん: ヨンチョさん、もう少し打ち合わせをしておこう、仮眠はそれから。
ヨンチョ: 合点だ、今眠らなくても、今夜が永遠の眠りの始まりになるかもしれないからな……。

 二人、王子とは反対側に退場。暗転。虫たちの集く声して、なつかし色に明るくなる。
 例の森のバス停前をめざして、主従あらわれる。バス停には「運休」と書いた紙が貼ってある。


王子: あのバス停だな、赤ずきんとの待ち合わせは?
ヨンチョ: ちょいと早く来すぎたようで……。
王子: 気の早いアルテミスが山の上で頬杖ついて、この勝負を見物しているぞ。
ヨンチョ: アポロンが西の山から片目だけ出して見物してござる。さても物見高い兄妹どもじゃ。
王子: お、あの赤いフードは?
赤ずきん: ごめん、遅くなっちゃった。
ヨンチョ: 大丈夫、まだ数分は昼の世界。しかしひやひやさせた分、何か土産があるんだろうな?
赤ずきん: するどいねヨンチョのおじさん。
王子: なんだそれは?
赤ずきん: 狼のマックスからもらってきたんだ。飲むと感覚が狼と同じくらいに鋭くなるんだよ。
ヨンチョ: なんだかハナクソのような……。
コメント
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